それは唐突に発生した。
「んにゅ⁉︎」
エストレヤは現在、東京コミュニティに向けて航行中。突如、艦内全体を揺るがす震動が発生した。
その時、自分達の部屋のベッドで転寝していたウィキッドが突如、吹っ飛び天井に激突した。
「ウィキ姫ちゃん⁉︎ 何が起こっているの⁉︎」
ウィキッドは小柄な為か体重がとても軽い。その為、普通の人よりも吹き飛びやすい。その為、先程の地震染みた震動で真上に吹っ飛び天井に激突したのである。
「うう〜……」
天井にぶつかった後に其の儘、軽い音を立ててベットに落下した為に2次被害は無かった。
「……こんなに激しく揺れるなんて。埼玉コミュニティに居た時も、何回か地震って言う現象が起こったわね」
「うう〜、痛い……」
——うにゃ……。ほしが見える〜……。
「だぁぁぁ、クソがッ‼︎ メインエンジンが故障しやがった‼︎」
何処か遠くで紫の怒号の様な咆哮が聞こえて来る。どうやら何かしらのトラブルが発生したらしい。
「「……………」」
思わず顔を見合わせるウィキッドとオトゥール。紫とは協力関係となって日はまだ浅いが、普段の様子のイメージから冷静な性格だと考えていたが、あんな感じに取り乱す事もあるのかと邪推した。
「様子、見に行く?」
「そうね……。何か出来る事があれば良いけれど」
ウィキッドは激突した際の痛み故に頭を押さえつつオトゥールと一緒に部屋を出て艦体中枢部に向かう。エストレヤの中枢部には動力源たるメインエンジンがあり、航行するに必要な設備が備わっているエンジンルームがある。
其処で紫とメサルティム、そしてもう1人、スピカが悩ましい表情で立っていた。
「……ん、ああウィキッド嬢とオトゥール嬢か。済まんな、強烈な揺れで驚かせたな」
「うー、飛んだ」
紫が2人の姿を認めてそう言うと、ウィキッドは簡潔に状況を口にした。ウィキッドの体は小さく突風が吹けば吹き飛ばされそうだと考えたので、文字通り部屋内で吹っ飛んだんだろうと脳裏にその光景が過った?
「……何があったの?」
「ああ。エストレヤのメインエンジンが故障しちまった。状況柄、メンテする機会が中々取れずに結構無理していたからな……。遂に、限界を迎えちまった」
——あ、そう言えば……埼玉コミュニティの跡地に行った時、過去に大きな損害が受けたとか何とか言っていたような……。
「……こしょう、するとどうなるの?」
「エストレヤ自体、移動出来なくなるって事だ。修理とかイカれちまった部品を交換しようにも残念ながら予備が無ぇのが現状だ」
エストレヤは過去に受けた損害のダメージを引き摺っている状態。他の部屋も修理が手付かずのまま放置せざるを得ない状態である。
「……成程、つまり私達が外で何かしら使えそうなモノを回収してくれば良いのね?」
「流石、オトゥール嬢。聡くて何よりだ。今まさにそれを言おうとしていた。現状、エストレヤは航行出来ない、この状況下ではエインヘリヤル共に集られては修理云々の状況では無くなっちまう。
よって、AISである2人には周囲のエインヘリヤルを掃討しつつ安全確保、そして使えそうな代物を片っ端から回収して欲しい」
紫から『命令』と言う形でそう言う要請が出された。自分達が出来る事はそれ位しか無い。勿論、その状況に受け入れはしている。
「……ただ、済まないがAISスーツに関してはまだ用意出来ない」
「……それは仕方ないわ」
「うにっ」
「……此方でも現状出来る範囲で修理を進めておく。こんな所で立ち往生している暇は無いからな」
紫としても此処で時間が潰される訳には行かない。やらねばならない事が山程あるからだ。
「ウィキ姫ちゃん、直ぐに出発しましょう」
「うにーっ」
——そう言えば、埼玉コミュニティの周辺しか見た事無かった。……見た事無い光景が見える?のかな。
エストレヤから出撃したウィキッドとオトゥール。降り立った先に見えたのは長年のISとの生存競争にて廃墟と化した街並みの光景が広がっていた。コレまで見た事があったのは度重なる戦闘により建物が殆ど崩壊して荒野同然となった大地だ。
