1/29 終わりました
ここに来る時は、いつも緊張する。
お父さんの職場である東都工業大学にある研究室。わたしはここに定期的に来ている。基本的にはわたしがライブやミュージックビデオで使っているAR機器の技術がこの研究室発なものであるから、アップデートや調整を行う為。だけど、わたしがここに足を運ぶ理由はそれだけじゃない。
「すぅ……」
「研究室の前で何で深呼吸してんですか?」
「フヒャアァァァァァァ!?」
背後から声を掛けられて思わず声を上げた。振り向いてみれば、そこには一番会いたかった人の顔がある。
「も、もう、驚かせないでください。オーリ君……」
「驚かせたつもりはないんですけど」
その人は困った顔をして、頭を掻きながらわたしを見ている。高校生の三年間で190cmまで届いた長身に、整った顔立ちの中にも精悍さが伺える容貌。オーリ君とわたしは呼んでいるが、それは本名ではない。でもわたしはそっちを先に知ったので、二人きりの時はそう呼んでいる。
「教授に用ですか?」
「あー、その、いえ……」
「それとも、俺に会いに来てくれたのか? ユナ」
彼の口調が砕けた物になって、確信を突いてくる。その通りなので、わたしは何も言い返す事が出来ずに顔を赤くした。
わたし……重村悠那と彼は今、お付き合いをしている。いわゆる彼氏彼女で恋人関係だ。付き合い始めたのは彼がまだ高校三年生の時で、告白は彼からだった。『東工大に合格したんで、付き合ってください』と言われて、漸く彼と堂々と一緒に居れる場所が出来たと喜んだ。
わたしは今、押しも押されぬトップアーティスト……と、自分で言ってしまうのもアレだけど、世間からはそういう評価をされている。そんなわたしには四六時中とまでは言わないが、頻繁に記者が張り付いていて、外でデートをするのは難しい。だから、仕事でも度々訪れるここに彼が居ても違和感が無い状況……この東都工業大学の学生であり、父である重村徹大が主催する研究室の研究生になってくれた事には感謝しかない。
「まぁ、入って」
「あ、うん……」
彼が研究室の扉を開けて入っていくのに付いて行く。中はきっちりと整頓されて、それでも様々な最新機器や研究のための実験機器が置かれて、雑然とした印象を齎す。そんな中で彼は備え付けの机の上を簡単に片づけ、置かれたコーヒーメーカーでコーヒーを淹れてくれた。
「……調子は、どう?」
お互いが少し沈黙したので、わたしは何気なくそう切り出す。
「寂しかったよ。会えなくて」
「そ、それはわたしも、だけど……そ、そうじゃなくてっ」
「調子は悪くない。まぁ俺の研究が少し行き詰ってたけど」
彼が笑ってそう言い、視線を横の机に向ける。つられて見れば、そこには人間の腕を模して造られた機械の腕があって、それが彼の研究テーマなのだと気が付いた。
「行き詰ったって?」
「物自体はまぁ、良い感じなんだけど。それを動かすための下地がねぇ」
「下地?」
「体の方にも機械を埋め込んだりするのって、やっぱ忌避感がまだ強いだろ?」
それから色々と、彼は自分の夢を語った。それは普段の彼とは違う子供のような一面であり、それを見てわたしも嬉しくなってしまう。だから、わたしはもっと彼を知りたいし、わたしを知って欲しい。
「オーリ君」
「ん? どうした?」
「今日、君の家に行きたい」
わたしが踏み出した一歩に、彼が見せた表情。それはとても面白い、驚愕した表情だった。
◇
彼は今一人暮らしだ。大学からはバイクで三十分程度の所で、1DKの条件のいいマンションで暮らしている。
「どーぞ」
「お邪魔しまーす」
帰りに買った食材が入ったエコバックを持ち、通学用のリュックを背負った彼の後について部屋に入る。一人暮らしにしては広めに取られた間取りで、二人が暮らしても問題は無さそうだけど……まさかね?
