——急がないとこのコミュニティ自体が保たない。逃げて、とは言ったけどあの子の事だから動けない。首輪に対する不安で、足が竦んでる。
壁を壊して駆け出したオトゥールはその様な事を考えながら走る。そして、曲がり角付近から喧騒が聞こえて来るのが分かった。
「良いか?貴様達は囮になれ‼︎ 相手はヴォルヴァレベルのIS……どの道、貴様らに勝ち目は無い。ならば俺達が逃げ切る迄の時間稼ぎをしろ‼︎」
其処では牢獄から無理矢理出されたAIS達が男性から頭ごなしの命令を出されて居る光景だった。勝ち目は無い事は承知の上での囮。それはつまり犠牲上等の作戦だった。そして引き摺り出されたAIS達ら数日前にAISになったばかりの元非戦闘員であった少女達だった。
「ふ、巫山戯ないでよ⁉︎ アンタ達だけ逃げようと言うの⁉︎」
「黙れ。貴様らAISの代わりなど、幾らでも居る‼︎ さっさと行け‼︎」
拘束具を付けたまま行かされる。コレでは正にサンドバックになって死ねと言って居るのと同義であった。
——酷いやり方ね。距離的にあの男かしら?間違えてはダメ……時間は浪費していられない。
「……チッ。どいつもこいつも碌な働きをしない。折角、仕入れたAISも大半が役立たずのゴミだ。コード:O13程度すらも練度に達しないとは、つくづく使えない連中だ。まぁ、良い……ゴミはゴミらしく奴らの大好きなISの火力の前で焼却されるが良い。コード:O13も我々が脱出した暁には早々に消えて貰おう……首輪の爆弾はコレで爆破出来る」
その男性は手に持っていた遠隔操作を行うであろう小型の携帯端末を見ていた。だからこそ、背後から飛び込み、モーニングスターを携えたオトゥールに気付けずに後頭部を殴られ吹き飛ばされる。
「ガッ……き、キサ……」
フルスイングで振るわれた鉄塊の衝撃に意識が飛びそうになるも辛うじて意識を保つ。殴られた衝撃で手に持っていた端末を放り落としてしまう。落とした端末はオトゥールの足元付近に転がり、オトゥールはモーニングスターを叩き付けて破壊した。
「コレでウィキ姫ちゃんの首輪は遠隔操作では爆発しないわね」
——この端末は見た事が無い。コレを見ながら呟いていた。コレで、ウィキ姫ちゃんを縛るモノは無くなった。後は——。
「き、貴様……ど、どう言うつもりだ⁉︎」
頭の痛みに堪え頭部から流血した男性がオトゥールに向けてそう吠える。何故だろうか、今迄は怖い存在だと思っていたが、今では凄く矮小な存在に見える。
「……どうって、こう言う事よ」
オトゥールは見下した視線を以ってモーニングスターを振り上げる。鉄塊は数多の返り血を浴びて暗く燻んでいる。棘も一部は折れては居るが、目の前の矮小な人間を甚振り殺す分には問題は無い。
「ま、待て、止めろッ‼︎」
「散々、私達を殴ったり蹴ったり……挙げ句の果てには殺そうとしたじゃない……フフフ、いざ自分達がそんな目に遭えばそんな命乞いするのね。私達がどんなに叫んでも、止めない癖にッ‼︎」
「止めろォォォォォォ‼︎‼︎」
男性の悲鳴を他所にオトゥールは振り上げたモーニングスターを振り下ろす。重い鉄塊が脚の関節部に叩き付けられ関節部分が砕かれた。
「ぐがぁ、あ、あぁ……⁉︎」
「あははははッ‼︎ 良い気味ね‼︎ 散々、やって来た行為の報いって奴‼︎」
——何故かしら、こうして人間を苦しめるの……とても楽しい。こんな些細な事なのに。もっと、もっと苦しめたい。壊したい、嬲りたい……‼︎
オトゥールは心の奥底から唐突に湧き上がる異常なる嗜虐心を感じていた。心が突然現れた狂気に染まって行く、その様な感覚を覚えた。
