——『織斑 一夏』、ねぇ……。
世界初の男性操縦者。
女尊男卑を促進させた裏切り者。
人類への叛逆者。
この時代の人類から見ればその様な異名を後世に残した極悪人である。
それこそ、女尊男卑を産み出した根源『篠ノ之 束』やその栄光を確立させた『織斑 千冬』と並ぶ三大極悪人と見做されている。
こんな時代故に当時の状況や織斑 一夏の所業を知る為の資料は『無限革命』の折に散逸してしまい、現存し尚且つ紫の権限で確認出来る資料から考察し箇条書きで纏めると以下のようになる。
・高身長で整った顔立ちで女性受けが良い容姿。実際に留学生を始めとした生徒達に囲まれていた模様。
・性格は正義感が強いが自己中心的で、決めた事を曲げない一本気な気質。実姉の織斑 千冬がIS関連から遠ざけていた為にIS関連の知識には遅れが生じていた。
・『国際IS法』の施行に真っ向から反対した(世界最強の実弟である為に女尊男卑の深刻さを理解していなかったが故の行動)。
・『男性操縦者』故に、女尊男卑……女性権利団体の横暴を促進させた事。(男性操縦者と言う存在を容認出来ない主義者達の暴走を助長させた)。
・『無限革命』時、IS学園から他操縦者や一般生徒達を引き連れ脱走。集団脱走からの敵前逃亡(『国際IS法』に基づきIS学園の生徒達は生身であろうと対ISの戦力として数えられていた)
以上が紫が知る限りの織斑 一夏像である。しかしながら、生存戦争である『無限革命』を経ており尚且つ資料は改竄され内容が誇張されている可能性もある為に厳密にコレらの資料からの情報の信憑性は高いとは言えないのが実情だ。
そもそも自称IS学園の生徒達が本当にその当時の人間かすらも証明出来ない。……最も女性である以上はAISとして運用する為に事情や境遇などは関係ないのが今の人類の認識であるのだが。
「ほう、コレが忌まわしき世界を衰退させる女尊男卑を助長した人類の裏切り者ですか……」
「タイムスリップの真偽は兎も角、総督閣下と同じ名を騙る時点で烏滸がましい限りでしょうな」
「こんなモノを飼ってもコミュニティとしては利益に繋がらないでしょうに。なまじあの織斑 一夏を自称するなど、正気の沙汰ではありませんね」
「余程の狂人か破滅願望があるのか、理解に苦しみますなぁ」
物見の人間達がそう口々に言葉を交わしている。見やればその傍……と言うか足元には手足を折り畳まれて愛玩動物の様に扱われている愛玩型AISが言葉にならない呻き声を上げている。
物見の殆どが愛玩型AISを引き連れている様だ。コレはコレで異様な光景だ。
「此方が件の織斑 一夏と
物見の間(と言うよりも先に集まっていた人間達が道を開けてきた。自分の服装や愛玩型では無いAISを連れていた事も要因か)を縫う様に移動して展示場の最前列へと到達した。
広場のほぼ中央、透明なガラス板で覆われた大型ケースの中に1人の少年が磔刑台に架けられていた。服は着ておらず全裸の状態で晒され下半身も当然の如く物見に対して晒されている。……思いの外、小さかった。
「クソッ‼︎ 皆を離せ‼︎ お前らは一体、何なんだよ‼︎」
自称織斑 一夏は先程からこの時代の人類には理解出来ない事を叫んでいる。当人もこの状況を理解したくは無いだろうが此方も彼らの状況は理解出来ない。
「つーか、何故コイツはこんな所に晒されているんだ?」
「貴殿。コミュニティのオーナーとお見受けする」
そんな疑問を浮かべた時、丁度隣にいた人物からそんな言葉を投げかけられた。見た感じ恰幅が良く如何にも上流階級の富裕層の人間だと認められる。
「……失礼。先ずは自己紹介を、私は更識 茂成と申します」
名乗られた以上は、此方も返さねば礼儀に反するだろう。
「『エストレヤ』オーナーの崩宮 紫だ。この場に来たのもただの興味本位ですよ」
「『エストレヤ』……噂は予々、聞いていますよ。何でも『ヴォルヴァ』相手に生き延びたAISを確保したとか」
