一先ず、山梨コミュニティとの商談は成立した。
流石に山田 真耶らのリムドロップ4人だけでは釣り合いが取れなかったが、其処は想定内。必要経費として割り切れるし、予算内に収められる範囲。一時、相手のペースに握られたが紫個人としても良しと言える結果に持ち込めた。
ただ、想定外の事も起きた。
オトゥールの母乳を搾乳した後、質が良ければ山梨コミュニティが購入も検討すると言って来た事である。
山梨コミュニティのオーナーもエストレヤが先の『コード:メナス』で活躍した事を知っており、中央政府からも期待されている。
その為、本体では無くその母乳の購入と言う形を提示して来た。
乳牛がほぼ絶滅した以上、乳製品を作る為にAISの胸を搾り母乳を牛乳の代替品として活用しそれらを加工してチーズと言った乳製品を製造している。
当然、山梨コミュニティでは生産性を上げ搾乳量を増やす為に胸が大きいAISを求める傾向がある。その点、オトゥールはAISの中ではかなりの爆乳だと断言出来る。他にコレほどの大きさは中々見られないのだろう。
「それでは参りまショウ‼︎ 売買契約の規約上、その役目は終えマシタので別の部屋に安置するように指示を出してイマス。と、その前にユーは家畜型AISを見た事が無いデショウ?」
「え、ええ……まぁ、そうですね」
——……恐らく、マトモな扱いはされては居ないだろうな。
「今後ともお付き合いの為にモ、扱い方を知っておくのも良いデショウ‼︎ 我が山梨コミュニティが誇る牧場をユーにお見せシマショウ‼︎」
こんなにも嬉しく無い御招待は生まれて初めての経験だった。しかし、断る訳には行かないのもまた事実。
——此処で変に断る訳には行かない、か。余り関係を拗れさせるのも悪手だな……。後々の事を考えると此処は良好な関係を保っておいた方が有益だな。
「分かりました。ご案内をお任せします」
此処まで相手のペースに握られては完敗も良い所。ならば此の儘、流れに身を投じるの已むなしと言えた。
——……さて、五体満足。を望むのは高望みかも知れないな。肉体欠損も視野に入れておくべきだな。……最悪の場合、死なせてやった方が本人の為……と言う展開も想定しておくべきか。余り褒められた行動とは言えんが。
山梨コミュニティ・オーナーであるグリューゲルの案内の元、紫は同コミュニティの主要施設である家畜型AISが収容されている『牧場』と呼ばれる施設へと足を踏み入れた。
「驚くのは無理もありまセェン‼︎ 此処まで開発、増築、整備にとても時間がかかりまシタ」
——……圧巻、その一言に尽きるな、コレは。
青白い光が照らす大型の空間。耳の鼓膜を叩くは機械の駆動音と少女達のくぐもった嬌声。
升目状に区間分けされた通路の脇には多数の少女達がフレームの様なモノで首と手足を固定され、その双丘の胸には搾乳機が取り付けられており、今も抜群の吸引力を伴って母乳を搾り取っている。絞られた乳液は管を通って上部へと送られている様だ。
「以前はギロチンや拘束椅子で固定して行ってイタのデスが……拘束具の大型であるが場所を取る上に乳製品の質は家畜型AISの体調に左右される都合上、余り宜しくありマセンでした。改善策を模索した結果、フレームバインバー拘束が適任だと結論が出まシタ」
言い方はかなり酷く聞こえるが、消耗品や使い捨て、粗雑な扱い方が当然のコミュニティの中ではAISの体調管理を行っている時点で山梨コミュニティのAISの扱いはかなりマシな部類と呼べた。
——……首にはカウベルと呼ばれる器具付きの首輪、耳には指標。扱いが完全に雌牛だな……。
道すがら通路脇で展示兼搾乳されている家畜型AISを尻目にオーナー・グリューゲルは説明を続ける。
「中でも吊り下げ式のフレームならば家畜型AISの負担が少なく尚且つ拘束、固定化も容易。更には必要な原材費も抑えられマス。
仮に暴れても殆ど動けまセンのでね。更に配置変えの為の移動もさせ易いと至れり尽くせりデス」
家畜型AISを拘束するフレームバインダーの上部を見れば確かに吊るす為の鎖が繋がっているのが見えた。更にその上、天井近くには複数のレーンが走っているのが見えた。
そして、逆にフレームバインダーの下部には車輪が備わっておりキャリーカーの様に運搬も容易の構造の様である。
「……成程。確かに場所の有効活用は死活問題ですね。エインヘリヤルやISの存在から広大であれば良い訳にも行きませんしね」
「ハイ。増築すればそれだけエインヘリヤルやISの襲撃による損害も大きくなりマス」
適当に相槌を打っておく。現状が気に入らずとも流石に無言と言う訳には行かない。
視線を横に向ける。やはり胸が大きい家畜型AISが涙目になりながら搾乳による快感に悶えながら身体を震えさせている。口枷を嵌められて言葉にならない嬌声を上げている。
通路を抜けると円形のフロアに出た。見た限りこの『牧場』の中央部に位置するらしく、大型の機械等が鎮座しており、更には予備なのか空きのフレームバインダーが安置され、天井付近を走っていたレーンも地上近くにまで下がっている。
恐らくこの場所で家畜型AISを拘束し、レーンを伝って空いている場所へ移送されるのだろう。
「デハ、ご用件の家畜型AISを此方へ移送しマショウ。ユー、コード:E31とコード:T11とコード:V35を此方へ、オーケイ?」
『牧場』の管理業務に携わる職員に対してグリューゲル氏はそう指示を出す。オーナーが直々に現れて指示を出しても狼狽えずに粛々と指示通りに端末の操作を行う。
「Mr.ムラサキ。暫し、待ってくだサイ。件の家畜型AISは場所が場所ですので、運搬にも少々時間がカカリますノデ」
「ええ、分かりました」
——さて、いよいよご対面か。オトゥール嬢にも例の件の説明をせねばならないな……。