異種族えっち小説もっと増えろ 作:クリムくんシコ勢
「だから、お前の女の趣味はおかしいんだって!」
「違う!おかしいのは人間の方だと俺は百年言い続けている!」
対峙するのは、二人の男。
一人は中途半端に伸びた髪に、エールで濡れた無精ヒゲ、ボロボロの外套を纏った中年の男。人間族のスタンク。
もう一人は金色の髪に、翠玉色をした切れ長の瞳、菖蒲にも例えられる尖った耳を持つ美少年。エルフ族のゼル。
彼らの口論は多様な種族の集まる大衆酒場、『食酒亭』では日常的に見られる風景だった。
曰く、五百歳のエルフはマナが腐ってる、だとか。五十歳の人間なんて抱けるわけねえだろうが、とか。
そもそも種族が違うのだから好みなんて違って当然なのだが、彼らにとっては譲れない問題。これが後々、酒場の男性陣の殆どを巻き込んでの騒動となった。
最初に巻き込まれたのは、ブルーズという犬獣人とカンチャルというハーフリング。巨大な二足歩行の犬系種族と、成人男性の半分ほどの身長しかない獣耳の種族。身長差の激しいこのコンビは、席が近かったのも相まって真っ先にスタンク達に絡まれた。
どこからか取り出した墨壺と羽ペン、二枚の紙をテーブルに叩きつける。
「お前ら、レビューを書け!点数もだ!」
テーマは五百歳エルフと五十歳人間。どちらもサキュ嬢と仮定。
『サキュ嬢』というのは、いわゆるエッチなお店で働く女性達のことだ。男性の精を日々の糧とするサキュバスは、性行為がそのまま仕事となる。サキュバスの性行為は法的にも認められており、お代と精をいただくサービス業として世の中に浸透している。
実のところ、祖先を辿ればサキュバスの血が混ざっていないことなどありえないわけで、人間のサキュバス嬢、エルフのサキュバス嬢、これらも全員セーフ。大人の汚い建前というものだ。
「……ほら」
「書いたよ」
結果、ブルーズとカンチャル両者とも五百歳エルフより五十歳人間を支持した。
ブルーズは人間のふくよかな見た目から、オーク系の可愛げなサキュ嬢に近いものを感じたらしい。十点満点中七点とかなりの高評価だ。
カンチャルは異種混街の現状という、一歩引いた観点からのレビューだ。もっとも彼にとっては二種族ともおばさんでスルー対象、レビューの仕様が無かったのだが。
エルフは外見だけでは年齢を判別できない。魔力の感知や優れた嗅覚を持たない人間にとっては、五百歳も二百歳も大して変わらないのだ。その分、人間はエルフにとってかなりの上客。当然人間目当ての高齢エルフはサキュバス街に雪崩れ込む。
年齢を判別できる種族はたまったものではない。昨日まで仲良く酒を飲み交わしていた人間が、母親より年上のエルフを抱いているのだ。
おかげでサキュバス街のエルフは多くの種族にとって、いわゆる『地雷種族』となった。エルフ専門店は言わばおばさん、おばあちゃん専門店。カンチャルは辛辣に、五百歳エルフを二点と評価した。五十歳人間は三点と、こちらも辛口の評価なのだが。
「な?エルフの方が評価悪いだろ?」
「マジかよ……」
酒場の男性陣はいつのまにかブルーズとカンチャルの席を囲み、彼らが書いたレビューを覗き見ている。
周囲から聞こえるのは「なるほどなー」とか、「面白いな」とか、「勉強になります」とか。
多種族的な視点からサキュ嬢を通して種族間のギャップを知るという体験は、歓楽街を練り歩く男たちからも、かなり知識欲をそそられるものであった。
「う……嘘だ!おいお前らもレビュー書け!こうなりゃとことん調べ上げてやる!」
「お好きにどうぞスタンクくん?まっ人間の方が圧倒的に良いってことを教えてやるよ」
「見てろよゼル……吠え面かかせてやるからな……!」
