アルギエバと名乗った各地を放浪する商人。
雨水管の中でランタンや袖の照明器具によって照らされる中、オトゥールは先のホームセンターで集めれるだけ集めた金属製の物品を見せる。
こんな時代でもコミュニティ内やコミュニティ同士では金銭で取引するのだが、AISには人権もクソも無く金銭の所持は認められていない。
故にお金が無いのだが、アルギエバは物々交換でも構わないとの事。
「ほー、調理用具とかなら使えるやもせえへんな。然も殆ど損傷してへんと来た。いやぁ、ええもん持っとんな〜」
正直な所、オトゥールやウィキッドから見てホームセンターで集めたモノの大半は如何使うのかさっぱり分からないものが多い。
例えば、大きな円形に持ち手が付いているモノは最初、見た時は鈍器の一種かと考えた程だ(アルギエバが言うにはフライパンと呼ばれるモノで調理用具と言う分類の道具との事)。
オトゥール達が集めたモノを物色するアルギエバは、状態が良く使えると判断したモノを引き取ると申し出た。
「いやー、ほんまアンタらええもん持っていたやん」
「私達から見れば何に使うのかさっぱりだわ……」
アルギエバが引き取ったモノを見てオトゥールは素直にそう溢す。本当に何をどう使うのか想像出来ないのだ。
「それ、どーするの?」
「ん? ああ、商売やからな〜。コレらはまた別の人の欲しがる人に売るねん。そして、また別のモンを買うって訳や。需要と供給って言ってな〜」
「じゅよう?きょうきゅう?」
ウィキッドにとっては難しい話らしく首を傾げて疑問符を浮かべている。その仕草にアルギエバは思わず目を輝かせた。
「小首傾げてめっちゃ可愛ええやん‼︎ 小っこうて、愛くるしくてギュッて抱きしめたいわ‼︎ いや、するッ‼︎」
「うにーっ⁉︎」
すかさずアルギエバはウィキッドを持ち上げて頬擦りし始めた。突然の行動に反応出来ずウィキッドはされるがままであった。
「めっちゃ軽いし頬っぺた柔らかいわ〜‼︎」
小動物を見る目でアルギエバは破顔した。……対するウィキッドはジト目で彼女を見ていた。如何にもこの様なタイプに遭遇したのは初めてな為かドン引きしている様にも見える(オトゥール視点)。
ひとしきり楽しんだ後、ウィキッドを降ろした。降ろすや否や、ウィキッドはオトゥールの後ろに隠れて少しだけ顔を覗かせた。彼女に遊ばれた為かウィキッドは頬を膨らませて剥れている。
「わー、ちょっと不機嫌な顔も可愛ええなぁ〜……」
アルギエバの表情はもはや、ロリコンのソレにしか見えない。最も、オトゥールとウィキッドはロリコンの言葉すら知らないのだが。
「うう〜……‼︎」
「単純に警戒されているだけだと思うわ……」
オトゥールの後ろに隠れて唸って威嚇している。ノコギリを出さないだけマシかも知れない。
「久々に可愛いモンをギュッて出来たわ〜。おっとと、脱線してまう所やったわ。ほな、次はウチの番やな。好きなん見てってな〜」
アルギエバは話題の軌道修正し、オトゥール達から引き取ったブツを量子変換で拡張領域内に格納し、代わる形で量子変換で自分が持っていたブツを展開して2人の前に並べた。
「おチビちゃんにはコレをあげるで‼︎ 抱っこさせてくれたお礼って事で」
「うに? 何コレ?」
広げたブツ、その内の1つをウィキッドに見せた。それは小さな籠に赤い色で円錐形っぽい物体が複数入っている。表面にはブツブツがついており底には緑色の葉っぱみたいなモノが付いている。
「……それは、何かしら?」
オトゥールもその物体を見た事が無い。見た限り、植物みたいなモノだと思われる。
「アンタらはAISやから、コレは見た事無いんちゃう? コレは苺と言ってな。
その昔、女尊男卑が世界に広まる以前の時代……子供から大人まで人気やったって言う甘い果物なんや。
でも、今のこの時代となっちゃ、栽培出来る所はかぎられてもうてな……。まー、そんな難しい話は終いにして、いっぺん食べてみ?」
アルギエバは苺の蔕を取り、其々、ウィキッドとオトゥールに渡した。ウィキッドはその苺を口に運ぶ。
