取り残されたS42とF15。
見た事も無い数のエインヘリヤルの群勢が眼前に現れた。IS学園時代での訓練でしかマトモに武器を扱った事が無い素人に薄毛が生えただけの小娘。
「な、何……あの化け物みたいなのは⁉︎」
「アレが周りが言っていた、エインヘリヤル……‼︎ 多い、多過ぎる……‼︎」
2人の手元にあるのは廃棄され鋼材等の有り合わせの物を無理やり繋いだり取って付けた程度の乱雑な造りのキメラの様な日本刀擬き。
所々、錆びていたり刃の部分は中程まで割れていたり、刃毀れしており、お世辞にも使い捨ての鈍器にしか使えなさそうで見るからに耐久性にも心許ない代物。
「こんなの、無理……‼︎」
「あんな数、私達だけで……敵う訳が無い……‼︎」
対するエインヘリヤルは両手両足が乱雑な機械を無理やり取って付けた構造、だが腕と言うよりも甲殻類の鋏かペンチと例えると分かりやすい構造。それをどう使うのか2人には想像が及ばない。
『ォォォ……‼︎』
集まったエインヘリヤル、その先頭の個体が腕を地に付けてゴリラの様な歩き方で駆け出し、鋏状の腕を振り被ってAISへと飛び掛かって来る。後に続く様に後続のエインヘリヤルも迫り来る。
「……む、無理ッ‼︎ に、逃げよう‼︎」
「し、死にたくない‼︎ 勝ち目無いよッ‼︎ こんなの、どうかしてる‼︎」
雲霞の如く迫り来るエインヘリヤルの群。それを見て2人のAISが選択したのは抵抗でも戦闘でも無く、逃亡を選んだ。
2人はIS学園の元生徒だった。
本当ならば学園生活を満喫し、ISの訓練を経てあわよくば夢のISの専属操縦者になるなり、IS企業に就職して順風満帆な希望に満ちた人生を歩む筈だった。
しかし、現実は残酷だった。
気が付けば荒廃した世界に流れ着いた。この世界では今迄、当たり前の様な認識で罷り通っていた女尊男卑の常識は一切通用しなかった。
この世界では女性……IS適性がある者は須く人権は無いに等しく、口を開くだけで殴られ蹴られ、終いには性処理道具として使われて、不衛生な牢屋に押し込まれ、食事も排泄も睡眠も満足に出来ない悪夢のような環境に追いやられた。
夢ならば早く覚めて欲しいと誰もが願ったがコレは紛れもない現実だった。
そして、粗雑な武器を手に戦場へと放り込まれた挙句、囮役と言う捨て駒と言う無残な終焉を迎えようとしていた。
「死にたくない、死にたくないッ‼︎」
「必死に勉強してIS学園に入学して……‼︎ なのに、如何して⁉︎」
地下鉄駅前広場から逃げる様に走り出すS42と F15。その後方には荒廃した大地を踏み鳴らしながら多数のエインヘリヤルが津波の如く追ってくる。獲物を見つけた蟻の大群の様に。
何処か遠くで建物が爆発し倒壊する様な轟音と共に地響きが劈く様に響いた。
『オォォォォォ……‼︎』
鈍い咆哮が轟く、巨大な獣の様な嘶き。地響きと共に迫り来るエインヘリヤルの群勢。
過剰、非情、ああ、無情。
如何に女尊男卑であろうと畢竟、『暴力』が伴わなければ蟷螂の斧に過ぎぬが理。いや、威勢だけが取り柄の愚者には。
「そ、そんな……‼︎」
「う、嘘でしょ……⁉︎」
S42とF15の逃走経路の先には、別働隊と思われるエインヘリヤルの群勢が犇めいていた。その数、数百はくだらない。
「これは夢……‼︎ コレは夢よ……‼︎ 夢に違いないわ……‼︎ 絶対に途中で目覚めて、起きたらIS学園の寮部屋に居るに違いない、ええ、それが当然なの‼︎ だから、早くこの悪夢から覚めてェェェェェェェ‼︎‼︎」
「あ、ま、待って⁉︎」
現実に直視出来なくなったF15は絶叫し、狂った様に粗雑な武器を手に走り出した。前後に挟まれた以上、逃げるにはエインヘリヤルの群を突破しなければならないと言うのは素人でも分かる。
しかし、コレは夢でも幻覚では無い、紛れもなく現実である。陸に戦争をした事が無い者が——。
「アァァァァァァァっッッッ‼︎‼︎」
大上段で振りかぶられた刃毀れした乱雑な造りの日本刀擬き。それを正面から迫るエインヘリヤルへと振り下ろす。
元々、壊れ掛けの武装。そのエインヘリヤルの形どられたペンチ擬きの腕部装甲に防がれると同時に、日本刀擬きは鈍い音と共に折れた。叩き付けられた際の衝撃に耐え切れず、自壊したのだ。