「……あれ?」
そんな部屋の中で、わたしの目には色々と『らしくない』物が見えてくる。
例えば、棚の一角には化粧道具が置いていたり、ちらりと見えた洗面台には歯ブラシが三本ほどあったり。
「オーリ君、あの化粧道具とかって……」
「あー、アイとユウが週一で泊まりに来るんで、簡単なのは置いていってるんだよ。パジャマとかも部屋のタンスの中にあるし……」
「と、泊まり!? 藍子ちゃんと木綿季ちゃんが!?」
まままま待ってください! 二人は今花も恥じらう女子高生で、オーリ君とは家族ですけど義理って聞いてますよ!? ま、まさか、あの二人も虎視眈々と彼を狙って……?
「昨日も来たんで、俺はダイニング辺りに布団敷いて寝たけど」
「オーリ君のベッドで寝てるんですかあの子達!?」
だなー、と呑気に返してくる彼に、わたしの危機感が跳ね上がる。夕食の準備を始める彼に許可を貰って、早速普段彼が寝ている寝室へと入る。ベッドがあり、パソコンが置いてあるシンプルな机と椅子があり、衣服を収納しているタンスがある。そんなシンプルな部屋に入った瞬間に、わたしは驚愕した。声を上げなかっただけ上出来だと、わたしはわたしを褒めてあげたい気分だったがそれは後だ。
(な、ななななな、なんてものを……っ)
視線の先には、彼のベッド。その上に置かれている、二組の
誰が置いたかなんてわかりきっている。あの二人、これでオーリ君を誘惑するつもりだったなぁ……!?
(彼はわたしの恋人なんですよ! なのに誘惑なんて……!)
そこまで考えてわたしはふと我に返る。わたしと彼が恋人である事は、誰にも言っていない。二人だけの秘密と言えば聞こえはいいが、普通にスキャンダル……と言うほどでもないが、イメージ的な話の問題があるからだ。彼にも口止めはお願いしているから、彼は誰にも言っていなくて、そう見えるような振る舞いも控えているのだろう。だから、彼の事が好きな彼女達もこうやってアプローチを掛けている……と考えるのは良いけど流石にこれはやり過ぎだ。
(完全に既成事実を狙ってるじゃないですか!? 許しませんよ!)
確かに、関係を彼に口止めしているのはわたしで、だからこそこういう事になっている。彼は何も悪くない。異性で年頃の妹を泊めているのはどうかと思うが、『誰かと付き合っている』と言えば、なし崩し的にわたしとの関係を説明しないといけない……結局、わたしが彼の重荷になっているという事実に、わたしは決意する。
「オーリ君!!」
「アイエッ!?」
「わたし今日泊まりますから! お風呂お借りしますね!」
「ナンデッ!?」
万が一の為に着替え一式は持っていたのが功を奏した。彼がわたしを止めようとしているが、今はキッチンで火を使っている為に迂闊に離れる事は出来ない。その間にバスルームの脱衣所に着替えごと駆け込んで、わたしはその場で蹲った。
(あぁぁぁぁぁ、どうしようどうしようどうしよう!)
自慢ではないが、わたしにそういう経験は一切ない。勢いのままに突き進んだ事を、今更ながらに後悔してきた……
◇
お風呂を頂き、ご飯も頂き、ゆっくりと二人で過ごす時間。普段なら幸せな時間だけど、わたしはそれどころじゃない。彼の作ってくれたご飯の味を覚えていない程度に、緊張しまくっている。
「ユナ?」
「ひゃっほぁぁい!?」
「何語の挨拶?」
彼が呆れたような表情でわたしを見て、わたしの緊張感がもっと高まってきた。まずい。年上の威厳と言う物がどんどん減ってる気がする。わたしの方が三つ年上なのに……
「部屋見てからおかしいけど、何かあった?」
「あっ、いやっ、その、何と言うかっ、心の準備をっ」
「何で? いや、マジで何かあったか……?」
す、とオーリ君が立ち上がって自分の寝室に向かった。あ、やばい。わたしそのままにしてる。だだだだだ大丈夫だよね? わたしのだと思われてないよね? いや、あれを妹二人のだとわかるのもアレな気がするけど!?
