製造場へと足を踏み入れると、甲高い高音が鳴り響いているのが耳に入り込んで来た。如何にも、今加工中だと言わんばかりの作業音だ。
音のする方向へ向かって見ればすぐに紫の姿が見えた。
「ん? メサルにオトゥール嬢達じゃないか、どうした?」
紫はメサル達の姿を認めると作業の手を止めて此方へ振り向いた。腰のベルトには多数の工具類が吊され羽織っている上着にも様々な工具が頭を覗かせていた。
「と言う前に、丁度良かった。オトゥール嬢、ウィキッド嬢。ちょっとこっち来な」
「……何かしら?」
「うにー?」
紫は丁度良いと言い、オトゥールとウィキッドを呼んで近くに来させた。作業台の上には自分達が普段から使っているモーニングスターとノコギリと言った武装が置かれていた。
「今回は合金が手に入ったからな……。メインエンジンのパーツを造る傍らで余った奴や他の金属を使って君達が使う武装を改めて造り直した。今の時代は資源不足だからな、余す事なく使わなければな……。兎も角、持ってみろ」
前回はなけなしの材料で造った急造品だったが、今回は材料を確保した為にちゃんとした武装として造ったモノである。以後、この武装を基盤にして改良や改造を加えて行くつもりであるとも説明した。
「おお〜……‼︎」
「……持ち手の掴み易さは変わらないわね。……所で、此処の窪みみたいなモノは何かしら?」
オトゥールは持ち手にあるトリガー部分の近くに窪みの様なモノが追加されていた。ウィキッドの持つノコギリにも同様の構造が追加されているのが見えた。
「ああ、それか。君達の武装にはISのシールドバリアを中和させる機能を搭載していると以前に説明したな?」
「ええ……」
絶対防御やシールドバリアがあるが故にISは凄まじく理不尽な存在。しかし、発見した技術によりISのシールドバリアを打ち破る術が確立され、実証された。しかし、3秒しか継続出来ず尚且つ、1発限りしか使えないと言う大きな制約を抱えていた。
「3秒かつ1回しか使えないんじゃ話にならん。ISが複数体同時に攻められちゃ勝ち目が無いからな」
「ええ……その通りだわ。それにヴォルヴァやヴァルキリーも控えているのだもの」
「……立て続けに来られたら無理〜」
ISを一機倒して終わりでは無い。既に何百、何千ものISが増殖している現状でそんな状態では勝ち目なんてモノは無い。
「そのシールドバリアを中和させるエネルギーなんだがまだまだ改良とかが必要でな。そのエネルギーを外部かつその場で供給出来る様にしようと思案中だ。まぁ、まだ未完成なんだがな」
「……説明されても私達じゃ理解は難しいから、完成したら分かりやすく教えて頂戴」
「うむ。そうしよう、現段階では机上の空論でしか無い」
そう告げ話を切り上げる。ウィキッドとオトゥールは其々の武装を量子変換させ、ネックレス状の携帯へと変換させ首に掛けた。
「…………話の腰を折ってしまったな、メサル。何かあったのか?」
「いえ、全てはご主人様の御心のまま。ご心配なく」
其処で蚊帳の外であったメサルティムに話を振る。メサルティムも気にせず話を繋げた。
「スピカより、当エストレヤに向けてIS学園生徒と自称する者達が接近していると報告が来ました。内容が内容ですので、口頭での報告です」
メサルティムはこの案件は自分達で判断するのは難しいとして紫の判断を仰ぐ事にした。
「ふむ……。以前の連中と同類、か」
凰達は埼玉コミュニティ所有のAISだった。その時は返還要請が正式に来た為に返還した。
「また何処かのコミュニティが壊滅でもしたか?」
埼玉コミュニティが全部有しているとは限らない。コミュニティ間でAISの売買も行われている。そのコミュニティが壊滅して野放しになったのか……。
「いえ……。状況証拠的に如何にもコミュニティに拿捕される前の状態の様です。オトゥール様とウィキッド様が言うには全員が白い制服を纏っていた、と」
AISならばほぼ確実にAISスーツを身に纏っている。それ以外ならば別の用途か、或いはリムドロップの可能性がある。
「ふむ……。タイムスリップ云々は眉唾物っちゃそうだが……全員同じ箇所に飛んだと言う保証は無い、か」
如何言う経緯でそうなったかは考察してもキリが無い。その辺は考慮する必要は低い。
「如何致しましょう?」
「俺が欲しいのは
最低でもISに勝てるAISでなければ保有する気になれない。それにIS学園の生徒だと言う者達の態度は既に知れている。タダ飯喰らいは必要ない。
「……うにうに」
「ん?ウィキッド嬢、どした?」
その時、ウィキッドは紫の上着の裾をくいくいと引っ張って主張していた。
「……売ったら? AISってお金で売ったり買ったり、できるから」
ウィキッドはその者達を売り捌けば良いと主張した。確かにエストレヤは現在、金欠状態であり態勢を整えるにもまずは資金が必要不可欠だ。その中で1番手っ取り早いとされえいるのが捕獲したAISを売却する事だ。
「……置いておいても役に立たないのならそれが良いんじゃない? 今、お金が無いんでしょう?」
ウィキッドの主張にオトゥールも同意する。場合によってはエストレヤも他コミュニティからオトゥール達の『家族』を買う事になるやも知れない。それに、既に地獄へ引き摺り落としてもいる、躊躇う必要は何処にも無いのだ。
「ふむ。どの道、東京コミュニティに行くからな。其処で捌いて今後の予算に充てるとしよう」
2人の主張に紫は納得した。今更、自分が善人だと思っては居ない。他のコミュニティよりは多少マシ程度の存在でしかなく、必要とあれば下衆な真似も辞さない。それに此処で見捨てて野垂れ死ぬよりも自分達の糧にした方が何倍も有益だ。
「東京コミュニティは大規模なコミュニティです。戦力にならずとも、愛玩動物や性奴隷としての需要はある事でしょう」
メサルティムもその方針で進める旨の発言をする。紫が最善と判断した内容に否定はしない。
「良し、メサルティム。少し、苦労を掛けてしまうな……。売却の契約締結が完了するまで頼んで良いか?」
「ご安心を、万事このメサルティムにお任せください」
IS学園生徒達は女尊男卑全盛期の連中だ。どんな言動が飛び出すか分からない。AIS達もそうだが、メサルティムもスピカも全ての元凶である女尊男卑を快く思っていない。
「オトゥール嬢とウィキッド嬢も、少し辛抱してくれないか? 此方も極力、エンジンの修理を終わらせる様にする」
主に食事の事に関してである。人数が増えればそれだけ、1人当たりの量を削らざるを得なくなる。其方の意味でもカツカツなのだ。
「気にしなくて良いわ。牢獄や拷問される事に比べたら、些細な事だから」
「ん。大丈夫……‼︎」
その後、IS学園の制服を纏った少女達、8人程がエストレヤに接触した。『見ず知らずの場所に来てしまって助けて欲しい』と言う事。
エストレヤの方針としては彼女達を東京コミュニティにて売却する方針を固めた為、一先ずは保護する形を取り、エストレヤへと迎え入れるのだった。