——この世界に来て何日くらい経過したか。凡そ、1、2週間くらいか……相変わらず、こう言う空気には慣れんな。
埼玉コミュニティに取り入ったラウラ。その為、他の者達とは異なり一先ず申し訳なさ程度には自分の立場を確保は出来た。その代償として虫唾が走る光景を何度も目の当たりにする羽目になったが。
弱者兼兵器として酷使されるAIS達の扱いは酷いモノであり、拷問、体罰や無茶な作戦決行は当たり前であった。それらが曲がりなりにもクラスメイトや知人が対象であれば、多少なれど憤慨したくもなる。が、堪えねばならない場面ばかりであった。
そんな日々が数日経過した時、ラウラは自分達を見つけたAISの2人が悪趣味染みたショー紛いの処刑場を見せられていた時、それは発生した。
『ヴォルヴァ』と呼ばれる数あるISの中でも上位に君臨する存在が突如として襲撃して来たのだ。その光景に埼玉コミュニティの動きは早かった、AIS達を囮に使って自分達は早々に避難したのだ。
その時、ラウラは何とか対応したかったが、自身のISを使用するのはコミュニティ側にバレてしまう恐れがあった。そう慣れば自身に秘める思惑が破綻する為に出来ず、他の職員達に連れられる形で該当コミュニティを離脱し、別のコミュニティに避難した。
ヴォルヴァの襲来により囮役や置き去りにされたAIS達は多数、死亡しその中にはIS学園の生徒のAISも含まれていた。
その後、避難した職員やオーナーは避難先である埼玉コミュニティP3にて再編する形で編入しラウラも避難先のコミュニティP3に在籍する事となった。
——此処、埼玉コミュニティP3に来て知ったが……。我々が初めて埼玉コミュニティ……P2だったか、来た時に脱走事件が発生したらしい。脱走者はIS学園の生徒達。
ラウラはコミュニティ内の休憩室にて瞑目し情報を整理する。現時点で多少の柵はあれど自由に動けるのは自分だけだ。自分が動かなければ、知人やクラスメイトは使い潰されるのは明白。
——私がコミュニティの人間に取り入っている間、IS学園の生徒達をAISとして拘束しようとした時、半数以上が激しい抵抗を見せたらしい。
仮に私も其処に居たらそんな扱いを受けるくらいならば暴れて逃げる選択を取るから、理に適っている。
暴れ出した者の名前は分かる筈は無いが大凡、予想は出来る。大方、専用機持ちと教師であるラウラの恩師の織斑 千冬、そして副担任の山田 真耶だろう。
専用機持ちや教師達が暴れている間に一般生徒達の逃亡幇助した……。その時の光景は分からない為に確信は出来ないが半数以上は逃亡に成功して欲しい所である。
コミュニティ内では名前ではなく監獄の様に管理番号呼びである為に白地にラウラ自身は遠ざけられていた為に生徒本人か特定が出来なかった。
——ただ、此処に来てから数日後、件の襲来事件で生き残っていたAISを別のコミュニティが保護し埼玉コミュニティへAISが返還されたと訊いた時、嫌な予感がした。
そして、埼玉コミュニティ内へ連行されて行くAIS達を見て確信した。IS学園の生徒達だ、と。その時、看守共の罵声は覚えている。
態度が目に余ると言う事で更に厳重な拘束が施された上に、その保護した別コミュニティから苦情が寄せられ更に厳しい管理体制が取られる事となった。
そして、1番の懸念は鈴音だ。ラウラが把握している中で埼玉コミュニティが所有するAISにされた専用機持ちは彼女だけ。鈴音の性格は分かっている……。その結果、彼女は公衆肉便器型AISにされた。
並のAISの時点で自由は全く無いが、それでも牢獄で雀の涙程ではあるが休める。だが、肉便器として扱われているAISは保管場所がコミュニティ内の公衆便所となり、性処理の肉便器として扱われる事となる。その時点で扱いの差があると言えるだろう。
——……その時の鈴を見た時は酷いモノだった。完全にヤリ捨てられた様な状態だった。
それでもAISである以上、兵器として使われる。肉便器として使われた後に戦場に放り出される。疲弊しても休める時間は与えられず其の儘、戦場へ……。もはや、死ねと言っている様なモノなのだが、コミュニティとしては『AISは性奴隷の様に扱えば回復する。故に何も問題無い』と言うラウラからすれば理解出来ない理論が罷り通っている。女尊男卑の反動は何から何まで大きく跳ね返って来ている事が分かる。
