※この作品はR-18です。

ジェノサイド・ストラトス   作:夢現図書館

55 / 97
嚥呑篇
一難去って


 

 

 

 

 翌日。ウィキッドとオトゥールに宛てがわれた部屋にてメサルティム主導による勉強会が行われていた。

 

「ね、わ、む……?」

 

 机の上に広げられているのは紙。

 其処にウィキッドはペンを握って拙い動かし方で文字を書く練習をしていた。……しかしながら、モノの見事にとても読めそうには見えない落書き同然の文字(紫が様子を見に来た時、その文字を見て『まるで阿比留草文字みたいだな』と)になっており、読める字を書くにはまだまだ時間が掛かりそうだ。

 

「……あ」

 

「本日、25本目ですね。オトゥール様」

 

「ご、ごめんなさい……。力加減が難しくて……」

 

 オトゥールもオトゥールで指の力でペンを圧し折ってしまうなど苦戦していた。

 モーニングスターと言う重量級の武器を振り回している上に環境柄、体力を使う状況しか無い為に膂力が強い。

 その為、オトゥールはペンや鉛筆と言った小さく耐久性に乏しいモノは簡単に粉砕してしまい、先ずは指の力を加減する練習からになってしまっている。その為、事実上書けない状態だ。

 

「お二方、少し休憩致しましょう。煮詰めても良いとは限りませんので」

 

「うにゅ〜……」

 

 メサルティムは1時間経つごとに休憩を挟む事にしていた。詰め込み教育と言うのは余り良い効果には繋がらない事を本人は知っているからだ。

 メサルティムは部屋を退室した後に、飲料水を入れたボトルとコップを持って戻ってきて、コップに水を注いで2人に渡した。

 

「焦る事はありません。ゆっくりと理解して行きましょう」

 

「うにー……」

 

「ええ、ありがとう……」

 

 コレでもコップを持つのも苦労した方であり、今でも油断すれば握り潰して砕いてしまう。

 

「……して、オトゥール様。お一つお聞かせ願えないでしょうか?」

 

「……? 何かしら?」

 

 水を口に含んだ後、メサルティムはオトゥールにある質問を投げ掛けた。常々、気になっていた事でもある。

 

「……オトゥール様は何故、ウィキッド様を『姫』とお呼びになるのでしょうか? ご主人様もその件に関しては個人の都合だとして深くは追求しない事にしていましたが、僭越ながら気になりまして」

 

 紫もスピカもその件には口には出さなかったがメサルティムは敢えて訊ねた。何故、オトゥールはウィキッドを『ウィキ姫』と呼んでいるのか。深くは聞かず自分達もそう呼んでいたが、やはり気になってしまった。

 

「……私も何故、そう呼んでいるのか余り覚えていないの。気が付けばそう呼んでいた……だからその理由に関しては、答えられないわ」

 

 オトゥールもオトゥールで何故、姫と呼んでいるのか良く分かっていないと答えた。

 

「うに〜……?」

 

 オトゥールの膝の上に座っているウィキッドは疑問符を浮かべながら彼女の顔を見上げていた。

 

「成程……。答えてくれてありがとう御座います。オトゥール様」

 

「私からも質問。何故、それを聞いたの?」

 

「はい。コレから東京コミュニティに向かうのですが……場合によっては貴方方もご同行せざるを得ない状況が発生するやも知れません」

 

「「……」」

 

 無論、2人はAISとして手枷や足枷と言った拘束具で全身を拘束された状態で衆目に晒される事になる。

 

「東京コミュニティは大規模なコミュニティ。その為、貴方方が遭遇した人間達とはまた違う思想を持つ者達も跋扈している事でしょう。そんな環境、人前で『姫』と言う単語は余り使わない方が良いでしょう」

 

「……刺激してしまうの?」

 

「何とご説明しましょうか……。『姫』と言う単語は遥か昔、王族と呼ばれた特権階級の女性への敬称とされていました。

 今となっては王国も王族も存在しませんが……コミュニティの一部の人間達にとっては目障りや敵意を招くやも知れません。『姫』と言う単語は女性への敬称故に女尊男卑の思想を強く連想させます」

 

 前半は良く理解出来なかったが、後半は理解出来た。つまり、他の人間達から見て敵意を見せていると思われかねないと言う事だった。

 埼玉コミュニティでも自分達に対する仕打ちの酷さはそれに起因していたのだろうか?