「……………」
その言葉に紫は目を細めた。確かにその情報は公文書にて中央政府に提出し正式にその2人はエストレヤの所有物である。……だが、富裕層と言えどその情報を持っていると言う事は中央政府、然も情報関連の関係者と思われる。
——他にも掴んでいる情報があるかも知れないな。となると、ただの富裕層と見る訳には行かないか。
「む、むぅう……‼︎」
そしてその足元には1匹の愛玩型AISが這い蹲っていた。手足が折り畳まれ口にはリングギャグを嵌められ口を閉じられないようにされ、今も涎を垂らしている。
他の愛玩型AISとは違い目隠しはされておらずフェイスクラッチのベルトの間からは赤い両目が見え、水色の髪が揺れているのが特徴的なAISだった。眦に涙が浮かんでおり顔も赤くなっているのが分かる。後方、肛門には作り物の尻尾が取り付けられており、宛ら『犬』であった。
「クソ‼︎ テメェ‼︎ 今すぐに簪を離せ‼︎ 皆を捕まえた挙句にペット扱いだなんて、お前ら絶対に許さね」
言葉の途中で防音装置が起動したのか途中から自称織斑 一夏の声が遮断され固定された手足を必死に動かして叫んでいる滑稽な姿が晒されていた。
「……さて、崩宮殿の疑問には私がお答えしましょう。織斑 一夏は埼玉コミュニティより売却され中央政府により購入されました。
しかしながら、『織斑 一夏』と名乗っていた事からその存在は女尊男卑を産み出したAISと同等の醜い存在です。仮にも男ですので肉便器型や愛玩型、家畜型の運用方が出来ない為、こうして展示する事になりました。ISをこの世から根絶できた暁に後世に『負の遺産』として伝える為に」
「詳しいですね」
「まぁ、仮にも私は中央政府に近いのである程度の情報は得られますよ」
——素直に兵器として使い潰さなかったのかねぇ。まぁ、生かさず殺さずって所か。他にも何か理由があるのかもなぁ。
「……崩宮様。そろそろ宜しいでしょうか?」
「ああ、時間を取らせた。では、更識殿。私は所用があるので失礼させて頂きます」
「ええ、崩宮殿。またお会いしましょう」
そう言葉を交わし織斑 一夏展示場を後にして再び通路の先へと進んでいく。
「少々、時間が押して参りました。故に散策は総督閣下の要件が終わってからで宜しいでしょうか」
「ああ、此方こそ済まないな。では直行するとしよう」
案内係の後に続きまた別のエレベーターに乗り込む。富裕層の下には中央政府の施設が密集しており其処が本当の意味での伏魔殿と言える。エレベーターから降りれば嫌でもその光景に圧倒される事となる。
「……」
地上の荒廃した光景とは打って変わり、見るからに細かい装飾が散りばめられた高級そうなシャンデリアの照明、赤い絨毯、細かな模様で暖色系の壁と言う廊下を前に紫は思わず頭を押さえた。
『此処は本当に同じ世界か?』と口に出したくなる程の様変わりようであったからだ。オトゥールもウィキッドの2人もこんな綺麗な内装の光景を見た事が無い為に思わず辺りを見渡している。
「此方です」
目の前の光景に圧倒されながらも案内係は先導する。真っ直ぐ進んだ先、立派な木造の両開きの大扉の前に到着。
「織斑総督。エストレヤオーナーをお連れしました」
『入りたまえ。無論、AISの入室も許可する』
扉の向こう側から厳かな言葉が聞こえて来た。どうやら、オトゥール達も連れて行かねばならない様だ。
「では、私は此処までです」
「分かった」
——……織斑総督、か。空間投影の映像では見た事はあるが、現実で見るのは初めてだ……こんな木端な零細コミュニティに態々、呼び出すとはな。
今、考えても仕方がないのだが考えずにはいられない。様々な観点の予想は立てれるのだがどれも根拠に乏しい。此処まで来た以上、覚悟を決めてドアノブに手を掛けた。
「失礼します」
扉を開け総督の執務室に入室した。