——コレが……未来のIS……‼︎
「や、やまぴー……ど、どうしよう……⁉︎」
「な、何とかならない?」
「あ、IS学園なら安全だと思ったのに……‼︎」
IS学園跡地。その半壊同然の学生寮の建物の前で数人の女性達が複数の蜘蛛型ISに追い詰められているような構図となっていた。
——……敵機は3機。この状況下では厳しいですね。
その蜘蛛型ISと主に対峙しているのは緑色のカラーリング塗装された機械鎧、IS『ラファール・リヴァイヴ』を纏った緑色髪の女性、山田 真耶であった。
——……救援は、望むべくもありませんね……。
多数の機会鎧を乱雑に身に着けたゾンビこと、エインヘリヤルとの戦闘中に特徴的なボディースーツ姿の2人組の少女の邂逅し、その後に埼玉コミュニティに避難した。
しかし、この世界は世界最強と謳われたISが人類に叛旗を翻し人類の脅威と化している事と、この世界を作る要因となった女尊男卑を推進させたとして女性は須く奴隷と同等の扱いを受けると言う非情な現実が待って居た。
とても容認出来なかった真耶や千冬、そして専用機持ちの生徒は一般生徒を逃す為に埼玉コミュニティの入口にて暴れる事にした。自分達が戦闘している間に生徒達を逃す作戦に打って出た。特に協議はしていなかったが、主要人物らは状況を理解して皆、その行動に出たのだ。
だが、その最中で逃亡に成功したのは全体の半数にも満たなかった。皆、別々の方向に逃亡した為に実際にどれ位の人数が逃亡に成功したのかは分からない。
真耶も3人の生徒を連れ無事に逃亡に成功した……しかし、廃墟街が立ち並びエインヘリヤルと言う人類に敵対的な脅威の中での生活は絶望的な状況であった。エインヘリヤルですら自分達にとっては脅威だと言うのにISまでもが容赦無く牙を剥くと言う状況。
正に世紀末もかくやと言う中で真耶を始めとした飽食の時代のIS学園の生徒達に危険だらけの環境下によふサバイバル知識は持ち合わせて居なかった。
地上の全てが危険な為に何処の場所にも長居出来ず、その果てに辿り着いたのはIS学園。
しかし、かつて全世界の女性の憧れであり世界最高峰の技術が集約されたIS学園は年月が流れて廃墟同然の姿へと成り果てていた。殆どの建物が半壊以上の損壊を被っており、ランドマークでもあった捻れたタワーは中腹から上は圧し折られたかの様に失われていた。
だが、真耶にとって幸いな事はIS学園にはエインヘリヤルもISも居なかったと言う事であった。今日、この瞬間までは。
——……リヴァイヴのシールドエネルギーも残り僅か……。絶対防御に回す余力もありません……‼︎ 万全の状態ならば兎も角、この状況下で生徒達を守りながら波状攻撃を仕掛けられたら、抜けられてしまう……‼︎ それに弾薬も、残り少ない……。
絶対無敵、世界最強の名を欲しいままにした女尊男卑の象徴をその身に纏って居てもその顔には嫌な汗が流れている。真耶が纏うラファールのエネルギー残量は残り僅かであったからだ。
——防御は……あと1回が限度ですね。それ以上は持ちません。被弾も許されないし、移動も数秒が限界……‼︎
今日に至るまで、補給もままならない状況であった為に消耗する一方。エネルギーが尽きれば最早、唯の精密機械の塊に過ぎない。ISに搭載されている武装は殆どが生身で持ち上げるには難しい程に重量がある。戦力になるのは瀕死同然の機体に搭乗する真耶のみ、そのISのエネルギーが尽きれば目の前のISに蹂躙される。
——……蜘蛛の姿をした無人機、でしょうか。IS自身、明確な自我が芽生え自己進化して行った先……。人型では無くその他の姿へと進化した。
真耶は冷や汗を垂らしつつ目の前で、ジリジリと迫ってくる蜘蛛型ISの姿を見て観察する。かつてIS学園では無人機、『ゴーレム』と呼称した無人ISに襲撃された事がある。