 だとすれば知らずの内に、苦痛を強いてしまっていたのかも知れない。

 

「……ウィキ、ちゃん……‼︎」

 

「うに〜?」

 

 オトゥールは複雑な気持ちでウィキッドを見下ろす。しかし、本人は何時もと変わらない表情を見せて後頭部を自身の胸へと押し付けている。

 

「……メサルティム、さん。無知……と言うのは本当に恐ろしいのね……。私、知らずにそう呼んで……ウィキちゃんを傷付けていた」

 

「……過ぎた事を嘆いても仕方ありません。人は間違いを認めて、初めて前へ進めるのです」

 

 後悔するオトゥールに対してメサルティムはそう慰める。過去は過去、今は今である。自分達はもう埼玉コミュニティでは無くエストレヤ・コミュニティの所有物である。

 

「さて、気が滅入るお話は終わりに致しましょう。さて、休憩もこの位にして……再開しましょう。ウィキッド様、オトゥール様」

 

「うにー」

 

「ええ……。過ぎた事を嘆いても、何も始まらないわ」

 

『あの、メサルに御二方。少し宜しいでしょうか?』

 

 休憩に区切りを付けて再開しようとしたそのタイミングでスピカから無線通信が飛んで来た。

 

「……お姉様、どうなされました?」

 

「何かあったの?」

 

『……実はこのエストレヤに複数の人間が接近して来ているのを艦橋から目視で確認されました』

 

「……人間が? オーナーが言っていたリムドロップ、なのかしら?」

 

「あるぎえばみたいな人かも……」

 

 スピカはオペレーター故に普段は艦橋に滞在している。それ故に艦橋から外部が見えた時、複数人の人間が此方へ向けて接近中だと言う。

 

「お姉様、リムドロップであれば自らコミュニティ関連の施設に近付くとは思えません。始末されるか、AISとして捕獲されるかの何方かですので」

 

 或いは何も理解出来ず、もしくは何も知らない者達、か。

 

『えーと、それが確認出来た全員が似た様なデザインの白い制服みたいな服装をしています。風雨に晒されたのか汚れている様にも見えますね……。ほぼ全員が年齢は10代半ば、と思われます』

 

「……白い服、しかも同じデザインで同じ年齢層の集団、ですか。お姉様、その光景を映像として此方に中継出来ませんか?」

 

『少し待って下さいね。今、出しますので』

 

 暫く待つと部屋の中に空間投影されたウィンドウが表示された。

 

「わー……何か見える……?」

 

『ふふん、お二人に渡してある無線機のカメラ機能もこの様に映るのですよ』

 

 空間投影ウィンドウに見えた数人程度の集団を見てオトゥールは気付いた。白い服装……これは、確か……。

 

「この服装、見覚えがあるわ」

 

「あー、あの時に見た」

 

「お二方、ご存知あるのですか?」

 

 間違いない。あの騒がしい人間達が最初、身に纏っていた服装である。

 

「ええ、確か『IS学園の生徒』だと名乗っていたわ」

 

「過去とか未来とか言ってた……。そして、今を否定してばかりだった」

 

「……IS学園、の生徒達……ですか。過去からこの世界にタイムスリップして来たと言う……」

 

 埼玉コミュニティ所有のAISを一時、収容していた事があった。そのAISは過去の世界からこの世界に迷い込んで来たと主張していた。

 俄かに信じ難い話ではあったのだが、AISにしては識字率も高く、言葉が理解出来る。

 だが、この今の世界を創り上げた根源的な元凶とされる女尊男卑でもあった。

 彼女達の女尊男卑思想は正直な所、メサルティムにとっても目に余ると言わざるを得ない。

 

「この件に関しては私達だけで判断は出来ません。速やかにご主人様のご判断を仰ぎます。お姉様はかの集団の動きに注意してください。オトゥール様、ウィキッド様。勉学は一時中断とさせて頂きます」

 

「ええ、緊急事態と言えるかは微妙だけど理解したわ」

 

「おーなーの所に行く。武器、造るって言っていたから」

 

 結果、メサルティムはオトゥールとウィキッドを連れて紫が現在、居るであろう艦内の製造場へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。