『ゴォォォォォオォォオォォォォォォォォォォオォォオォォ‼︎‼︎』
ISコアの1つを破壊した刹那、メナスの悲鳴なのか一際強い咆哮が響き渡った。
「うっぐっ……頭が、割れそう……‼︎」
「うにっ……うう‼︎」
——頭……痛い……‼︎ 何、コレ……⁉︎
余りの大音量故に、思わず2人揃ってその場に蹲って耳を塞ぐ。それでも防ぎ切れずにその場から動けず、更にメナス本体が大きく揺れた為に、部屋其の物も傾き、滑り落ちて壁に激闘した。
「ううっ………‼︎」
「痛たた……ウィキちゃん。大丈夫?」
「うに、痛い……‼︎」
未だに揺れる世界。この状態では動けそうに無かった。
『メナスが咆哮を上げながら、上空で暴れているのを確認しました‼︎ 効いています……‼︎ 効いていますよ‼︎』
『まだ2ヶ所残っている‼︎ 油断するな‼︎』
『オーナー紫。メナスの様子が急変したが、何か知っているのか?』
『総督閣下。今、現在。エストレヤのAISがメナスの内部に侵入。コアの1つ破壊に成功。解析によると残り2ヶ所確認されています』
『何と、そのような状況か。いや、流れが向いてきた様だな。それよりもメナスはコアを3つ以上保有しているとは……いや、考察は後にしよう。支援砲撃は必要か?』
『コアの1つは頭部上部にある事が判明しています。其処の箇所を狙うのは可能でしょうか?』
『頭部上部をAIS弾で狙うか……余り激しく頭を揺さぶられては狙うに狙えんな。機会を窺いつつ、狙うとしよう。元よりシールドバリアを破壊した後、AIS弾を撃ち込む想定。其処に奴の急所があるのならば狙うに越した事はない。エストレヤは残りのコアに向かいたまえ』
『オトゥール嬢、ウィキッド嬢。聞こえたか? 頭部上部は砲撃で破壊する。2人は、最後部のコアへ向かってくれ』
作戦変更。頭部のコアは東京コミュニティのAIS弾による砲撃で狙う事となり自分達は最も後方に位置するコアの破壊を担う事となった。
「分かったわ……‼︎」
「うに……」
——揺れが収まって来た。砲撃が来ると言うのなら、急いだ方が良いかも……‼︎
コアの破壊により悶絶していたメナスが体勢を立て直したのか、傾きが修正される。
『その部屋を抜けて直進して下さい‼︎ 構造上、其処まで複雑とは言えない様ですね。元より輸送船、それに整備や搭乗員の事など考慮する必要がないからでしょう……』
コアの部屋を抜けて直進の通路を行く。
『ッ‼︎ 再び高エネルギー反応を確認‼︎ 先程と同じく上空から多数のエネルギー砲撃が照射されています‼︎ 前線部隊も長く持ち堪えられません‼︎
砲撃により、防護壁……大破状態‼︎ これ以上、砲撃を受ければ倒壊しかねません‼︎』
『ヤバいな……‼︎ 防護壁が破壊されちまえば、炙れたエインヘリヤルの到来を招く上に、AIS弾の砲撃が不可能になるな……‼︎』
『防壁防護部隊‼︎ これ以上、砲撃を受けては防護壁が持たぬ‼︎ AIS弾全弾、装填した後にメナス頭部へ向けて砲撃を開始せよ‼︎ その後、部隊は急ぎ退避し、東京コミュニティの所有のAIS部隊は最終防衛ラインを展開。エストレヤがメナスを撃滅するまで防衛戦を開始せよ‼︎』
無線で三者三様の通信が次々と情報が流れてくる。後、自分達はかなり責任重大な状況になっている様である。
『AIS弾、砲撃を開始……』
『グゴォオゴォォォォォオォォオォォォォォォォォォォオォォオォォァァァァアアア‼︎⁉︎』
「わっ⁉︎」
「お、落ちる……‼︎」
その直後、メナスが劈くような咆哮を上げると同時に通路が垂直に傾き始め、重力に従いウィキッドとオトゥールは通路の先へと落下し始める。メナスが頭部を上に上げた為に、通路が穴に変化して為だ。
『AIS弾、無事にメナス頭部に命中しました‼︎ 頭部装甲が剥き出しになっています‼︎ 悲鳴の上げ方もウィキッド様達が破壊したコアの時と同じです‼︎』
「今はそれどころじゃ無いわ‼︎」
「うにーーッ‼︎⁉︎」
縦通路と化した通路の下へ下へと落下して行く2人。此の儘、底に激突するのはマズい。そう言う結末が脳裏に過ぎった時、傾きが元に戻り始め通路の傾斜が斜めになった瞬間に得物を床に突き立て落下の勢いを削ぎ、前のめりになりながらも勢いを殺し足を付ける事に成功する。
「……落下死が頭に過ぎったわ」
「うにぃ〜……」
——身体がフワフワした……。
