雨水管の中を移動するウィキッドとオトゥールの2人。袖口に備え付けられた紛い物の照明器具の灯りを頼りに前へと進んでいく。
暗いが故に、逸れると探すのが大変であると判断したオトゥールはウィキッドをおんぶして行動する事にした。
「……水の通る場所だから、濡れているのかと思ったけど、乾いているわね」
「うにー……」
足元は乾燥しており、水気は無い。ISとの長い間、戦闘は続いているのだがこの地下にまでは影響は及んでいないのか今の所、崩れた箇所は見当たらない。
——……光の先は真っ暗闇ね……。
雨水管は非常に長いらしく、灯りの先は真っ暗闇であり何処までも暗闇が続いている様な錯覚を覚える。既に数十分間、歩き続けている為降りて来た場所は見えず後方も真っ暗闇であった。
「オト姉、オト姉。何処まで続いているの?」
「……それは分からないわ。でも、終点はある筈よ」
後頭部からウィキッドが訊ねて来る。真っ暗闇で光を反射する白い壁ばかりが続いている。ISやエインヘリヤルに襲われない点だけは有り難いのだが、こうも同じ光景が続いていくと何となく不安感が込み上げて来る。
それはまるで暗闇が齎す原始的な恐怖。
「……こんな場所でISとかに襲われたら堪ったモノじゃ無いわね」
廃墟と化した埼玉コミュニティで蜘蛛の姿をしたISに襲われた事がある。昆虫や動物の形状へ自己進化を遂げたISも存在するのならば飛行する事を辞め、地下へ潜る事を選択したISが存在しても可笑しくはないだろう。
「んにゅ? オト姉、オト姉。何か……見えるよ?」
「光源……なのかしら?」
前方に白く光る丸い光らしき物が見える。
「「……」」
地下の雨水管の内部に人間やAISが屯しているのか? と言う疑問よりも先にISの存在を疑う。オトゥールは無言でウィキッドを降ろし、モーニングスターを展開する。
ウィキッドも袖口の照明を照らしながらノコギリを展開し、臨戦態勢を取る。基本的に、拠点であるエストレヤ以外では遭遇する者は全て敵だと考えた方が良いからだ。
雨水管は一本道、遮蔽物に身を隠したり避けて進むと言う手段は使えない。正面からぶつかるしか無い。
「こっちに来る……‼︎」
「ええ……‼︎」
自分達の進行方向と向こうの光源の進行方向。お互いに近付いて来ている……接敵するのは時間の問題だ。
「「……」」
警戒しながら歩き続ける。隠れる場所も何も無い場所、飛び掛かれる距離になればいの一番にシールドバリアを中和する一撃を叩き込む。
——もう直ぐ、見えるかしら?
白い光源も大分、近付いて来た。
そして、その姿が照明に照らされた。
「あれ? こんな所で人間に遭遇するたぁ、思わへんかったなぁ?」
「え……? 人間……?」
「うにゅ⁉︎」
光源の正体はカンテラと呼ばれる携帯用のランプだった。
そのカンテラを腰から吊り下げていたのは金色の髪をツインテールに纏めた少女であった。白いシャツに黒ズボンと言うラフなスタイルで、大きなリュックを背負っておりリュックのポケットから色々なモノがはみ出している。
「……え、えーと?」
オトゥールとしては此処で人間に遭遇するとは思ってもみなかった為、困惑した。ウィキッドも疑問符を浮かべてオトゥールに指示を窺うのか上目で見上げている。
「取り敢えず初めましてやな〜。ウチはアルギエバ‼︎ 各地を転々としてる流離の放浪商人って奴やで‼︎」
「ほーろーしょーにん……?」
「そっちのちびっ子は……ミラを思い出すなぁ。じゃなくて、放浪商人ってのは旅をしながら商売する人の事なんや。何処でも取引出来るんがウリなんや‼︎」
アルギエバと名乗った少女は放浪する商人であると名乗った。商売と言えばお金で物資をやり取りする人間……とメサルティムの一般教養として教えて貰っている。
「今、地上はIS……つーか、甲龍が暴れとるからなぁ。避難がてら雨水管で移動中やったんや。あんさんらも同じ口かいな?」
「え、ええ……。そんな所、かしらね」
——今の時代……女性の立場は地の底に落ちている……。まぁ、彼女が何者かはこの際、如何でも良いわね。
「とまぁ、折角やし何か買ってってくれへんか? 色々、あんで?」
「ごめんなさい。私達、AISだから……お金とか持っていないの」
AISは支給されたモノしか手に出来ない。人間達が使うとされるお金なんてモノは縁が無い。
「この時代で女やったらAISかリムドロップの何方かしかおらんわ……。ウチも女やしコミュニティとかは入られへん。入ったら直ぐに御陀仏やしな。せやから物々交換でかまへん、かまへん」
アルギエバは物々交換の取引を持ち掛けて来た。幸い、先のホームセンターで金属製品やら色々なモノを回収出来るだけして来た。それを使えば……取引出来るかも知れない。
——……もしかしたら、オーナーが求めているモノを持っているのかも知れないわね。
オトゥールは少し怪しいがアルギエバの取引に応じる事にした。