切欠は、涼の母親から貰ったペアの宿泊券だった。
「……母さん、これ高い奴だよね?」
『そうね。 泊まれる場所を見る限り、良い物よ』
涼はその宿泊券を見ながら、通話先の母親に詳細を尋ねる。
「何でまた?」
『友人からの貰い物よ。でも私達は行けないから、貴方達にって事』
「流石に、学生二人で行くような所じゃないだろ?」
『婚約指輪でもつけてれば向こうが勝手に誤解してくれるわ。
国内だから身分証を見せる必要も無いし』
「いや、うん、確かに買った指輪はあるけどさぁ……」
詩乃と婚約した時に、涼は両親に頭を下げて自分で資金を稼ぐ方法を請うた。
それに両親が示した答えがバイトとかではなく、株の運用である。
最初は意味不明だった涼だが、母親が特にやって見ろと押してくるので今までの貯金を使って開始。その後コツコツと運用して、儲けで買った普段使いも出来るデザインの物がある。
(あれ、上手く母さんに乗せられた気がするんだよなぁ……)
その指輪を詩乃へと送った時は大変だった。
詩乃が号泣して抱きしめてきたのは良いが、首が締まって危うく死にかけた事を覚えている。
しかもそれが卒業式に間に合ったものだから、卒業式では互いにそれを身に付けての『将来結婚します宣言』にも繋がってしまった。
この話をしたら両親は大爆笑で、詩乃の母親は感涙して『おめでとう』と連呼していた。
それ以降、婚約指輪は人前では指に付けず、互いにネックレスとして身に着けている。
『まぁそんな訳だし、普段と違う環境で色々と話してみなさいな。
色んな事があってバタバタしてたみたいだし、一線超えて見えた事もあるでしょ』
「……待って母さん。何で知ってるの……?」
『二人とも上手く隠してたけど、私が見たら一発でわかる程度の事よ。
あーでも、貴方の仲間とやらには確実にバレないぐらいの隠蔽だから安心しなさい』
「今の何処に安心できる要素あった?」
だらだらと汗を流しながらも、声の震えだけは抑えて通話を続ける。
この母親には昔から隠し事が通用しない。サトリかと思うほど隠し事がバレる。
むしろあの父親と結婚するほどなのだから、本物の可能性だってなくはない。
『ちなみに母さんは純度100%人間よ?』
「通話越しで息子の心読む母親は人間の範囲なの?」
『馬鹿ねー、お腹を痛めて産んで心を痛めて育てた子供の事なら、母親はほんの少しの違和感で大体察せるものよ?』
からからと笑いながら、さも当たり前のように母親は言ってのける。
無茶苦茶言っているのに、そこには不思議と納得させる説得力が宿っていた。
「……ちなみに父さんは?」
『さぁ……? 少なくとも5代前までは人間らしいけど』
「え、なにそれこわい」
『ふふ、まぁそれだけ人間ならもう人間よ。
それに涼。自分の父親と母親が人間かなんて疑っちゃだめじゃない』
「それだけ父さんも母さんも人間離れしてるってこと、自覚しよう?」
思わず真顔になって出た息子の言葉に、母はまた笑って返す。
煙に巻こうとしているわけではなく、純粋に面白がった笑いなのは涼でもわかった。
そんな母のリアクションにため息を一つ吐いて、咳ばらいを一つする。
「まぁこのチケットは有り難く使わせてもらうよ。
日時や行き先を決めたら連絡した方が良い?」
『そうねー。交通費くらいは出すから、余裕を持って連絡を頂戴な』
「……有り難く受け取ります」
『それでいいのよ涼。確かに貴方は一人で立てるくらいになってる。
でもまだ私達の子供だし、可愛いお嫁さんも居るんだから頼る所は頼りなさいな』
母親らしい、慈愛に満ちた声でそう言って、通話が切れる。
「ふぅー……という事で、日時と場所決めようか」
涼はこちらを見ていた詩乃を見る。
彼女の顔には『いいの?』という疑問がありありと出ていた。
「自分達が使えないから俺らで使えって。
別に心配する事でも遠慮する事でもないらしい」
「なら、有り難く受け取っておきましょうか。……どこにするの?」
詩乃は遠慮がちであったが、旅行という事で乗り気ではあるようだった。
それは涼も同じで、普通の旅行と言うのは何とも久しぶりだった。
◇
一泊二日という時間は、長いようで短い。
