「……と言う訳だ」
件のIS学園の生徒達を売り払い注文した品を受け取った紫は気が進まないまま、エストレヤ艦内にあるウィキッドとオトゥールの2人の部屋へと赴き事の顛末を勉学を見ていたメサルティムにも話した。
「……つまり、私達も同行しなければ東京コミュニティには入れない、と言う事ね」
「ああ。本来であれば情報収集は俺1人でも事足りると踏んでいたのだが……時期が悪いと言うべきか好機と見るべきかは判断に分かれる所ではあるな」
「はんだんに分かれる?」
考え込む紫に向けてウィキッドは疑問符を投げ付ける。こう言う手の類はまだ理解が及ばないようだ。仕方あるまい、武器を持って暴れるだけしか認められてこなかったのだ。所謂、脳筋であった。
「時期が悪いと言うのは君達を連れ回す必要があると言う事だ。東京コミュニティは各地の公共系統のコミュニティの統括機関にして人類の本拠地たるコミュニティである事は以前にも話したな?」
「ええ……故に様々な情報が入ってくる、とも。だからこの東京コミュニティへと進路を取った、のよね?」
「ああ。情報にも種類があってな。視点が変われば良し悪しが流動的に変化する。簡単に言えば俺達に取って良い情報も有れば悪い情報も存在すると言う事だ」
「わるいじょうほう……?」
「……気分を害すようで悪いが、かつて君達を所有していたコミュニティよりもAISの扱いが悪い連中が居ても可笑しくないと言う事だ。遠目から見る分でも気分が悪い場合もあり得る」
「……それは今更よ」
その言葉にオトゥールは今更だと告げる。あの牢獄の中では暴行や虐待は当たり前だった。アレよりも酷い有様があるのだとしたら見てみたい。
「それに、俺も東京コミュニティに来るのも久しぶりだ。何かしら変化が起こっているやも知れないからな……。こんな時代だ、何かしらまたロクでもない光景が起こっていても不思議では無いな」
「ご主人様。それ以上は今、考えた所では無意味だと存じます。好機である部分をご説明なされた方が宜しいかと」
メサルティムは其方の話が長くなると見越して話題を変えるように促す。リスクよりもリターンを重視するべきだ。
何故なら今のこの時代は全ての行動に多大なリスクが付き纏っている。コミュニティの外に出るだけでも『死』のリスクが付き纏っているからだ。ならばリターンに視線を向けるのが精神衛生上、マシだ。
「それもそうだな。好機と言うのは未確認情報であり真相は定かでは無いのだが大規模な作戦が行われる可能性があると言う事だ」
「大規模な作戦……?」
「ああ、この手の大規模作戦と言うのは複数のコミュニティによる合同作戦って意味だ。現状で考えられるのはネームドクラスの迎撃作戦とかだろうな。
仮にも東京コミュニティは中央政府が置かれ、人類における最重要拠点の1つ。死守すべき存在故に戦力も多く配置されている」
「……ヴォルヴァ、とか?」
「それとも、ヴァルキリー……?」
オトゥールとウィキッドは怯えた顔でそう尋ねる。
ヴォルヴァとヴァルキリー。それはISの中でも上位に君臨する存在。現状の自分達では擦り傷すら負わせる事が出来ずに惨殺されて終わりだ。それ程までに圧倒的な戦闘能力の差がある。
「……あの手の連中の行動が読めたらどんだけ気が楽か……。アレの行動は読みたくても読めん。無視は出来ないが災害みたいなモノだ……。どちらかと言うとラグナロク種だろうな」
紫はどちらかと言うと遭遇率が高いのはラグナロク種と区分されるISだと言う。その単語を聞いたのは初めての為、疑問符が浮かぶ。
「ラグナロク種?」
「ISは自我を獲得して独自に進化を重ねて来た。それは理解しているな?」
「うに」
「……ヴォルヴァやヴァルキリーが人型かつオンリーワンな存在に対してラグナロクは大半が動物の類の姿へ進化して尚且つ一種の大量生産が可能な存在と考えれば良い。
IS達のヒエラルキー的に言えば中間に位置するだろう。此処、最近になって確認が認められ増加の一途を辿り新たな種類も確認されているし複数個体の存在も認められている」
「……新型IS、と言う訳ね」
「その認識で間違いはない。ISの進化論における新たな分岐が生まれた脅威だろうな。ヴォルヴァやヴァルキリーの他にも指揮を取るISを用意したかったのかも知れないな。人間社会で言う中間管理職と言うべきか」
「それでもISである事に変わりは無いわ。……それでも充分脅威的な存在、でしょう?」
「ああ。そもそも下位であろうとシールドバリアや絶対防御がある以上、ISが1機あるだけでも都市部が崩壊するレベルだからな。ちっとも気休めにならない……」
「それが、何故好機?になるの?」
「その話を主眼に置きつつ話を戻そう。大規模作戦は他のコミュニティにも戦力招集が掛けられるだろう。無論、居合わせる形となる俺達にも参加要請が掛けられるだろうな」
勿論、AISであるウィキッドとオトゥールに拒否権なぞある訳ではない。仮想敵はまだ見ぬラグナロク種ではあるが甚大な被害がありありと予想される。
「……だが、活躍。理想論で言えば君達が自らの手で撃滅に成功すれば、今後において優位に立てるのは間違いない」
「……優位。つまり」
「ああ、君が探している家族の買取に関して有利な条件で売買契約が締結出来る可能性が生まれる。
他にも俺が計画している資金確保の為の仕事における報酬交渉の点も好条件になるように仕向ける可能性があるからな。活躍してコミュニティとしての信頼を勝ち取ればそれだけでも目的に前進出来ると言う訳だ。
場所は東京コミュニティかつ中央政府のお膝元だ。活躍出来れば
「……だからこそ、好機。と言いたい訳ね」
「ああ、だが簡単には行かないだろうな。大規模で他のコミュニティも参戦する、その中で出し抜く必要が出てくるからな……。戦力にも差があるだろう」
「……それでも、やらなきゃいけない」
「ええ。そのチャンス、モノにしなきゃ行けないわ」
「意気込むのは伝わった。だが、気負い過ぎて死ぬんじゃないぞ?失敗しても構わない、その時はまた別の案を考えるまでだ。
さて、時期が悪いと言うのと好機と言う観点の説明はコレで終わりだ。大規模作戦の噂話も空振りで終わる可能性もあるからな。其方の話は降って湧いたような話、元々考えてはいなかった。では本来の目的の話に移ろうか」
紫はそう言い、受け取って来た件の備品が梱包された箱を2人の前に移動させた。オトゥールはその箱の中に何が入っているのかは既に分かっていた。予定が狂ってしまったが、此処で足踏みする訳には行かないし、全ての命令に従う覚悟も出来ていた。
「……気乗りはしないのだが東京コミュニティに入るにはどの道、君達を拘束した状態で同行させなければならない。……我慢はしてくれ」
「ええ、分かっている。そう言ってくれるだけでも嬉しいわ。だからお互い気兼ねはしないようにしましょう。2度も言わせないで」
「……そうだな。本来ならば情報収集の道すがらに手を加える為の小道具を調達したかったんだが、こうなっては仕方がない。メサル、2人の着替えを頼む」
「畏まりました、ご主人様」
紫はそう言い部屋から退室した。AISに人権は無いが、紫個人的にも仮にも女子の着替えを堂々と見る趣味は持ち合わせては居ない。
「では、お二方。着替えましょうか」
メサルティムは箱を開封して中に納められていたAISスーツを取り出してそう告げた。