憎悪せし島
オトゥールとウィキッドの2人が動けるまで快復したのは『コード:メナス』から2週間後であった。
身体に穴が開いて2週間で快復するのは控えめに言っても異常と言って良い快復力だが、過去にも似た様な快復力を発揮した事もあって、オーナーである紫は愚かメサル達も受け入れていた。
「身体はもう大丈夫なのか?」
「ええ、充分に休ませて貰ったから」
「うにーっ」
エストレヤの艦橋にて、紫は2週間振りに2人の元気そうな顔を見れて一安心した。破損したAISスーツも新調しており、其方も動きに支障は無さそうだ。オトゥールの隣でウィキッドが跳ねている。ならば問題は無さそうである。
「それで、オーナー。何かあったのかしら?」
「新しいにんむ〜?」
「ウィキッド嬢の言う通り、新しい任務だ」
ウィキッドの言葉に紫は同意し、艦橋に呼び出したのも次の任務を伝える為である。
「今回は織斑総督閣下からの直々の依頼なんだ。目的地はIS学園島跡地。その学園跡地の調査依頼だ。東京コミュニティ内部とそのIS学園島には地下トンネルを介して繋がっている事から其処を通って向かう事になる」
「あいえす学園……‼︎」
「あの自称IS学園の生徒とか言っていた……」
「いや、その件とは……多分、別件だろうな。総督閣下は特に言及しなかった。
依頼の発端は中央政府が観測でその学園跡地に不審な影を確認したらしい。東京コミュニティと目と鼻の先にIS学園と言う神経を逆撫でする様な負の遺産があるからな。俺は然程、気にはしては居ないが彼らの場合は過敏になっているんだろう」
「兎も角、その学園跡地の調査をすれば良いのね?」
「ああ。地下トンネルはエストレヤで充分通行可能な幅があるからな、直接近くにまで行く事が出来る。例によって気になるモノがあれば回収してくれ。IS学園跡地ならば、ASEの改良や君達の武装の改造に使えるかも知れないからな。本来ならばその跡地は立入禁止区域にされている。この機会は逃せないからな」
「そう言われると、やらない訳には行かないわね‼︎」
こんな世界を作ったIS学園に関しては嫌悪の念が浮かぶが、自分達の目的の礎になってくれるのならば吝かでは無い。
「後、もう一つ朗報がある。オトゥール嬢、君の『家族』の所在に関して、総督閣下が総司令官権限で調べてくれるそうだ」
「それは本当なの……⁉︎」
「……勿論、全員が分かる訳では無いが、それでも闇雲に探し回るよりは確実性があるだろうな。この任務が終わる頃には調べ終わるだろう。任務報告ついでにその件を尋ねておく。さて、雑談はこの辺にして2人とも、今から向かうが……準備は良いか?」
「ええ、正直に言って休みを貰い過ぎちゃった感があるわ。何時でも行けるわ」
「うにっー(っ・ω・)っ」
「良し、ならば早速向かうとしよう‼︎ 地下トンネルの警備員に関しては既に連絡は入っている。地下トンネルを介してIS学園跡地地下へと向かう‼︎」
東京コミュニティ内部にその出入口があった。駐留地から出発し管制塔からの指示に従い徐行しつつその出入口前まで移動する。
『オーナー紫。地下トンネルは電力が供給されていません。照明の電力を供給する為に暫くお待ちください』
地下トンネル前の警備室からの無線が飛んでくる。
「了解した。しかし、電力が生きているとはな……」
『立ち入り禁止区域ではありますが、いざと言う時の避難所として機能させる事も可能であると一部の意見がありました。仮にも地下シェルターが併設されていた学園ですので』
暫く待つと地下トンネルの天井部の照明が点灯し始めた。
『オーナー紫。IS学園は我々にとって忌むべき地です……‼︎ ご武運を』
警備員に見送られエストレヤは地下トンネルへと進入、そのままIS学園跡地へと向かい前進する。
「トンネルってこうやって照らすのね……」
「あっかーい」
地下トンネルの照明は一定間隔でオレンジ色のランプが点灯する形式となっている。明る過ぎず暗過ぎない程度の明るさと言えた。
「いや、君達が以前通ったのは本来、人が通行するトンネルじゃないからな?」
雨水管は本来、人が往来する事は想定されていない。
「ご主人様。IS学園跡地には電力が生きていると思いますか?仮にも稼働していた当時は最新鋭の技術を結集させた設備群が揃っていたと聞きます」
オペレーター席に座っているスピカが紫にそう訊ねる。
IS学園は当時、最高峰のセキリュティシステムが構築されていた。各種、扉や壁、ガラスに至るまで物理的耐久値も理論上、最高レベルであった事は想像に難くは無い。
「予備電源の1つや2つ、ある筈だ。……ただ、人の手が離れて30年以上も経過しているからなぁ。他にもISとの蹂躙劇で幾つか倒壊していても不思議じゃないな。つまり、見てみない限りは分からん。ま、最悪の場合は扉をブチ破るのが最善かも知れないな」
「……ですよね」
地下トンネルを進行する事、数十分。トンネルの突き当たりに到達し、いよいよ、IS学園跡地に潜入する事となる。オトゥールとウィキッドの2人がエストレヤから降りる。オレンジ色の照明が2人を照らし、その影が濃くアスファルトの地面に浮かび上がる。
『テステス。お二人とも、聞こえますか?スピカです』