その為、未来の世界であればより進化した無人機が出現しても不思議では無いと結論に至った。
「……3人とも、今すぐ学生寮の非常口から逃げて下さい」
「で、でもやまぴーは⁉︎」
「苦しい状況ですが……そうでもしなければ」
先ずは生徒の安全確保を優先した。その為、背後の学生寮の入口から廊下を伝い非常口を通過して逃げる事を告げたその直後。
「ッ‼︎ や、やまぴー⁉︎ 寮がッ‼︎」
「ッ⁉︎」
背後にある学生寮の壁や2階相当が崩落した。気付けば、蜘蛛型ISの内1機が、脚部関節部にある砲塔から砲撃を敢行して学生寮の建物を崩落させたのだ。
——しまった‼︎ 退路が……‼︎
建物の内部崩壊を起こされては時間経過で崩落し生き埋めの可能性がある為にそのルートは使えなくなってしまった。
「や、やまぴー⁉︎ 前ッ‼︎」
一瞬、意識が建物の崩落方面に向いてしまった為に余所見をしてしまい、生徒の1人の声と同時に強い衝撃が真耶を襲った。
「「「やまぴー⁉︎」」」
——ッ‼︎ がっ、あ……あ゛っ……⁉︎
隙を晒した瞬間に砲撃を受けた真耶。その一撃でシールドエネルギーが枯渇し、機体が維持出来なくなり量子と共にラファールは光の粒となって砕け、生身のまま放り出され玄関前に落ちて居た瓦礫に背面で激突した。
「う゛、み、皆さん……逃げて……‼︎」
瓦礫に頭から突っ込んだ為に意識が飛びかけながらも真耶は生徒達に逃げる様に声も絶え絶えながら叫ぶ。だが、蜘蛛型ISはそうは問屋は降ろさせずに蜘蛛の姿である事を証明するかの様に頭部の口部から白い粘着性の蜘蛛糸を射出する。
「い、嫌ァァァァアア⁉︎ 蜘蛛糸に巻かれるなんて嫌ァァァァアアぁあ‼︎」
「だ、誰か助けてェェェえええ‼︎⁉︎」
「ネバネバしてて、気持ち悪い‼︎ 嫌ッ、離れてよ‼︎」
蜘蛛が獲物を蜘蛛糸で巻き付けて捕獲すると言う自然界で見られる光景が目の前で起こっていた。粘着性の蜘蛛糸を付着させ間近に引き寄せてから雁字搦めに縛り付けて身動き出来ない様に拘束して行く。身動き取れない状況で至近距離から大砲と同等火力の砲撃を受ければ即死は免れない。
「いや、ちょ⁉︎ むぐぅううう⁉︎ んんぅう‼︎」
更に五月蝿く騒ぐ口を塞ぐかの様に口元にも糸を巻き付けて言葉を奪う。身体を縛られている為に抵抗は出来ずに3人とも身体の自由と言葉を奪われた。
——マズい、此の儘では……‼︎
頭を強く打ちロクに動けない真耶を放置して逃げようとした3人を優先して捕縛した。蜘蛛型ISは優先順位を決めて制圧しに掛かっていた。動けない真耶は置物同然で後回しで問題ないと判断されたのだろう。
事実、真耶は頼みの綱のラファールは機能停止し、戦う術を喪失した。無手でISに打ち勝てる程の腕力は有していない。
——くっ、すみません。先輩……此処まで、みた
「壊れろ‼︎」
「やぁぁあ‼︎」
「隙だらけね」
絶体絶命で死を覚悟した時、蜘蛛型ISの後方から3人の人影が現れて其の儘、奇襲を掛けていた。ノコギリやモーニングスター、そして大鎌と行ったISの試合では実用性が無い為に先ずお目にかかれない得物を振るう3人の娘達だ。
全員が頭部以外を覆い尽くす赤と黒のボディスーツをその身に纏い、1人だけその上に白衣を羽織っている。
——あの子達、……あの時の‼︎
奇襲を掛けられた蜘蛛型ISは背後にハニカム状のバリアシールドを展開するも、3人の振るう武装、その刃に当たる部分が青白い光を纏い、その箇所がバリアシールドに触れた途端、薄氷の如く粉々に砕け散り、其の儘、刃が蜘蛛型ISの本体に直撃した。
「砕けろぉ‼︎」
3人の内、最も小さな体躯の少女は可憐な容姿とは裏腹に鬼の様な形相で一撃を入れた直後に薙ぎ払う形で蜘蛛型を叩き殴り、近くの瓦礫の山に挟み壊した。あの小さな身体の何処にどんな膂力が備わっているのか。その後も何度もノコギリを振るってオーバーキル気味に殴り続けている。