「あ、あぁ……‼︎」
根本から折れ、柄の部分しか残っていない日本刀擬きの成れの果てを見てF15は顔面蒼白になる。武装は壊れ眼前には女性達が好きで好きで愛して愛して堪らないISの如き装甲を纏ったエインヘリヤル。
目の前で
「あ゛っ⁉︎」
動きが止まったその刹那、ペンチ擬きの腕部装甲でF15を挟んで掴みあげる。万力の様に無慈悲な機械の圧力により左右から圧迫され鈍い音が響く。
「い゛ぃ、や゛ぁ゛あ゛あ゛ッ‼︎」
悲鳴が上がると同時に持ち上げられた腕部装甲が地面へ振り下ろされる。腕部は180度捻られ上下反転した状態、つまり……F15の頭を下に向けて、であった。
「あ゛ッ⁉︎ あがっ、あ゛ッ……⁉︎」
荒れ果てた大地。
かつて
思想を、経済を、地形を、文化を、そして人理を。
驕り昂り、食い荒らした
「いぎぃぃぃぃい……あばばばばッばら、あば、らがッ‼︎」
砂利に塗れ、割れた混凝土を舐める様に、削る様に、均すに顔面が擦らされる。その度に顔が鑢の如く削られ悲鳴をあげさせられる。
「ぃやぁ……離してッ‼︎ 離してってばァァ‼︎ 許して⁉︎ 誰か、誰か助けてってばぁぁあ……‼︎」
少し離れた場所ではS42がなけなしの抵抗を試みたがあっさりと倒されエインヘリヤルの一体に捕獲されていた。両腕を腕部装甲で掴まれその場で両腕を広げる形で吊るされ、抵抗出来ない様にされてる。情けなく助けを乞うも、助ける者は居ない。AISは兵器だ、兵器が助けを求める事など想定されていない。
「あ、………………だらば……がっ、あ゛……‼︎」
何回、地面で擦られたか分からない。地面を擦るの止めたエインヘリヤルは掴んでいるF15を持ち上げる。顔は血塗れであり鼻も頬も皮膚が削り剥がされかつて整っていた顔は見る事も憚れる。右目も傷付き、視力も失われているが……まだ、生きている。
「も゛…………やべ…………」
エインヘリヤルは人間男性の死体が使われている。命乞いの言葉など通じる筈も無く、事務的に左側の腕部装甲を動かす、蟹のハサミの様な形状でありその先端部をF15の腹へ迫る。
「ッ⁉︎ あ…………な、に……ッいぃいいいい⁉︎ あ゛ァァァァ……がっ、あッあ⁉︎」
AISスーツは防塵、防熱と耐衝撃と言った耐久性に優れている。しかし、その謳い文句とは裏腹に鋒はAISスーツを貫通して生身の肉に深々と食い込んで行く。
「や゛ぁ⁉︎ がっ、ぎぃ……いや、あッ⁉︎」
切り裂かれた箇所から血が溢れて行く。身体の中、乱雑な機械の動きとは思えない優しい動かし方で臓器を撫で回す様に掻き回され、口から涎、膣内から愛液、尻の穴から排泄物が溢れてAISスーツの股間部が濡れて行く。
「い゛ぃ゛ぃ゛ィィィィ……‼︎⁉︎ あ、゛ぁ゛ぁ、や゛ァァァァあ⁉︎⁉︎ 」
更に酷いのはS42だ。此方も同じく腹を切り裂かれ生きたまま、大腸と小腸を外へと引き摺り出されていた。その間も血が溢れ出しており、穴と言う穴からも液体が溢れている。
「あ゛ッ⁉︎ がっ、いぎぃぃぃぃいいいいいッ‼︎⁉︎」
更に足を掴まれて力任せに引っ張られ、ギチギチと言う歪な音が鳴り始める。靭帯が傷付けられて行く感触がS42を苛んでいる。
「あ゛っ、もゔッ……ご、て…………ッ‼︎⁉︎」
生きたまま身体を弄ばれる。その現実にF15は言葉にならない救済を求めた。
だが、かつては女性が強かった頃……そう願った者達を何人も玩具として扱ってきた。いざ、自分達がその目に遭うと手のひらを返して希う。何と、醜悪な光景だろう。
「…………こひ…………い゛あ゛ッ……あ゛ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ‼︎⁉︎」
更に切り口を開かれて肋骨の骨を引き摺り出そうと鈍い音が響く。麻酔も無しに身体がメチャクチャにされ激痛と共に悲鳴を上げた。まだ、心臓は動いているが風前の灯同然、最期の悲鳴となるか。
その後、悲鳴が響いた後エインヘリヤル達はこの地域から先程まで統率の取れた動きが無くなったかの如くバラバラの方向へと移動して立ち去って行った。その場所に遺されたのは無惨な亡骸となった2体のAISだけであった。