こうして、スタンク達のサキュバス店レビューは、酒場の新名物として男性陣に人気を博す。まあ、女性陣には女の敵や酒場でそういう話するな死ねなどの意見も大量に来ているのだが。
さて、そんなレビュアーがここにも一人。
「そうだ、エリクだよエリク!お前魔法職だし魔力見えるだろ?エルフでもマナはさした問題でもないってことをあの魔力厨共に教えてやってくれ!」
「いやいや人間ってスタンクさんと被るじゃないですか!それに性癖をレビューで晒すのって結構恥ずかしいんだけど!」
「恥ずかしくてサキュバス店行けるかっての!いいからホラホラ!」
短く清潔に揃えられた黒髪をぐしゃぐしゃにされながら、ローブを着た人間族の青年は、カンチャルの書いたレビューの余白に渋々といった様子でレビューを書いていく。
名はエリク。人間種の魔導士である。
五百歳エルフ
外見が殆ど変容しないエルフは、肌の張りも胸の柔らかさも全くといっていいほど変わらない。おまけにどんな年齢の娘でも美人揃い。テクニックも何十年もやっているおかげで素晴らしい…とも言えず、ぶっちゃけ他種族のサキュ嬢より『お仕事』ムードが強いかもしれない。魔法とか興味ないとか、鼻がそこまで鋭くないって種族は値段も安いし行ってみるのは大アリだ。
魔力の方は…うん。無意識に発散しているものでもかなり濁っているせいで、個室で二人っきりのイチャイチャプレイの後とかは、魔力の残滓がべっとりとこびりつく。プレイ後数時間は、街行くエルフの男に凄い顔をされるぞ。魔法職としては、料金が高くても若いエルフの娘の方が良いなあ……
五点
五十歳人間
魔法に精通していない人間は二十代後半を過ぎた頃から、外見が少しずつ衰えていく。五十歳ともなればお察しだ。ただ、美容に関する魔法を研究する魔導士は二十代と遜色ないほどの若々しさを保つ。超絶美人で性のスペシャリストだ。
確かに魔力の質は若い娘とほぼ同じで、同族な分、親和性も高い。たるんだ体や柔らかい肉感を感じたい、とかじゃないなら魔法使い専門店で美熟女な人間を探すといいかもしれない。まあそれやるんだったら、端から若い同族の娘を抱くよ……
四点
「ふぅ……」
男性陣からの期待の視線を一身に受けながら書きあげて、羽ペンを寝かせる。
サキュバス店のレビューなんて恥ずかしくて書けないと思っていたが、終わってみればなるほど、これはこれでスッキリする。
「……どっちも微妙な点数だな」
「やっぱり人間でも、魔法職となると視点は変わってくるんだね」
「んでスタンクくん?頼みの綱のエリクもこんな評価なんだが?ん?」
「ゼルてめぇ……!」
ゼルの煽りを受け、スタンクは顔を屈辱に歪ませる。彼らの口論は未だ収まる気配がない。
「……もうちょいエルフの点数上げとくべきだったかな」
「二人は気にしなくていいよエリク。こういうのって素直に書くのが一番なんだよ。うん」
取っ組み合いに発展しそうなほど白熱する二人から、エリクとカンチャルは目を逸らす。
「あっ……メイドリーさーん。エール二つで……」
ちょうどいい所に、といった様子でエリクは給仕係にオーダーを伝える。
一対の翼を背中に持ち、足には鋭い鉤爪を持つ有翼人種。メイドリーはこの馬鹿騒ぎを見て、その視線を冷え切ったものにしていた。
「……お願い致します…………」
「ボ、ボクの分は花蜜エールにしといて…」
「……おかみさん、エールと花蜜エールひとつずつ。スケベとチビスケベにね」
彼女の鉤爪が石畳の床に食い込んでいるように見えるのは気のせいだろうか。
スタンクとゼルに彼女のトレイが炸裂するのはその数分後。エリクとカンチャルは冷え切った肝をエールでさらに冷やすことになったのだった。