『そうだな。簡単に言おう、シールドバリアを
その言葉は2人からすれば驚愕モノと言える内容であった。
「そんな技術があったの?」
『偶然見つかったに過ぎないし検証もままならないのが実情。それに、俺の中では未完成だからな。完成させるにしてもデータが欲しい所……かと言って、慣れない状態で中型以上のISや、ヴォルヴァ相手には無謀過ぎる。お誂え向きにISと雖も小型の奴が現れてくれた。試験として試すには持ってこいって訳だよ』
「無茶苦茶ね……まぁ、何時もの事だろうから今更文句は言わないけど。で、どうすれば良いの?」
牢獄暮らしで頭ごなしな命令の連続だった事もあってか、無茶苦茶な指示には慣れていた為に呆れつつもオトゥールは軽く流してやり方を促した。
『各々の持ち手の所にトリガーを加えている。誤作動を防止する為に力を込めないと起動しない様にしている』
「あ、この少し出っ張っている箇所かしら?普段持つ場所よりも少し上の方にあるわね」
『試作品故に多用は出来ない。起動出来る時間は約3秒程。今の所、その数秒しか維持出来なかった』
「3秒……成程、直撃させる直前に起動させれば大丈夫そうね」
3秒しか効果が出ないのならば直撃する直前に起動して叩き込む使い方が安定する。ウィキッドとオトゥールも重量系の武装(ノコギリやモーニングスター)なので斬ると言うよりも叩き潰す事に主眼を置いた武装に近い。そして紫も内心は『コイツらの体、どうなっているんだ?』と思っているかも知れない。
『大まかな原理は……ウィキ姫辺りが嫌がるから簡単に言う。ISのシールドバリアは硬質化させたエネルギーだ。対する中和させるエネルギーをぶつけて緩和させる。早い話が腐食作用があるエネルギーをぶつけて溶かすって感じだ』
「酸性雨みたいな?」
『その認識で構わない。良く知っているな?』
「バカにされている気がするけど……いえ、無知だったから否定し難いけど……メサルさんに読み聞かせて貰った本の内容」
『そうか。が、未完成な上に試作品。乱用は出来ないし、カツカツだった為に仕様上、使えるのは1発限りだ。中和させるエネルギーを武器に数秒間だけ纏わせるだけに留まっている。
そしてそのエネルギー自体は攻撃性が無く質量相手には何の意味も無い。まぁ、2人の武器だとぶっ壊す意味では破格だろうがな』
正直な話。ISの脅威性は殆どがシールドバリアと言って良い。それ以外は確かに高火力、機動力を併せ持つが機械の塊。強固な守りたるシールドバリアさえ剥がせればやり方はある。
「分からないなら知れば良い。そう言う意図もあるのでしょ?」
『まぁな。ゴチャゴチャ言う論よりもさっさと試した早かろう?』
「ええ……私達は知っても、戦う事しか能が無い事に変わりは無い。そんな機能があるなら先に言いなさい」
その文句に関して特に答える事も無く無線機の通話は途切れた。ノイズ音が聞こえる事から恐らく近くに例の蜘蛛型ISが接近して来ている証拠だろう。話は聞いた、後は厄介なシールドバリアを粉砕して本体を叩き潰すだけである。無線機で会話しつつもウィキッドの身体に纏わり付いていた糸を解き終える。
「さて、と。ウィキ姫ちゃん、殺りましょうか」
「うにっ‼︎」
お互い武器を構えて今いる部屋と廊下の入り口へ視線を向ける。この部屋は然程、損壊していない。壁も崩れていないので出入口は1箇所しか無い。壁に背を向けている為に天井に穴が開いて居なければ真正面からでは無いとこの部屋に入れない。最初の遭遇時の行動から蜘蛛型ISは奇襲を得意とする思考をしていると考えられる。
「良い?当てる直前にトリガーを押し込むのよ」
「うん……分かった」
そして姿を現した2機の蜘蛛型IS。同じ造形をしている事から同型機である事は明白。同じ思考回路を持っているのかどうかは分からないし気にした所で時間の無駄。蜘蛛の造形から粘着性の糸を射出する機能を搭載している事から後手に回るのは危険。故にウィキッドが選んだのは言うまでも無く先手必勝。鋸の鋒で床を擦りながら走る、その後をオトゥールも続いて走る。勝負は1回切り、ならば最初の一撃に全てを掛ける。
——今ッ……‼︎
左右から飛び込んだ2人は構えた武装を振るいながら持ち手に備え付けられたトリガーを力一杯に押し込んだ。鋸の刃、鉄塊共に淡く光る白い粒子が一瞬だけ見え、その状態で蜘蛛型ISに叩き付けた。当然、当たる直前でハニカム構造の膜が展開されるも小気味良い破砕音と共に膜が砕け散るのが見えた。
