「各種の稼働を確認‼︎ 艦体状況、オールグリーン‼︎ 異常は確認されません‼︎ 何時でも発進可能です」
艦橋、オペレーター席に座るスピカからその報告が艦橋後方にある艦長席に腰を降ろす紫に寄せられる。エストレヤの各種に異常は確認されない。
機能していないオペレーター席にはオトゥールとウィキッドが座り、その隣にソフィアが座っている。オトゥールとウィキッドはもはや普段着代わりに黒いセーラー服をその身に纏い、ソフィアは支給された黒セーラー服の上に白衣を羽織っている。
「これよりエストレヤは東京コミュニティより山梨コミュニティへと向かう‼︎」
『此方、管制塔。間も無くゲートを開門する。どうかご武運を』
東京コミュニティの出入り口を監視する管制塔から通信が飛んでくる。スピカの声を聞かせる訳には行かないので、今は黙らせている。
「ああ、感謝する」
艦橋から見える外の光景には東京コミュニティのゲートが重々しい音を立てながら開かれる。
「エストレヤ、全速前進‼︎」
東京コミュニティのゲートを潜り抜けエストレヤは山梨コミュニティへと向けて全速前進して行く。
「旋回して西の方面へと進むぞ。極力起伏が少ないルートを選んで進む。移動要塞で山を登るなんて真似出来る訳ないからな」
山梨は元々、盆地地帯。『無限革命』、ISやエインヘリヤルの戦闘の余波でどうなっているか分からない。それでも盆地と言う事は周辺地域は起伏がある地形になっている筈だからだ。其処へ急勾配になる区域を中型以上の移動要塞で踏破は少々、無謀である。
「やま?やまって何?」
其処にウィキッドが山と言う未知の単語に興味を示したのか疑問符を浮かべて声をあげた。
「ん?ああ、そうか。ウィキッド嬢達は比較的、平坦な地域だった埼玉コミュニティ出身だったな。山ってのは周辺地域よりも高く盛り上がった地形や場所を言うんだ」
「その地形だと、平坦な道では無くなるからこのエストレヤだと走行は難しくなる。そう言う事でしょう?」
紫の説明にソフィアが理由を捕捉事項として付け加えた。
「ま、そう言う事だ。総督閣下からの話によりゃ、盆地地帯のほぼ中央部近辺に位置しているからな。緩やかな傾斜のあるルートを選べばその地帯に進入出来る筈だ」
「おーなー、おーなー。そのやまなしコミュニティって、イチゴって出来る?」
未来を考えると不安と懸念事項が山積して止まないが、そんな事ばかり考えても仕方が無い。そんな時にウィキッドがある質問を投げて来た。それは以前の作戦行動中にアルギエバと名乗る放浪商人から物々交換の末に手に入れた事がある今の時代では栽培が容易では無くなり貴重品となった『イチゴ』に関してだった。
甘味に飢える時代、やはり甘いモノが気に入ったのだろう。
「イチゴか……。山梨コミュニティは乳製品の他にも野菜や穀物の生産にも力を入れているとは聞いている。場合によってはあり得るだろうな」
「本当?」
「可能性としては有り得るが、断言は出来ないな。其処の点は理解してくれ」
もし、栽培していたのならば、購入も検討しようと考える。メナスの時やIS学園跡地の件でも頑張ってくれた。少しくらい奮発してもバチは当たるまい。
「んッ‼︎」
東京コミュニティの管轄区域を抜けて行く。荒涼とし廃墟街が続く風景の中には戦火を免れた新緑の木々が少しずつ見えて来る。割れたアスファルトの上には持ち主も死に絶え打ち捨てられた廃車が遺棄されており、それらを薙ぎ倒しながらエストレヤは突き進む。
「ご主人様」
艦橋へと続く扉が開かれて艦橋にメサルティムが入室して来た。その後ろには件の売却予定である自称IS学園の生徒及び教師を名乗るAIS、4名がいた。教師を名乗っていた真耶はその頭部に包帯を巻いているのが見て取れた。
「お、メサルか。何だ、案内でもしていたか?」
内心では早々に売却したい手前だが、表面上では普遍に振る舞う事にしていた。
——邪な思想ではあるが……。真耶嬢ならば家畜型AISを擁する山梨コミュニティにとって需要はあるだろうか?
