目の前に広がる光景。それは見慣れたISの機械パーツの残骸と肉体が無理矢理継ぎ接ぎ状態とされた見慣れた姿の多数のエインヘリヤルが複数体のISを包囲して攻撃を仕掛けている。その後方には大勢の少女達が怯えるかの様な状態で守られている。
「エインヘリヤルが、ISを襲っている……?」
「そのように、見えるわね。コレは、一体……?」
『どうした?何をしている?目標を見つけたのならばさっさと殺せ‼︎』
その時無線機から相変わらずの高圧的な声が聞こえて来る。大方、レーダーで接触範囲内に突入したのに動かない事を咎めて来たのだろう。
「いえ、エインヘリヤルがISを襲っている。然も人間がISを纏っている?」
『何?状況が分からん、もっと分かりやすく言え‼︎ エインヘリヤルがISを襲うなど、そんな事があり得るかッ‼︎』
「……そう説明する他に無いのだけど」
『黙れ。口答えするな‼︎ 売女が‼︎』
どうすれば良いんだとオトゥールは嘆きたいが何時もの事なので、怒号を聞き流す。実際にその様にしか見えない。エインヘリヤルが襲っているISは一般的に知られる機械鎧型。それを人が纏っている……昔に良く見られたISの基本形態と言われている。
「オト姉。ISの背後に、人が沢山居るよ?」
「ええ。まるで守っている様にも見えるわね……」
死体を持ち帰るべく横取りされない様に防衛。と言うかエインヘリヤル相手にする理由は思い当たらないが兎に角、目の前の光景は自分達の知る状況とはかけ離れていると言う事だけはハッキリと分かる。
「……」
——エインヘリヤルは敵。敵の敵は味方ってね。少なくともさっきの無線で看守達の言うIS達ってのは彼女達の事を指している。率いている訳では無くてエインヘリヤルと戦闘している。ならば、お互いエインヘリヤルが敵と受け取れる。
「ウィキ姫ちゃん。取り敢えず、エインヘリヤルを掃討しましょう」
「うん。あのIS達……普通と違う気がする」
ウィキッドも様子が可笑しいと理解している様である。確かに目の前の光景は初めて見る。もしかしたらと言う思いもあるが、振り払いたい事情もある。例え敵意が無くとも殲滅しろと言われればそれまでだ。
話が出来るかも知れないと言う一縷の望みを掛けてオトゥールとウィキッドはガラ空きであったエインヘリヤル達の背後に飛び掛かり武器を振るった。
「何だ⁉︎ 何が起きた⁉︎」
「新手か⁉︎ それとも、援軍かッ⁉︎」
エインヘリヤルの波の向こう側でその様な声が響いて来る。その後に色々と話し合う声も聞こえて来る。
「ウィキ姫ちゃん。迂闊に飛び込んじゃダメよ?数でも力でも劣っているのは目に見えている……袋叩きに遭うのがオチよ」
「分かってる……」
——取り敢えず、寄ってきたエインヘリヤルを殺して様子を見た方が良いかな?
お互い初対面。場所は戦場、故に見知らぬ者同士は基本的に敵同士。お互い得物を持っている以上、起こるのは戦闘行為に他ならない。それでも接触しなければ何も分からない、ならば周りに蔓延る邪魔なエインヘリヤルを掃討して初めて会話と言う名の交渉に移れる。そう考えたウィキッドは周囲に存在するエインヘリヤル達に向けて鋸大剣を振り下ろして惨殺を始めた。
「全く……決めたら、一直線ね」
オトゥールはその様子を見て最後になるかも知れない笑みを浮かべて自身の背後に寄って来たエインヘリヤルの頭をモーニングスターの鉄塊部分で叩き潰して頭蓋骨を破壊する。
「……邪魔ッ‼︎」
鋸の刃が生身の肉体に突き刺さりそして引き千切られて鮮血が飛び散って行く。機械のパーツ部分は攻撃が通らないのは分かっている為に必然的に生身の部分を狙う事になる。袈裟斬りに斬り降ろしては引く腕で別のエインヘリヤルの首を叩き斬る。その刃はギザギザの為に引っかかってしまう事もあるが構わずに其の儘、別のエインヘリヤルへと叩き付けて纏めて殺す。
「ウィキ姫ちゃん‼︎」
「んッ‼︎」
2人とも大柄な武器、下手な扱い方では味方を巻き込みかねない。その点、2人は息が合っていた。ウィキッドが意思を示した後にしゃがめば数秒後にその上を鉄塊が通り過ぎてエインヘリヤルの頭部を打ち砕く。オトゥールが棒高跳びの要領でモーニングスターを打ち付けて跳ねればウィキッドがその場所に飛び込んで撫で斬りで惨殺する。
「……ウィキ姫ちゃん。無駄な動きが多いわ」
「う、ごめんなさい」
「密着した状態でバラバラに武器を振るうのは危険。私だって貴方を巻き込みたくない……其処の点は分かってて」
「うん……」
息は合っている様に見えてオトゥールがウィキッドの動きに合わせていた様である。其処は年長者であり見知っているウィキッドの動きに指摘した。無駄が多い、と。怒る時はちゃんと怒る。それが良い姉の条件である。
「……向こうも此方の様子を伺いつつ、エインヘリヤルを倒して居るわね」
青や黒、橙色や白色と言った色取り取りのISを纏った少女達が包囲しているエインヘリヤル達に対して武器を振るい打ち倒して行っている。長い時間戦闘しているのかその表情で察する事が出来る。
——エインヘリヤルが此処に集中していた。だから私が単独任務に出されていた時、異様に数が少なかった理由が分かった。此方に戦力を回していた?でも、何故?
