「……こんなモノ。公開処刑以外、何物では無い……‼︎」
拷問部屋、いや……見世物である舞台の上でどうする事も出来ないウィキッドが群がって来るエインヘリヤルに嬲られる光景を目の当たりにしている人物が吐き捨てるかの様な言葉を漏らした。
——磔にされた……オトゥールだったか……奴を助けようとしているのはあの時、彼女の後ろに隠れていた黒髪の少女。彼女も充分強かった気がする……だが、こんな条件をされては手が出せないのは分かり切っているだろうに‼︎ なんて、下衆な真似をする‼︎
窓ガラスの先で行われる無様過ぎる見世物を見て近くの壁を殴るのはラウラ・ボーデヴィッヒと呼ばれる少女であった。彼女は楯無や鈴音達と同じ集団の1人で前線で戦い非戦闘員を守りつつ生き延びた。その後、辿り着いたこのコミュニティの異様な雰囲気をいち早く勘付いた。自身の生まれの環境と酷似していたからこそ気付けた。もう1つの要因はオトゥールとウィキッドの腕に付けられた金属質の物質、それは拘束具だろうと口には出さなかった。何が起こるか半ば予想出来た彼女は一計を立てる。
それはこのコミュニティに取り入ると言う見方によっては裏切りとも呼べる行為……唯一、男装であるズボンを着用していた為に自身を強引に男だと偽って取り入る策を誰にも言わずに実行に移した。誰かに漏らした場合のリスクと心境のリスクを掛けた結果である。最初は疑われはしたが一先ず受け入れられた。当然ながら半信半疑の疑惑が付き纏ったままであった。
そして予想通り、非戦闘員全員が碌な目に合わない地獄が展開された。牢獄内に放り込まれ明日の見えない戦争へと生身で駆り出される……満足に食事も睡眠さえも取れない絶え間ない戦争。現役軍人であるが故に分かっていた。元々、非戦闘員の者達はISをファッション感覚で見ていた連中ばかり、そんな連中があの様な戦場で生き延びられるとは到底思えない。
ラウラがコミュニティへと取り入った理由。それはコミュニティが非人道的であった場合、仲間を味方を逃す為である。だが、それも上手く行く筈が無かった。ラウラの目論見は当然の如く予想されていた為に所属場所は露骨に牢獄関連以外へと遠ざけられコミュニティの出入り口の門番役へと追いやられていた。今回、『楽しいショータイムがある』と言う事で会場近くへと立ち入る事が出来た。其処で見たのは余りにも悪趣味極まるエンターテインメントであった。
——エインヘリヤルを倒せば、磔刑台の拘束具の一部が締められ関節部分が圧壊切断される……脚の関節を失えば兵士としては使えない。腕の関節を失えば何も出来ないデクの棒になる‼︎ そんな事、分からない筈が無いだろうに……まさか、此処の連中は彼女達を殺すつもりなのか⁉︎
『やはり、こうも一方的な展開であると面白味が欠けますねぇ……』
『全くですな。少しは戦って貰わないとつまらないですな』
『残った方を売ってくれませんかね?愛玩動物くらいならば可愛がってあげれますよ。例え、四肢が欠損したとしても、ね?』
『良いですね。私は出来ればあの小さいAISが良いですな。とても良い声で泣いてくれそうですよ』
『後で、オークションを行なって貰いましょうか。誰が落札するか楽しみですよ』
『仮に死体になってしまったとしたら剥製にしましょうか?後世の為にも芸術は残して置かないと行けませんしなぁ』
——この、下衆共がッ‼︎ この世界には下衆しか居ないとでも言うのかッ‼︎
壁越しに聞こえて来る来賓の観客席の方からその様な下世話な会話が聞こえて来てラウラは歯軋りと共に苛立ちの声が溢れる。完全に少女を食い物にするかの様な会話内容はかつて冷水と呼ばれたラウラと雖もとても看過できない内容であった。
拷問部屋ではエインヘリヤルに手を出せばオトゥールの固定具が作動してしまう為に手が出せないウィキッドが一方的に嬲られている。エインヘリヤル達が持っているワザと錆びさせた刀や槍、或いは銃火器が容赦なく傷付けて行く。
『ウィキ姫ちゃん‼︎ 私の事は、良いから‼︎ だから、早く、目の前の敵を殺して‼︎』
磔刑台に固縛されているオトゥールがウィキッドに自分の事よりもウィキッド自身の身を案じていた。生きる為に戦いなさいと。
『……む、無理、無理だよ‼︎ オト姉ッ‼︎ そう……したら、オト姉が……‼︎』
刺され、撃たれ、斬られ、打たれる。AISスーツも傷付き破れて行き、生々しく流れる赤い血が床に溢すウィキッドが必死に叫ぶ。
『良いの……私は、守れなかった。でも、最期の最期に……貴方だけでも守れるのならば、喜んで死ぬわ‼︎ ウィキッド‼︎ 貴方は生きなさい‼︎ 生きて、生き抜いて‼︎』
エインヘリヤルは殺さない限り動き続ける。完全に無力化するには殺すしか無い、例え頭部だけになっても腕を切り離したとしても
『素晴らしい姉妹愛です‼︎ 互いが互いの事を思っている‼︎ 此処まで美しい姉妹愛は中々無いでしょう‼︎』
——クソ、私はこんなモノを見に来た訳では無いぞ‼︎ これは、早くどうにかせねばシャルや
その時、確かに……天井が割れる音が聞こえた。
白く黒く白く黒く白く黒く白く黒く白く黒く白く黒く白く黒く白く黒く白く黒く白く黒く白く黒く白く玄く皓く。
頭上に見えたのは真っ白な翼を讃えた天使なのか?
それとも破滅に誘う火柱なのか?神よ、貴方は我々に何を
「人?神?僕は……何方?」
もう記憶には遺されて居ない。
番を亡くした孤独な天使、王冠を讃え、文字を弄び睥睨するは大いなる玉座……。
それは……王国無き王冠。
臣下ももう誰も居ないしお城も無い、何もかも存在しない王冠。
あれは一人ぼっちで泣き虫の孤独な王様。