サブタイトルはヨーロッパの格言の1つ。『地獄への道は善意で舗装されている』。
帰還する時、大量の車両が自分達の方へと向かって来るのが見えた。今迄見た事のある車の台数を遥かに上回る数、彼処まで数を揃えていたのかと素直に驚く。到着した車両から降りて来た男性達はオトゥールやウィキッドから見て白々しい程の笑顔だった。さも当たり障り無く優しさを演出している様にしか見えない笑みを浮かべて楯無達が守っていた非戦闘員らしき少女達を次々と車の後部座席へと乗せて行く。幾つかは大型車両であり一先ずは全員乗せれそうであると男性達は話している。その光景は普段の彼らからすれば寒気がする程に不気味に映った。
「ご苦労だった。さぁ、早く乗って、休め」
2人にそう声を掛ける。見た事が無い笑みを浮かべて近付いて来られても不気味にしか見えない。
——本当はそんな事を、思っていない癖に。人前の時だけ『何も黒くありませんよ』と言う体裁を取るのは腹立つ。お前達の腹はドス黒くて、血を血で洗っていると言うのに。
ウィキッドは内心で自分でも信じられない程の毒を吐いた。かなり酷い扱いしてくる相手が優しくなる時は大抵が外部の人間が来た時だけ。外面だけは何も問題無い様に振る舞う様は醜いの一言に尽きた。この時、2人は生まれて初めて車両の後部座席に座らされた。今迄はトランクに詰め込まれていた、どうやらコミュニティに着くまでは『人間扱い』の様である。
「……今回だけだ。雌豚共」
「「……」」
車両の運転席からその様な蔑んだ言葉が投げ付けられる。ああ、変わらない。彼らは薄汚い連中のままであると再認識する。外面の仮面は小綺麗だが内心は畜生であるのは変わらない。そんな仮面に騙される彼女達も不幸だろう。最も、そんな連中に騙して連れて行く橋渡しをした自分達も大概、最低と言えるのだが。
「……うに」
後部座席でオトゥールの膝の上にウィキッドがちょこんと座りオトゥールの豊満な胸を枕にして居眠りを始めた。たったの3分しか眠れていない上に疲労もかなり溜まってしまっている為に即座に夢の世界へと旅立って行ってしまった。
「……チッ。屑の雌餓鬼の分際で居眠りとは良いご身分だな」
「……眠る事すらも認めないって言うの?」
「黙れ、貴様らAISのクソ餓鬼共に意見なぞ認めていない。兵器は兵器らしく壊れるまで戦え、そして死ね。貴様達の存在意義はそれだけだ。夢や希望があるなどと思うなよ。貴様らのような屑女の所為で、こんな世界になったんだ。貴様らの様な屑が世界を壊した。ならば貴様達が責任を持って世界を元通りに戻せ」
酷い言い分だと言うだろう。だが、現実問題……女尊男卑が要因であるのは否定出来ない事実。そして『負の遺産』も存続した結果でもある。『傲る女共が原因、ならば女共が帳消しにする形を為せ』。それが彼らの言い分であった。先達の罪を今の自分達が償え……そう言う事なのだ。
「……全く、女尊男卑の所為で世界は滅茶苦茶だ。なぁ、オイ?女は男よりも強いんだからIS相手でも余裕で勝てるよな?何せ、男は残念ながら弱いからな……だったら強い奴が最強兵器の相手をするのが合理的で1番手っ取り早い。別に食事も不要な程に必要は無い。睡眠の概念が無い程に行動出来る、そして疲労の概念も無い……それが貴様ら女尊男卑の連中だろう?」
眠りの概念が存在する男性達と違って、女性は眠る必要はない。
空腹になる男性と違って、食事をする必要もない。
疲れという感覚を知る男性と違って、24時間働き続けられる。
それが女尊男卑に生きる女性達の概念であったと彼は語る。それを逆手に取った無慈悲な論理が此処に構築されていた。最強ならば最強の存在に立ち向かえる、男性達は弱い為にその戦禍から逃れ、IS達の脅威から隠れて生きるしか無い。全ての犠牲をAISに集中させれば自分達は生き延びられる。それはかつて女性達が男性達へ向けて虐げて来た行為の一種をそっくりそのまま返却しているに過ぎない。人間扱いして来なかった連中の分際がいざ自分達がその様な境遇に陥れば文句を言う、何様のつもりだと言うモノであった。
「…………」
「親の尻拭いをするのは子供だ。遺産相続ってのは資産の他にも借金も含まれるモノだ。奴らの残した遺産がコレだ‼︎ 返し切るまで、自由になれると思うなよ?」
——させる気など無い癖に。そんなの、暴論も甚だしいわ。
