※この作品はR-18です。

ジェノサイド・ストラトス   作:夢現図書館

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逃げる先には

 

 

 

 

『ッ‼︎ 射程外から狙われていますッ‼︎』

 

 その無線の直後、自分達のすぐ隣が突如として爆ぜ散った。

 

「……砲身さえ分からないなんてッ‼︎」

 

「何処から狙ってるか、分からない……‼︎」

 

 今度は進もうとした先の地面が抉り取られる様に爆ぜて巨大なクレーターが形成された。

 

——死角が、分からないッ‼︎

 

「……あっちからエインヘリヤルの群れが見えるわ。あの場所を強行突破と言うのは無謀ね」

 

『普段ならば可能かも知れませんが、ヴァルキリーの統率下だと、危険度が跳ね上がっています‼︎ 現に3段構造、正面が肉壁となって第二陣、左右の陣が包囲する配置になっている事が確認されました‼︎

 突撃すれば前線を崩した瞬間に包囲されてしまうだけでなく『甲龍』から狙い撃ちされかねませんッ‼︎』

 

 ヴァルキリーである『甲龍』が出現。考えられる中で最悪の状況。それに加えてエインヘリヤルが大量に出現した。ヴァルキリーはエインヘリヤルを使役する為、この状況下での交戦は極めて危険だった。

 その為、一刻も早く離脱する為に遮蔽物の多い街中へ飛び込んだのだが……『甲龍』は砲身も砲弾も視認出来ない不可視の砲弾を用いて遠距離から攻撃して来ている。

 特にウィキッドの場合は着弾時の衝撃の余波で吹き飛ばされてしまう。

 

「まだ、追ってくる……‼︎」

 

 『甲龍』はゆっくりではあるが、飛行するまでもなく脚部装甲を動かし歩いて追跡して来ていた。壁や建物と言った障害物は腕部装甲で握られている偃月刀で薙ぎ払って破壊し直進している。

 歩いているとは言え5mもある巨体、歩幅も大きい上に自信が呼び寄せたエインヘリヤルが進行上に居れば構わず偃月刀や不可視の砲弾で薙ぎ潰し、或いは踏み潰している。

 

「何処かで振り切らないと……エストレヤにまで追って来られたら……‼︎」

 

——……皆、逃げ場を無くしちゃう……‼︎

 

 現在、エストレヤはエンジントラブルで航行出来ない状態。その状態で『甲龍』を迎え撃つなど無謀の極みだ。作戦地域から離脱するのは当然として、『甲龍』の追走を振り切った上で捕捉される前にエストレヤを航行可能な状態にした上で離脱せねばならない。

 

『ヴァルキリーと言った上位種のISは『無限革命』以降に増産された下位種のISと違ってハイパーセンサーと呼ばれる360°、全方位に熱源反応を探知するレーダーが搭載されているんです……‼︎ 性能も指折りで私達の使っているレーダーの何倍も高性能なんです……‼︎』

 

「想像したく無いわ、それじゃあ……ヴァルキリー以上の存在は背後から奇襲するって手が使えないって事?」

 

 ただでさえISにはシールドバリアや絶対防御があるのに、ヴァルキリーと言う上位種には不意打ちが通らず、嫌でも正面から戦わなければならない。……正直に言えばマトモにやり合えば此方の攻撃はシールドバリアで易々と受け止められた瞬間に一撃で返り討ちに遭う流れが嫌でも思い浮かぶ。

 

『そう、……ッ‼︎ 熱源反応を確認‼︎ 来ますッ‼︎』

 

 エインヘリヤルの集団を避けて細い路地裏の通路を伝い移動する。その最中でも轟音と地響きは断続的に鳴り響く。

 地面が着弾の衝撃の余波で揺れる。建物が破壊され崩落の衝撃で粉塵と共に揺れる。ビルに付けられていた窓ガラスが衝撃波で一斉に割れて地面へと降り注いでくる。

 

「此の儘じゃ、振り切れない……‼︎ ISの機動力を前にAISの足の速さじゃ逃げ切れないわ……」

 

 『即死不可避』。

 その単語が脳裏に過ぎる、埼玉コミュニティの牢獄内でコミュニティの人間達が口にしていた。一度、捕捉されたら逃げ切れない、死あるのみだと。

 

 隠れても熱源反応を探知する為、意味が無い。

 走って逃げようとしてもISは高速で移動が可能、意味が無い。

 戦って打ち倒す? シールドバリアや絶対防御に阻まれる以前に接近する前に不可視の砲弾で胴体が圧殺四散するだろう(シールドバリアを中和する機能が搭載されているとは言え、近付く事が出来なければ無意味)。意味が無い。

 

「それに……わざと外している様にも見えるわ」

 

 先程から不可視の砲弾が飛来しているのだが、ギリギリ直撃しない箇所ばかりに着弾している。横に逸れていたりするか或いは進行方向上に着弾している。外れたと考えるよりも、わざとだと考える方が自然に思えて来る。

 

『嬲るつもり……かも知れません。必死で逃げる人をゆっくり追い詰める思考回路があるとは……‼︎ あのIS、性格が悪そうですね……』

 

「……ッ‼︎ オト姉、あっちにもエインヘリヤルがいっぱい……‼︎」

 

 路地裏の出た先には多数のエインヘリヤルがごった返しているのが見えた。先回りされていた様である。

 

『……マズいですね。完全に誘導されています‼︎ 『甲龍』のハイパーセンサーの都合上、狭い路地裏に籠城しても周囲の建物ごと破壊されては下敷きに……‼︎』

 

 引き返し、路地裏から道路に出ようとする場所にも他のエインヘリヤルの一団が屯している。

 

