「うに〜、外から見ると、こうなって居たんだ……」
「こうして外部から外観をゆっくりと見る機会なんて殆ど無かったモノね……と言ってもかなり派手に損壊している見たいだけど……」
移動式コミュニティである中型移動要塞艦『エストレヤ』から出撃したウィキッドとオトゥールの2人はかつて所属して居た埼玉コミュニティの拠点要塞を外部地上から眺めていた。ヴォルヴァ種であるIS、『ヒム』の襲撃により外観も様変わりしていた。火薬の残り香が鼻を擽り倒壊した壁、残骸と化した山、そして死臭。
『あー、テス、テス。ウィキ姫様とオトゥール様、でしたね?聞こえて居ますか〜?』
無線機から聞き成れない人物の声が聞こえて来る。紫が言っていたオペレーター担当からの様である。
「うん。聞こえるよ」
『声だけですけど、こうしてお話するのは初めましてですね。当『エストレヤ』内外オペレーター担当のスピカと申します。お嬢様方、以後宜しくお願いしますねっ‼︎』
メサルティムがお淑やかで瀟洒であるのならば彼女は元気さが取り柄の様にも見える。声だけなのでまだ判断出来ないが。
『偵察ドローンを用いてやその他、諸々の手段で受信した情報や状況の連絡を私の方で行います。尚、作戦続行不可能であると判断した場合、速やかに帰投して下さいます様にお願いしますね。流石に、死んでも勝てとは言いたくありませんので……』
「ええ。死ぬ訳には行かないもの……」
『宜しいです。では、今作戦の趣旨の確認を行います。オトゥール様の要望で埼玉コミュニティP2番跡地の探索任務となります』
スピカはすらすらと2人の外出目的の確認を行う。間違いは無いので特に意見は無い。
『それで、追加でお頼みしたい事があります』
「うに?頼みたい事?」
『埼玉コミュニティP2跡地に残されている開発機材等を回収して欲しいんです。壊滅的被害を受けたと言っても使えそうなモノが残されている可能性があります』
「……でも無傷とは、行かないと思うよ?」
外壁の損耗具合から内部も倒壊している可能性が高い。それこそ無傷である保証は無いだろう。
『多少の損壊程度ならば大丈夫です。ご主人様ならばその程度、直せる可能性が高いので。理由としましてはエストレヤは過去に大損害を受けてしまい加工場やラボ、備品に至るまでが無視出来ない程の大ダメージを受けてちゃいまして……修理しようにもお金が無くて、したくても余裕が無かったんです』
「……何と言うか、ギリギリな状態なのね。探す傍ら、回収するけど……どうやって運べば良いの?大型だと2人じゃ無理よ」
機材と言っても大きさは様々、それよりも少女2人で運べる程の重量とは思えない。如何に戦闘員と雖も力仕事が得意とは言い切れないのだ。
『ご安心下さい‼︎ お二人に渡された武装に『拡張領域』が搭載されている筈ですから、それを使えば持ち運ぶ事が出来ます‼︎』
「うにに?」
「……そう言えばオーナーは私達の武器に拡張領域を組み込んだとか言って居たわね」
『使い方は使えそうな機材を発見した時に指示を出します。今、此処で説明しても空論になっちゃいますから……あ、基本的に耳元でゴチャゴチャ言うと気が散ってしまいますでしょうから用件がある時に連絡を下さいね?無線機の位置情報は分かりますので迷子になった際もある程度は誘導可能です』
「……ええ、分かったわ」
簡単な説明を終えた為に無線機が沈黙した。一応、此方から連絡を入れる事は出来るが用件が無い時は黙っていてくれる様である。
「……さてと、ウィキ姫ちゃん。行きましょう」
「うん、分かった」
コミュニティ内の通路。其処を歩く事は少なかった。大半が暴行を受けて意識が朦朧としていた時に引き摺られて移動していたからだ。
「……壁は穴だらけ、崩れた天井……随分と派手に暴れ回って居たんだね。彼方此方にAIS達の死体が転がっている……」
「その様ね。死臭も酷いわ……ウィキ姫ちゃん。流石に時間が経過した死体を口に付けない方が良いわ……」
鉄臭い鉄板床の上に飛散した血と転がっている死体から発する腐敗臭が混ざり合って不快な臭いが立ち込めている。死骸には時間が経過した為か大量の蛆虫が湧いており見るからに不快であった。
「……オト姉。何処から探す?」
「そうね……司令室辺りから探しましょうか」
オトゥールの探し物を見つける為、取り敢えずは司令室を目指す事にした。所属コミュニティと雖もこうして歩き回る事は無かった為に手探りで探す事になった。構造も分からない為に知らない場所と大差無いからだ。
紫の話によるとエインヘリヤルは何処にでも湧いて来ると言う話だったが、今の所は遭遇して居ない。その道中で牢獄前に差し掛かる。
「……外から見ても良い気分にならないね」
「ええ、少し前までは牢獄の中に居たから、尚更、ね」