——やったッ……‼︎ なら、後は此方のモノ‼︎
確かな手応え、間違い無く展開されたシールドバリアは砕け散った。ならば後は『絶対防御』の心配となるが、今はその事に意識を割いていられる余裕は無かった。
「……壊れろッ‼︎」
ウィキッドは大の蜘蛛嫌い。その為、いい加減、見たくない為に大上段から鋸の刃を蜘蛛型ISへと叩き込んだ。斬ると言うよりも抉り壊すと言う趣旨の所為か、蜘蛛型ISの胴体に深々と喰い込み壊れた箇所からスパークが発生した。
「えいやッ‼︎」
隣ではオトゥールもモーニングスターを振るい、シールドバリアを失った蜘蛛型ISに叩き付ける。少なくともウィキッドの振り回す鋸よりも粉砕させる事に長けた武器の為に、鈍い音と共に胴体が地面に叩き付けられ破壊音が響いた。
「さっさと消えちゃえ‼︎」
一撃を入れた後、喰い込んだ鋸を引き抜き其の儘、横殴りに振るい吹き飛ばす。最初の一撃が強烈だった所為か細かいパーツが多そうな多脚部がバラバラになりながら向かい廊下の壁に叩き付けられ、無抵抗に崩れ落ちた。
「…………」
蜘蛛型ISの各所から小さな煙が立ち昇るが動く気配が無い。破壊に成功したのだろうか?
『つ、繋がった……。お二人とも無事ですか⁉︎』
「ええ……破壊に、成功したわ。シールドバリアを打ち破れた」
「うに。本体は然程、強く無かったよ?」
『ISの撃破……⁉︎ ち、沈黙を確認しました……‼︎ 本当に、生身で打ち勝つ日が来るなんて……』
「うに?どう言う事?」
『え、ええ、はい。実は今の今まで、どのコミュニティもISに対して撃破し沈黙に追い込む事が出来た瞬間はありませんでした。
理由は勿論、件のシールドバリアを打ち破る手段が確立出来なかったからです。戦車や強力な個人携帯火器は数が限られて無闇に使えないし整備施設も大半が遠い昔に閉鎖、それどころか技術も失われつつありました。
そう言う経緯もあり今まで、AISはエインヘリヤルを殺すのが限界でした』
——だから、ISと戦争している癖にエインヘリヤルの掃討しか仕事が来なかった。ISと相対するのは任務中に割り込んで来た時……或いは囮にされるかの2択、と。
「……余程、シールドバリアの存在が大きかった、と言う事なのね」
『はい。一時期、破壊されたISの残骸が発見される事がありましたが……明らかに人の手で破壊出来たとは言い難い破壊損傷でしたので、違うと見做されていました』
「IS同士が殴り合っている?」
『人間同士でさえ、啀み合い殺し合う事が散見されて居ます。IS同士でも仲が悪い機体が存在しても不思議がありませんね……一部のコミュニティはそうした残骸を回収して急拵えの武装に製造しているみたいです』
埼玉コミュニティもその1つ。しかし無残にも原型を留めずに破壊された残骸ばかりだったのか、使えそうなパーツを掻き集めて継ぎ接ぎの様に繋ぎ合わせただけであった。
「そう……詳しい話は後でオーナーに直接、言うわ。それから残骸を回収して来いとも言っていた。拡張領域とやらの使い方を教えて」
『あ、はい。と言っても、そう難しい事ではありません』
スピカに拡張領域の使い方を教わり破壊に成功した蜘蛛型ISの残骸を拡張領域内へと量子変換して回収する。その後、司令室近くへと戻りオトゥールの探し物を探す事、数十分……部屋の隅にあったダンボールの中に探していたモノを見つける事に成功する。
「あった……当時のまま、残ってくれていた」
「コレ……」
見てくれは腕章に近い。オトゥール自身の手作りのモノ……過酷な環境故に仲間意識を持ちたいが故に共通のモノを用意したかった。そして考えた結果、動きの邪魔にならないモノが腕章擬きだった。散り散りとなって離れ離れの状態……姿も変わっている可能性もあった、覚えて居れば気付いてくれるかも知れない。
「目的は達成。帰投するわ」
『了解しました。お二人とも、お疲れ様でした。まさか初日で小型と雖もISの撃破に漕ぎ着けるとは……』
「其処はオーナーの開発力の賜物ね……」
埼玉コミュニティ跡地を後にした2人はエストレヤへと帰投する事に、この後待っているのは報告位である。因みに機材回収の件は未遂行となるがそれに変わるISの残骸を回収出来たので代用となるだろうと言う事になった。