地下鉄駅の入り口がある付近から遠ざかり、目的地を探すウィキッドとオトゥールの2人。この近辺には飲食店の他に何かしらの商業施設が集中する地域らしく、寂れた看板や打ち捨てられ残骸と化した小物とかが道路とかに散乱している。
「この辺りは商店街、だったみたいね……」
当然ながら既に廃墟と化している。
『状況証拠から考えられるに近くにスーパーマーケットが出来て以降、客が其方に盗られて寂れてしまったみたいです』
「何処も似たようなモノだと思うわ……」
「うー、腐ってる……」
商店街の一角、野菜売り場では萎れていたり腐ってしまった野菜が散乱している。長い年月により原型を留めておらず元は何の野菜だったか判別は出来そうにない。
『……使えそうなモノは無さそうです。目的のホームセンターへ向かいましょう』
その時、何処か遠くで爆発に似た音が響いて来る。
「オト姉ッ‼︎」
「エインヘリヤル⁉︎」
『いえ、違います。レーダーに反応はありません……。コレは先程、遠目に見えた地下鉄駅にAIS狩りに突入したAIS部隊の可能性が濃厚と言えます。爆発物で混乱させる目的なのでしょう』
コレは予想はされた事、エインヘリヤルの方がマシだったが、仕方ない。
「……あの時に鉢合わせしなくて助かったと言いたいけど、警戒しなきゃいけないわね」
——帰り道に出会すのは避けたい。出来るならば視界に入らない内に帰還したい。
作戦地域近くに他コミュニティのAISが投入された。エインヘリヤル以外にも警戒しなくてはならないこの状況。少しは急いだ方が良いかも知れない。
商店街を抜けて、地下鉄駅があった区域から遠ざかる様に歩き続ける。舗装が剥がれた道路を行き、倒壊した建物の瓦礫や壁を登っては降りて進んで行く。
「……スピカ。アレは?」
暫く歩く事、20分程。少し開けた場所に出た。遮蔽物が無い為にエインヘリヤルや他のAISに発見されるリスクが跳ね上がる為、極力避けたい場所だが、その一角に大型の建物が見えた。
上部は青く下部は白い塗装の壁、その壁の大きな看板は真っ二つに割れておりその一部が剥がれ落ちているのが確認出来た。その建物の周りは舗装された広場になっていた。
『確認しました。……恐らくアレが目的地のホームセンターだと思われます。……近くにエインヘリヤルと言った敵性反応はありません』
「何故、こんな広場の中央にあるのかしら?」
『えーと、ホームセンターと言った大型の建物には駐車場。目の前に広がる車両を停める為の広場を設ける事が一般的でした。特にホームセンターは取り扱う商品の都合上、広めの駐車場が求められるんです』
「うー……」
「兎も角、他のAIS達がAIS狩りに集中している間に目的を達成しましょう」
広い駐車場には身を隠す為の遮蔽物は無い。その為、駆け足気味でホームセンターの建物へと直進してその建物の玄関口へと移動する。
「……ガラスが割れている。此処から入れそうね。ちょっと割れ目が小さいから砕きましょう」
オトゥールは量子変換して展開したモーニングスターを振るい壁ガラスを粉々に破砕し、自分が通れる程度の大きさの穴を広げ、内部へと侵入する。
ホームセンター内も荒れており、棚に置かれていたモノが床に落ちていたり、綺礼さっぱり無くなっていたりもしていた。照明が落ちている為、薄暗い光景が広がっている。
『ウィキ姫様とオトゥール様。お二人が作戦目標地点への到達を確認しました。これより、回収資源の確保に向かってください』
「うにーっ‼︎」
「……ええ、鉄製のモノであれば取り敢えず回収すれば良いかしら?」
『そうですね……。昨日も伝えた通り最適な形状があるとは限りません。そもそも残っているかどうかも分かりませんので、あるだけ回収してしまいましょう』
