電話を掛ける。
知り合いから聞いた電話番号。
この番号にかけるのは、これが初めて。
『もしもし? どちら様でしょうか?』
数度のコールの後、怪訝そうな男性の声が聞こえた。
現実でちゃんと聴くのは初めての、私を狂わせた人の声。
「――…オーリ♡」
彼の声を聴いただけで、私の内から堪えきれない物が溢れてくる。
『その声……シノン、か?』
「せ・い・か・い♡」
体が熱い。誰と話していてもこんな事は無かった。
でも、彼だけが違うのだと、私は数週間で思い知らされた。
『何で俺の番号を?』
「んんっ……キリトから聞いたわ。貴方と話したかったから」
『話……?』
彼が疑問に思うのは尤もだろう。
何せ私は、彼とは数週間前にゲームの中で出会っただけの相手。
一応現実でも会っているが、その時は事件があって解決した後そのまま去ってしまった。
後日、私の過去に向き合う機会があった。
その機会をお膳立てしてくれたのも、彼だとキリトから聞いた。
私は彼に命と心を救われて、今を生きている。
最初は、次にゲームで会った時にお礼を言えばいいと思ってた。
現実での彼との距離は、思ったより遠かったから。
でも、それから彼はGGOには現れなかった。
キリトや彼の彼女のアスナに誘われて始めたALOでも会えなかった。
聞けばALOには戻っているらしいが、会う事は最近ないという。
理由としては実家のゴタゴタでしばらく忙しいとの事だった。
それを知った私は、表面上はまだにこやかに過ごせていたと思う。
最初の数日は我慢できた。
次の数日は、彼の事をキリトやアスナ、他の人に聞いて回った。
その次はもう、私は取り繕えてなかったかもしれない。
『エクスキャリバー』を取引材料に、彼の連絡先を聞く程度に切羽詰まっていた。
「何でゲームに来ないのかな、って」
『あぁ……リアルで少し事情があって、もう落ち着くから明日には入れるはずだけど』
「どっちに?GGOだと、私が嬉しいんだけど」
『GGOはあの一時のつもりだったけどなぁ……』
「来なさい」
『お、おう……』
思わず声に力が入ってしまう。
お礼を言うだけならどちらでもいい。でも邪魔が入るのは良くない。
ALOはキリトを始めとして彼の仲間が多い。その点GGOは私だけ。
その為にセキュリティの高い個人スペースもゲーム内に用意した。
『まぁいいけどな……コンバートせずに新規で行くから、それだけは了承しといてくれ』
「えぇ、何時頃になりそう?」
『あー……昼過ぎで良い?14時くらい』
「……早く来れるなら、早く来てね」
待ってる、と告げて私は名残惜しさを感じつつも通話を切る。
ベッドに転がって目を閉じれば、彼と出会った時から全ての彼に関する記憶が思い出せる。
「ん、はぁ……」
漏れた吐息に熱が帯びる。
自然と手が、あそこへと伸びていく。
「はやく、はやく、貴方が触れてよ、オーリ」
名前を呼んだ声は、自分でもはっきりとわかるほどに蕩けるような甘い物だった。
◇
『SBCグロッケン』内、プライベートルーム。
彼が物珍しそうに、私の部屋を見ている。
この部屋はGGOでも高級な事で知られている。
買うには相当のクレジットが必要になるが……それは前回の優勝賞金で何とかなった。
本来なら還元システムで電子マネーにしようと思っていたけど、それはそれだ。
この部屋を選んだ理由としては、セキュリティの他にもう一つ理由がある。
それは今回彼を招くにあたって最重要視した所。
それはいいとして、新規でアカウントを取った彼は、前に見たアバターとは違っていた。
どっちが現実に近いのかと聞いてみれば、今の方だという。
SAOのように完全に同じと言うわけではないが、比較すれば似た部分は多いらしい。
