※この作品はR-18です。

ジェノサイド・ストラトス   作:夢現図書館

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現実と理想

 

 

「ご主人様‼︎」

 

 その時、暗い空気を突き破るかの様な声が医務室へと割り込まれた。

 

「メサル?何かあったのか?」

 

「ご主人様宛に秘匿メールが届いています」

 

 其処はメサルティムが強張った表情で医務室に突入して紫の近くで小型の空間ウィンドウを展開させる。其処には秘匿されたメールのアイコンが表示されていた。

 

「本来ならば私が読み上げさせて頂きます所なのですが……」

 

 部外者多数。情報漏洩の危険性を考慮して憚っている。気持ちは分からなくはないし彼女にとって主である紫にとって最善となる行動を心得る。

 

「機密情報の可能性か……しかし、俺宛となると差出人は自ずと限られる……面倒だ。此処で見るか」

 

「宜しいのですか?」

 

「どうせ、大した内容じゃ無いだろう……多分」

 

——開けた途端にウイルスに感染と言う訳には行かない。メサルの事だからメールファイル其の物を偶に使っているデコイサーバー(完全に独立した空のサーバー)に移しているだろう。コンピューターウイルスは面倒だからその為に用意している。

 

「えーと、差出人は?」

 

——埼玉コミュニティの……誰だよ。まぁ、有権者の1人だろうな。何処の誰かは知らないが埼玉コミュニティの有権者ならば要件は1つだ。サラッと読んだが内容も想像通り。

 

「……メサル。返答を書いておくから、後日の用意を頼む」

 

「畏まりました。では、ウィキ姫様達の様子を見て参ります」

 

 メサルティムはそう告げて退室して行った。

 

——死亡名簿のコピーを添えてから返信のメール、と。此方の17名は、契約は有効……。が、ウィキ姫とオトゥール嬢は契約は切れている。どうにも向こうも理解しているのかその2人に関して注釈でその旨を添えてやがった。法律絡みに引っかかりたくは無いらしい……変な所で律儀な連中だ……形振り構わない、と言う訳でも無さそうだ。

 

「……メールの内容は君達に関する事だった。もう、予想は付くんじゃ無いのか?」

 

「……その様子だと埼玉コミュニティからって事?」

 

 鈴音が冷静にそう告げると他の少女達は顔を青褪める。何故なら本人達からすれば死刑宣告に等しいからである。

 

「ああ……そうだ。契約が正式なモノである以上、反故にする訳には行かない。エストレヤとしてもこの返還要請を跳ね除ける理由は無い、いやする事が出来ない。正統性がある話な上に向こう側からすれば真っ当な行動だからな」

 

「そ、そんな……⁉︎」

 

「いや、嫌よ……あんな牢獄暮らしなんて、嫌ッ‼︎」

 

「に、逃げるしか無い‼︎ やっぱり男なんて最低よ‼︎」

 

 隷属される可能性は高い。その事を承知である。仮に反故にした場合、此方が悪くなり衝突しかね無い。それは避けるべきである。戦力が心許ない状態での戦争勃発……後の事を考慮したりしなくても、無茶である。

 

「……どうしようも無い。と言う訳ね」

 

「まぁな。契約が生きている以上、これ以上はどうする事も出来ない。此方にも事情ってモノがあるんだ」

 

 エストレヤさえも味方になってくれないと言う事実を認識した一部の少女達が逃亡を企てたが扉の近くに待機していたメサルティムにより阻まれていた。理不尽だと叫ぶ声が広がる。刻一刻と変化する環境は本人達からすれば、不安の連続……数週間前までは普通の生活を送っていた……無理も無いだろう。

 

「……無理な事を頼んでも仕方ない、か。金が無い上に要請が出た以上……無理って訳か」

 

「そう言うこった。短期間で天井の見えない金額を用意するのも無理があるからな……」

 

「…………」

 

——AISの扱いについての口出しは出来ない……他コミュニティの勝手、だからな。

 

 割り切る。紫は彼女達の未来と自分達の未来が噛み合わない事を予見してそう判断を下した……同情で助けるのは良い、だがそれは自己満足で終わる。綺麗事ばかりでは……やって行けないと言う事も知っている。釈迦でも仏でも神でも無い、自分は人間なのだ、相手は選ぶ……。目の前の生命を全て救える筈が無い……救えない命だってあるのだ。紫は……失った多数の命を背負っている。だから、止まる訳には行かない……。

 

 その後、暴れる少女達を宥めるも自分達の未来が暗い事を知った彼女達が落ち着く筈も無い。受け止めれる筈が無いだろうと紫も承知している。恨まれる事も分かっている。

 

——引き渡し日は3日後。流石に覚悟は決まらないか……愚民政策をする理由が分かった気がしたよ。余り嬉しくは無いけどさ。はぁ、ままならんし上手く行かないもんだ……何事も、さ。

 

 

 

 

 

◯

 

 

 

 

「おお〜……」

 

「……気持ち良いわね。水を温めるだけで、こんなに安らぐなんて」

 

 医務室では暗い空気に包まれていた頃、浴室では初めてお風呂に入っているウィキッドとオトゥールが居た。メサルティムから入り方は教わっていた。そして、かなり洗い残しが出るだろうと判断したメサルティムが今回は浴室にボディソープ系の泡立つ洗剤液を投入する事にした。勿論、洗剤なので口に含む事はしない事を教えている。

 

「身体、洗いましょうか」

 

 垢落としのタオルやスポンジを使って擦り落とす。浴槽の中でも擦り落とす。泡立った浴室の中で泡が吹き溢れて彼方此方へ飛散して飛び交う。

 

「うにゅ、く、擽ったいよ……‼︎」

 

「ウィキ姫ちゃんって、此処が弱いの?」

 

