凰 鈴音と四十院 神楽の2人は現状を理解するがそれでも納得は出来なかった。幾ら劣悪な環境と雖も必要最低限の基準はあるだろうとは考えていた。だが、その考えは余りにも甘かった。それは牢獄暮らしが始まって数日の間に嫌と言う程に思い知らされた。
碌な訓練も無しに実戦投入の出撃。頭ごなしの命令の数々。作戦の成否に関係なく行われる理不尽な私刑。休息さえ余裕無しの再出撃。睡眠さえもマトモに取らせてくれない。
そんな過酷過ぎる環境で自分達がどれだけ恵まれた生活を送っていたのかを思い知らされる……豚や牛、塵や屑呼ばわりで人間扱いさえして貰えないと言う現実、希望さえも打ち砕かれるかの様な思いをする事となった。
「……オト姉。コレ、死んでる?」
「一応、息があるわね。新人と言う事で随分と乱雑な扱いをされているみたいね」
鈴音と神楽が収監されてから数日後の牢獄内。任務へと外へと放り出されてその2人が牢獄へと帰って来て数分後。何時も通りの私刑が2人に対して降り掛かり傷だらけの状態で牢獄の中へと叩き込まれる。倒れたまま、動かない2人をウィキッドが足先でつんつんと突いている。
「む、無茶苦茶過ぎる、わ……反論の余地無し、って」
「鈴さん。噛み付けば噛み付く程に報復され、ますわ……‼︎」
鈴音が私刑に対して抵抗した為か余計な傷を増やす事を繰り返している様である。その為、神楽と比べて鈴音の生傷が多い傾向があった。
「……お腹が空いたわ。此処に来てから何も食べていない気がする」
鈴音は仰向けになって天井を見上げつつ、そう呟いた。天井も又、煤だらけかシミが多く錆び付いているのがよく分かる。
「……うに。次の配給は、オト姉……何時だっけ?」
「うーん。人数が一気に増えたから……多分……2、3週間後じゃないから?」
ウィキッドはうろ覚えだった為にオトゥールに尋ねるとAISの人数が一気に増員された為に食糧配給的な問題で間延びになるだろうと考えた彼女は予測として2、3週間後と予測を立てた。その言葉を聞いた鈴音は飛び起きる様に2人の顔を見る。
「は、はぁ⁉︎ それ、冗談じゃないでしょうね⁉︎ 睡眠さえも碌に取らせてくれないって言うのに、食事さえも乏しいって正気⁉︎」
「ええ、向こう側からすれば女性が強い存在だから食事なんて少なくても働けるだろう。と言う認識よ。この前なんて1週間に1回の間隔だったわね」
「冗談も程々にしなさいよ。何よ、それ……どう言う解釈をしたらそんな結論に辿り着くのよ」
女尊男卑で暴れ回ったツケが一気に降り掛かって来る。当然、反論の余地なぞ与えられていない。食事や睡眠の概念を排斥したとしても女性は生きて24時間戦える。それが当然であると言う認識が蔓延っているのだ。
「因みに……どんな食事が……?」
「んーと。小さいカプセルみたいな薬が1人、1個」
「たったそれだけ⁉︎ 女は少食って言うけど、幾らなんでも錠剤1粒だけだなんて無理があるわよ⁉︎」
「満足に食事さえも与えてくれないのですね……」
「……でも、余り口にしない方が身の為よ」
数少ない牢獄内の食事、その内容を聞いた鈴音と神楽が慄いているとオトゥールから口にしない方が良いと言われる。
「……内容は分からないけど、食べていたら……ああなってしまうわ」
オトゥールは首を動かして同じ牢獄内にいる他のAIS達の方へと視線を向ける。壁や床に横たわっている彼女達がその薬剤を摂り続けた成れの果てだと言っている。その事に気付いたオトゥールはウィキッドに錠剤を摂らせず戦場で食糧を探す事にしたのだ。どんな成分が含まれているかは分からないが碌な内容では無いのは確か、そして痛覚を消すと言う事は分かっている。明らかにヤバい代物だろうと言う予測は立つ。
「……嘘、でしょ?じ、じゃあ……」
「私達は使い捨て前提。死んでも代わりは幾らでもいる……と考えて居るのでしょうね。死んでも構わない、使えない奴は囮任務に駆り出されて高確率で死亡する。生きている人は酷使され続けるわ……」
「そ、そんな……‼︎」
戦い続けなければ生き延びられない。生き延びたとしても地獄は続く……死ぬ迄戦わなくてはならない。それが自分達に課せられた現実。自由と尊厳を奪われ過酷な毎日を送る。そして身も心も限界を迎えて諦めた時、死ぬのである。
「私達が……て、言っても……聞き届けはしないか。ちょっと寝るわ……誰かと話すのは気休めにはなるけど……流石に疲れたわ。起こさなくて良いわ」
「……私も、身体中が痛い……せめて、眠って休むと致しますわ……」
鈴音はそう言うや否や壁際に転がって行き目を閉じて眠り始めた。ウィキッドの最初に見せた異常な行動を察するに死んだと思われたら物理的に喰われる。だから前以て『寝る』と言って置かないと死んだと思われて捕食されてしまう。一応、オトゥールが止めてはいるが飢えた状態だった場合、聞かない可能性がある。こんな環境では良心よりも本能が優先されるであろう事は鈴音と神楽、双方とも理解していた。
「うー……お腹空いたー」
「ウィキ姫ちゃん。今度、戦場に出たら……食べれる物を探しましょ?」
背中の方からウィキッドのそんな声が聞こえて来た為にオチオチ眠っては居られないと言う現実と背中合わせ……敵よりも身内の方が怖いとはこれは如何に。生きると言う事が此処まで過酷とは流石に思ってはこなかった。そう考えると、現代人はどれ程恵まれている事か。
「ん。そうする……」
オトゥールの言葉にウィキッドは一先ず剥いた歯を収めた。生きる為なら、虫だろう人間だろうと喰らいつく野生児其の物な彼女は身内であっても死ねば喰らう。共食いとも言われるが本人はそんな言葉を知る事も理解する事は暫くは来ないだろう。
「んー、人数が増えたから出撃の機会が少し減ったわね。一応、回し回しで新人の方を出しているからかしら?」
そうなってしまえば必然的に食糧を得られる機会が減ってしまう事にも繋がってしまう。それはそれで、自分達にとっては死活問題。かと言って出撃させろとは言えない、言えば恐らく私刑が待っているだろう。その時、牢獄の格子の隙間から男性が姿を見せる。その男性は牢獄の扉を開けてズカズカと入ってくる。
「コード:O13、コード:U31。喜べ、そんな貴様らの為に、
「え、ちょ……⁉︎」
いきなり現れて拷問を始めると告げられた。当然、拒否権なぞある筈も無く髪の毛を掴まれてウィキッドとオトゥールは2人とも牢獄の外へと引き摺り出される。
「い、痛い、痛い……‼︎」
「ふん。精々、良い声で泣くんだな?AISを大量に確保した褒美だ。専用回線で配信してやるんだから、変な放送事故を起こすなよ」
拷問=ご褒美と言う謎の図式が成立している。ありがた迷惑とは正にこの事だろう。当然、2人とも抵抗出来る筈も無く拷問が行われる部屋へと連れて行かれた。