彼女達が艦橋に戻ってきた。
その服装は黒いセーラー服では無くて黒と赤を基調としたボディスーツ姿。その各所にはベルトが見受けられる。まるで拘束する為に存在している様な意匠も見受けられる。
あの時、自分達がまだこの世界に来て間も無い頃に見た彼女達の戦闘用の服装は破損が著しかった事から恐らく今の服装が本来の形なのだろう。
——ISスーツもスクール水着に近い構造ですが、あのボディスーツは側から見ると結構、恥ずかしい格好ですよね⁉︎ と言うかあのスーツ、胸の形も丸分かりの構造じゃないですか⁉︎
AISスーツと言った全身を覆い尽くすタイプのボディスーツは全裸とはまた違った形での恥ずかしさがある。特にオトゥールの場合は真耶と遜色ない程の爆乳の持ち主故に、スーツ越しでも胸部が凄く膨らんでいるのが良く分かる。
ISスーツも胸が大きいとより強調するのだが、ISの機体の方に視線が向く事が多いので羞恥心は薄れるのだが、それすらないとやはり胸に視線が向いてしまう事だろう。
「オトゥール嬢達、ご苦労だった。メサルから聞いていると思うが山梨コミュニティに到着するまではその状態で頼む」
「ええ。勿論よ」
紫はオトゥール達にそう労いと次の指示を同時に出す。彼女達も分かっている為に軽く受け取り、定位置であろうオペレーター席へと腰を下ろした。
「……彼女達、凄いですね」
AISスーツの気恥ずかしさに目が行きがちであったが、真耶は意識を切り替えて思わずそう呟いた。
艦橋から空間投影ウィンドウを介して見えた彼女達とエインヘリヤルとの戦闘光景。自分達ではISに搭乗して尚も苦戦していたと言うのに、彼女達は片手間の如く打ち倒していた。あの時、自分達が初めてこの時代に来た直後でも彼女達はエインヘリヤル相手に無双していた。
もし、仮の話ではあるが彼女達がISに搭乗していたらそれこそ代表候補生も夢では無いのでは無いかと思ってしまう。
「何を言っている? AISならばエインヘリヤル如き、蹴散らして貰わんと話にならん」
その呟きに紫はそう返した。真耶の呟きが紫には聞こえていたのだろう。
「え……?」
「そもそも、ここら周辺じゃ数が少ない上にヴァルキリーの統率下に無いエインヘリヤルは然程、脅威とは言えん」
「ゔ、ヴァルキリー……?」
紫がそう告げた言葉に真耶は思わずそう聞き返した。『ヴァルキリー』、単語だけ聞けば北欧神話に登場する女の半神の呼び方の一種だ。だが、真耶を始めとしたIS業界の人間では別の意味を持つ。
それは女尊男卑全盛期、モンド・グロッソと呼ばれる世界大会での各分野の優勝者は詭弁の上で戦乙女の名に肖り『ヴァルキリー』の称号が贈られ、総合優勝者には最も有名なヴァルキリー、『ブリュンヒルデ』の称号が贈られる。
——い、いえいえ、この時代にモンド・グロッソがある筈がありませんよね⁉︎
「ISのヒエラルキーの中で最上位に君臨する存在だ。君達を襲った蜘蛛型ISはISの中でも最下位に位置する下位種だ」
「あ、アレが1番下……‼︎」
蜘蛛型IS。アレがISの中では1番下の存在でしかないとの事。
そもそも真耶やIS学園の生徒の認識ではISである時点で強大な戦力だと自認している。学園時代、たった1機の敵性無人機の存在を前に学園はパニックに陥ったのだ。
「……ヴァルキリー種のISはエインヘリヤルを統率する。ただ闇雲に暴れるだけのエインヘリヤルが統率されるとなると、その脅威度は跳ね上がる。有象無象の雑兵に過ぎなかった群団が、統率され作戦行動を取れる軍隊に変貌を遂げる‼︎
故にヴァルキリーと遭遇した場合、如何なる手段を持ってしても生還は絶望的であるとして即死不可避と言われている」
「…………‼︎」
——蜘蛛型の無人機の他にも多種多様のISが存在しているんですか⁉︎ 然も最上位と言う事は中間層のISも存在している事になるじゃないですか⁉︎
