IS学園の地下区画を探索する紫とソフィア。
「ところで、ソフィア嬢。このIS学園跡地には君以外にも隠れ住んでいる者は居るのか?」
「そうね。つい最近、這う這うの体で流れ着いた人達が居るわね。会話が通じなかったから、距離を置いていたけれど……」
——……不審な影の正体は蜘蛛型ISよりも其方の可能性が高そうだな。
「会話が通じない、とは」
「私はこの学園跡地に残っていた服を使っているだけ、対して後から来た人達は自分達と同じ場所出身かと思っていたみたいね。所々、話が食い違っていたし」
「タイムスリップだの何だの、言っていたんじゃないか?」
「ええ、そんな事を言っていたわね。興味深くはあるけれど……現状では役には立たないのが現実よ」
ソフィアから見ても自称IS学園の生徒達の言葉は世迷言に近いようだ。
「そうか……。俺も彼女らを何人か見てはいたが……正直な所、彼女らを抱き込むメリットは無かったな」
「異端のオーナーである貴方がそう言うのであれば、相当かも知れないわね」
「単純に戦力にならん奴に構っている余裕が無いだけさ。その点、自称IS学園の生徒と名乗る連中は欲しいとは思わんかった」
牢獄がある区画を抜けた先にも通路が続いている。あの場所付近で襲撃を受けた後、何処かに連れ去られたと見ているが、何処に連れ込まれた事やら。
「そうだ、忘れていた事がある。ほれ」
「……コレは?」
紫は其処で思い出した様にソフィアに一応の保険として持ち込んでいたASEのビンが装着出来る長剣型の得物を渡した。
「部下から戦闘行為は止められてはいるんだが、万が一の場合にエインヘリヤルの類と遭遇したら戦闘する他に無いからな。一応、持ってきた武器だ」
「……この持ち手付近には見慣れないモノが着いて居るわね」
「……簡単に言えばISのシールドバリアを無力化するエネルギー、ASEのビンだ。持ち手付近のトリガーを深く押し込むと武装の刃に浸透してISのシールドバリアを破壊して本体に攻撃が届く」
「……今の今まではISに成す術も無かったのに、技術は進歩したのね」
「とは言え、まだまだ発展途上の技術だ。改良を重ねて進まねばならない。その技術向上の為にもこの学園跡地にその資料やら遺物が残っていないか回収する目的でこの跡地に来たんだよ」
「……成程、合理的ね。ならば、有り難く受け取っておくわ」
ソフィアはその長剣を受け取る。そしてそれは量子変換もセットである為にやり方を教わり、ペンダント状の待機形態に変化させる。
「今回は癖の無い剣型にしたが、要望があれば別の武器を用意しよう。今はそれで我慢してくれ」
「AISに対してのアフターフォローも完備……。他のコミュニティでは到底、あり得ない光景ね。貴方を選んで正解だと思えて来たわ」
確かにAISの要望に沿って装備を新調するなど、他のコミュニティでは先ずあり得ない事だろう。情勢も情勢ではあるが武器も適当に配布して、頭ごなしの命令ばかりで終わる事が大半だ。
「必要とあれば目的外の適当なドロップアウトとかを拾って売り飛ばす事も辞さないがな」
「この世に完璧聖人なんて存在しないわ。仮に私が貴方と同じ立場で、それが必要ならば私もそうするわ。
オトゥール達を見つけた後、その人達の場所へ案内するわ。……まだ、居続けているならば其処にいる筈よ」
「まさかとは思うが……彼女らを交渉材料の足しにするつもりか?」
「ええ。『家族』が私みたいに運良くコミュニティに所有されずに済んでいるのは稀な例でしょう……。となれば、何処かのコミュニティに所持されている方が自然じゃないかしら? そして、コミュニティ同士でのAISの売買は高額になりがち、でしょう?」
「良く分かっているな。その通りだ……売る側は買う側の足元を見て相場以上の価格で売るのが定石だからな」
「ならば此方も必要の無いAISやドロップアウトを用意して交渉に臨む方が安上がりでしょう?」
「確かにその通りだな。……オトゥール嬢と似た様な事を言うな、君も」
「言ったでしょう?必要ならば私もそうする、と。赤の他人に構っている程、余裕は無い……そうでしょう?」
ソフィアはそう言い切った。
彼女の考え方は紫と何処か似ている様である。まぁ、最もAISには人権は保証されず、兵器や道具扱いで売買されるのは今の世界では常識的であったのだが。
「……他にも牢獄の区画があったのか。1箇所では足りないと言うか、当時からでも女尊男卑絡みは問題視していたのかもな」
——それを踏まえてこの惨状はちと、酷すぎやしないか?
探索を進めると別の場所に同じ様な独房が均一の幅で並ぶ区画に出た。最初に立ち入った独房区画の様に戦いの痕跡は見られなかった。
「牢獄が他にも用意されていたなんてね。当時の人達はどれだけ、圧政を敷きたかったのかしらね?」
「さぁな。それよりも、オトゥール嬢達は何処にいるのやら……」
——捕虜を監禁しておくにはお誂え向きの場所では、あるのだがな……。
そんな思いを抱きながら、一応扉に嵌め込まれた鉄格子の間から中を確認して行く。何かの間違いで、その中に居るかも知れないからだ。
「オーナー、此方を見てくれないかしら?」
「如何し……如何にもな光景だな」
紫の行動に倣いソフィアも同じく独房の外から内部を確認していた所、唐突に彼女に呼ばれて其方を見てみると、1つの独房の扉には粘着性の糸によって交差する様に塞がれていた。それはとても自然に出来たとは思えない光景だった。
「……先程、確認した粘着性の糸と同等の性質の様ね。明らかに鍵の代わりに封鎖していると考えるのが自然よ」
「……」
封鎖している粘着性の糸が蜘蛛型ISによるモノであるのは明白。扉の鉄格子から内部を確認すると其処には身体のラインが浮き上がる様に全身拘束された繭が吊るされていた。口元は覆われているが目元や鼻が露出しており、その瞬間、囚われているのがオトゥールである事が判明した。
「如何かしら?」
「オトゥール嬢が居た‼︎ この牢獄に監禁されている様だな……この粘着性の糸を外すしか無さそうだ」
「分かったわ。この境目を斬れば外せそうね」
ソフィアが扉と壁の境目付近の粘着性の糸に先程、受け取った長剣を展開して切断を試みる。よくよく考えれば、オトゥールもウィキッドの得物は如何考えても打撃系統の武器(ウィキッドは斬ると言うよりも削る方面か)、こう言った粘着物相手では部が悪いと言える。
——いざと言う時の為にサバイバルナイフくらいは用意して然るべきだな。この点は俺の落ち度だ。
「……オーナー、斬る事が出来たわ」
「分かった、オトゥール‼︎ 無事か⁉︎」
待つ事、数分。封鎖していた蜘蛛糸の切断を終えたソフィア。すぐさまに、独房の扉を開き、蜘蛛糸拘束されているオトゥールの近くに寄る。
「む⁉︎ むう゛ぅぅ゛⁉︎」
紫の姿を見てオトゥールは目を見開き叫ぶも口元を覆われている為、言葉にならない呻き声をあげるしか無かった。
「ソフィア嬢。上の奴を斬れるか?」
「少し高いわ。おぶって貰える?」
「ああ、分かった」
オトゥールを吊るす糸を切断し、降ろす。取り敢えず、独房内では精神的に苦痛であろう為に外に出してから身体に巻き付いている糸を剥がす作業に取り掛かった。