翌日、目覚めたウィキッドとオトゥールは紫にエストレヤの艦橋へと来る様に部屋内の内線を通じて伝えられた。無論、艦橋の場所も知らない為にコレまた、当然の如く現れたメサルティムの案内にて艦橋へと足を踏み入れる。
「ほわ〜」
——広いなぁ。何か、モニター?っぽいのが沢山ある。周りは壁なのに外の風景が見える……見える範囲には廃墟と化した街と割れた道路、倒れた鉄塔とかが見える……。
「……改めてようこそ、だな。中型移動要塞艦コミュニティ『エストレヤ』へ。メサルも悪いな……わざわざ、案内させてさ」
「いえ。艦橋へ足を踏み入れた事が無いのですから致し方ありません」
エストレヤは移動式の陸を征く中型戦艦の形状を成している。その為、他コミュニティで言う司令室の代わりに
「……それで、此処に集めたのは?」
「執務室でも良いんだがな。狭い場所よりは良いだろう?君達に渡すモノがある」
紫はそう言い自身の背後に置いていた大型のケースを2人の前に置いて開く。その中にはウィキッドとオトゥールが使用していた武装と同じ種別の武装が納められていた。
「……君達が以前まで使っていた武装を見させて貰ったよ。正直に言わせて貰って、アレでISに立ち向かおうなどとは無謀だ」
「どうして?」
「有り合わせの廃棄鋼材を無理矢理継ぎ合わせて作られたモノだからさ。加えて質が悪い劣悪品……埼玉コミュニティはコスト削減を大幅に進めていた様だ。アレではシールドエネルギーを破壊する所か削るのも厳しいだろうからな……」
2人が今まで使用していた武装は廉価品に加えて粗悪品。廃棄されていた鋼材を強引に継ぎ接いだなんちゃって武器だったと紫は語る。見てくれだけの武器でISのシールドバリアを打ち破る所か削る事さえも難しいとも言われた。
「……ふーん」
——何言っているのかさっぱり分からない。
紫の説明にウィキッドは半ば聞き流していた。良く分からないが埼玉コミュニティ所属の頃の武装ではこの先は厳しいと言われた、という事は理解した。
「取り敢えず、埼玉コミュニティ跡地で回収出来た資源を用いて改めて作り直した。武装の形状は本人達が使い慣れているモノの方が良いと思ってな……その形状にさせて貰った」
ウィキッドは鋸を、オトゥールはモーニングスターを手に取って量子変換させてネックレス状へと変化させた。
「……ちゃんと持ち運びやすい様に戻せれるのね」
「量子変換の技術は機能しているか。ちょいと弄らせて貰ったが……上手く行っているみたいで良かった。ああ、先に言っておくがまだ試作品なんだ。実際に使ってみて必要であれば改良を重ねて行く必要がある」
「試作品?」
「ん、ああ。多分、知らないだろうが……量子変換の技術自体が元々はISの機能の一部だ。ISコア自体が離反したと言えども開発された技術自体は人類側には残っていた。その技術を使って何とか対抗していた様だ」
「……量子変換って普通にあり触れているモノじゃ無かったの?」
——牢獄から外を見ていた時、男性達は普通に使っていた気がする……。
「……まぁ、確かにな。戦争とは技術革新の発展を促す側面がある。ISコア無しでも転用出来る様になったんだろう。其処に、俺が更に改良を加えてみた」
「具体的には?」
「……君達が使っていたのは展開された状態と待機形態であるネックレスのモノ。元々、一部のISは待機形態と完全展開の形態に分かれるモノだった。ISコアが離反した事により武装形態と待機形態に基づく様に考案されたのだろう。其処には『拡張領域』と呼ばれるモノが無い」
「う、うにに?」
紫の説明にウィキッドは疑問符を浮かべている。良く分かっていない証拠と言える。
「……簡単に言えば君達の扱う武装に拡張領域を組む込んだ。無論、試作品だから後々改良が必要となる」
「……オーナー……貴方、そんな技師見たいな真似が出来るのね。ウィキ姫ちゃんの首輪や私達の拘束具を外したのはオーナーなのね?」
オトゥールは紫の事を『オーナー』と呼んでいた。名前で呼ばずに『コミュニティ・オーナー』の方で呼んでいる。気を許して居ないのか或いは他に理由があるのか……。
「ああ、機械弄りが得意なモンでね。最近は金欠やわ、材料が無いわに加えて色々と機材が壊れて簡単な細工しか出来ないがね。一応、その程度ならば簡単に出来る。君達を回収する傍らで使えそうな機械備品も一部は回収出来たからな……修理するには足らないが……」
——うーん……良く分からないけど、凄いんだ……。
「……重さも然程変わっていない。うん、手に馴染むわ」
其処でオトゥールは脳裏にある事が浮かぶ。それは本人達にとって大事な事である。
「ねぇ、この試作品を試す傍ら……行きたい所があるのだけど良いかしら?」
「ん?何処と言っても……埼玉コミュニティの跡地くらいしか浮かばないか」
「ええ。探したいモノがあるの。私達にとっては必要なモノ……思い出の様なモノなのよ。あのコミュニティに捕まる以前に皆、持っていたモノ。姿形が変わってもソレを見ればきっと分かってくれる筈だから」
