『これは……?ウィキッド様、オトゥール様』
「スピカ。どうしたの?」
幾つかの分岐点を越えながら廊下を進む途中、扉が見えてきた辺りからスピカから通信が入る。
『この場所から先は電波が届かないみたいです。と言うよりもIS学園の地下は機密区画だったそうです。その為、電波傍受を防ぐ為のセキリュティが作動しているみたいです。先程、予備電源を入れた所為でしょう……』
「その区画を抜けないとスピカと通信出来ない?」
「機密……だったらオーナーが求めるモノがあるかも知れないわね」
『はい。そう言う事になりますね……お二人とも、くれぐれも注意して下さい』
スピカとの通信が途切れた。扉の先は通信妨害されている区域。小型ドローンも作動しない可能性がある為に一旦、拡張領域内へと戻して扉を開けてその先へと進む。
「……コレって」
「嫌な気分が思い起こされるわね……」
扉を開けた先に視界に飛び込んで来たのは通路を遮る形で嵌め込まれた鉄格子、その一部にはコレまた鉄格子の扉が嵌っていた。
ウィキッドは嫌な顔になり、オトゥールも苦虫を噛み潰す表情を浮かべる。
「他に道は無さそうだし……進むしか無さそうね」
「うにー……。嫌な予感……」
鉄格子の扉は鍵が掛かっておらず、簡単に開いた。その扉を潜ってその奥の扉を開いて隣の部屋へと入る。
その先に広がっていたのはコレまた細長い廊下であった。その廊下の左右には頑丈そうな扉が均等な感覚で並んでいるのが分かる。
「オト姉……‼︎」
「ええ、此処は牢獄ね……‼︎」
扉は鋼鉄製。その上部には小さな窓があり鉄格子が嵌っている。窓から部屋の中を見ると小さな部屋であり、何も無い殺風景な光景が映っている。それらの情報から構造こそ違うがオトゥールは此処は閉じ込める為の牢屋が並んでいる牢獄であると判断した。
「……コミュニティみたいに纏めて牢屋に監禁するのではなくて、1人1人分けて閉じ込める方針なのね……‼︎」
オトゥールとウィキッドは牢獄内でも寄り添えた。だから今日まで生きて来れた。もし、離れ離れにされてしまうとなると……考えただけでもゾッとしてしまう。
「オト姉。此処、嫌い……‼︎」
ウィキッドは牢屋が並ぶこの場所を嫌がっている。かく言うオトゥール自身も此処に長居はしたくない。思い出したくもない記憶が呼び起こされそうで怖いからだ。
「そうね……。早く、此処を抜けましょう」
その時、何かが倒れる音が聞こえた。その音に思わず2人は振り向いた。視界の先、独房が並ぶ廊下……自分達が入ってきた扉の前に見覚えのある多脚の脚、1機の蜘蛛型ISが現れたのだ。
「クモっ‼︎ きらいッ‼︎」
「っ‼︎ ISっ⁉︎ 不審な影ってアレ⁉︎」
——場所が悪いわ……‼︎
蜘蛛嫌いのウィキッドは明らかな拒否反応を示している。その姿を見てオトゥールは不審な影の正体はやはりISかと理解した。
だが、対峙するにしても場所が悪過ぎる。独房が立ち並ぶ廊下は幅が狭い。ウィキッドとオトゥール共に、得物は大振りな武器である為に取り回し辛い。この様な細長い場所では戦い難いのだ。
『!』
蜘蛛型ISの頭部と思われる噴出口から機銃の代わりに白い粘着性の糸を放射して来る。その糸は乱反射気味に廊下の周りに射出され、接着して行く。
「流石に此処じゃ場所が悪いわ。ウィキちゃん、一旦、場所を移しましょう‼︎」
細長い廊下。相手は中距離を保ち粘着性の糸を放射する蜘蛛型IS。この場所では真正面から殴り掛かるしか出来ず、そんな真似をすれば粘着性の糸に絡め取られ動きを封じられるのは明白だ。
「んにっ、分かっ……オト姉‼︎」
オトゥールの判断に同意したウィキッド。その時、反対側からも物音が響いた。廊下のその先にも同型機と思われる蜘蛛型ISが現れたのだ。前後から挟まれる形となった。
「えっ、くっ⁉︎」
ウィキッドの反応に気付いたオトゥールが振り向いた時、既に蜘蛛型ISは眼前にまで接近を許してしまっており、放射された粘着性の糸を浴びてしまった。粘着性の糸は見た目よりも重量があり尚且つ、不意打ちに近い形で浴びせられた為に尻餅を着く形で廊下に倒れ込んでしまう。
「うっ……ネバネバしてて、動けない……‼︎」
——予想よりも粘着力が凄い……‼︎ 床と糸がくっついて、殆ど動けない……‼︎
「お、重い……気持ち悪い……‼︎」
肩から下、身体全体に粘着糸を浴びてしまい床に縫い付けられた形になっていた。身動ぎするも粘着力が強く、殆ど動けない状態。
首を動かせば最初に現れた蜘蛛型ISもすぐ近くにまで接近して来ており、ウィキッドも自分と同じ様に粘着性の糸を浴びて身動きが取れない状態となっていた。
——この状況、かなりマズいわ……‼︎
腕を動かそうにも糸が床に繋がっており動きを大きく阻害しており、引っ張っても糸が千切れずに戻されてしまう。
何の対処も出来ぬまま、蜘蛛型ISが自身に跨る馬乗りする所まで接近を許してしまった。
「私達を捕、むぐごぉ⁉︎」
せめての負け惜しみをした瞬間、口元付近に粘着性の糸を吹き付けられ口を塞がれる。
「むぐ、むぐぅぅううう‼︎⁉︎」
蜘蛛型ISは其の儘、本物の蜘蛛の様な動きで捕らえた獲物を多脚を巧みに動かして粘着性の糸で簀巻きする様に拘束して行く。
——縛って、どうするつもりなの⁉︎ って、ちょっと待っ⁉︎
完全に動きを封じ蓑虫の様な状態にした後、蜘蛛型ISは腹部を大きく開いた。内部は人が1人、格納可能なスペースがありその中に簀巻きにしたオトゥールを取り込み、何かの拍子で脱出出来ないように腹部を閉じた。
「んむぅうう⁉︎ んんうう‼︎」
オトゥール達を捕獲した蜘蛛型ISは其の儘、役目を終えたと言わんばかりに足早とその場所から立ち去って行った……。