其処で何時も通り、スピカからの通信が入る。以前は旧式であった為に電波強度が弱かったが、通信機器も一新された為に地下でも問題無く通信可能となっている。
「ええ、聞こえるわ。前よりも鮮明に聞こえるわ」
「うに〜‼︎」
『感度は絶好調ですね。システムオールグリーン。地中を透過して電波は通りますね。では、今回の作戦趣旨の確認を行います。
本作戦は中央政府最高司令官からの要請となります。作戦区域であるIS学園跡地の調査及び探索任務となります』
今回の任務の確認。コレもルーティンだ。
『該当地域は立入禁止区域です。ですが、事前情報が無く、どう言う状況かは分かりません。エインヘリヤル、各種ISの存在、更にはリムドロップ。何れの可能性があります』
「不審な影の目撃が、そのどれかになる訳ね」
『はい。野生動物……の見間違いかも知れません。ですので、くれぐれも注意して下さい。ヴォルヴァとかであった場合、すぐに逃げてください。
あ、追加任務としてお二人が気になる物が見つかれば回収をお願いしますね』
「ええ、分かったわ」
『では、作戦開始。まず、その学園は施設としては高度な技術が使われています。今回、地下からの侵入となりますので電力が通らなければ暗いかも知れません。
此処は非常用地下トンネルの出入り口ですので予備電源に切り替えられる機関室が近くにある筈です。ドローンを介して此方で操作を試みます」
「……予備電源と言うのが良く分からないけれど、取り敢えずそれっぽいのを探して見るわ」
一旦、其処で通信が途切れる。いよいよ、本格的に探索開始となり、エストレヤから離れてウィキッドとオトゥールは突き当たりの壁際にある『関係者以外解放禁止』と言う文字が書かれた扉の前へと歩く。
スライド式の扉だ。押しても引いても動かない様だ。如何にも鍵が掛かっているらしい。
『見た所、カードキーで開くタイプの自動扉で』
「ていっ‼︎」
スピカの解説の途中でデジャヴを感じる様な流れでウィキッドが鋸を展開するや否や、扉に叩き付けて力尽くで破壊した。技術文明の産物は哀れ、原始的な暴力の前に成す術も無く音を立てて崩れ去るのみであった。
「あいたー」
『あ、あはは……。この光景、前にも見ましたね』
コレまたデジャヴを感じる光景を見てスピカは乾いた声を上げた。
取り敢えず、先へ進める事に変わりは無い為に2人は役目を終えた扉を乗り越えて先へと進む。その先は真っ暗闇であった。
「暗いわね……。スピカ、このAISスーツに前みたいに明かりを付ける機能は無いの?」
『すみません。構造上、AISスーツに照明を付ける機能を搭載するにはスペースが無いんです。ですが、代わりにオトゥール様の拡張領域内に随伴用の小型ドローンを格納しています。展開して見て下さい』
「え、ええ。分かったわ」
オトゥールは自身の拡張領域内に格納されていた小型ドローンを量子展開で展開する。小さな箱型でアームが付いたシンプルな構造をしていた。
『お二人が医務室で療養中にご主人様が開発して頂きました。まだまだ機能は拙いのですが、暗闇を照らす事は可能です』
スピカの説明の後、小型ドローンの頭部に当たる部位が開き白い光が放射されて視界の先が照らされた。
『基本的に小型ドローンはお二人に随伴する様にプログラムされています。ご主人様が言うには少しはお二人の助けになればとの事です』
「オーナー……。AISである私達に此処までしてくれるなんてね……」
他のコミュニティでは到底、信じられない光景であった。AISに支援機を用意するなど普通ならば考えられない。
「わー、明るい〜」
『それでは、宜しくお願いしますね』
其処で通信が途切れる。小型ドローンが照らす光を頼りに真っ暗な廊下を歩き、予備電源の操作機械がある機関室を探す。
「機関室と言われても見分けが付かないから手当たり次第、扉を壊して見ましょうか」
「うにっ」
次に見つけた扉を破壊して部屋へと侵入。小型ドローンが照らす限り、複雑そうな機械が壁際に所狭しと並んでいるのが分かる。
『機関室の様です。小型ドローンの操作を此方で行います。予備電源が入るかは分かりませんが試して見ましょう』
スピカが操作する小型ドローンが動き、機械群の一部に近づきアームを伸ばして接続する。
『クラッキング開始……。システムに侵入……あれ?仮にも世界最高峰だと言われていたIS学園と言うには随分と脆弱なセキリュティですね……』
スピカが疑問符を浮かべて数秒後にバチィと言う怪音が響き、世界が明るくなった。
「うにぃ⁉︎」
「っ‼︎」
暗い場所からいきなり明るくなった為に目が眩む。
『予備電源、入りました‼︎ 小型ドローンを随行モードに切り替えます。いやぁ、良かったです……予備電源が生きていて助かりました。コレで、探索が楽になりますね』
「え、ええ……そうね。ちょっと今は目が眩むけれど」
「うう〜……眩しい〜」
目を慣らす為に暫く休んだ後、機関室から出る。廊下も明るくなっており無機質な灰色の床と白い壁の廊下が見える。
「それじゃあ、進みましょう。ウィキちゃん」
「うに」
予備電源が入り、探索しやすい環境となった所で廊下の先へと進む。