移動に観光、食事などを含めればあっと言う間に夜になる。
泊まった旅館での夕食を終えて、外はすっかり暗くなり、空には星が瞬き出している。
「東京だと見れない空よね」
普段と違う、着飾った装いの詩乃が窓辺に座って空を眺めている。
東京に来る前は、よく二人で見ていた星空。
「二人で見るのは、本当に久しぶりだな」
横に立って、星を見上げながら呟く。
お互いに視線を空から外さないまま、今日の事を話しあう。
移動の道中の事、観光地の事、昼食や夕食の事。 ほんの些細な事でも。
途中で仲居さんが布団を敷きに来て、その人とも少し話をしながら。
「……まぁ、そうなるよな」
「……まぁ、そうなるわね」
ぴったりとくっ付けて敷かれた二組の布団を見て、去り際の仲居さんの言葉を思い出す。
『朝食は遅らせますので、どうぞご夫婦水入らずでごゆっくり』
仲居さんはにっこりと笑って換えの浴衣や布団の場所まで告げて去って行った。
「嬉しいのやら恥ずかしいのやら……」
「ふふ、もう他の人から見たらそうなのね」
頭を掻きながら照れたように笑う涼に対して、詩乃は嬉しそうだ。
知らない人にはもう、自分達が夫婦に見えているというのが二人の関係が認められたように感じるのだろう。
普段は指に填めない婚約指輪が、互いの左手の薬指に填まっている事も一因だろうが。
「そういえば涼。ここって各部屋にお風呂が付いてるんだって」
「へぇー、温泉?」
「温泉みたいよ。だから、ね?」
「なら、先に入ってるぞ」
涼の言葉に詩乃は頷く。
お互いに頬が赤いのは、これがそういうサインであるから。
普段も一緒に入ることがあるのに、未だに恥じらいがあった。
客室についている浴室とはいえ、大人でも数人入って問題ない広さがあった。
湯舟もそれに合わせたように大きな物で、恵まれた体格の彼が足を伸ばして入っても尚余る。
温泉に入る前に今日一日の汗を流してから浸かれば、自然と声が漏れた。
『…涼、入るわよ』
「いいぞー」
温泉の気持ち良さで気の抜けた声で返事をすれば、詩乃が入ってくる。
初めてから、何度も見た彼女の裸体。タオル一枚で隠されたそれに、彼は釘付けになる。
彼女の方も視線に気づいているのか、恥ずかしそうに自分の身体を抱きしめた。
「すけべ」
「いや、そりゃ、詩乃相手だったら、俺はこうなるだろ……」
理性を総動員して、彼女から視線を引きはがす。
少しして、シャワーの音が聞こえてきた。
時間としては数分程度だろう。
ただ、自分の鼓動が妙に速く、大きく聞こえる中ではその感覚も曖昧だった。
「ねぇ、涼」
「な、何?」
「……背中、流してよ」
「あ、あぁ、わかった」
湯船から上がって、自分に背を向ける彼女を見る。
湯煙の中でもはっきりと、その白い肌に朱が差しているのが分かった。
タオルで石鹸を泡立て、その背に触れると彼女はびくりと震えた。
「んっ…優しく、ね」
「わ、わかった…」
あまり力を入れない事を意識しながら、彼女の背にタオルを当てる。
自分よりも当然、小さい背中だ。でも今まで、この背中に支えられてきた。
SAOに居る時も、その後も、彼女は献身的に自分を支えてくれた。
「詩乃」
「何よ」
「いつも、ありがとう」
「突然じゃない。どうしたの?」
「今言っとかないと、言いそびれる気がしただけ」
「何それ」
詩乃の笑い声を聞きながら、シャワーで丁寧に泡を流す。
それが終われば、湯船の中で二人で寄り添いあう。
隣を見れば、吐息が触れ合う距離で愛しい人の顔がある。
「んっ…」
どちらからでもなく、口付けを交わす。
軽く触れあう物から、少しずつ触れ合う時間が長くなり、やがて舌を絡ませるように互いを貪るものへと変わる。
互いの腕が互いの身体へと伸び、離れないように抱きしめる。
「んっ、今日は、激しいのね」
「……だな」
彼女の身体を後ろから抱きかかえ、その首筋に口付けを落とす。
ただ、それ以上はまだしない。
「……焦らしてる?」
「詩乃も自分も、な」
ここで交わる事も出来るが、それはしない。
後の事を考えたわけでもなく、その方がより深く繋がれると本能が囁いたから。
それは彼女も同じだったようで、今度は互いに向かい合う。