牢獄内には事切れたAISの成れの果てが其の儘、放置されていた。流石にメサルティムも生存していないAISを連れ出す余裕は無かったのか、或いは危機的な状態を加味して此処まで来なかったのか……兎も角、惨状である事に変わりは無い。
「……あ、骨が落ちてる……太さ的に……ヒト、かな?」
「……白骨化、だそうよ。死んだ直後なら食べては居たけど……此処までの状態を生で見るのは初めてね。何気無く食べていたけれど……改めて見ると酷い光景ね。長居しても時間の無駄、行きましょう」
一部の死骸は風化し白骨化まで進んでいた。羽虫が周囲を飛び交っており通路上よりも強い腐臭と異臭が立ち込めている。長居するのも宜しくは無い。
ウィキッドとオトゥールがコミュニティ跡地に赴いている頃、紫は執務室にて複数の空間ウィンドウに表示される項目を流し読みしていた。手元には手書きの文字で書かれた文字列が並んでいる。それはオトゥールとの取引によるモノ。彼女が探している者達の名前であった。表向きに調べる訳には行かない、何せ『お宅のAISの名簿を下さい』なんて言える筈が無い、ならば管理サーバーにクラッキングを仕掛けて調べる他無い。と言ってもエストレヤのサーバーに搭載されているシステムのスペックでは情報を抽出する程度が限界。システムを乗っ取る事は無理である為に機密情報関連は何処にも接続されていないサーバーに放り込んでいる。
「だー……多過ぎる‼︎」
椅子の背凭れに凭れ掛かりつつ紫は思わず投げ出したくなる程の声を上げた。何故なら名簿に纏められた名前は自己宣告して来た人数を大きく上回る。それらを1列1列、調べるのも中々の苦行と言える。
——日本人名が少ない。いや、オトゥール嬢の名前からそうなる事は分かっては居たが……此処は日本の土地故に、AISも又、日本人名が多いと踏んで居たのだが……妙だな。
「……明らかに外国籍の名前のAISが大半だ。コレはどう言う事なんだ?」
空間ウィンドウに表示されたクラッキングして表示された名簿に記載されているコード名と名前。その大半がカタカナ表記の名前、その綴りから日本人風の名前とは思えない。此処は確かに日本の国土内……紫から見れば違和感がある。
——……一応、何人かは確認出来た。大方の予想通り彼方此方のコミュニティに売り飛ばされて所属(隷属か?)している様だな……名前があるだけで、生死の状態までは分からないな。やはり、死亡名簿は別に保管しているか。
「ご主人様、少し休息を取られては如何でしょうか?長時間、ブルーライトを見続けて居ますと身体に悪いでしょう。紅茶を入れましたので、ご一服を」
其処はタイミング良くメサルティムが現れて紅茶入りのティーカップを近くに置いた。紫は作業を一旦止めて、ティーカップを持ち口に運ぶ。
「……ああ、済まないな」
「して、首尾は
「……やはり大半の者達がAISとして隷属状態となっている様だ。粗方、該当する者は確認出来た。しかし、全員では無いな」
——名簿に約1名だけ男子が居た。名前はリィティア・ティターリァ……未成年の男子とは珍しい。殆どのコミュニティでは成人男性しか見受けられない。10代以下の男子は何処のコミュニティでも存在は見受けられない……何処かに隠して教育していると思われるが……。
「と、なりますと……コミュニティ所属では無く、資産家等に売り渡された可能性もありますね」
「可能性は無くは無いだろうな……」
——いつの時代も秩序が成立しているのならば金がある奴が社会的に強くなる傾向がある。戦力として使えなくても女である事に変わりは無い。せいの捌け口としての使い道がある……資金力のある奴が性奴隷と言う形で買い取るケースもある。気に喰わないが、事実だ。幾つかのコミュニティのパトロンとなっている場合もある故に無視は出来ないだろう。
「……個人相手ならば幾らかはやり口はあるが。AISの人身売買で売られた場合の末路は概ね悲惨だ」
「……性奴隷として扱われる事の方が多いと聞きます……気を強く、と願いたいのですが……皆様、全員がそうとは限りませんね」
全員が全員。意識を強くもっているとは言い切れない。それはメサルティムが最も良く知っている。ウィキッドやオトゥールの方が珍しいのだ。大半のAISは現状に対して絶望して諦めてしまっている子達の方が多い。
「……システムのスペックが低い以上、これ以上の調査は難しいな。コレだけでは交渉カードとして弱過ぎる。真正面から独占権を主張したとしても交渉まで漕ぎ着けれないな……所属経歴程度の情報だ。生死まではわからない」
「ご主人様。お姉様に一報、入れて居ます。ウィキ姫様達にコミュニティ跡地にて利用可能な機材の捜索を追加依頼しています」
「……見つかれば品質によっては何とかなるが、概ね都合よく見つかるとは思えないな……」
——それよりもカタナの奴。随分と調査が長いが……碌な事になっていないよな?それよりも、ウィキ姫……髪の毛を洗ったら下から銀髪が出て来るとは……つーか、本当にソックリだな……。