エストレヤ・コミュニティは無事に管制塔から指示された位置に停車した。
『此方、管制塔。貴コミュニティの指定位置への停車を確認した。以後、発進手続が完了するまでその位置は貴コミュニティの領域と見做し、オーナー紫の許可無く立入禁止となる』
「感謝する。今から売却予定のリムドロップ……いや、自称IS学園の生徒達を自発的に降りる様に促す」
『此方、管制塔。了解した。直ちに捕獲部隊の出動させる。捕獲態勢が整うまで待って頂きたい』
「了解した。其方の指示に従おう」
『感謝する。極力、速やかに完了させる様に努める』
管制塔からの通信は一時、途絶えた。
「さてと、彼方さんの準備が整うまで此方の方針を固めるか。時間は有限だからな」
事前に通達していたとは言え、東京コミュニティの捕獲部隊も直ぐには配置完了はしないだろう。その間に行動方針を纏める事にした。
「メサル」
「はい。件の自称IS学園の生徒達の売却手続の為に艦外へ誘導します」
話は聞いていた為にメサルティムは簡潔に紫が言いたい事を理解していた。既に東京コミュニティの発着場に入っている。先に出してしまっても問題無いだろう。
「済まないな、嫌な役を押し付けてしまって」
「滅相もありません。ご主人様の御心のままに」
メサルティムは頭を下げた後、艦橋を後にして件の者達が待機している場所に向かって行った。恐らく数分も持たない内に悲鳴が轟く事だろう。
「彼女達、自分達がして来た事に対して報いを受ける時、ね」
「むに〜」
オペレーター席に座るオトゥールは自称IS学園の生徒達が本当の意味での現実を目の当たりにする光景を妄想しつつそう呟いた。
女尊男卑を肯定して今の世界を創り上げる事となった元凶……どんな声をあげようとも誰も擁護はしないと言う事。
「俺達が割を食っているんだ。連中の進退など知った事じゃねぇ……さて、前にも言ったかも知れんが基本的に俺が1人で東京コミュニティ内へ向かう」
ウィキッドとオトゥールはAISだ。
その事実に変わりは無く、連れ歩いたとしても彼女達は常に苦痛と屈辱に苛まれる事となる。観光など出来やしないし、AISには観光する権利は無いのだ。
「東京コミュニティ内にツテがあってな。ソイツを訊ねるつもりだ」
「……其処の点は私達は何も分からないから、何も言えないわ」
「ああ、その間は艦内を自由にしていてくれ。ただ……外には出るなよ」
「言われなくても分かっているわ。拘束されていないAISを見られたら、何されるか分かったモノじゃないから」
「分かってくれていて、何よりだ。……さて、売却手続が済んで受け取る物を受け取ってから行動を始めようかね」
今頃、自称IS学園の生徒達は期待に胸を膨らませている頃合だろうが……実際の現実は残酷だと言う事を直面した時、どんな顔を浮かべるのだろうか?
「皆様、無事に当コミュニティは東京コミュニティへと到着致しました」
エストレヤ・コミュニティは航行時にエインヘリヤルやIS、ヴォルヴァ種に遭遇する事なく無事に東京コミュニティの発着場へと到達した。
「遂に、到着したのね‼︎」
「織斑君達は何処に居るんだろう……?」
「制服姿なら直ぐに見つかると思うけれど……」
ざわざわと騒ぐ自称IS学園の生徒達。そんな中、彼女達の中で中心人物であった相川 清香が口を開いた。
「此処まで送ってくれてありがとうございます。その……」
「礼には及びません。また、オーナーが話を通してくれました。当艦の乗降ゲートを通過して係員が案内してくれる事でしょう」
更には話を通してくれており、道案内の為の人員を手配してくれたと言う。最初は自分達で歩いて探さなければならないのかと考えていたのだが、如何やら杞憂に終わりそうだった。
「と言う事は、誰かが東京コミュニティって所に滞在しているんですね……‼︎」
「其処までの詳細は私には分かりません。何分、情報公開の権限がありませんので」
誰が居るのかまでは分からないとの事。だが少なくとも誰かは居ると言う事は判明した事は大きな前進と言える。専用機持ちか或いは織斑 千冬や山田 真耶と言った教員ならばこれ程、心強い事は無い。
だが、自分達と同じ一般生徒達だけとなると、状況は好転しない事だろう心配はある。
「そ、そうなんですか……えと、その」
「申し訳ありませんが、私は同行する事は出来ません。それから、私は少々込み入った事情があり東京コミュニティに立ち入る事が出来ません。不用意に姿を見せれば射殺されても文句は言えないでしょうから」
「しゃ、射殺って……何をしたんですか……⁉︎」
物騒な単語が飛び出して来た。射殺だなんて言葉、日本では聞き慣れない。荒廃化した未来になっても日本は日本だと言う楽観的な先入観が彼女にはあったからだ。それが人が集まるコミュニティならば尚更、だと。
「……申し訳ありませんが、お答え出来かねます。向かうのでしたら少々急いだ方が宜しいでしょう。このご時世、時間に余裕が持てない方が多いので」
「え、あ、はい。そ、そうですよね……その、お世話になりました」
清香はそう別れの言葉を告げて他の生徒達と一緒に乗降ゲートを通過してエストレヤから降りて東京コミュニティへと向かった。だが、降りて直ぐにこの世界の現実を目の当たりにするとは思わずに。