スピカからの通達で作戦を一時中断し、エストレヤに帰投したウィキッドとオトゥールの2人。其の儘、医務室に放り込まれた。
理由はウィキッドが戦闘で体が貫通する程の怪我を負ったと言う理由から。当人達は普通のケガだと主張するが、贔屓目に見ても重度な怪我だとスピカの判断によるモノであった。
「……双方の主張は理解した」
メインエンジンの修理作業を一旦切り上げた紫も作戦報告を受ける為に医務室に訪れ、スピカとウィキッド達の主張に耳を傾けた。
「オーナーとしての立場と俺個人的な意見を統合して……スピカの主張の方が論理的に考えて正当だと言える」
結果、紫はスピカの判断が正しいと結論を付けた。理由は諸々あるが、第一にウィキッドとオトゥールは紫の計画において雑に切り捨てれる様な駒では無い事が挙げられる。
「確かに何の成果も無く帰還すると言う事に納得出来ないと言う君らの主張も理解は出来る。だが、命あって物種だ。他のコミュニティは理解出来ない論理だがな」
「「……………」」
「何、1日くらいメインエンジンが停まったとて緊急事態の内に入らん。以前は1週間も立ち往生したもんだからな」
「……怒らないの?」
「はぁ? 外の状況が危険塗れだと言うのに強行軍なんて真似は余程の切羽詰まった時か、指揮系統がポンコツで使い物にならんかの2択だ。それに、何の成果も無いと言うのは誤解だ」
「え?」
当初の目標は達成出来ていない上に何かしらの収穫も無いと言うウィキッドとオトゥールに対して紫はその主張を否定した。成果はあったのだ。
「君ら2人はコミュニティ外で人間を見たんだろう? AISでは無い、人間を」
コミュニティ外で行動するのは作戦行動に駆り出されたAISだけだ。或いは輸送するコミュニティの部隊員。AISならばAISスーツを着用している……2人が見たのコミュニティの恫喝する軍人や看守でもAISにも見えない少女だった。
「ええ、大型装甲のエインヘリヤルと交戦中に逃げたか死んだかは分からないけど……」
「…………」
「それらに関しては2通りのパターンが考えられる。まず1つは、リムドロップ」
「リムドロップ?」
「……コミュニティ内で犯罪、或いは気に入らない等の色々な理由でコミュニティから追放された連中の事だ。その者達の事をリムドロップと蔑称されている」
「……コミュニティから、追放?」
「組織と言うのは無象の群衆だ。思想は統一されている訳では無く様々な認知が跋扈している。……例を挙げればAISの扱い方を肯定している者も居れば否定的な者も現れる」
AISに対する扱いは苛烈だ。しかし、中には否定的な者も現れるかも知れないとの事。しかし、拠点運営の為にも反乱因子は排除しなければ共倒れを起こす可能性がある。故に、殺しはしなかったが追放処分された。
「もう1つは、コミュニティで生まれ育った者では無い者達。中央政府から認知されているコミュニティとは別独立自治拠点で生活している者達……リムドロップの者達から生まれた者達、そして何らかの要因で孤児として生き繋いでいる者達」
その言葉にオトゥールは反芻する。自分達も元々は孤児だ。コミュニティで産まれた訳では無く、寂れた土地で何とか生きていた。
「……となれば、この地域周辺に拠点があると言う事になる。が、接触には注意が必要だろうな」
「でしょうね。……追放されたのならばコミュニティに恨みを持っていても不思議では無いでしょうし」
紫の言葉にオトゥールは同意する。寧ろ自分達がやられて、尚且つ自分達もやった事だからだ。
AISは孤児を中心にやらされる。コミュニティ外で女性を発見しては手当たり次第にAISとして隷属させる。コミュニティのやり方を知っているのであれば、余計な敵対関係を作る事になる。
オトゥールとしても必要のない戦闘は避けたい所だからだ。
「理解が早くて何よりだ。それに……外部拠点の存在が疑われる以上、他のコミュニティから『AIS狩り』として此方の作戦区域に割り込まれる可能性もあるからな。イザコザは面倒臭い」
『AIS狩り』とは文字通り、AISとして隷属させる為にコミュニティ外に繁殖している女性(状況的に孤児が多い)を捕獲する作戦の事。
前回、埼玉コミュニティでウィキッドとオトゥールが従事したIS殲滅作戦(遭遇した時、当人達はIS学園の生徒だと主張した)は状況の特異性から急遽変更されその呼称に該当する。
