——夢を見ている。それは私自身の昔の夢。あの頃は……大変だけど、平和……と言える様な状況だった。ああ、コレが走馬灯って呼ばれる光景、なのね。
——死ぬ直前に見える過去の情景……。それは破壊され廃墟と化した幼稚園。其処に私達は居た、私が年長者だった……でも私以外は幼い捨子達ばかりだった……そして……。
「……ぅ……?」
無音の世界。一定のリズムを刻む電子音が耳に入って来る中、オトゥールは静かに瞼を開けた。朧げながら見えるのは真っ白な天井らしきモノ。そして自分自身は真っ白な厚めの布と台座に寝かせられていた。
「こ、こ……は?痛ッ……‼︎」
腕や脚付近が未だに痛みが残っている。ぎこちなく腕を動かして視線の届く場所へと動かして見ると真っ白な包帯が巻かれて止血されているのが分かる。頬付近にもガーゼらしきモノが貼られて止血されているのが体感感触で分かる。
——手当て、されている……?それから、腕の拘束具が無い……完全に外されている?
意識がハッキリして来た時、状況を理解する。少なくとも自分はこの場所の事を知らないと言う事を……そして、隣のベッドを見れば穏やかな寝顔を見せるウィキッドが毛布の中で眠っているのが見えた。此方も顔付近にガーゼや包帯が巻かれており治療されているのが分かった。
——少なくとも……あのコミュニティでこんな手厚い手当てなんてされた事が無かった。怪我をしても放置しっ放し……放って置けば勝手に治ると思われていた……。手当てされているだなんて……やっぱり夢……なのかしら?
「……予想よりも早かったな。俺の見立てでは1週間は寝込むと思って居たが……」
「ッ⁉︎」
その時、唐突に声を掛けられる。聞いた事も無い声、声色から男性の声である事が分かる。目を見開いて声の主を探す。声の主は反対側の壁付近にある椅子の上に胡座を掻いて座っていた。若い男性だ、滅色の髪をした青年と思わしき年齢、上着を肩掛けにして羽織っているその人物は片手に古めかしい書籍を開いてオトゥールへと視線を向けていた。その姿を認めた時、丁度、目が合った。
「別に取って食おうとはしないさ。一応、此処の責任者としては様子を見ておかないと行けないと思っていただけさ。ま、そう言っても君は混乱するだろう事は容易に予想出来るがね」
「…………」
——私の思惑を見透かしたかの様な言動……。
「貴方は、誰?」
「自己紹介がまだだったな。俺は崩宮 紫……このコミュニティ『エストレヤ』のオーナー……早い話がリーダーであり代表って奴だ。こんな形で悪いが、一先ずはようこそと言わせてくれ」
「コミュニティ……?でも、その名前は知らないわね」
——そもそも私達が居たコミュニティの名前さえも知らない。教えてくれる事は無かった。と言う事は、気を失っている間に違うコミュニティに攫われたと言う事?
「状況が分からないって顔だな。経緯を簡単に説明すればだな、恐らく君達の所属していたコミュニティはISに襲撃されていた」
「え、ええ。ヴォルヴァって言うISに」
——秒殺された。全く太刀打ち出来なかった……。
「整合性はある、と。んで、その埼玉コミュニティはAISの扱いが特に酷いって有名なのでな。薬物投与はするわ碌な休息を与えずに酷使するわで身体を壊す者が後を絶たず、使い物にならなくなった者は捨てたり愛玩動物にして売り飛ばしたり、エンターテインメント代わりに使ったりと、やりたい放題だ」
「……え、ええ。大半が間違っていないわ。それにあのコミュニティ、埼玉コミュニティって言うのね……」
「自身の所属しているコミュニティの名前を知らない、か。成程、愚民政策か……理に適っている。知らない事が良い事もある。知らないからこそ
「ぐみん、せいさく?」
「思考力を奪う政策の事だ。簡単に言えば無知を提唱させる政策だな。その様子だと、言っても分からないか。無学だと、な」
「……ええ、何を言っているのか分からないわ」
「……と、話が脱線したな。その時、埼玉コミュニティの近くを通り掛かったのでな……当然、壊滅的状況だったが流石に見て見ぬフリは、な。ウチの手の者を使って生存者を探させた所、瀕死の君達を見つけた。流石にヤバい状態だったからな。医務室に即、放り込んで手当てをさせて貰った」
「……善意で、助けたと言いたいの?」
「俺がそう見えるか?」
「いいえ。貴方の人相じゃとてもそうには見えないわ」
紫の言葉にオトゥールは
「クク、歯に物着せぬその物言い。嫌いじゃないぜ?まぁ、君達の現状じゃそう考えて当然だろう」
オトゥールのその言葉に紫は特に怒る事も不貞腐れる事もしなかった。至極当然だと言ってのける。
「……ご主人様。余り彼女達を追い詰める様な事はなさらないで下さいませ」
その時、医務室の部屋の扉を開けながら澄んだ声音の声が聞こえて来た。
「そのつもりは無かったがな。そう見えても仕方ないか」
入って来たのは長い銀髪を靡かせてヴィクトリアン調の白と黒を基調とした
「……」
——2人の様子から見知った間柄、なのかしら?でも……。
オトゥールの知る男性はAIS(全員が少女である女性)を徹底的に虐げている。それは事実であり現実。なのに目の前の光景は全く異なっている。お互い対等の様なやり取りが行われている。
「……カタナ様の情報通りでした。多数のAISが牢獄に閉じ込められ奴隷同然の扱いを受けていた模様です。それから、人身売買も行われていた様です」
「……其処はやはり何処のコミュニティも似た様なモノ、か。すまんな、メサル。報告は後にしてくれないか?」
「畏まりました。ですが、余り……」
「分かっているさ。流石に彼女からしても俺と会話を続けるのは苦痛だろう。手短に終わらせる」
メサルと呼ばれたメイド服をその身に纏った女性は部屋から退室する形で下がって行った。
「悪いね。此方も色々と立て込んでいてな……彼女はメサル。君達を直接的に救助したのは彼女だ」
「……そう。まだ、色々と分からない事だらけなのだけど……」
——助けた理由とか、色々。
「まぁ、な。積もる話があるのは確かだが……ネタバラシをすればメサル。さっきのメイド長から焚き付けられた形だ。実はと言うと、君達の事は少し前から知っていた」
「え?」
「知ったのも偶然だがな。それに、あの『ヒム』を相手にして瀕死の状態とは言え生存するとはな……流石に驚いた……アレらは真正面から挑んで勝てる様な相手じゃない。なのに生き延びた、それだけでも素直に称賛に値する。凄いな……君達は」
——惨敗も良い所、だと思うのだけど。全く歯が立たなかった。
「……さて、これ以上つまらん話をしても精神的に苦痛なのに代わりは無い。今回はコレで打ち切るとする。傷口が癒えるまで、安静にしとけよ。用立てなら、メサルが定期的に様子を見に行く様に伝えておくから彼女に何か言う様にな」
紫はそう言うと椅子から立ち上がり退室しようと歩き出す。
「待って‼︎」
「何だ?」
オトゥールは退室しようとする紫を呼び止めた。分からないのだ、彼が何故、自分達に対してこの様な施しを行ったのか、全く分からない。善意でする様には見えない……兵器であるAISに、何故?
「何故、其処までするの?」
「……
紫はそう言い残すと医務室から退室して行った。
書き溜め書き溜め……それよりもR-18要素が殆ど見受けられない件について……。