『ウィキッド様、オトゥール様‼︎ メナスのコアは後1つです‼︎ 後、1つ破壊すれば……メナスは倒せます‼︎』
『コアを破壊したらその辺の壁をぶっ壊して外へ脱出しろ‼︎ 後はカタナとメサルが何とかする‼︎ スピカ‼︎ 今から2人の座標を観測し続けろ、脱出時に落下地点の座標を割り出す為にな‼︎』
『はいっ‼︎』
「いよいよ、大詰めね……‼︎」
「うにっ……‼︎」
コアを破壊すればメナスは機能を停止する。しかし、場所は高い上空。其の儘では墜落して爆発に巻き込まれて死亡する。その前に脱出する必要があるが、その算段のプランは既に立てられている。
『東京コミュニティがやっと自前のAIS部隊を出して東京コミュニティの防衛を開始した。……が、前線部隊はかなり疲弊しているし、メナスも健在であの流星群のような砲撃を何度もされるとコミュニティ其の物が持たん‼︎ 2人とも急げ‼︎』
「分かっているわ‼︎」
通路の先へと進み、最深部の大部屋へと辿り着く。
「オト姉、誰か居る⁉︎」
「え?」
メナス最後部のコアがある部屋。部屋の後方には最後のコアが眩い煌めきを放っている。その前には1人の人間の後ろ姿だと思われる姿が立っていた。
『え、う、嘘でしょう……⁉︎』
スピカの動揺した声が無線越しに聞こえてくる。それは絶望を体現したかの様な声音であった。
『……メナスは
「「⁉︎」」
その人物は振り向いた。そして、その顔を見たオトゥールとウィキッドは驚愕した。何故ならば、その顔は『崩宮 紫』と全くの瓜二つであった事であった。両腕と呼ばれる部位が欠損している事と服装以外は瓜二つと言っても良かった。
『……よもや此処まで抗えるとはな』
その言葉の直後、その姿が変貌を遂げて行く。
頭上には赫黒い量子が円環を描き、星雲の様な冠を象り異音を立てながら背中から赫い亀裂が生き物の様に蠢き歪な両腕を彷彿させる撃腕翼が生え、その指先が開きまるで牙が生え揃う口の様であった。両腕が存在しないが故にその翼は恰も本来の腕の様に振る舞っている。
その異形の姿を前に心当たりは1つしか無い。
——……埼玉コミュニティで見た、『ヴォルヴァ』と同じ……‼︎ いや、……『ヴォルヴァ』そのもの‼︎
自我を獲得した一部の『IS』が情報記録媒体から抽出された『イレギュラー』な存在の情報を元に派生進化した結果とも言われている。
数多くのISの中でも強大な力を有し、遭遇すれば即死不可避とも言われている。埼玉コミュニティの1つを壊滅させた『ヴォルヴァ・ヒム』に続いて、2機目のヴォルヴァが2人の前に姿を現した。
「ヴォルヴァ……‼︎ まさか、此処で出会すだなんて……‼︎」
ヴォルヴァは単独行動を好むと言われていた。まさか、メナス内部にヴォルヴァと言う最上位ISが堂々と居座っているだなんて予想外にも程があった。
「……ッ」
嫌な汗が頬を伝う。かつて『ヴォルヴァ・ヒム』に成す術も無く蹂躙された記憶が蘇る。今はAESがあるとは言え……通用するかは未知数だ。
『め、メナス内部で強力な反応をか、確認……‼︎ ヴ、ヴォルヴァ種……ネームド、『リーリス』‼︎ 嘘ですよね……⁉︎ コレは何かの夢ですよね⁉︎ そう、ですよね⁉︎ 夢ならば早く覚めて下さい‼︎』
即死不可避。
その現実を前にスピカは譫言の様に現実逃避をし始めてしまった。多大なトラウマを植え付けられていた為に機能停止してしまった。
『リーリス、だと……⁉︎ チィ、状況は最悪も最悪じゃねぇか……‼︎』
苦々しげな紫の声。エストレヤとしては何かしらの因縁があるのかも知れないが今はそれどころじゃない。ヴォルヴァの脅威に晒されながらメナスのコアを破壊する……。しかも、リーリスの言動からメナスのコアを破壊するには……リーリスを何とかしなければならない。ヴォルヴァ種を相手に出し抜いてコアを破壊するなんて芸当はとても無理だ。
「やるしか、無いわ……‼︎」
「うっ……‼︎」
——何時かは、戦わなきゃ行けない……‼︎
覚悟を決めた。
ウィキッドはノコギリを、オトゥールはモーニングスターを構え直して相対する覚悟を決めた。相手はヴォルヴァ……『ラグナロク』種など比にならない、暴力の権化。一瞬の気の緩みが死に直結する。
ヴォルヴァ・リーリスはその態度を認めた。
『……良いだろう。ならば、淘汰を始めようか。お前達の覚悟を見せるが良い‼︎』
その刹那、眼前に撃腕翼の指先の顎が大きく開きながら迫って来ていた。