コミュニティ外で生活している拠点が確認された場合、消耗が激しいAISを補充する為に挙って『AIS狩り』が行われる。
「それにこの地域は周辺のコミュニティの活動圏が隣接する境目……複数のコミュニティが同時に来るかもな。巻き込まれると面倒臭ぇ」
複数のコミュニティが同じ区域に作戦行動として行動する場合もままある。その時、戦果を巡ってコミュニティ同士が揉める可能性がある。そうなれば結構、面倒臭いのだ。
こと、移動式要塞艦であるエストレヤならば尚更と言える。
「……コミュニティの人間としても大変なのね」
「ま、現場で身体を張る君らに比べればマシかも知れないがな。難しい話はこれで終わりだ。明日になれば動けるか?」
「うに、多分。大丈夫」
「無理はしない様にな。何度も言うがそう言う『契約』だからな」
「ええ……分かっているわ。お互い、死ぬ訳には行かないもの」
「なら良い。今日はご苦労さん。ゆっくり休んで、明日に備えてくれ」
某日、某刻。
「……」
車内にて気不味い空気が漂っている。
——……コード:R18とは鈴の事だった。しかし、酷い姿だった。明らかに疲弊しているのが見て取れる。やはりAISには休息の時間すらも与えられないと言うのか。それに、この作戦は気が進まんな。
ラウラに与えられた任務。それは『AIS狩り』と言う任務だった。該当区域にてコミュニティ外で生活する人間達の拠点が確認された。その拠点を制圧して女を捕獲せよと言う内容。
つまり、自分達が初めてこの世界に迷い込んできた時に遭ったあの光景を今度は自分達が引き起こせと言うモノに等しい。
現在、作戦に投入されるAISを車内のトランクに詰め込み、ラウラ自身が車を運転(するのは初めてだったが大凡、慣れた)し該当地域へ向けて運転している。
——こうやってAISは増やされるのか……判断基準はIS適性とは言え……ISに反応するのは女性ばかり、それに適性とは言っても大なり小なり反応する。……全く反応しないと言う話は殆ど聞いた事が無い。奴らからすれば女性は全員、AISと言う扱いなのか。女尊男卑でISをファッション扱いしていたゴミ共とは別の意味で反吐が出るな。
AIS=女性と言う方程式が成り立っている。だからこそ、コミュニティ内では男性ばかりがコミュニティ運営を担っていた。
「……よし、この辺で良いか」
ラウラは廃屋近くに車を停めた。AISに持たせている無線機の電波の都合上、コミュニティからの無線の中継地点として車が使われる。その為、AISを投下して即座にコミュニティへ撤収が出来ない。迅速にAISを回収する理由も勿論ある。
「……お前達、大丈夫か?」
トランクを開き中に詰め込まれていたAISにされた鈴音達を出した。
「コレが、大丈夫に見える……?」
後手で拘束され、足枷も着けられて満足に動けない状態で地面に座り込む鈴音。作戦に投入される前は肉便器として扱われて水で洗われたとは言え、精液塗れの悪臭が付き纏っている。
「……臭かった」
「もう、嫌。……早く元の世界に帰りたい」
他の2人も元はIS学園の生徒。他のクラス故にラウラは詳細を知らないAISだ。
「……まさか、コミュニティの連中と連んでいるなんてね……。私達がどんな目に遭っているか知らずに良い気なモノね」
「罵倒は幾らでも受けてやる。……今は私の指示を聞いてくれ」
——当然、良い顔されないのは分かっている。裏切り者に等しいからな。
「……嫁も教官、シャルロットや箒、セシリアの行方知れずのままだ。だが、きっと生きている筈だ。……元の世界に帰れるかも分からんが、何とかこの状況を脱して合流したい」
「……私達は拘束されているから、動けるのはアンタだけね」
「私が何とかお前達が逃げ出すチャンスを作ってみる。……それまで耐えてくれ」
「……コミュニティであの連中に虐げられ続けるよりも荒廃した世界でサバイバルしている方がまだマシかもね」
鈴音はラウラの計画に同意する。AISとして使い潰されるのは真平ごめんだ。牢獄で肉便器扱いされるならば、廃墟暮らしの方がまだ精神的にマシと言える。
「だからと言って迂闊には動けん。少なくとも今はな……。今回の作戦を通達する……達成出来なかったAISは処分されかねん」
「ええ、分かっているわ。本当にウンザリする環境よ、この世界は」