「そ、即死不可避って……」
真耶の後ろに居る生徒の1人が思わずそう呟く。生身でISには敵わない。その事実を理解しているが故の弱音であった。自分達を襲った蜘蛛型ISが1番弱い存在であり、更に上位の存在がいて、遭遇=死と言う現実が存在している事実。
「ご主人様。間も無く山梨コミュニティの管轄区域内へと進入します。現在、進行ルート上にエインヘリヤル及び、ISの存在は確認されません‼︎」
現実の話題に割り込む形でスピカからそう報告を受ける。どうやら、此処までの道則で大きな問題は起きなかったようだ。
「そうか。ならばそろそろ、アポを取らねばならんな。いきなり連絡の1つも無しに訪問すると交渉が拗れかねないからな」
紫はそう溢した。確かにいきなりの訪問すると相手側も困る事が多い。時には会話が成立せずに終わる可能性も否定は出来ない。
「ご主人様。宜しいのですか?」
「構わん。変わらん」
スピカと紫の短いやり取り。真耶にはその真意は推し量れない。
其処で初めて気付いたが、オペレーターのスピカの服装が、メサルティムと同じこの時代では珍しいであろう裏方に徹する為の黒のワンピースに白いエプロンと言う俗に言うメイド服姿。紫に対する呼び方も一貫して『ご主人様』呼びであった。
「真耶嬢ら。俺が山梨コミュニティと通信している間は何があっても決して口を開いて言葉を発するな。向こうが何を言っても君らは絶対に反応してはならないし、音を出すな」
其処で強い語気で紫から真耶達、自称IS学園組に対してそう警告された。
「え、な、何故なの……?」
その言葉に別の生徒がそう聞き返した。意味が分からなかったからだ。会話に割り込むなと言うのならば分かるが、物音を出すなと言うのはこれは如何に。
「AISには自由に発言する権利は無い。会話する自由も言葉を使う権利は無いからだ」
「そんな……ッ⁉︎ と言うか私達はAISなんかじゃ」
「君達が何と言おうとも、この時代じゃ女性=AISと言う認識だ。そもそも女性と言う言葉自体、殆ど使われていない死語になりつつあるからな」
女尊男卑の反動による代償。女性である時点で全ての権利は微塵も存在していない。
「
万が一、聞かれたら……『どうして其方のコミュニティではAISに発言する自由を与えている?』と問われ、交渉が不利に働きかねないからな」
「……そもそもAISに自由は認められていないのよ。普通ならば牢獄で拘束して監禁するのがルールなのよ。本来ならばこのエストレヤでもそのルールに従わねばならないのよ」
其処でオトゥール嬢が見かねてそう言葉を投げ付ける。本来ならばAISは牢獄で拘束した状態で管理せねばならない所を紫の判断で自由にして貰っている。
「…………」
——やっぱり、この時代では女性の地位は最底辺にまで下落してしまっているみたいですね。女尊男卑の反動でしょうか……ありとあらゆる面でその煽りをこの時代で生まれた人達に向いてしまっている。私達よりもこの時代の人達の方が理解しているんですね。
「分かりました……。ならば私達は一旦、艦橋から退室します。……貴方方には理解し辛いかも知れませんが、IS学園の1年生は教師である私達から見ても理解が足りていませんから」
——……正直な所、1年生は楽観視が過ぎている面が多い。IS学園に入学して浮き足が立っていた矢先にこの状況。環境が逆転して理解と納得が追い付いていない。
「それが安全と言えるだろうな。後はメサルに頼む」
真耶は山梨コミュニティとのやり取りで不測の事態が起こる事を見越して自分達は艦橋から退室する事を選んだ。
自分達が原因でこのコミュニティの支配者である紫の言う『交渉』に不都合が発生した場合、何かしらの措置を取るだろう。それが組織を運営し支配する者の役割だからだ。
この時代は女尊男卑では無い。自分達にとって都合の良い条件はあり得ないと考えるべきであった。