「ソフィア、器用ね」
「動物の姿を選択し進化したと言うなら、その姿に適した位置にISコアを置く筈よ。ISにとって心臓であるISコアさえ、上手く破壊すれば少ない労力で破壊可能よ」
「……参考にしたいけど、私とウィキちゃんの武器じゃ難しいわね」
対して長身の少女は、暴力と重量に任せた一撃で本体を文字通り叩き潰して粉砕。白衣を羽織った少女は大鎌の鋒でISコアを正確に狙い突き刺し、引き抜いて機能停止に追い込んだ。
一瞬の出来事。
彼女達は生身で、ISを屠った。それは真耶から見て信じられない光景であった。ISはISでしか打ち勝つ事が出来ない。その常識はこの世界では通じない。
「さて、ウィキッドちゃん。もう良いから止めなさい」
「相当な恨みが出来たみたいね。形振り構わず、壊しているわ」
脅威は沈黙した。それでも小さな少女は壊れて残骸と化した蜘蛛型ISにノコギリを叩き付けて解体作業を続けている。背後から脇下に腕を伸ばし持ち上げる形で止めさせた。
「うー……‼︎」
「はいはい。もう大丈夫だから、気を取り直してちょうだい」
持ち上げられた少女は頬を膨らませつつも一応、その報復行動を中止した。
「………う゛……‼︎」
「まだ、生きているみたいね。こっちの蜘蛛糸で簀巻きにされている人達も拘束されている事以外は目立った外傷は無さそうね」
見た限り、彼女達は敵対する様子は見られない。状況的に彼女達に助けられたような形である。
「ん゛んぅぅう‼︎⁉︎」
「外から見ると凄い光景ね……。コミュニティの人間は普段から私達をそんな風に見ていたのかしら」
生徒達も蜘蛛糸によって簀巻きにされた事以外、怪我らしい怪我は負っては居ない。
「あ、貴方達は……?」
朦朧とする意識の中で意思疎通を図る。あの時も目の前の長身の少女と小柄な少女に助けられた。……その後は酷い光景であったが。
「安心してちょうだい。敵対するつもりは無いわ、貴方……あの時に見た顔ね。目立つから覚えていたわ」
彼女、オトゥールは真耶の事は覚えて居た。緑色の髪は相応に目立つ髪色だからだ。
「あの時は私達も切羽詰まっていた……だから謝らない。今はもう別のコミュニティに所属しているしね」
立場が変われば状況も変わる。組織社会とはそう言う物だ。所属する組織が異なれば状況も心境も変わるのは良くある事。そんな事がわからない程、真耶も凡愚ではない。
よくよく見れば、あの時は彼女の顔は焦燥を帯びた表情を浮かべていたが、今は全く違う表情をみせている。まるで憑き物が取れたかの様な顔であった。
「……そう、ですか」
——生徒達は理解出来ないかも知れませんが、社会に出れば気まずい状況は幾らでも起こり得ますしね。辞めた同僚がライバル会社に転職して対峙する……そう言う状況もありますし。
こんな世界ですから、所属勢力が変わる事なんて幾らでもありますね。
「ウィキッド。恨む気持ちは分かるけど、流石に壊し過ぎよ。資料は見つからなかったけれど、オーナーの研究の一助になるのだから」
「むにー……」ムニムニ
後方ではソフィアがウィキッドの頬を摘んで遊びつつやり過ぎであると注意していた。怒るつもりはなく、ただ指が暇だから遊んでいる様にも見える。対するウィキッドは目を閉じてされるがままになっていた。
「取り敢えず、応急手当てが必要そうね。此方、オトゥール。スピカ聞こえる? 4人の自称IS学園の生徒を見つけたわ。ええ、コレから帰投するから医療室の準備をお願いするわ」
オトゥール達は自称IS学園の生徒4名を回収し、無事にエストレヤへと帰還した。同時に蜘蛛型ISの残骸の回収にも成功した。IS学園跡地に残っている資料等は無かったがそれを差し引いても上々の成果と言えるだろう。