——オト姉が見つかった‼︎
瓦礫の裏で隠れていたウィキッドはオトゥールの姿を見つけるも、この場所に一足先に現れた自分とそっくりな姿をしたIS。種別としてはヴァルヴァと呼ばれるIS。と言うよりもアレは本当にISなのかと問いたいが答える者は居ない。そもそもISにはヴォルヴァやヴァルキリーと言う別区分の総称として存在するのは話に聞いては居たが、直に見るのは初めてである。少なくとも今迄、見た事のあるISよりも遥かに違う存在である事は分かる。
——どうして、私と同じ顔なんだろ?で、でも……どうするべき……?
お互い、反対側に位置しておりヴォルヴァを挟む形に位置している。そして現在、ヴォルヴァはオトゥールの方へと視線を向けている。奇襲を掛けるならばチャンスと言える。
——勝てないのは分かってる。でも、此の儘、見逃して貰えるとは思えない。
運が良ければ怯ませる事は出来るかも知れない。もしかしたら、ISの纏うシールドバリアを粉砕する所までは行かなくても押し除ける事は出来るかも知れない。
——
判断は一瞬だった。ウィキッドは首から下げた歯車のネックレスを握る。その直後、ネックレスが粒子状へ変わり更に大振りの鋸状の大剣へと変化する。同時に残骸に手を掛けて前方へと飛び出し、振り上げた鋸をそのヴォルヴァへと振り下ろす。
『
——喋った⁉︎
ヴァルヴァは小さくそう呟いた。その小さな声音はウィキッドの耳に届いた。ISが喋る光景など聞いた事も見た事も無い、その直後に鋸の刃がヴァルヴァの胴体に直撃する10cm手前で鈍い高音が響き渡り弾き返される。不可視のシールドバリアはその一撃を容易く遮った。空中で振り下ろす形だった為に鋸が弾かれた為にウィキッドは地面に落下して尻餅を着いてしまう。
「ウィキ姫ちゃん。逃げて‼︎」
「ッ‼︎」
響き渡るオトゥールの声。その声に反応したウィキッドは転がる形でその場を離脱。その直後、ウィキッドが尻餅を着いた箇所が
「…………ッ‼︎」
その光景を直に目の当たりにしてウィキッドは恐怖を覚えた。怪我や重傷と言った次元では無い。死さえ超越したナニカが其処で起きた。それは消滅と言う概念。一切概念を消し去る行為……それが自分自身であったのならば……死んだと言う概念なく、この世から消えてしまっているだろう。
『
ウィキッドの姿をしたヴォルヴァは白い腕を振るう。その周囲に皓い粒子が集まり十字架の様な物が形成される。それらが複数、形成されて周囲を旋回している。
「……させない‼︎」
オトゥールは目の前のヴォルヴァが何かをしようとしている事を察知した為にさせる前に妨害する事を選択した。モーニングスターを構えて駆け出して横殴りのフルスイングで叩き付ける。しかし、やはり直撃する前に高音と共にその動きが止められる。ISが有する凡ゆる衝撃から身を護る防壁たる不可視のシールドバリアによって外傷一つ負わせる事すら叶わない。
「……コレが、シールドバリア……‼︎」
『
「……ッ⁉︎」
一撃を受け止められた直後、オトゥールの首にヴァルヴァの細い腕が伸ばされて掴まれる。ウィキッド程の体格、しかし相手はIS。本来は機械であるが故にその体格では有り得ない力で首を締め付けられる。
「ぐっ、か……ッ‼︎」
首を掴まれている為に掠れた声しか出て来ない。悶絶して掴む腕を引き剥がそうと抵抗するオトゥールをヴォルヴァは半身を翻してウィキッドの方へと向けて物凄い勢いで投げ付ける。恐怖で動きが鈍っていたウィキッドは躱し切れずにオトゥールと激突して、2人とも転がる形で近くの残骸にぶつかって更に二次被害を受けた。
「……痛ッ……う、‼︎」
「ゲホッ、ケホ……窒息、するかと……」
崩れ落ちていた残骸に背中から激突。その前にもエインヘリヤルに一方的に嬲られていたウィキッド、固定具から無理矢理身体を引き剥がしたオトゥール。2人とも怪我が多い上に体力も限界に近い。そして何より、2人の攻撃が目の前のヴォルヴァには全く通じていない。
——くっ、私達の攻撃が全く効いていない。それに此方を見ている……‼︎
「……普通のISよりも、一撃が重たいわ。コレが、ヴォルヴァ……‼︎」
「……ん……‼︎」
普通のISならば機械部分や装甲に命中した時にシールドバリアが発生する。しかし目の前のISは当たる直前にバリアを発生させている。その為、少しでも間合いを離されている事になってしまう。
『
十字架を掲げたヴォルヴァは銀髪を靡かせながら2人を睥睨しそう言葉を告げる。淡々とした口調であり無機質さを抱かせる。元々が機械である事がそうなのだと自覚させる喋り方であった。
『
目の前のISことヴォルヴァは自らを『ヒム』と名乗った。どうやらヴォルヴァと呼ばれるのは好きでは無いのかも知れない。と言うよりもそんな状況じゃ無いし余裕も無い。
『
「「ッ‼︎」」
ヒムの周囲に侍る十字架を模した槍が動きその下方の先端部が2人へと向けられる。当然である、ヒムからすれば戦意を挫いたが敵は敵。雑兵程度ではあるが邪魔である事は変わりは無い、ならば排除するのが合理的と言える。
——不味い……‼︎
複数の十字架槍が勢い良く射出され2人目掛けて降り注ぐ。複数の事情が重なりマトモに回避行動が取れない2人に対して容赦の欠片が無い。それでも、死ぬ気にはなれないので無理矢理にでも身体を動かして十字架槍の直撃を躱す。
「……うぐ……ッ」
——彼方此方が、痛い……でも、逃げな。
『
「え……?」
その呟きを漏らしたのはウィキッドかオトゥールかは分からない。遅れてやって来たのは身体から力が抜けると言う事。
「かっ……あ、っ……はっ⁉︎」
気付けば、自分達の身体に大きく太い皓い十字架槍が貫通する形で突き刺さっていた。そして激痛が全身を駆け巡る。
——い。痛い……‼︎ どうして……⁉︎
喀血、そして困惑。躱したと思えばいつの間にか十字架に身体を貫かれていたと言う事。血飛沫が舞う、口からも血が溢れ出して吹き溢す。全く以って理解出来ない現象が発生、しかし意識が朦朧とする中で理解しようとしても無駄であった。
「……こ、こん……な、最期……」
十字架槍が粒子となって消え去り支えを失った2人は地面に崩れ落ちて倒れ臥す。胴体に開いた傷口から真っ赤な血液が溢れ出して血の池に沈んで行く。
『
地面に這い蹲る中、頭上から落とされるヒムからの無情なる言葉。即死不可避……その言葉に偽りは無かった。勝ち目さえ、初めから無い。何方かを犠牲にしてでも逃げれば良かったのである。
——……身体が、動かない……熱い、痛い、もう……。
立ち上がる事は愚か動く事さえも出来なくなった2人を見下したヒムはトドメを刺す事なくその場から立ち去って行った。彼女にとって、2人は障害でも何でも無く本当の意味で路傍の石程度の認識でしか無いのだから何時迄も構っている理由など、無いのであった。