思考が暴走していれば案の定と言うか、予定調和と言うか、何とも言えないような表情で彼が寝室から顔を出した。
「……あれ?」
「わたしのじゃないですあんな気合の入ったのまだタンスに眠ったままです!」
「落ち着けユナ。色々危険な事口走ってるから。という事はあの二人かよ……」
がっくりと肩を落としたオーリ君がスマホで何やら操作を開始。
「アイ、ユウもそこに居るか。お前らどういうつもりだ……」
あぁ、二人に通話を繋げてたのか。疲れ切ったように彼は色々と話していたが、とうとう頭まで抱え始めた。
「誰か部屋に入れて誤解されたらどーすんだよ……現に見られたぞお前ら。叫ぶな、自業自得だろうが!? ……いや、今言われても困るわ……何でって……」
困ったようにオーリ君がわたしを見る。断るにしてもわたしとの関係云々の話が邪魔してるんだろうなぁ……うん、もうスキャンダルとか良いや。オーリ君を困らせるのが一番アレだし。と決意したわたしは、彼の方に近づいてスマホを拝借。スピーカーモードへと切り替える。
「オーリ君、もういいですよ。言っちゃいましょう」
「へっ?」
『『えっ?』』
スマホから零れる声と、彼が声を零したのは同時だった。そこで兄妹だなぁという感じがするが、今妹達の方はわたしの敵である。故に容赦しない。
『そ、その声はもしかしてユナさん……!?』
「はい、そうです。オーリ君の彼女のユナです」
『待って彼女ってどういう事!?』
「どういう事も何も、彼が東工大に合格してからのお付き合いです」
『うそ……そんなこと、ひとことも』
「わたしのお仕事の関係ですけどね。彼に不自由を強いてしまった事は謝ります。でもランちゃん、ユウキちゃん。既成事実を狙うのは許さないからね?」
ガッチャーン! とかバッターン! などの音がスマホから響き渡り、ブツッと切れた。直後に『木綿季』と画面に表示されて、ユナはそのまま応答した。
「もしもし」
『お兄ちゃんをどうしたの!?』
「わたしが監禁してるみたいに言わないでくれませんか!? ちゃんと! した! お付き合い!」
『お兄ちゃんに無理させといてちゃんとしたお付き合いとか何さ!?』
「それにつきましては大変申し訳ありません! でももういいです! わたしも決心がつきました。スキャンダル上等! 隠すのは止めです!」
『開き直ったよこの人!?』
「ではその辺りをオーリ君とお話しますので、また!」
『ちょま』と言いかけた言葉を無視して通話を切り、電源を切る。ちなみにこの家に家電は無いので、後はオーグマーのメッセージと通話機能だが、こっちも電源は切っておく。
「……いや、余りにも余りなアレだったけど、え、お話?」
「お話ですね。お話です。えぇ、原始のコミュニケーションです」
ムードも何もないけど、覚悟だけはバッチリ決まった。
「……初めてですから、優しくしてくださいね?」
◇
ギシリ、とマットレスのスプリングの軋む音がする。わたしは彼に抱きかかえられて寝室まで運ばれ、ベッドに横たえられる。彼はわたしに覆いかぶさって、真っ直ぐその闇の様に真っ黒な瞳で見てくる。
闇の中に様々な色を内包したその眼で見られると、わたしの心臓が早鐘を打つ。この眼に全てを見透かされているような気がして、全身に熱を帯びてくる。彼の中にわたしだけが居るような感覚に陥って、それがとても心地よい。
ふ、と全身から力が抜けていくのと同時、目の前にまで彼の顔が近づいた。互いの鼻先が触れて、息遣いが唇で感じ取れる距離。少し顔を動かすだけでキスが出来る距離。そう言えば、キスだって数えるくらいしかしてこなかったなと、今更な事実を思い出す。
