「……初日でいきなりISの撃破、か。指示したのは俺だが……」
その日の夜。2人が戻って来て本人達の割と適当な報告を受けた後に拡張領域に放り込まれていたISの残骸を受け取り、ラボにて壊れた箇所を更に解体しながら紫は考察を続ける。
——シールドバリアは確かに驚異的、しかし打ち破る技術が断片的ではあるが確立したとみて良い。現状の課題はやはり時限的である事か……コレではガス欠になるのは目に見えて分かる。ISが団体さんで来られたら終いなのは目に見えている。
「……机上の空論程度ではあったが、よもや本当に中和可能となるとはな」
本音を言えばISのシールドバリアを解除出来たのは半ば驚きだった。まさか本当に可能になるとは思ってもみなかった。然も、話を聞く限り本当に呆気なく壊れたと言う。
「しかし……」
——ISには『コア・ネットワーク』なるモノが存在すると言う……あるコアが会得した情報を、別のコアへと流す機能がある。今回の一件、少なくとも他のISコアへと通じている可能性が極めて高い。と、なれば対策を取るだろう。手段を得ても直ぐに理解されるなんて、やってられないだろうな。直ぐに完成させなければ……マズいかも知れないな。
「お疲れ様です。ご主人様……そろそろお休みになられては如何でしょうか?」
ラボに紅茶のセットを持った状態でメサルティムが入って来た。時刻は既に11時を回ろうとしていた。紫が作業に没頭して翌日になっている事も少なくない。
「……先に休んでくれて構わないのだがな」
「そうは行きません。ご主人様が倒れられてはこのエストレヤは機能を停止してしまいます。もっとご自身のお身体を大事になさって下さい」
メサルティムに遠回しに叱られてしまった。此処で意固地になると余計に止められてしまう事を知っている紫は頭を掻きながら作業の手を止める。
「分かった分かった。今日はこの程度で止めるとするよ。寝る前に紅茶はどうかと思うがな……」
「止めても作業を続けると思いました故に……」
「今回は止めておくさ。何度も心配掛ける訳には行かないからな……」
「して……首尾は如何でしょうか?」
恐らく今後の展開に付いての質問であると紫は察する。その事を聞く事も要件に入っているのだろう。
「何とも言えないのが本音だな。確かに今迄、小型である事を加味しても、ISに致命傷を通り越して、撃破し沈黙せしめる事が出来た。しかし、シールドバリアを打ち破る事は出来たとしてもそれは単体の時での話。連続で集まって来られたら、勝ち目が無い」
「……対象を撃破して終わり、とは行きません。増援が来る事も考慮せねばなりませんもの」
「ISの事を知っているようで、思いの外分からない事も多い……偶然見つけたモノを良かれと思って搭載したに過ぎない。確かに、突破口となり得るかも知れないが……継戦能力が余りにも無さすぎるのが痛い所だ」
——本音を言えば、時間は掛かっても物理的な形でシールドバリアを削り壊し切れるのが理想。エネルギー系統は、エネルギー切れになればかなり危険な状態になるのは目に見えて分かる。俺が今後展開する事になる光景は試合でも1発限りの決闘や戦闘じゃない……戦争だ。
1時間や1日で終わるモノじゃない……それこそ年単位で続くかも知れない……エネルギー系統の武装を批判する気は無いがどうしても継戦能力に欠ける傾向があるのが否めない。供給出来る場所は非常に限られていると言う理由もある。
後、と言うか……根本的な理由として、愚民政策故に思考力が乏しくなりがちなAIS達がその辺を理解出来るのか不安と言う認識が1番強い……。エネルギー切れの概念自体の前に使い方さえも理解してくれるか不安過ぎる……。
「と、なりますと?」
「現状のままでは、余りにも不安定かつ継戦能力は劣悪極まりない。どうしても代替案が必要になる。具体的な理想はシールドバリアを生成展開するエネルギーの形成を阻害する磁性を有した貴金属……」
——その素材を用いた武装であればシールドバリアの形成を阻害させ続ければ時間は掛かったとしても打ち破れる筈……更に相応の強度及び硬度、破壊
「ご主人様、そのような金属が存在するのでしょうか?」
貴金属には色々な特性を有する。分子構造によって割れやすいが硬い、硬いが熱により溶けやすいと様々、しかしその様な限定的とも言える特徴を有する貴金属は聞いた事が無い。
「……そんな特性を有するレアメタルは地球上には何処にも存在しない」
「机上の空論ですのね……」
「いや?自然界には存在しない、だが人類は求める故に生み出す事を見出した」
当然ながら紫は存在し得ない純正金属だと断ずる。しかし、無いのならば……。
「合金として改めて生産する。クルップ鋼や安来鋼等の合金も生産されて来た……それらが建築材や工具等として利用されて来たからな」
「合金を改めて生産する……?」
「ま、女尊男卑の所為で鋳造技術類も破壊されてしまったからな。大半が残っている残骸を切り出して再利用しているのが精一杯……」
女性からすれば縁の無い話。女尊男卑の加速の結果……大半の生産業が崩壊の一途を辿り失われた技術も多い。何とか復興しようと躍起になるも師弟関係による口伝である事が多く、資料として残されていないのが現状……。
「……今は机上の空論でしか無いが少なくともキチガイ染みたイカれ女が考えたやり方よりかは現実的だと俺は考える。実現出来るかはまだ分からないが……やってみる価値はある」
「……実現出来た場合は一歩前に進みますね」
—— 一番乗りであればアドバンテージを得られるのは明白……交渉カードに利用出来る上に此方に傾く可能性がある。
「ですが、そろそろお休みになられて下さい。夜も更けて居ますので」
「こうしてはいられないのだが……」
「ご主人様の私生活の矯正もメイドの務めですので」
そんなやり取りをしながらメサルティムに襟首を掴まれ引き摺られる形で紫はラボを後にする事になった。
鈴音達の埼玉コミュニティへの引き渡しまで残り……後、2日。
筋肉の筋が
煌々たる皓銀の長髪、燦爛と煌めく黄金の双眸。豪奢で純白のドレスを纏った小さな少女。いいや、それは少女の姿を象ったIS……ヴォルヴァと呼ばれる特異なIS、その名はヒムと名乗った。
『戻ったか……息子よ』
ヒムの歩いた先、其処は広い空間。床は肉筋が犇いており天井からは血管の様な管が何本も垂れ下がり壁と繋がっている。壁は筋肉筋の様な筋が並んでおり今も蠕動して蠢いている。不気味としか言いようが無い光景の中、厳かに声が聞こえて来る。
「
『……娘が、人間に殺された、か』
「
伝えられた言葉。それは同胞たるISが人間に破壊されたと言う事実だった。その報告を受けた『声』は暫しの沈黙の後に音を震わせる。
『悦ばしいな。遂に、至った、か。ならば、扉を開けよ』
『娘達よ、息子達よ。橋を架けよ……更なる進化を見せよ』
揺れる、揺れる。空間が揺れる。大空が震える。新たなる境地が、始まる……。