オトゥールはそんなモノ、要らないとしか言いたく無い。だが、言った所で聞き入れる筈がない。過去に何があったのかは知らないし知る事など出来ない。起きてしまった現実は覆しようが無いのだ。
彼女達を乗せた車両群はコミュニティ内へと入って行く。彼女達は思い知るだろう、避難先はとてつもない地獄の様な光景が広がっているのだと……そして死ぬ迄戦うしか生きる道は無いと言う事を身を以って知る……。
——今日は生き延びれる。でも、明日は?明日、私達は生きていられるのかしら?最近はエインヘリヤルが襲って来る事は大半だけど、ISが現れたら……。
エインヘリヤルは知能が低く(それでも陣形を組める程度の動きはする)、対処法が分かれば対応は出来るし一掃は出来る。だが、IS以上の存在が相手だとこうも行かないだろう。間違っても相手は『チート兵器』だの『最強兵器』だと謳われた事がありその実、本当にその通りなのだから。
車両から降ろされた先に広がるであろう駐車場には一足先に到着していた車両から降りて来た非戦闘員達の少女達が集まって談笑している。その様子を見ていると何とも遣る瀬無い気持ちに陥る。助かった、何とかなった。とオトゥールからすれば何の事かは分からないが、その希望も無残にも打ち砕かれる事になるだろうとは知らない者達。知らぬが仏とは正にこの事……現実を知れば、笑う事などもう出来ないだろう。
——皆、似た様な色合いの服装をしている。歳も同じ様に見えるわ。それにしても予想以上に人数が多いわね。
駐車場はそこそこ広いがその半分以上を埋め尽くしている様にも見える白を基調とした服装の少女達。黒の配色が多いコミュニティ内では異様にも映る。短いながらも仮眠が取れたウィキッドを優しく起こしてから自身も車両から降りる。一応、人前だと言う事で何時もみたいに髪の毛を掴まれて地面に叩き付けられたり、蹴られたりはしなかった。
「さっさと行け」
小さい声音でこの場から消えろと命令される。恐らく誰も見ていない場所で拘束具を付けられて牢獄内へと叩き込まれるだろう。その程度の予想は出来るしそれは日常であり現実だ。そう言った現実を前にして抵抗する気力は無いので従う様に歩き出して駐車場を後にする。
「ったく、女共が彼処まで集まると臭くて敵わん。あんな毳毳しい臭いの中に居たら気が狂うって奴だ。ほら、さっさと腕を出せ。雌豚共」
駐車場から離れた先まで歩かされ、視認不可な位置まで辿り着いた直後、頭を掴まれて硬い鉄板床に頭から叩き付けられる。鈍い音がすると同時に組み伏せられて腕に付けられた拘束具を連結されて何時もの拘束された状態にされる。
「ッ……‼︎」
「全く、兵器の補充は大切だが同時に面倒事もやって来るとは、なッ‼︎」
「……ガッ、ハッ……⁉︎ あ、アッ……‼︎」
そして、お決まりの私刑が始まる。今回は腹を直接蹴られて転がされる。その行為が何度も行われ、蹴られる度に口の中の唾液が吐き溢されて咳き込む。どうやら素直に歩いて牢獄に戻される訳では無く蹴り転がされて戻される様である。
「……ぐ、あっ……がッ……‼︎」
体躯が小さく余り食べれていないウィキッドは簡単にすっ飛ばされて行く。完全にサッカーボールの様な扱いで何度も蹴られて行く。
「オイ、牛女。貴様は本当に随分と胸がデカいな?そんな色気で何回、売春したんだ、あ?安い女だな、おい」
「ぐっ、あ……っさい‼︎」
オトゥールに至っては胸付近を強い力で踏み付かれて肺の中の空気を無理矢理吐き出される。身体の彼方此方を蹴られるが腕が拘束されている為に思い通りに立ち上がる事が出来ない、故に蹴られ続ける。
「おい、日本語で喋ろ。日本語すらも、分からないのか⁉︎ あッ‼︎」
「……がっ、あ、はっ……‼︎」
任務が一応成功したにも関わらず2人揃って男性からの私刑による暴行で三度、ボロボロの状態にされた。いや、怪我が無かった時など無かったかも知れない。蹴り疲れたのか飽きたのかは分からないがその私刑が終わった後、2人はゴミの様に牢獄内へと放り込まれた。
「……ったく、何人使い物になるかは分からないが、売り物になれば良い奴もいるだろうさ……その金でうまいモノでも食うか」
朦朧とする意識の中、牢獄の外でその様な当て付けの様な言葉が聞こえて来たが既に意識は遠くになりつつあった。どうせ、自分達には関係が無い……そう切り捨てて遂に意識を手放した。