「お、オト姉、止めて〜‼︎」

 

「何時も胸ばっかりに飛び込んで来る癖に。ほらほら〜♪」

 

「うにゃ〜‼︎」

 

 浴槽の中でオトゥールはウィキッドの脇腹や脇の下付近を擽りつつ洗ってあげる。何時もオトゥールの豊満な爆乳の胸に飛び込んでいる為に此処ぞとばかりに仕返しをしてみる。脇腹や脇の下は弱いのか浴槽の中でドタバタと暴れるも密着している形で洗っている為に押さえ込まれている。

 

「髪の毛の汚れも落とさなきゃ。ウィキ姫ちゃんは特に重油で染まっちゃっているから……落ちると良いのだけど」

 

 特に髪の毛を重点的に行う。埼玉コミュニティではAISの髪の毛は黒以外は禁止だった。しかも廃棄重油を使って染めていた(大変危険な行為)。その為に洗剤で落ちるかどうかは少々、不安だった。

 

「うにゅにゅ〜……」

 

「ザラついてしまっているわ。髪の毛も痛むって聞いたし……中々、落ちないわね」

 

「うにゃ〜‼︎」

 

 ウィキッドの髪の毛を重点的に洗う事、数十分。喚いているウィキッドを尻目に洗い続けた結果、汚れた黒色の一部に白銀の毛が見え始める。オトゥールの執念が身を結び、染まった色が剥がれ落ち始めたのだ。

 

「……やれば出来るモノね。一気に行くわよ‼︎ ウィキ姫ちゃん。堪えて‼︎」

 

「うにッ⁉︎ う、にゃにゃ〜‼︎‼︎」

 

「こーら‼︎ 暴れないの‼︎ やり辛いわッ‼︎」

 

 浴槽内でドタンバタンと暴れ回る。余程、痛いのかウィキッドも痛みに堪え切れずに浴槽で暴れに暴れて浴槽内で波が荒れ狂っていた。それから、更に数十分後……。

 

「うにゅ〜…………」

 

「ふ、普通に戦闘をするよりも疲れたわ……‼︎」

 

 微温湯とは言え長時間お湯の中の上に暴れた為にのぼせてしまい力尽きたウィキッドはオトゥールの豊満な胸に凭れていた。かく言うオトゥールも流石に暴れ回るウィキッドを押さえ込みながら洗っていた為に疲れて浴槽の壁に凭れて息を整えていた。

 浴槽内の水面に垂れ下がる雪の様に光り輝く白銀の髪、その髪色こそがウィキッドの本来の髪の色。無理矢理染められていた汚れが落とされて穢れなき純粋なる白銀の髪へと元の姿へと戻っていた。

 

 白銀の髪に赫い双眸。早い話がウィキッドは外見的には『アルビノの人』であった。その為か日光嫌いの体質だが、ある程度は耐えられるらしい……ある程度は。

 

「ふぅ……身体も洗ったし、ちょっと頭が痛いわね。そろそろ上がりましょうか……」

 

 オトゥールはのぼせたウィキッドを抱えて浴室から脱衣所へと向かう。脱衣所でバスタオルで身体を拭き取る。

 

「ふぅ……」

 

——こうして気持ちよく裸になる日が来るとはね。前までは身体を洗う時と言えばスーツを脱いだ後に冷たい水を放水の形で浴びせられるだけだった。勿論、多数の男性達に見られながら……あの視線は、堪えるモノがあった。

 

「御二方。一足先にお風呂上がりとなっていましたか……おや」

 

 其処へメサルティムが脱衣所へ入って来る。其処で疑問符が浮かび上がっていた。その視線はウィキッドの髪へと注がれている。

 

「ウィキ姫ちゃんの髪の毛は無理矢理染められていたのよ。何とか汚れを落としきったけど、疲れてしまったのよ」

 

「その様ですね。お召し物をどうぞ。ウィキ姫様は私がお連れ致します」

 

「え、ええ……」

 

 教育係のメサルティムに対してオトゥールはある程度は気を許していた。瀟洒な態度は未だに慣れはしないがウィキッドに対して危害を加える事は無かった。メサルティムが用意した簡易的なインナーウェアに着替えて用意された自室へと戻る。オトゥールが紫に対しての取引の都合上、ウィキッドと相部屋であった。

 

「……お疲れとの事で今日の勉強はお終いと致しましょう」

 

「え、ええ……」

 

「明日までにご主人様がウィキ姫様とオトゥール様の武装をご用意頂けるとの事です」

 

 ウィキッドをベッドの中に寝かせたメサルティムは隣のベッドに腰掛けるオトゥールにそう話す。

 

「武装……成程」

 

 AISとしての自分達は変わらない。それはお互い承知している。そして、自分達はそう言う事しか出来ない。それしか出来ない。

 

「……私からも明日には前線に出ても問題は無いと考えて居ます。宜しいですか?」

 

「ええ……構わないわ、元よりそう言う契約だもの。それに、動かないと身体が鈍ってしまうモノ。笑っちゃうわよね……そうしなければ、私達は自分を肯定出来ないモノ」

 

「……これは年長者からのアドバイスです。戦い、それは避けられない道です。戦わねば生き残れない。生きる為に、戦う他に道はありません。それは紛れもない事実……ですが、道は1つではありません」

 

「…………」

 

「……何時の日か、自分らしく生きられる道を見つけて下さいまし。オトゥール様」

 

——自分らしく生きられる道……か。

 

「……夜も更けます。そろそろお休み下さいませ」

 

 そう言われて寝る事を促される。確かに今日は別の意味でも疲れたのも事実。オトゥールはその言葉に押される形でベッドへと潜り込んで眼を閉じた。その様子を見届けたメサルティムは静かに部屋から退室して行った……。

 

 

 

 

 

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