『……ダメです。完全に包囲されてしまいました……‼︎ お二人ともの周囲にはヴァルキリーの統率下にあるエインヘリヤルが多数……。更に統率者であるヴァルキリーがお二人のいる地点に到達するまで、約4分……‼︎』

 

 スピカから絶望的な状況だと言わざるを得ない言葉が告げられる。エインヘリヤルや『甲龍』の図体の関係上、細い路地裏には入っては来られないがそんな問題、路地裏を形成する周囲の建物を破壊してしまえば関係が無い。

 

「数が多過ぎる……‼︎」

 

 残された手は正面突破しか無い。

 しかし、普段のエインヘリヤルが相手ならば襲って来る者を殴り倒しての強行突破は可能なのだが、あのエインヘリヤル達はヴァルキリーの登場により統率されている。

 その様子は遠目からでも様変わりする程に変化している。馬鹿正直に突っ込んだとしても擦り潰されてしまうだろう。

 

『到達まで、あと2分‼︎』

 

 その通信の直後、一際強い振動と轟音が響き渡る。自分達の直ぐ近くに剥がれ落ちた室外機が落下して来た。

 

「……くっ」

 

 オトゥールとしては、ウィキッドだけでも逃がしたい。唯一残った『家族』、彼女だけは喪う訳には行かない。けれど、有効な打開策は思い浮かばない。

 最初こそはモーニングスターでエインヘリヤルの群れの向こう側へ飛ばすと言う作戦を思いついたが、場所が狭く振るえないし、此処からではエインヘリヤルの奥行きが分からない。もし、エインヘリヤルの群れのど真ん中に落ちればあっという間に擦り潰されてしまう恐れもあった。

 

『残り1分‼︎ 此の儘じゃ……‼︎』

 

 もう目と鼻の先にまで迫って来ている。包囲されている以上、逃げ場は——。

 

「オト姉、すぴか。あれ、蓋?」

 

 ウィキッドは地面に地表に丸い円形の何かしら模様が入った蓋らしきモノを指示す。

 

『それは、マンホールの蓋です‼︎ その下は、下水道と呼ばれている地下通路です‼︎ 詳しい説明は時間が無いので省きますが、簡単に言えば地下には通路があります‼︎ 如何にISのハイパーセンサーと雖も地下にまでは感知出来ない筈ですッ‼︎ 既に長い年月が経過し耐用年数を超過しているので物理的な破壊が出来るかも知れませんッ‼︎』

 

「他に手は無さそうね……‼︎ スピカ、カウントをお願いッ‼︎」

 

『はいっ‼︎ 残り30……熱源反応を確認‼︎ この周辺一帯を吹き飛ばすつもりかも知れません‼︎ 』

 

「えいっ‼︎」

 

 オトゥールはモーニングスターをマンホールの蓋へと叩き付けて割る形で破壊した。

 

「割れた……‼︎ ウィキ姫ちゃん、急いで‼︎」

 

「うにっ‼︎」

 

 先にウィキッドを行かせて自分もそのマンホールの縦穴に梯子に手を掛けて降り始める(胸がつっかえそうだったが、何とか入れた)。その直後、頭上の地上で轟音と大量の粉塵、そして激しい震動が発生し、降りる最中で、粉塵が頭の降り掛かるが怯まずに降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

◯

 

 

 

 

 

 マンホールの縦穴から降り立ち、地下の通路へと降り立った。地下鉄駅での話の通り、ライフラインは止まっている為、光源は無いに等しいが先程、降りて来た縦穴から僅かに光が差している。

 

「……一時はどうなるかと思ったわ。無線は……大丈夫かしら?」

 

『あの、お二人とも……ご無事ですか?』

 

 無線の電波は届いている様だ。

 

「ええ、私もウィキ姫ちゃんも無事よ。ただ、降りて来た箇所は瓦礫で塞がれてしまったわ……」

 

 見渡す限り一面は暗闇に包まれている。流石にこの状態で突き進むのは無謀としか思えない。

 

『……やはり、あ。オーナー、え?はい、あ、オーナーに代わりますね』

 

『オトゥール嬢、ウィキ姫嬢。ヴォルヴァに続いてヴァルキリーにまで襲撃されるとは災難だったな』

 

 スピカから紫に代わった。修理の合間と言うかスピカの声が聞こえたのかも知れない。

 

「オーナー……」

 

「うにー……」

 

『要件は手短に済ませよう。余り夜間行動は推奨したくは無いがそうも言っては居られない場面が必ず来ると思ってな。即席ではあるが、一応、その黒セーラーに簡易的ではあるが懐中電灯代わりの照明器具を付けてある』

 

「初めて聞いたー」

 

『まぁ、有り合わせで作った紛い物なんだがな。使い方は襟首の裏にボタンがある。それを6秒程、押せば照らせる範囲は狭いが真っ暗よりはマシだろう』

 

 紫の指示の通りに着ている黒セーラーの襟首の裏にある小さなボタンを押し続けると袖付近から白い光が放射された。腕を動かせばその先に光が届く。

 

「ひろー……‼︎」

 

 降りた先で光を当てて周囲を照らしてみる。非常に大きな円柱形の通路である事が分かった。

 

「変な照明機能ね」

 

『無いよりはマシだろう? 兎も角、ウィキ姫嬢の反応から其処は雨水管の様だ。基本的に水が流れる通路と言う事で上から下へと流れる、下ったその先にポンプ所と呼ばれる施設がある。其処から地上へと上がれる筈だ』

 

 下り坂になっている方へと進めば外へと出られる様である。

 

『……ただ、その場所はマンホールの縦穴があるから電波が届くが、恐らく其処から移動すれば電波が届かなくなるだろう。……気を付けて進んでくれ』

 

「ええ、分かったわ……‼︎ 行きましょう、ウィキ姫ちゃん」

 

「んっ‼︎」

 

 

 

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