だが、それでも原型を留めずに完全に倒壊してしまい全貌が分からなくなった場所も多く見える。
「建物がいっぱいある……」
「埼玉コミュニティ周辺は、エインヘリヤルとの戦闘で荒地になっていたからね。この周辺ではエインヘリヤルは居ないのかしら……?」
——……変な形の建物が見える……。
『あー、テステス。お二人とも、聞こえますか?スピカです‼︎』
「うに、聞こえる〜」
「ええ、問題無いわ」
其処でエストレヤのオペレーター、スピカからの通信が入った。
『感度良好。システムオールグリーン。別電源にして正解でした。あ、此方の話です。
では、今作戦の趣旨の確認を行います。本作戦はオーナーの要請で、該当地域での討伐任務及び探索任務となります』
前回と同じ様に2人の外出目的の確認を行う。如何やらエストレヤにおけるルーティンの様だ。間違いは無い。
『現在、エストレヤはエンジントラブルにより航行出来ません。故にエインヘリヤルがエストレヤに接近すると大変危険な状態になります。
ですので発見したエインヘリヤルは速やかに排除して下さい。……ただ、オーナーの言う通りまだお二人のAISスーツが用意出来ません……」
「……分かっているわ。極力、無理はしない様にする」
「うに……」
普通の布製で戦闘用に用意された服装では無いので被弾は避けたい所。
——……エストレヤが無くなると、私達、行き場が無くなっちゃう。
そうなれば、自分達はまた何処かのコミュニティに回収されてしまう。
埼玉コミュニティでの扱われ方は酷かったが、他のコミュニティでのAISの扱いは大体同じ……。つまり隷属的な支配に置かれる事を意味する。しかも今度は、バラバラにされてしまう可能性もある。故にエストレヤが壊滅するのだけは絶対に許してはならない。
『お二人の出撃方向の反対側から襲来してきた場合は、此方で何とかします』
「……大丈夫なの?」
『IS以上の相手は確かに厳しいですが、エインヘリヤル程度ならば如何にかなります』
スピカは素直にそう認める。ISのシールドバリアや絶対防御の存在はそれ程までに理不尽なモノだ。
『そして、回収物資に関してですが……メインエンジンの修理にはやはり鋼材で加工された部品類が必須です。耐久性があってメインエンジンの各所、部品に代替可能な構造の部品が見つかる可能性は低いでしょう。
ですが、鋼材であればその場で加工して作れると思います』
「えっと……」
『あ、すみません。一先ず『ホームセンター』と読める看板がある建物を探してください。恐らく何処かにある筈です』
目的地を指示された。『ホームセンター』て呼ばれる場所を探せば良いらしい。
「……ほーむせんたー?」
『其処にならオーナーが求めている物資があるかも知れません。見つけたら別途指示を出します』
「……分かったわ。取り敢えず、その場所を目指しつつエインヘリヤルを倒して行くわ」
まだ理解が出来ないウィキッドの代わりにオトゥールがそう返答を返した。
『はい、では作戦開始。くれぐれも周りには注意して作戦を遂行してください。……万が一の話ですけど、ヴォルヴァ種が現れた場合……自分の身を優先して下さい』
「……こんな所に現れるモノなの?」
本当に万が一の話である。
『ヴォルヴァ種の行動パターンは未解明な部分が多いです。しかし、貴方達が見た白いヴォルヴァ『ヒム』以外にもヴォルヴァ種と見られるISは存在しています』
——うー、他にもいるの……?
その話を聞いてウィキッドは嫌そうな顔をした。ヒムに圧倒された事実もあるが……あのレベルのISが他にも存在するとなると精神的に億劫にもなる。
「……出来れば会いたく無いわね」
『はい。もし此方のレーダーで感知した場合、速やかにお知らせします』
出来れば現れないで欲しい所であるが、今考えても仕方ない。
「……お願いするわ。ウィキ姫ちゃん、行きましょう」
「うん」