「…………」
——回想はこの辺で良いだろう。……だが、結局の所、把握済みの中で何人生き残っているかが気掛かりだ。鈴も肉便器として扱われている以上、何処まで持ち堪えられるか分からない。いや、流石の彼女でも限界はある……。
人類の活動圏はコミュニティだ。……だが、AISとして使われている者達に人権は無い。だがコミュニティの外はISやエインヘリヤルの存在により安全圏は皆無とされている。
……ラウラとしてはコミュニティ以外にIS等の襲撃を避けて生活している集落があっても不思議では無いとは考えているが……現状を鑑みれば確証は持てず推測の域が出ない。そして、コミュニティではAISに立場は無い。いや、
まず、AIS達に遠隔操作で起爆させられるナノマシンが打たれている。見た所、流石にコミュニティ内で起爆したと言う話は聞かない。……が、敵前逃亡等が発覚すれば容赦無く爆殺……。故に作戦中に逃亡……と言う手が使えない事になる。コレが1番、大きな痛手と言えた。コレをどうにかしなければ……。
「ボードール、居るか?」
休憩室の扉が開かれて1人の男性が入ってくる。このコミュニティにおいてAISの管理する部門の上官に当たる。ラウラは速やかに席を立って敬礼した。
「ハッ‼︎」
ボードールと言うのは、ラウラがコミュニティに取り入る際に使った偽名だ。……ただ、本名を使うのは拙いと考えた末に咄嗟に思いついた。
「次の作戦、コード:R18以下、複数のAISを作戦区域に投入して来い。お前にも運送任務をして貰おうと考えてな。そろそろこの埼玉コミュニティに慣れて来た事だろうから警備以外の仕事をして貰うつもりだ」
「!」
AISが作戦に投入される際、車両を使って作戦区域に運送する。だが、この任務は死亡率が高い傾向にある。理由は勿論、AISを運送する都合上、エインヘリヤルやもしくISが出現した区域間近にまで接近しなければならない。運が悪いと遭遇して襲われる可能性がある。
その為、車両は運転する者はAISを速やかに下ろして危険区域から離脱しなければならない。また、回収する時も迅速な行動が求められる。
それだけでは無い、AISは対ISへの兵器ではあるが、学も無ければ女尊男卑の無能さばかりある連中……仕事の効率は酷い為に討伐に時間が掛かる。AISは無能ばかり、その間にも安全圏を見つけ自分が生き残らなければならない危険な任務でもある。
なら、降ろした後にコミュニティに即一時帰還……と言いたいが、仮にも腐っても芥でもどうしようもない屑であってもAISはコミュニティの資産だ。迅速に回収して管理しなければならない。
「……本来ならばベテランの奴に同席し仕事の内容を学べる体制を取りたいのだが、我々も人手が足りていないのが現実だ。……初めてやる作業である事は承知だがお前1人で運送任務をこなして貰う。コレばかりはすまんな」
「了解しました。無事、やり遂げて見せます」
「……そうか。今回のAIS共に与える任務は物資回収だ。初任務でありながら少し遠出だ。
該当区域にエインヘリヤル共の存在は確認されてはいるが、少数との事だ。尚、ISは確認されていない……」
「上官、質問があります」
「ああ、何だ?」
「運送時、進行ルート上にエインヘリヤルが居た場合は?」
「基本的に事前のレーダーで極力エインヘリヤル等が確認されていない区域を通過するルートを提示する。……万が一、運送中に目視で確認した場合は極力見つからない様に回避を優先しろ。AISを積んでいるとは言え、拘束具を外す手間があるからな」
「分かりました」
「他に無いな?なら10分後に車両庫に来るんだ」
「ハッ‼︎」
上官の男性はそう言い、休憩室から立ち去って行った。
「……」
——……理由は分からんがAISに接触する形の任務が来たか。今まではコミュニティ内の警備の任務ばかりだったからな……。少なくとも、情報を得られる好機である事に変わりは無い筈だ。
「……良し」
——AISと連携が取れれば、事態は変わるかも知れんな……。兎も角、今は仕事に専念するとしよう。私が疑われ始めたら全て崩壊する……‼︎