口付けをした後で、彼女の舌が涼の首筋をそっと這い回る。
「ここ、痕がずっと残ってる」
呟きながら、詩乃はその痕に舌を這わせた。
初めて繋がった夜に、自分が彼に刻み付けた傷。
痛みを堪える為でもあるが、彼にも証を残すために噛みついた痕。
他人が見ても分からないが、二人にだけは不思議とはっきりとわかる。
「想いを込めてつけた傷は消えない、何て言うけど……」
ならばこの傷には自分の乙女としての想いが宿っているのだと、詩乃は思う。情念とも言うのだろうが、そう言うのは何となく止めた。
「詩乃が俺を想って付けた傷だから、ずっと消えないさ」
「そうね、私の初めての代償だもの」
未来永劫、消えない物を刻み付けたのだ。
少なくとも、彼が死んで灰になるまでは消えない物だと詩乃は確信していた。来世でも巡り合う為の導になれ、とも思っている。
湯船の中で抱擁と口付けを続け、互いの体温が混ざり合う感覚を覚えた頃。一際長い口付けを交わして、二人は離れる。
「次は、私が先ね」
「あぁ」
それだけを交わして、詩乃が湯船から上がって部屋へと消えていく。
少し時間をおいてから涼も上がり、浴衣を着てから部屋へと向かった。
月の光が障子の向こうから差し込んで、薄く照らされるのは浴衣を纏った詩乃の姿。
敷かれた布団の上に座ってるだけのその姿に、彼は柄にもなく『天女のようだ』と思った。
月光を纏う彼女の姿、朱が差した白い肌に自分を見ている潤んだ瞳。
彼女の全てが、彼の全てを捕らえて離さない。
「涼……」
艶やかに濡れた唇が、彼の名前を呼ぶ。
その声に導かれるように彼は彼女の元まで歩み寄り、その隣に座る。
彼女に寄り添うように、彼に寄り添うように、互いに凭れ掛かる。
熱い、と思うほどに二人の身体は火照り、何を求めているかを主張していた。
「詩乃」
名前を呼べば、肩に乗った頭が微かに動く。
それを合図にして彼女の顎に指を添えて向かい合えば、潤んだ瞳が自分を映す。
今回の口付けは彼から、彼女を貪るように。初めて交わった時よりも、今まで交わったどの時よりも、彼女が望むままに、自分の欲望のままに貪る。
唾液を交換し合う水音と、それに伴う息遣いが室内に響く。
今この瞬間に互いだけしか存在していない感覚が、二人から枷を外していく。
キスをしたまま、詩乃の身体を横にしてその体に覆いかぶさる。
浴衣の胸元から手を差し入れれば、直に体の熱さが伝わってきた。
下着は着けておらず、硬くなった胸の先端に指が触れる。
「んっ」
詩乃の身体が震える。今までよりも大きく震えた体に、彼女も昂っていると理解する。
浴衣をはだけさせれば、朱に染まった慎ましい双丘と硬く自己主張する先端が外気に触れて震えた。
「……綺麗だ」
「っ」
思わず出た彼の言葉に、彼女の肌の赤みがさらに増す。
彼女の胸に舌先を這わせて、肌の熱を感じ取っていく。
先端を舌で絡めとる度に、口に含んで吸い付く度に、軽く歯に引っ掛ける度に震える体が愛おしくてたまらない。
片方を口で、もう片方を手で愛撫しながら、貪欲に『朝田詩乃』を求めていく。
「んっ、くぅ、胸ばっかり…ぃっ」
彼女の反応がとても愛おしく、漏れ出る喘ぎ声が更に彼を昂らせる。
「あかちゃん、みたいに、むねばっか、りぃ……」
喘ぐ声が、蕩けたものへと変わるまで執拗に。
途中で口付けもしながら、彼女の胸だけを愛撫し続ける。
二人して珠のような汗を体中に浮かべながら、熱を限界を超えて高め続ける。
「ぁー♡ むね、じんじんしてるぅ♡」
一時間程度をかけて愛撫を続けた結果、彼女は完全に蕩けた声を出す。
一切触れていない性器からは大量の愛液を垂れ流し、潤んだ瞳には情欲の炎が映っている。
そして、彼の方ももう限界を超えていた。
帯を外して、浴衣を脱ぎ捨てて、限界を超えてそそり立つ肉棒を彼女に見せつける。
「行くぞ」
「あは……来て♡」
甘えるような、媚びるような、誘うような、願うような彼女の返事。
しとどに濡れた彼女の秘部へと、一気に肉棒を突き入れる。
「はぁぁぁぁぁ……っ」
「あ、つぃ……吸われ、る……!」
限界を超えて昂った彼女の膣内は灼熱のようで、別の意思を持つように蠢いていた。今まで感じた事の無い熱さと貪欲さに射精しそうになるが、歯を食いしばって堪える。