引き裂かれた『家族』。バラバラになった今、その証明が必要になる。成長して姿も変わっているかも知れない……中には忘れてしまっている者もいるかも知れない。会うにしてもかつての思い出を思い起こさせる品があれば、一助になるかも知れない。そうオトゥールは考えたのだ。
「……ふむ。回収出来るモノは粗方、したと思うが……病み上がりの状態故に試運転には丁度、良いかもな……分かった。180度回頭‼︎ 埼玉コミュニティ跡地へ向けて前進‼︎」
オトゥールの言葉に紫は用件を呑み、エストレヤの進路方向を転進させた。適当な場所で武装の試運転と準備運動を行おうかと考えていたが、本人達の要望もある。どうせならば纏めて行うのが丁度良いと考えたのだ。
「……実際にエインヘリヤルなり、IS相手に使って感触を確認した方が良い。まぁ、遭遇したらの話ではあるが……で、探索が終わったら報告書なり」
「私達、まだ文字書けないわよ?」
オトゥールとウィキッドはまだ文字の読み書きの教育は余り進んでいない。その為、報告書の提出はまだ早い様である。
「………………其方は今後に期待だな。口頭でも構わないから、感想なり教えてくれ。参考にして改良を進める」
紫は半ば呆れた顔をしつつも口頭での感想を求める事にした。改良するにしても担い手本人の感触に応じての感想が必要になる。何せ紫からすれば初の技術もあるからである。
「……それから、無線機を渡しておく。ウチのオペレーター担当に繋がる直通の無線機だ」
「ええ、有難う。一つ気になるけど、廃墟と化したコミュニティにエインヘリヤルって湧くのかしら?今まで、漠然と倒して居たけれど……エインヘリヤルの事もISの事も、余り良く知らないのよね」
「うにうに」
——何故、襲って来るんだろ?ISに使われているから?
愚民政策故に考える事も知る事も無かった2人。その為に気になれば気になってしまう。
「……そうだな。俺の所にある資料から引用すればエインヘリヤルってのは死亡した人間の肉体を用いてIS共が改造して作った兵隊擬きって所だな。北欧神話ではヴァルキリーが死した勇猛な戦士を連れてヴァルハラへと迎え入れる伝承が伝わるからそれを捩って呼ぶ事にしたそうだ」
「ええ、其処は知っているわ。後半の北欧神話とかは全く知らないけど……それで、どうやって
「いや、其処の点は綺麗サッパリ、分からん。そもそも……ISコアが知恵……つまり経験を積む事によって自分の武装や身体を再構成する事はあっても、全く外部の存在まで干渉するとは、な」
進化したISから更に突然変異の様に進化した『ヴォルヴァ』の例を挙げると、見た目こそは人間の造形を成しているが、有機物である人間の様に食事や睡眠、性欲の概念。引いては多細胞組織、筋肉繊維、呼吸の概念が無い。機械が人間に進化する事は出来ない。何故ならば根本的に設計デザインが異なる。その壁は超える事は出来ないからである。
「そう……分からない事だらけなのね」
「ああ……しかし、何かしらの
「うに?どうしたの?」
「いや、改めて考えるとだな。IS共は『フレイヤ』、『ヴァルキリー』……『ヴォルヴァ』、そして『エインヘリヤル』。其れ等は全て北欧神話に出て来る単語だ。名は体を表すと言う事から擬えている様にも思えてな。エインヘリヤルと呼ぶよりもナグルハァルと呼ぶべきか……。それだと、確認された事のあるヴォルヴァが名乗る名前に整合性が取れない……」
紫はそう呟きながらブツブツと考察の海に沈んで行く。
「ご主人様。ご考察は後程……もう直ぐ埼玉コミュニティ近辺に到着致します」
「あ、ああ……分かった。2人とも、艦橋下にある出入口ゲートがある。其処を通れば出入口用のハッチがある。其処から外へ出られる」
「ええ……それじゃあ、行ってくるわ。ごめんなさい、我儘を聞いて貰って」
「礼を言うのは俺の方だ。君達からすればトンデモない博打に付き合う事になるのだからさ……それに、この世に無駄な事は無い。必ず意味はある……それを無駄と捉えるのは本人次第だからな」
「それ、良い事を言っているつもり?」
「ああ……だから胸を張って行ってこい。一応、此方が現行行動で続行困難な状況に直面したと判断した時は即時帰還命令を出させて貰う。例えばヴォルヴァの出現が確認された時は、な」
「ええ。バッタリ遭遇なんてゴメンだわ」
——正直に言えば……勝てるとは、思えないし……即死不可避……それは本当、見たいだし……。
「でだ。今現在用意出来る君達の服装では、流石に耐久性は皆無に等しいぞ?」
2人が今、着ている服は一般的な衣服相当の耐久性しか無い。刃物を用いられれば簡単に破けてしまう。
「仕方ないじゃない。それとも戦闘用のAISスーツを用意出来る?」
「すまん……破損した君達が着ていた残骸しか無い。解析はしているが改めて新調するにしても材料等が無い」
「なら、此の儘行くわ。無理はしない様にするわ」
「分かった……じゃあ、行ってこい。良い戦果を期待しているぞ」
紫にそう送り出されてウィキッドとオトゥールは開かれたハッチを潜って外部の地上へと降り立った。