トップアーティストと言う肩書が、こんなにも邪魔だとは思わなかった。歌う事が好きで、彼の事を思うだけで歌いたい歌詞やメロディが次々と溢れてきた。それを曲にして歌っていただけなのに……とは言わない。多くの人の前で歌える事に酔っていたという自覚はある。でもそれは、わたしにこの未来を与えてくれた人を置き去りにして得た未来だ。
「オーリ君」
「何?」
「わたし、歌手を辞めた方がいい……?」
わたしに何もかもを与えてくれたのは、彼だ。彼に救われたから、わたしの未来はこんなにも拓けた。そんな彼にだけ、わたしは我慢を強いていた。本当ならもっと、わたしは彼に何かしないといけないのに、彼はわたしに与え続けてくれる。
「その必要は無いよ。ユナ」
「でも、わたし――」
続けようとした言葉は、彼の唇で塞がれた。何度も何度も、わたしの唇に吸い付いてくる彼の瞳は相変わらず、闇のように黒い光を湛えている。その瞳に『悪い子だ』と甘く囁かれているような気がして、理性が蕩けていくような気がした。
「卑怯な、悪い男の言い方をしようか? ユナ」
「え……?」
「俺が君を救って拓いた未来。
ごく自然に、とてもワルい男のようになって、彼が囁いた。背筋にゾクゾクとした、得も言われぬ快感が駆け抜けて、わたしの身体を震わせる。彼が、わたしを自分の物だと主張してきた事に、たまらない何かを感じる。
「お、オーリ、君……」
「名前で呼んで。悠那」
声質を巧みに変化させて、涼がまた囁いてくる。ビターなワルい声も良かったけど、甘く蕩けるこの声は、わたしの理性を何の抵抗もさせずに蕩かせてしまう。こんな特技聞いてないよ……
「り、りょう……」
「なぁに? ゆーな」
今度は甘えるような、それでいて包み込んでくれるような優しい声。ホントにスペック高いなぁ……わたし年上なのに、何て思考しか残らないくらいに、頭の中が蕩けていく。
「悠那」
「なぁに……?」
「俺と、どうなりたい?」
『俺は、君と一緒になりたいよ』と告げられて、わたしは蕩けた思考で考える。『でっかいところで歌いたい』って夢は、もう叶った。もっともっと歌いたいって思う。でも、それ以上に涼君と一緒に居たいって、今は思ってる。申し訳ないとかじゃなくて、わたしは彼の事が好きだから。夢以上の気持ちで、彼の事を思っているから。
「りょう、くん」
「ん」
「わたしを、離さないでくれる?」
「俺、こう見えて独占欲とか強い方だよ」
彼がそう言って、首筋に吸い付いてくる。音を立てながら何度も何度も吸いついて、甘く噛んだりもしてくる。それと同時に、わたしの着ていたナイトウェア用のブラウスのボタンを丁寧に一つずつ、わたしにもわかるように外していく。
やがてボタンが全て外されて、はだけたブラウス。するりとズボンを膝まで脱がされ、わたしの下着が露わになる。今着ている下着は、あの二人が置いていったものほど過激じゃないけど、わたしにとっては勝負下着。ローズ柄のレースをあしらった、シースルーのピンク色のブラとショーツを見た彼が、ごくりと唾を飲み込む音が聞こえた。
「へ、変じゃない?」
「……俺が変になりそうだよ」
ばさり、と彼が上半身の服を脱ぎ捨て、わたしを強く……それでいて苦しくないような絶妙な力加減で抱きしめた。そのまま唇を重ね合わせ、舌を絡ませ合う。漏れ出る吐息と共に、ぐちゅりと唾液が混ざり合う音がする。