スピカの指示によりホームセンター内で金属製のモノを片っ端から回収し拡張領域内へと格納して行く。
今は役に立たずとも後々、役に立つかも知れない。その辺りは全部、紫に投げてしまえば良い。自分達は指示された通りにやれば問題は無い。
「ん、粗方、集めた……‼︎」
——コレだけあれば、大丈夫。……多分。
「取り敢えず、使えそうなモノかは分からないけど、沢山回収したわ」
『……コレは⁉︎ ッ、き、緊急事態ですっ‼︎ レーダーに超高速で其方に接近中のIS……‼︎ こ、この反応は⁉︎』
スピカに無線を入れた時、かなり焦った様子の声が2人に届く。この慌てぶり……嫌な予感がしたウィキッドとオトゥールは意思疎通するまでも無く、ホームセンターから飛び出した。
その直後、ホームセンターの壁や天井、その他諸々が爆轟と共に爆ぜ散り、その衝撃波を背後から浴びた2人も巻き込まれて駐車場の中程にまで吹き飛ばされて転がる。体格や身長差によってウィキッドの方が遠くに飛ばされた。
「今度は何……⁉︎」
「うー、痛い……‼︎」
駐車場の地面に転がる2人、ホームセンターが建っていた場所には黒煙が上がっており今となっては瓦礫の山と化していた。一歩、反応が遅れていたらまず巻き込まれた挙句、間違いなく肉片と化していたであろう。
『お、お二人とも大丈夫ですかッ⁉︎』
「……だ、大丈夫」
『シグネチャー観測‼︎ 最悪です、まさか……』
無線の言葉に被さる形で瓦礫の山が粉微塵に吹き飛ばされ形状を保っている瓦礫が宙を舞う。その場所には1機のISが荒々しく存在していた。
5m程の巨体。全体的にマゼンダの色合であり、非固定で宙に浮く複数の球体型の砲門が印象的。その傍には偃月刀の様な刀身が控えられていた。巨大な機械鎧型のIS。即ち——。
『シグネチャータイプ『ヴァルキリー』……‼︎ 対象ISのネームド『甲龍』‼︎ 交戦時、勝利率生存率ともに0%……‼︎』
——ヴァルキリー……‼︎ アレが……‼︎
『ヴァルキリー』。数あるISの中でも『ヴォルヴァ』と並ぶ特級の危険種であり上位種に君臨する存在。ヴォルヴァは孤高であるならばヴァルキリーは軍団。ヴァルキリーの名の通りエインヘリヤルを率いるとされている。
故に『ヴァルキリー』と交戦し打ち勝てたAISは1人とて居ないとの事。
『……ォォォォォ‼︎』
静かな咆哮が周辺に響き渡る。
『ッ‼︎ 作戦地域にエインヘリヤルを多数、確認‼︎ ヴァルキリーがエインヘリヤルを呼び寄せていますッ‼︎
此の儘では危険‼︎ ヴァルキリー統制下のエインヘリヤルは脅威です‼︎ 包囲される前に速やかに作戦地域から離脱して下さい‼︎』
今の自分達ではヴァルキリーに太刀打ち出来る筈もなく擦り傷を与える事すら叶わない。更には普段は乱雑に暴れるだけのエインヘリヤルはヴァルキリーの統率下になると途端に統制の取れた動きをする様になる。そうなれば数の暴力かつ制圧性を持った軍団に蹂躙される事になる。
スピカの指示通り、此処は急いで離脱する事を考えた方が良い。
「……ッ‼︎」
機械鎧型のISには頭部は無い。両手両足の装甲とその他、スラスターや非固定武装が存在するのみ、胴体と呼ばれる部位は無い。
だが、聳えるそれは自分達を睥睨している様にも見えた。
「……ウィキ姫ちゃん。逃げましょう、一目散に‼︎」
「んッ‼︎」
勝ち目が無い事は分かっている。2人は戦闘を避けるべく、逃亡を開始する。もたつけば呼び寄せられたエインヘリヤルに囲まれてしまう。そうなれば生き残れる確率は大きく下がる事になる。
まだ、死なない。此処で死ぬわけにはいかないからだ。