——気分は本当に最悪だった。
約束された日。
その日となり鈴音達は再び埼玉コミュニティの支配を甘受する事となった。
偶々通り掛かったエストレヤ・コミュニティに保護され誰もが助かったと、頭ごなしの命令ばかりと、悪夢の様な環境から解放されたと安堵した……。元々、比較的平和で命懸けの戦闘行為や奴隷同然の扱われ方など無縁の者達……到底耐えられる様な精神では無かったが故に。
だが、その光明もその一瞬だけの幻想でしかなかった。彼女達の所有権は埼玉コミュニティにて締結されており、有権者が存命である以上、返還しなければならない義務がエストレヤに生じたからだ。
結果、如何する事も出来ずに今日、埼玉コミュニティへと引き渡される日を迎えた。
——返還要求が来た後、私達が出来る事は何も無かった。何人かはあのメサルティムと言うメイドに問い詰めたけど答えは『無理』の一言で切り捨てられた。
エストレヤから降ろされ埼玉コミュニティの人間達に引き渡された後に待っていたのは初めて埼玉コミュニティに来た時よりも激しい洗礼だった。
いきなり殴られ、蹴られ、転がされた後に二の腕と手首に枷を嵌められ連結させ拘束される。更に今度は足にも枷が嵌められた。腕だけでなく足も拘束されればいよいよ抵抗すら出来なくなる。叫んだり暴れる者も居たが滞りなく取り押さえられ拘束され、地面に転がされた。
「先日、廃棄処分したコード:O13とコード:U31もAISの分際で反抗的な態度だった。……だが、貴様らはあの薄汚い売女共よりも随分と付け上がった態度は目に余る‼︎」
頭上より聞こえてくる男性の罵倒は徐々に語気が強くなっていく。その視線は鈴音に向けられた直後、腹を思い切り蹴り飛ばされた。
「が、あッ……⁉︎ ゲホッ、ガッは……‼︎」
——腕も脚も拘束されて……無防備な所を……こんのッ‼︎
蹴り転がされて咽せ返りながらも僅かな抵抗として睨み付ける。そんな行為すらもささやかな抵抗でしか無い。その反抗的な目も気に入らないのか鈴音を蹴り飛ばした男性は足で鈴音を仰向けにした後に鈴音の俎板の様な胸部に脚を乗せて強く踏み付ける。
「ガッ⁉︎ カハッ⁉︎ この……‼︎ 離、せッ…‼︎」
肺が圧迫され息苦しさを感じながらも抵抗の意思を止めない。
「その中でも特に貴様だ、コード:R18‼︎ その態度は正に悪しき社会病理である女尊男卑を彷彿させる。如何やら我々の今迄の判断は実に甘かった様だ」
ギリと踏み付ける力が強くなって行く。崩壊した埼玉コミュニティの支部での鈴音の態度の悪さは既に把握されている。
「貴様には入念な再教育が必要だと上層部の判断が下された。この意味、その貧相な頭でも理解出来るだろう。出来なければタダの家畜にも劣るがな。おい‼︎」
「ちょ、何……むぐぅぅう⁉︎」
そう言い捨てるや否や、鈴音に対して今度は蓋付きのマスクギャグが取り付けられた。手足の自由に加えて喋る事すら奪われた。
「さぁ立て‼︎ボサっとするな、キリキリ歩け‼︎ AISの分際で、寝ていられると思うな‼︎」
「むぐぅ⁉︎ ぐうぉうあ⁉︎」
そして、連行だと言わんばかりに腹や胸を蹴られ立ち上がる様に恫喝される鈴音達。鈴音は口を封じられた為に言葉にならない悲鳴をあげる。
「いぎぃ⁉︎ い、痛ッ……⁉︎」
「や、止めて、止めろ……⁉︎ がほっ……あっ⁉︎」
「痛い? 貴様らに痛覚が存在するとは驚きだな? ISに選ばれた女性は最強なんだろう?」
他の男性達も同じ様に他の者達に足蹴にして行く。腕も脚も拘束されて動きが大きく制限された今、立ち上がる事すら難しいのに立ち上がる事を強制する。
「……い゛ッ⁉︎ あがっ……も、う、嫌だ……‼︎」
「お前達、AISは全身、シールドバリアで全ての痛覚は遮断されているんだろ? ならば我々の様なひ弱い男達の蹴りくらいで逐一、泣き喚く必要は無いだろうなぁ⁉︎」