わたしの中に入ってくるこれは、甘い蜜。わたしという人間をケダモノに堕とす、理性を融かす猛毒の蜜。アーティストの『YuNa』でもなく、ゲームプレイヤーの『ユナ』でもなく、かといって『重村悠那』でもない。彼を貪りたくて仕方ない、『悠那』と言う一匹の雌になる。
「りょう、くぅん……もっとぉ」
蕩けきったわたしの声。自分でもびっくりするくらいに甘い声が出た。彼はわたしに微笑みかけてくれると、熱い手がわたしの胸に触れる。ブラ越しでもしっかりと熱を感じるその手が、ゆっくりと円を描くようにわたしの乳房を愛撫する。
「んっ……あっ……」
ブラの生地が硬くなった乳首とこすれて、喘ぎ声が漏れた。胸の先端から電気の様に、全身に広がる快楽の感覚に思わず体が震える。その瞬間にわたしの背に回されていた彼の手が動いて、ブラのホックをぱちりと外した。
「へぁっ!?」
「もっとって言ったのは悠那だからね」
露わになったわたしの胸の、左右それぞれの先端に彼の指と舌が触れる。舌が触れている方は、舌先で弄ばれた後にまるで赤ん坊の様に吸いつかれ、指が触れている方は、指先に挟まれたり転がされたりしている。その度に快楽が全身を駆け巡って、口からは甘い喘ぎが漏れ、全身の熱が高まってくるのに、下腹部が切なくてきゅんきゅんと鳴き始める。
「りょぉ、くん、っ、胸が変になってるぅっ!?」
「胸でこんなに感じるものなのかな……?」
彼の執拗な胸への攻めで、わたしの身体がどんどん目覚めさせられていく。作り変えられていると言って良いかもしれない。彼の手が這い回った所が、彼の指先が触れた所が、彼の下で嬲られた所が熱く熱く、熱を発しているような感覚。その場所に更に触れられれば、より強くより大きくわたしの身体中に快感が走っていく。
ぐちゅり
「えぁっ……!?」
切なく鳴いていた所から響いた音に、わたしの思考が一瞬停止する。その一瞬の時間……わたしにとっては何故か、とても長く感じた時間の後、視界が真っ白に塗りつぶされた。
「ぁっ!? ぃっ!? ぇっ!?」
視界を白く焼いたモノが快楽だと、最初わからなかった。仰向けに寝ていた体勢で腰の部分が跳ねまわり、わたしの口からは自分の物ではないような声が漏れる。わけもわからないままに動く身体は、自分の身体のはずなのにどの部位もわたしの言う事を聞かない。
「悠那の大事な所に触っただけなのに、凄い反応だ」
耳元で優しく囁かれた彼の言葉で、わたしは自分の状況をやっと理解できた。彼の大きな手が、その太く長い指が、わたしの大事な所に触れただけで視界は真っ白になった。そうなるくらいの快楽が襲い掛かって来たのだと。
ぐちゅりぐちゅり、とわたしに聞かせるように粘着質な水音を立てて、彼の指が秘部の表面を撫でていく。その度にわたしの意思を無視して腰が跳ねて、口からはケダモノのような声が漏れる。たぶんもう、ずっと絶頂しているのだろうけど、しかしわたしはそこから降りて来られない。
「ぃぁっ!? り゛ょうぐっ! い゛っでる゛っ! だめぇんぐっ♡」
口をキスで塞がれて、彼はやっと秘部から手を離してくれた。しかし舌を絡ませ合い、わたしの荒い呼吸音が漏れる。はっはっと漏れる音がまるで犬の様だ、と彼が齎した快楽と猛毒に犯された思考で考えるけれど、もうそれでもいいかもしれない。彼の前でだけ、わたしは何にでもなろう。発情しきったケダモノでも、皆が憧れてくれているアーティストでも、何にでもなってみせる。
そんな決意とは裏腹に、身体はまったく言う事を聞かない。絶頂のし過ぎか、快感が抜けきっていないのかわからないけど、一切身体は動かなくなっている。その間にショーツとズボンが脱がされて、ついでのようにブラウスとブラも脱がされる。