見る限りエインヘリヤルの大群。もはや軍勢と言って良い程の物量差だ。数十分前にもエインヘリヤルを掃討していたウィキッドだが、その時に比べると明らかに人数差が大きく此方に多く回されていたと理解する。
「……IS達にとってもISは重要なモノ。なのかしら?」
「分からない……取り敢えず、敵は倒そ。オト姉」
「ええ。希望が見えて来た気がするわ」
向こうも此方に対して迂闊に巻き込ませようとはしていない。そう見えた時、オトゥールに一筋の生き足掻く為の希望の光が差し込んだ気がする。上手く事を運ぶ事が出来れば……自分達は明日を拝める筈である、と。例え、最低な女だと言われようとも構わない。生きる為なら何でもする。死にたくは無いのだから。
「……ステルス性遠隔ドローンで偶然撮影した映像が以上となります。途中、流れ弾に被弾してこれ以上の録画は出来ませんでした」
某所。薄暗い部屋にて3人の人間が机を囲んで居る。1人は男性、2人は女性である。1人である男性は中央に位置した机の奥の席に付き、2人は机を挟んで向かい側に直立し立っている。その光景は王と従者の光景であり厳粛なる雰囲気にこの場は支配されていた。女性の1人がその様な報告を王へ向けて告げる。
「ふむ……。中途半端ではあるが……概ね内容は分かる」
映像を確認した中央に座す男性は静かにそう告げる。机の上に展開されるは空間投影型のウィンドウ。そのウィンドウには複数人の少女達が機械鎧と結合された男性達、エインヘリヤル相手に奮闘している光景が映し出されていた。
「……この付近のコミュニティは、彼処か。距離的都合から考慮するにはあのコミュニティ所属の可能性が高いな」
「……彼処、AISの損耗率が異常に高いって噂よ。薬物依存で痛覚消すけど後遺症の所為で廃人化するって話を良く聞くわ」
「ふむ。噂の域は出ないがな。で?メサル。コレを見せた意図は?」
王は映像を提出した女性に対してそう尋ねる。何事も理由が無ければ話にならない。そして意図が必ずあるモノである。無ければただの愉快犯と……。
「……航行に関して露払い目的による遠隔ドローンによる偵察の結果をご報告させて頂いたに過ぎません。何卒、御容赦を」
「あ、いや……何でもない。忘れてくれ」
「畏まりました」
メサルと呼ばれた女性が部屋から退室する。本人からすれば定期報告の一環と言う認識であり偶然映り込んだに過ぎない。追及されても答えようが無い。
「……ISを襲うエインヘリヤル、か。偶然にしては出来過ぎな気がしなくも無いがな」
「興味があるの?紫」
残った方の女性は砕けた口調で紫と呼ぶ男性にそう揶揄い目的で声を掛ける。その事に関して咎める事などしない。
「…………小さな変化。しかし、それは大きな波紋を招く事もある。コレが蝶の羽ばたきと仮定するのは早いと思うか?」
「……そんな事、未来にならないと分からないわ」
「それもそうか……」
男性はそう呟いて投影された空間ウィンドウを掻き消した。