痛い痛いと泣き叫んでも、男達は暴行を止めない。何故ならAISは兵器であり、尚且つ痛覚を訴える権利は存在しないからだ。
震える脚で何とか立ち上がろうとしてもその脚を蹴られて転ばされる事を数回繰り返す。
「何だ?その生まれたての牛の様な立ち上がり方は⁉︎ 貴様らは雌牛か? ならば、家畜とて売り飛ばしてやろうか⁉︎」
「こ、こんな連中……ISがあれば……‼︎」
その中で痛みに苛まれ、1人のAISが思わずそんな言葉を漏らした。彼女は過去の世界でISに恵まれず、ISがあれば何でも叶うと本気で考えていたIS学園の生徒だった。
「ほう……? 貴様、良く言った。こんな世界を創った分際で、良くそんな言葉が吐けるな?」
「ひ、ヒィ……‼︎」
その言葉が聞こえたのか、男性はそのAISの胸倉を掴み上げて持ち上げその顔を近付ける。男と言う者、然も女尊男卑が罷り通っていた世界の男性達と違い高圧的な人格と相対した事が無かった為に萎縮してしまう。
「良いだろう。そんなにISが欲しいのならば、特別にIS討伐作戦をくれてやろう」
IS討伐。AISの惨状は嫌でも理解している。粗末な武器で敵と戦わされる。粗末な武器で何とか戦い、生き延びた。しかし、それは相手がエインヘリヤルと言う存在で動きも単調だったから。
「……ISが大好きなのだろう? ならば当然、作戦成功は確実だよな? ……失敗した場合、貴様は用済みで処刑だ」
「…………そ、そんな……‼︎」
——……処刑って、あの2人も処刑されるとか言われていたわね……。私達にも容赦無く降り掛かる……か。
生身でISの相手をしろ。
ISがどんな存在か、彼女は片鱗たりとも理解している。シールドバリア、絶対防御の存在の2段階構造……既存の兵器を有象無象に追いやった存在。事実上、彼女に対して死刑宣告であった。
「持って行け。先日ISが確認された区域に投入しろ。処理出来れば上々、出来なければ処刑しろ」
「はっ‼︎」
「い、嫌ァァァァ‼︎ 死にたくない、死にたくない‼︎」
「貴様に拒否権など無い‼︎ 我々の言われた通りにISを討伐すれば良い、貴様は人間では無くAISで兵器だ‼︎ 人間扱いされると思うな‼︎」
地面に投げ捨てられ、別の男性達に掴まれ連行されるAIS。嫌だ嫌だと叫ぶも、恫喝されながら引き摺られ作戦区域へと連行されて行った。ナノマシンの存在がある故に逃亡を企てても爆殺されるのがオチだろう。
「……フン。要らぬ時間を取った。貴様ら、何をボサっとしている‼︎ さっさと立て‼︎ それとも此処で今すぐに処分してやろうか⁉︎」
先程の光景を見て放心していたが、罵倒された事で我に返り痛みに堪えつつ立ち上がる。
「それで良い。さぁ、歩け‼︎」
口答えすればどんな目に遭わされるか分からない。いや、先程の彼女みたいに機嫌を損ねれば死刑宣告されるかも知れない。ISや女性有利の風潮が塵芥でその加護も無い為、AISとされた彼女達は服従する以外に生き延びる道は無い。
傷付いた身体を引き摺り1人、また1人と埼玉コミュニティの中へと向けて歩き出す。
——……今に見てなさいよ。いつか、必ず……自由を勝ち取ってやるわ。
「ほう……? 如何やらたった今から教育が必要らしいな? 良い度胸だと言ってやろう」
「……むぐ?むぐぅぅぅ⁉︎」
——ちょっと、何するのよ⁉︎
鈴音の態度に対して先頭を行く上官の男性はそう判断して、トレードマークであったツインテールの片方を掴む。
「私はコード:R18を別件で持って行く。お前達は、他のAISを牢獄へ放り込んでおいた後に来ると良い、実に良い見せ物が見られるぞ?」
男性は部下達に指示を飛ばした後、鈴音の髪を掴んで引っ張る。
「むぐぅ⁉︎ うぐうう⁉︎」
「フン、人間の言葉も喋れん程の低脳に成り下がったな。まぁ、耳くらいは機能するから問題は無いな」
——何処へ連れて行くつもりよ⁉︎ 髪を、引っ張るなッ‼︎
男性は鈴音をある場所へと連行する。その先にあるのは……。