「――…綺麗だよ。悠那」
不意打ちの言葉に、快感よりも羞恥心が勝った。
いま、わたしはかれにぜんぶみられている。
「ゃ、だめぇ……」
「隠すのは許さないよ」
何とか動かした腕を押さえつけられ、彼がにこりと笑みを見せた。普段の穏やかな笑みでも、悪戯の時のような揶揄う物でもない。とても嗜虐的な笑みをして彼はわたしの上に跨った。そしてスウェットのズボンとトランクスを脱ぎ捨てて、わたしの眼前に天井に向かってそそり立つ肉棒を晒した。
その存在感に、目が釘付けになる。触れていないのに熱さが分かる。彼がわたしで興奮して、わたしを貪りたいと思っている証拠が目の前のソレだ。
「りょう、くん」
「これから挿れるよ。悠那」
その宣言に、下腹部が疼き始めたのを自覚した。既に触られて濡れていたけど、疼いてしまったそこが彼を受け入れる為に動き出した事が本能で分かった。触らなくてもわかるほどに濡れていく事が、誰にも侵入を許した事のない膣内が期待で蠢く事が、その最も奥にある子宮が彼との子を孕みたがっている事が。
彼が移動し、わたしの両足の間に納まる。足を左右に広げられてもっとも隠すべき部分が、愛しい人の眼前に晒される。彼の吐息が当たる感覚がして、『ゃぁ』と声が漏れた。足を閉じようとしても彼の身体があって叶わず、顔を隠そうとすればその腕は彼の手で押さえつけられる。
「いくよ」
宣言と共に、わたしの秘部に一層熱い物が触れた。肉棒の先端が秘部を押し広げながら、純潔を意味するその場所へと当たる。彼がわたしの眼を見た。
「……来て。涼君が全部、奪って」
彼の手と私の手を繋ぎ、指を絡ませ合い、視線は互いの眼を見ている。純潔に込められる圧が増して、それはすぐに弾けた。せり上がってくる痛みと同時に、わたしの膣内が限界まで広がって肉棒を全て受け入れる。わたしの中を、全て彼が埋めてくれる。そんな事実が齎す幸福感が、痛みと苦しみを上回っていた。
「ぜ、んぶ、入ったぞ……」
「う、ん……わかる、よ。涼君、の、熱が」
繋がり合ったまま、彼が抱きしめてくれる。わたしも彼を抱きしめて、唇を重ね合う。飽きる事無く唇を貪り合い、舌を絡ませ続ければ、限界まで広がった事で強張っていた膣内が僅かに緩む。
「動いて」
「ん」
懇願に短く返事をして、彼の腰がゆっくりと動き始める。痛みは無く、中を全て刺激されて叩き付けられる快感にまた、視界が白くなり始める。抜けかかる所をまた押し込まれて、か細くも長い声が口から零れる。ゆっくりとしたストロークが少しの間だけ続いて、彼の動きは徐々に速くなり始めた。
「気持ち、いい? わたしのっ、中ッ」
「あぁ。絡みついてくるみたいだ。エッチなんだな、悠那」
「こ、これは涼君のせんっ!」
反論しようとしたところをキスで封じられる。エッチなのは涼君の方だ。異論は絶対認めないっ! わたしは彼だからこうなってるだけで、エッチなんかじゃないからっ。
でも、そんなわたしの心の声が聞こえていたかのように、彼が細かくわたしの最奥……子宮の入口を肉棒でノックする。
「んお゛っ♡」
「ほら、一番奥が物欲しそうにしてるよ?」
本当にケダモノみたいな声がわたしの口から漏れて、彼が笑う。
だめだめっ、奥ダメ♡ 何にも堪えられなくなっちゃう♡ わたしのおなかっ、涼君の子供欲しがっちゃう♡
わたしの願いを彼は聞き届けてくれず、執拗に子宮の入口をイジメ続けてくれる。その度にきゅんきゅんと子宮が疼いて、そこを中心にして全身へと広がっていく快感の波が止まらない。