ここで果てればいつもと変わらない。もっと深くまで彼女と繋がらなければ意味がない。
故に奥にまで突き入れたまま動かさず、口付けを持って相手を貪る。
「んっ、いつもと、違うのね……」
「あぁ…今日は、こうしたいんだ」
お互いの最も敏感な部分を感じ合って、動いていないのに快感が高まっていく。
彼女の下腹部を撫でれば、膣内が肉棒を締め付けるように動く。
こつり、と肉棒の先で奥を叩けば、子宮口がだらしなく開いて先に吸い付いてくる。
「はぁぁっ…う、動いてよぉ……」
焦らして焦らされて、先に根を上げたのは詩乃だった。
そんな彼女に笑いかけて、その体を起こすように抱き上げて自分の上に座らせた。
対面座位と呼ばれる体位で、お互いが手を後ろについて、結合した部分がはっきりと見える。
「す、ごい…私のが、涼のを咥え込んで……」
目を見開いて結合部を凝視する彼女の膣内が、更に蠢く。
快楽と言う炎に、羞恥心と言う薪がくべられて更に燃え上がっていく。
初めて見たわけでもないのにとても恥ずかしくて、とても感じてしまう。
ゆっくりと、互いの腰が動いて互いを貪り始める。
どちらからともなく、後ろについていた手を相手に伸ばして抱きしめ合う。
「もっと、もっと動いてっ♡ 私に貴方を頂戴♡」
「あぁ、俺ももっと、お前が欲しいよ、詩乃っ」
下から突き上げる力を強めて、彼女の膣内を蹂躙する。
彼女の口から空気が漏れ、悲鳴のような嬌声が上がる。
抱き着く力がより強まって、互いの名前を呼んで求めあう。
「詩乃、もう出す、ぞ…っ」
「いいよっ、頂戴♡ 私の子宮にっ♡ 全部出してぇ♡」
甘ったるく蕩けた声で、詩乃は中出しを強請る。
その瞳はもう目の前の存在しか認識せず、その存在を求めている。
舌を絡め合うキスと、性器で繋がったまま、限界を超えた昂りを吐き出すために。
「すごいの、くるっ、きちゃう」
「し、の、一緒に、っ」
「うんっ、いっしょ、ずっと、ずっといっしょ!」
衝動に突き動かされるままに、目の前の存在と交わる。
射精の為に膨らむ肉棒の変化を感じ取った詩乃が、腕だけでなく足も使って抱き着いた。
「くっ、詩乃っ!」
「きて、きて、イくから、きてぇっ!」
一際強く突き入れて、お互いが身体を震わせて絶頂する。
詩乃の最奥に灼熱が吐き出されて、その全てを逃さないように吸い付く。
「あっ♡ すご♡」
「くっ、あぁぁ…っ!」
全てを目の前の雌の中に吐き出そうとする雄。
雄の吐き出す全てを自分の中に収めようとする雌。
いつもからは考えられない量が吐き出され、長い長い絶頂に二人の意識が明滅する。
そんな中で互いの熱だけを感じ取り、互いだけを認識する。
深く、深く――…根源的な場所で、繋がり合うように。
どれだけ射精を、絶頂を続けたかわからないまま、やがてその波が引いていく。
体力も気力も根こそぎ捧げたような脱力感と共に、二人は抱き合ったまま布団に横になる。
「はぁ……はぁ……」
「……凄かった♡」
「そりゃ良かった」
満足そうな声で詩乃が、満面の笑みで彼を見る。
その笑みを見て、彼は彼女の額に口付けを落とす。
うちの嫁が可愛すぎてこのまま昇天しそう、とあほな事を考えた。
「詩乃は本当に可愛いなぁ」
「……ば、ばかっ」
無意識に出た言葉に顔を赤くして、抗議なのかぺしぺしと彼の背を叩く。
本心で言われている事がはっきりとわかるから、どうしても照れてしまう。
照れている事が分かるから、叩かれても笑って受け入れる事が出来る。
「もう、まったく……」
言葉では非難しながら、表情は笑みのままなのでそれを隠すのに彼の首元に顔を埋める。
身体の気怠さと共に、心は幸福感で満ち満ちている。
笑みが止められないのはこの幸福感のせいだと、詩乃は結論付けた。
「また、お風呂入る?」
問いかける詩乃の言葉には、期待の色がある。
そんな彼女の期待に応えるのが、今の彼の義務と言えた。
結果として朝、二人が起きた時間が普段よりも相当遅れた事を、ここに記しておく。
エロだけを書くか、いちゃつくパートを入れるか。
台詞を増やすか、地の文でもっと濃く描写するか。
そんな葛藤をしながら書いてます。