山田 真耶は子供沁みた幼い顔立ちに加えて流石にオトゥール嬢程では無いがかなりの巨乳である。乳製品を主軸に置くと言う点からやはり胸が大きいAISならば他のコミュニティよりも価値が付くやも知れない。
「はい。一度、例を言いたいと仰られたのでお連れしました」
メサルも紫の思惑は理解し、差し支えない範囲で彼女達に対応している。変に対立しても双方何方にも有益点は無いからだ。
案内されたAIS達の中、教師である山田 真耶が1歩、前に紫の前へと出た。
「えと、この度は助けて頂き有難うございます。あの時、あのままでは如何なるか分かりませんでした」
真耶は素直に感謝の言葉を述べた。
「……謝罪を受け取ろう。まぁ、分からぬ事はメサルに聞くが良い」
紫は早々に打ち切った。話す事が無いのに話題を探す事は不毛だったからだ。
多少、無愛想に思われても構わない。すぐに顔を見なくなるからだ。感慨も抱く理由も無い。
「ええと、このコミュニティは移動要塞艦とは聞きましたが……今は何処へ向かっているんですか?」
紫の態度に気圧されながらも真耶はハッキリとした物言いで紫に質問をした。エストレヤの面々は行先は知っているが、真耶達は知らないからだ。
「現在、エストレヤは山梨コミュニティへと向かっている。コミュニティは元々、アーコロジー機能を有しているが……我がエストレヤは移動要塞として移動、及び輸送能力を有する代償に食糧品の生産能力を犠牲にしている」
其処の点は説明しても問題は無いだろうと判断してその情報を開示する。
「故にエストレヤは他のコミュニティから物資を仕入れる必要がある。早い話が買い出しと言う事だ。山梨コミュニティは食糧生産に力を入れたコミュニティと聞いているからな」
「オーナー‼︎」
話の途中、オペレーター席に座るスピカから声が上げられる。
「エストレヤの進路上にエインヘリヤルを多数、確認‼︎ ISの存在は確認されません‼︎」
それはエインヘリヤルが確認された事を意味する報告であった。山梨コミュニティ近辺にはエインヘリヤルは少ないとは聞いていたが絶無とは言っていない。
スピカの声を聞いたオトゥールとウィキッドは直ぐに席を立ち、ソフィアも含み笑いを上げながらも席を立った。
「分かった。オトゥール嬢達は出撃準備に後に、作戦区域へと出撃してくれ」
「分かったわ。ウィキちゃん、ソフィアちゃん、行きましょう」
「うにっ‼︎」
「ええ」
急に艦橋が緊迫した空気となる。AISであるオトゥール達はそれが自分達の役目である事は当然の認識であり、戦闘の為にAISスーツへ着替える為に艦橋から退室する。
「スピカ。進路上に居るとは言うが、突っ切れそうな配置か?」
「ええと、はい。幾つか集団がありますが、小規模です。動き方からして……バラバラの方向ですね」
「地形や集団の進行方向を参照し、進路ルートを再設定。最短経路で突っ切るぞ‼︎ 進路上に影響のないエインヘリヤルは放っておけ‼︎ 全部相手にする暇は無い」
——早めに
山梨コミュニティでのオトゥール嬢の『家族』であるAISの売買契約を締結させる為にも其方に予算を割きたい。実際の所、どれほどの金額が嵩むか分からないのが実情だ。売却金額から差引いてどれ程の金額になるか……。
「了解です‼︎」