「いぐっ♡ いっでるっ♡ わだじっ♡ ずっどいっでるっ♡」
「ほら、悠那が認めないとずっと続くよ?」
「わがりっ♡ まじだっ♡ わだじっ♡ えっぢでずっ♡ りょうぐんに愛されでっ♡ 幸ぜでずっ♡」
なりふり構わないわたしの言葉に満足してくれたのか、彼がわたしの身体を抱き上げて向かい合う体勢になる。対面座位と言う名前は後で知った……夜の指南書みたいな本で。この体勢は彼がわたしの中に入れるのではなくて、わたしが自身の重みで彼を受け入れる体勢。何が言いたいのかと言えば、わたしは自分で彼を一番奥まで受け入れてしまったという事だ。
「おおぉっ♡」
初めてのわたしでもわかる。これ、普通は受け入れちゃダメな奴だ♡ わたしの子宮が、涼君の肉棒を飲み込んで、精液を催促しちゃってる♡ というかわたし初めてなのに、もう身体が彼を欲しがってるなんて。
彼からの突き上げに合わせて、わたしはほとんど無意識で腰を振る。
「ゆ、うな……っ」
「りょうくんちょうだい! わたしの中に全部! 全部注いでぇっ!」
初めてなのにこんな事されたら、わたしもう戻れないよ涼君。
いっぱいイカされて。
ぐちゃぐちゃにされて。
貴方の全てがわたしを壊した。
もう、知る前のわたしには戻れない。だから涼君、責任取ってね。わたしの未来を君が握ってるなら、君の未来をわたしが握ってもいいよね? 義妹ちゃん二人には釘を刺した既成事実だけど、わたしと君は恋人なんだから。
彼に抱きつく力を強めて、わたしは彼の耳元へ顔を埋めて。
「わたしを、妊娠させて」
ありったけの思いを込めて呟けば、わたしの中で灼熱が弾けた。
◇
目を覚ますと、知らない天井だった。いや、知らないというかここ、彼の部屋か……と記憶を手繰り寄せて納得し、次に『うへぇぁぃぃぃ』と変な声が出た。
自分が口走った事がありありと思い出される。『もっと頂戴』とか『離さない』はまだいい。良くないけど言った事の中ではまだマシだ。
『妊娠させて』はアウトだろわたしぃっ!? 彼まだ大学生! わたし社会人! どっちも成人してるけど! 彼の未来を潰すようなのはアウト! とベッドの中で悶々としていると、ドアがノックされる。
「はーい……」
『あ、起きてる。飯作ったけど食べれるか?』
「……着替えてから行きます」
ベッドの中にまだ残っている、彼の匂いに名残惜しさを感じながら抜け出し、カバンの中にある着替えをもそもそと取り出して着替える。インターホンが鳴る音が聞こえて、何かバタバタとしている音がするけど気にせず、髪もざっくりとだが櫛で整えて……あ、顔洗ってない。
「涼君、洗面所お借りしても……」
「おはようございますユナさん」
「おはようユナさん」
「……オハヨウゴザイマス」
ドアを開ければ、そこには双子の般若が立っていました。二人の足元には、腕を極められて動けない状態の涼君がいます。極めているのは胸の大きい方……ランちゃんですね。確か合気道もしているって話を以前に聞きましたから。涼君を制圧出来るとは思っても見ませんでしたけど。
「うん。色々言いたい事はあるけどさ。とりあえずご飯食べよう? 最後の朝食になるかもしれないけどねぇ……?」
「ユウ、ちゃんと話を聞いてから、だよ。兄さんも分かってますよね?」
「わか、わかったから解放してくれ……」
この命日になりそうな今日を何とか切り抜けなければ……
何か悠那への勝手なイメージで、恋愛クソ雑魚ナメクジみたいなイメージがある。
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