——待って⁉︎ 今、こんな事をしている余裕なんて無い。目的は果たした……ウィキ姫ちゃんを迎えに行かないと。
無意識に狂った笑みを浮かべていたオトゥールはすんでの所で我に返る。このコミュニティは襲撃を受けて居る。この様な場所で油を売っている余裕は無い。脚を壊されて歩けなくなった男性を放置してオトゥールは走り出す。どうせ放って置いても崩れゆく天井に踏み潰されるか放置されて地面を這い蹲っているかの2択だろう。
「ウィキ姫ちゃ……⁉︎」
ウィキッドが居る場所へと戻る。だが、其処には先程まで存在していなかった異常なる存在が鎮座していた。
——アレは、誰⁉︎
銀色の髪が靡く頭部付近には黄金の『羽』の様な形をした真っ白な王冠がぐるりと囲い白く半透明のヴェールが靡いている。そして後ろ腰付近からは皓く結晶化した翼と思わしきモノが生えていた。そして下半身たる両脚らしきモノは一切、存在せず、背中に生えた結晶翼で浮遊している。
その姿は正しく人間とは呼べない、いや呼べるモノが1つ、存在していた。
「……まさか、アレがヴォルヴァと呼ばれるIS……‼︎」
『ヴォルヴァ』。オトゥールも伝聞的にしか聞いた事が無い。自我を獲得した一部の『IS』が情報記録媒体から抽出された『イレギュラー』な存在の情報を元に派生進化した結果とも言われている。数多くのISの中でも強大な力を有し、遭遇すれば即死不可避とも言われている。
その進化の結果……元々は小さなISコアが今では、背丈はそこまで高くは無く中学生程の身長の少女へと進化し変貌を遂げる事などあるのだろうか?
いや、そんな事なぞどうでも良い事だろう。
——ウィキ姫ちゃんは⁉︎ 居た……‼︎
視界の片隅、崩落した天井の残骸に隠れる様に竦んでいるウィキッドの姿が見えた。中央に降り立ったヴォルヴァに見つからない様に息を潜めている様に見える。満身創痍の状態でISに立ち向かえる程の度胸は備わっては居ない。だが、退路は断たれてしまっている。
——どうする⁉︎ この立ち位置だと如何しても目の前のISに見つかってしまう。
『!』
如何するか考えた時、そのISがオトゥールへと気付いたのか、振り向いた。
「え……⁉︎」
その姿を見たオトゥールは息を呑むと同時に驚愕した。真正面から見ればその服装の構造がよく分かる。
ウェディングドレスの様な豪奢なドレスでありその構造はフィッシュテールスカート型で胸元がひし形にくり抜かれて脇腹付近に縦方向に切り取られ皓い肌が見える異様な構造のドレスを身に纏っている。だが、そんな煌びやかな服装など如何でも良い。彼女にとっては最も絶句する箇所は其処では無いのだから。
——何故、何故、
煌々たる皓銀の長髪、燦爛と煌めく黄金の双眸、違う箇所は違うが根本的な顔立ちはウィキッドと全く同じであった。もはや双子の姉妹だと言われても違和感が無い程に酷似した顔立ち、体格も又、ほぼ同じと言って良い。
——ヴォルヴァだなんて分からない事だらけ……気付かれた以上、こうなったら強行突破するしか無いわ‼︎
オトゥールは目の前のウィキッドの姿をしたISとの交戦は危険だと判断している。自身の状態と相手はISである以上、此方の攻撃はまるで効かないと言うのは分かり切っていた。故に取れる手段は1つ。
——ウィキ姫ちゃんを連れて、このコミュニティから逃げる‼︎
そう、目の前の存在から逃げ切る事であった。相手の行動は愚か、どう言う存在目的かさえも分からない。そして、オトゥールは嫌でも理解する。現状の自分達では全くの勝ち目など無いと言う事をその存在を見ただけで理解した。経験や直感では無い、原始的な『本能』がそう告げていた。
活動報告にてこの作品に対するアンケート実施中(此方では載せれない内容の為)。