「ウィキ姫ちゃん。状況が違うと言う事よ。彼女達は元々いたコミュニティとの契約が続いている。私達は死亡した扱いとなっているから、エストレヤに移れたけど……彼女達は埼玉コミュニティに戻される。そう言う事なの」
「うに……そう、なんだ……」
オトゥールは彼女達の焦燥から大凡の事を察した。埼玉コミュニティのオーナーが生存していると言う事を。
昨日、自分達が居た埼玉コミュニティの拠点要塞に赴いたが、それだけがコミュニティとは言えない。コミュニティと言っても複数の拠点の複合体である場合もある事をメサルティムから教えられた。埼玉コミュニティは群体コミュニティ。壊滅したと言ってもその1つの拠点が潰れたに過ぎない。
今更、思い出したが自分達が見世物の末に処刑される直前にヴォルヴァ種『ヒム』の来襲によりオーナーや有権者と言った連中の避難する為に即死不可避の囮作戦を強いられた。その時点でとっくに避難したのだろう。
「……疫病神」
鈴音はボソリとそう呟いた。疫病神、と。オトゥールもウィキッドもその言葉の意味が分からず疑問符を浮かべている。だが、その言葉が火蓋となりAISの者達が堤が切れた様に各々の感情が炸裂する。
「そうよそうよ‼︎ アンタ達の所為よ‼︎ 何もかもが‼︎」
「アンタ達が現れなければ……私達はこんな惨めな思いをしなくて済んだのに‼︎」
「悪魔‼︎ 外道‼︎ アンタ達の所為で……私達はまたあんな地獄に逆戻り‼︎」
「家に帰して‼︎ 元の世界に帰してよ‼︎ 死にたくない‼︎ 死にたくないのよ‼︎」
「寝なくても戦えなんて‼︎ 食わなくても戦えなんて‼︎ そんなの出来る訳無いじゃない‼︎ お風呂にも入りたいし、オシャレだってしたい‼︎ 何でよ⁉︎ 私達が何をしたって言うのよ⁉︎」
次々とぶつけられる言葉の数々。そのどれもが罵倒や暴言の類である事は感情で分かる。此処、エストレアでの生活は不便はあるが埼玉コミュニティとは雲泥の差である事は実感している。
「……貴女達の言葉。私にとっては如何でも良いわ」
オトゥールがその言葉を受けて返した言葉は素っ気無いモノであった。
同じAIS。でも、待遇は雲泥の差となった。だから如何した?
人間とは他人がより良い環境だと嫉妬する獣の名前だ。色んな言葉で片付けられるが……所詮はその程度の問題である。
「あの時も言ったし、さっきも言ったわ。私はウィキ姫ちゃんの事だけで一杯一杯。だから、それ以外の事なんて知った事じゃないの」
オトゥールの目付きが鋭くなった。自分は穢れている事は充分理解している。自分達の為に他者を見捨てるわ道連れにするわ、身代わりにもする。最低だと分かっている。それでも、譲歩はしない……自己中心的だとしても生きる為ならば、他を犠牲にしても構わない。
「其処までです」
お互い剣呑な空気。或いは乱闘でも起こりそうな空気を制する声が響いた。一応、事の成り行きを見守っていたメサルティムが跫音を鳴らして介入して双方の間に割って入る。
「鈴音様方、オトゥール様方。当艦にて乱闘事はお控えなさるようお願い申し上げます。双方共に吐き出したい様々な感情がある事、このメサルティムは重々承知しております」
目を伏せながらメサルティムは淡々と続ける。確かにメサルティムから見てもAISの待遇は劣悪を極めているのだが、自分の立場からその環境に関しての意見は絶対に通らない。いいや、それが原因でオーナー、ひいてはエストレア全体の存続にも関わりかねない。
「ですが、双方の『立場』は決定事項。鈴音様方の所有権は埼玉コミュニティ、オトゥール様方の所有権はエストレア・コミュニティにあります。以前、ご主人様が説明された通りの条件が所属元を断つ為の必須事項です」
「「「…………」」」
「お互い、此処で言い争っても何も進展はありません。故に解散を進言します」
メサルティムから見れば、鈴音達が居られる時間は今日で終わりだ。明日の午前8時頃、埼玉コミュニティP3にて鈴音達AISは埼玉コミュニティへと返還される。それで彼女達の関係は終わる。
「…………如何して、アンタ達はそうやって生きて居られるのよ……‼︎」
「別に無条件で此処に居る訳じゃないわ。私達だって、相応の対価を払う契約で此処のオーナーと取引しただけよ」
「……」
気不味い空気に包まれる中、オトゥールはウィキッドを連れて自分の方からこの場所から立ち去った。メサルティムの言う通り言い争おうが、罵倒をぶつけ合おうが状況が変わる事は無い。騒いで叫んで如何にかなる程、簡単な問題では無いのだ。
「うに〜?」
剣呑な空気となり事実上、壊れた関係となった彼女達と別れ、次に案内されたのは製造場であった。しかし、人員が居ない為に稼働はしていないようである。
「此処では戦闘用の武装や補助装備等を開発する場所です。……しかしながら、人員が居ない為に常時稼働は出来ません」
「私達の武器も此処で?」
「はい。基本的にご主人様が使っています、何分……製造の心得があるのはご主人様だけであるのが実情なのです」
「……ふーん」
大型の設備もあり、オトゥールから見ても何が如何なって動くのか検討が付かない。自分達は戦うのが仕事の為に理解出来ないのは当然かも知れない。
「資材や鋼材や設計図とか見つかれば、貴女達の装備も充実するかも知れません。探索の際には気にかけて頂けると幸いです」
「……そうね。生き残る為には、強くならなきゃ、ね。それに強力な武器があれば……きっと」
——最低でもヴォルヴァくらいには抗えないと……高望みかも知れないけど、それ位の目標じゃないと明日は見えない。
その後、特に何事もなく時間が経過して翌日となった。
そう、未だ埼玉コミュニティとの契約が締結されている鈴音達がエストレアから埼玉コミュニティへと引き渡される日、であった。