「うにゅ? 此処は……?」
長いハシゴを登った先には少し開けた空間が広がっていた。照明を当ててみるが見た事も無いような物が多数、見える。
「此処がポンプ所って呼ばれる場所なのかしら……?」
『……オトゥール様、ウィキ姫様‼︎』
「あ、すぴか」
その時、無線の電波が繋がったのかエストレヤから通信が入って来た。その声はスピカのモノである。
『……お二人共、ご無事ですか?』
「ええ。オーナーの言うポンプ所に到達したわ……。中は暗いから灯りが無ければ何も見えないわね」
『良かった……。繋がらない間、雨水管の中でISに襲撃されてしまったのかとヒヤヒヤしていました……』
「幸い、遭遇はしなかったわ……。それよりも先に外に出るのが先決ね。……それで、ISやエインヘリヤルとかはどうなったの?」
『ヴァルキリー種はこの周辺地域から離脱しました。同時に統率下にあったエインヘリヤルの大群も四散して行きました。エストレヤ周辺にもエインヘリヤル及びISの反応はありません』
「……そう。本当に情けないわ……ヴァルキリーが現れただけでエインヘリヤル相手に逃げるしか手が無いなんて……」
『気に病まないで下さい。あの数が相手では多勢に無勢。一息に飲み込まれて終わりです。……勿論、そうは言っていられない時も来るかも知れません』
「……必ず来る」
スピカの言葉にウィキッドはそう断言する。ISはそんな甘い思考回路をしていないと。
「ええ……。それまでに私達も強くならなきゃ行けないわ」
『…………そう、ですね。一先ず、今作戦の目標は概ね達成出来ています。ですので寄り道せずに帰投して下さい』
「分かったわ……」
ポンプ所の中を移動して扉を見つけたら鍵なんてモノは探しても見つからないので、物理的に破壊して突破して外へと出た。
ポンプ所は河原近くに建てられているようで、長年放置され川付近は雑草が生い茂っているのが見える。
『お二人の位置情報を更新しました。其の儘、南……ええ、はい。其方の方面へ向かって進んで下さい。そうすればエストレヤが見えて来る筈ですので』
無事に五体満足でエストレヤに帰投出来たウィキッドとオトゥールはその足でエストレヤのメインエンジンで修理を進めている紫の下へと向かい作戦報告と共に確保した物資を提出した。
「ふむ。……適当な金属製品が見つかると思っていたが……よもや合金を見つけて来るとはな。何処で見つけたんだ?」
オトゥールは雨水管で各地を流浪する放浪商人アルギエバと出会い、自分達がホームセンターで見つけた金属製品と彼女の持つ商品との物々交換による取引をして手に入れたと紫に説明した。
「……何でも、こうぐこうって言ってた」
「ふむ、本人はそう見たのかも知れんが……コレは合金工具鋼じゃないな」
アルギエバは工具鋼と称したが、紫はこの鋼材は工具鋼では無いと判別した。
「違うの……?」
「ああ、これは機械構造用合金鋼と呼ばれる種類の鋼材だよ」
「何故、一目見て分かったの?」
「合金鋼には用途別や合金元素の容量及び種類に合わせて区分する為に材料記号が定められている。コレは刻印されているタイプだった。その記号を見て分かった。
で、肝心のコイツは合金加工されて実際に用途別加工される以前の状態だ。この状態から各種、用途に合わせて加工して行くんだ」
「うににに?」
紫の説明はウィキッドには理解出来ず小首を傾げて疑問符を浮かべている。かく言うオトゥールも同じく分からない単語が多くて話が分からない。
「…………簡単に言えばコイツを使えばエンジンの修理は可能だと断言出来るって事だ」
更に踏み込んで言ってしまえば、紫にとって今1番に欲しかった鋼材とも言える。
ホームセンターで見つかる金属製品を掻き集めて修理してもメインエンジンが航行に耐え得るか不安要素が多かった。
「うにーっ‼︎」
「……しかし、アルギエバ、か。コイツは何処ぞの加工場廃墟とかで見つけたのだろうな。……一先ずその名前、覚えておこう」
こんなISやエインヘリヤルが跋扈する世界を1人で渡り歩く商人……。一部のコミュニティと取引をして、リムドロップやコミュニティ外の自治集落とも取引して生計を立てている……。
しかし、本人の目利きの能力は兎も角、取引相手としては価値はあると判断出来た。
「他にもイチゴと言うモノも貰えたわ。栽培?出来る所は少ないらしいけど……」
「美味しい……」
そう言いウィキッドは苺を拡張領域から1つ取り出して口に含んだ。
「苺、か。そりゃ珍しいモンも取引しているんだな。栽培に関しては確かに難しいだろうな……この時代ならば尚更だ。放っておいてもそこら辺に生えて来る雑草とかとは訳が違う」
「違うの?」
「うむ。俺達が今居る此処らの大地は多雨湿潤気候と呼ばれる気候地域でな。苺を栽培するのには余り向いているとは言えないがビニールハウスを用いる事で栽培が出来る体制がかつては整えられていた。が……今の状況じゃあ苺を栽培出来る余裕がある場所は非常に限られているだろうな」
「うー……」
「……うーん、良く分からないけれど、そんなに手に入らないって事かしら?」
「そう考えてくれ。兎も角、その苺は君達で食べると良い。今回の任務の成果としてそれ位の報酬はあって良いだろう……。さて、報告はこの程度で充分だ。俺は速やかにエンジンの修理に取り掛かりたいからな」
2人の報告は充分だと切り上げて、紫はエストレヤのメインエンジンの修理に取り掛かる旨を告げる。
「分かったわ。修理にはどれくらい掛かるのかしら?」
「そうだな……。君達が出撃中にエンジンのイカれた所をざっと見たから……。後は回収した合金の加工やら、取り付け、交換を諸々込みで考えて……凡そ4、5日くらいは掛かりそうだな」
紫は修理には4、5日は掛かると答えた。
「その間は出撃に関しては緊急事態を除いて無しだ。で、その間にメサルの授業で色々、学習しておいてくれ」
「うにー」
修理中の間、ウィキッドとオトゥールは勉強するようにと命令された。2人ともまだまだ読み書きが覚束ない状態だ。最低でもひらがな位は読み書き出来るようになってもらいたい。流石に識字出来ないのは不憫だから。
「と言う訳でメサル‼︎」
「お呼びで御座いましょうか、ご主人様」
紫がメサルティムの名を呼ぶともはや当然の如く、彼の背後からメサルティムが姿を現した。
「俺がメインエンジンの修理期間中は勉学を見てやってくれ。4、5日は掛かるから、纏まった時間は取れるだろうからな」
「畏まりました。他には?」
「特に無いな。勉学の進め方は任せる」
「はい、畏まりました。では、お二方、参りましょう」
メサルティムはオトゥールとウィキッドを連れてエンジンルームを後にした。
「さぁてと、何はともあれ欲しかった合金が手に入ったんだ。オーバーホールと行こうか……‼︎」
紫は鋼材が手に入ったので本格的にエンジンの修理に取り掛かる事にした。