「!」
その刹那、口の中で爆裂が発したかの様に頬に手を当て、瞳を丸くした。感じた事の無い味覚……今まで口にして来た、腐かけた人肉や虫の足やら頭の苦く不味い味、更には蜚蠊の味とは雲泥とも呼べる味覚の差があった。
「……何、この味……⁉︎」
飲み込んだウィキッドはそう綻びながら呟いた。まるで、感情が溢れ出しており嬉しいと言う感情が顔に出ていた。
「信じられない……。こんな、こんな美味しい食べ物が存在していたなんて……‼︎」
オトゥールも苺の味を知って思わずそんな言葉が溢れた。今まで、口にした事の無い味だったからだ。
「あはは、初体験って言うとそうなるもんやでな〜。その味は『甘い』って言うんやで。覚えておいて損は無いで〜。今のご時世、滅多に口に出来へん代物やしな」
苺は残り18個程。
アルギエバが言うには今の時代、苺と言った果物と呼ばれる種類の植物は育てるのが難しくなっており、数が少ない……希少品だと言う。
大半のコミュニティは女に対して差別的で酷い扱いである事が常識的なのだが凡そ1割にも満たない極々一部のコミュニティでは女に対する扱いはまだまともらしく、其処で仕入れたと言う(その1割にエストレヤ・コミュニティも含まれていると言える)
普通ならばかなり高額で取引されるが今回、ウィキッドで愛でさせて貰ったお礼と言う事でこの苺は無償で譲るとの事。
「さぁさぁ、他にも色々あるから見てってな‼︎ ウチもええもんを結構、貰ったから奮発すんで〜?」
そう言いながらオトゥールやウィキッドが気になったモノを説明するアルギエバ(しかしウィキッドは半分以上、理解出来なかった)。
「ふんふん、メインエンジンの修理で鋼材関連が欲しいって訳やな。それなら、こっちとかどうや?」
オトゥールは自分達が如何言う経緯での作戦行動中か説明するとアルギエバはその要望に答えて拡張領域からまた別のブツを量子変換で展開して取り出した。
「合金の塊って奴やな〜。確か、工具鋼って奴やったかな。コイツを売ろうにも買い手が付かなくて困ったったんやわ。どや?」
日夜、エインヘリヤルと戦争するしか無いコミュニティ相手ならば買い手が付くかも知れないがアルギエバは女。殆どの場合、向かえばAISとして拿捕されるのが関の山だ。
そんな訳でアルギエバが売り付ける相手に合金を加工出来る者はほぼ居ない。『金属の塊を買ってどうしろと?』と言う返答が返ってくるだけだ。
「……使って大丈夫なの?」
「其処はウチにも分からへんわ。けど、アンタらの所有者は分かるんちゃう?」
判断は紫に委ねるのが1番だろう。
あくまで自分達は使えそうなモノを片っ端から回収しろと言う命令を受けただけだ。モノの良し悪しなど分かる筈も無ければ期待もされていない。
「分かったわ、貰えるだけ全部、頂戴」
「商談、成立や‼︎ ほな、全部あげちゃうで‼︎」
取引が成立してオトゥール達は工具鋼と呼ばれる合金を入手した。
「……ええ商談やったで。そろそろウチも移動せえへんとな。流石に地上におる甲龍もどっか行ったろ」
「ええ、そうだと良いけれど……」
「そない考え過ぎたらあかんて‼︎ ほな、また何処かで商売させて貰うやさかい。2人とも、死んだらあかんで‼︎」
広げたモノ、購入したモノを拡張領域に納めた後、アルギエバはそう言い残してオトゥール達が歩いて来た方向へと歩き出して行った。
「今の時代、あんな人も居るのね」
「うに……‼︎」
エストレヤの紫やメサルティムを始め、自分達AISを兵器や奴隷として見ない者達も少ないが存在している。大局的に見れば少数派で、大半の人間はAISは兵器や使い捨ての道具程度の存在なのだろう。それでも、ちゃんと見てくれる者達が居るのならば希望は持てるかも知れない。
「さぁ、立ち止まっては居られないわ。早く、エストレヤへ戻りましょう」
「ん」
ウィキッドをおんぶしてオトゥールは雨水管の先へと再び歩き始める。暫く進めば菅の先が行き止まりになりハシゴらしきモノが見えて来た……。