「それで?何だってまたこんな良い部屋まで用意して」
黒髪黒目の彼が私を見る。
どくん、と私の心臓が跳ねた。
「……貴方にまだ、お礼を言ってなかったから」
「なら昨日の電話で言えばよかったんじゃ」
「それは、ダメ。会いたかった。貴方に、会いたかったの」
私を狂わせた貴方に。
私の今までを壊していった、オーリと言うプレイヤーに。
「ただ、会いたかったの」
そう言って、私は自分と彼の身体の距離をゼロにする。
平たく言えば抱き着いて、彼の胸に顔を埋めた。
「し、シノン?」
「このままで居て。少しの間だけで良いから」
彼を堪能しながら、彼から見えない位置で部屋のオプションを操作する。
そこにある最奥に埋没していた項目を見つけ出し、その機能をONにした。
思わず口元が喜びで吊り上がるのを感じるが、まだ見せてはいけない。
「ありがとう、オーリ。貴方が私の全てを救い上げてくれた」
次に、私の方の倫理コードを解除する。
彼の方は、彼の意思で解除してもらう必要があるから後だ。
「……俺が勝手にやった事だ。礼を言われるとむず痒い」
彼の言葉は真実で本心だろう。
新川君に襲われていた私を助けてくれた時も、結局彼は遅れてやってきたキリトに相手を引き渡して去ってしまった。
勝手に私を助けて、勝手に私の心を持って行った。
「――…そんなの、許さない」
「シノン?」
怪訝そうに私を見る彼と視線を合わせる。
「オーリ、貴方には義務がある。私の身体を助けて、私の心を救ったから。
貴方には、私を攫う、義務があるわ」
「いや、待て。何だそれ……」
困惑する彼をそのままベッドへと押し倒す。
新規で出来たばかりのアバターに、私とのステータス差は覆せない。
力で押さえつけてしまえば、彼に私を引きはがす術はない。
「……ここまで引き込んで俺を撃つとか、じゃないよな?」
「そんなことしない。でも、逃げないでほしいの」
私が彼の上に馬乗りになって見つめれば、彼は諦めたように力を抜く。
「倫理コードも、解除して」
「シノン、お前自分が何を言ってるかわかってるか?」
「私はもう解除してるもの」
「何してんの?」
コンソールを呼び出して、私は自分の装備を全部解除していく。
その中には、倫理コード解除によって現れた下着の項目もあった。
解除する動きに一切迷いは無く、私は彼の前で全てを晒した。
「ほら」
「ほら、じゃねぇ……!」
顔を赤くして背ける彼の反応が可愛らしい。
それだけで私の体も熱くなってくる。彼を求めてしまう。
「私を、貰ってよ。オーリ」
「そ、それがお礼だってんなら、いらないぞ」
「お礼じゃない……貰って、ほしいの」
貴方の事が好きだから、と告げれば彼が目を見開いて私を見た。
「え、いや、なんで……」
「貴方が私にしてくれた事、全部聞いた。その時から私は貴方に狂わされた。
会いたくて会いたくて、でも現実の距離は遠くて――」
彼の唇と私の唇を繋げる。
彼は拒絶しなかった。
「んっ、はぁ……だから、ここで貴方をもっと近くに感じたい」
私の言葉に、彼の腕が動く。
呼び出したのはコンソールで、項目は倫理コード解除の項目。
「押したら、後戻りしないぞ」
「私は、狙撃手は、狙った相手は絶対に逃がさないの」
彼の手に、自分の手を添える。
まるで結婚式の誓いの様に、私達はボタンを押した。
◇
唇を重ねる。舌を絡め合う。首筋に吸い付く。
彼を味わいながら、私は飢えていく。
お互いに何も纏わない姿で抱きしめ合い、私達は交わり合う。
「オーリ♡オーリィ♡」
彼の名を呼びながら、彼を貪っていく。
私の証を刻み付けるように全身を、隙間なくキスで埋めていく。
その度に体を震わせる彼が、愛おしくてたまらない。
「し、シノン……」
「大丈夫、全部私に――」
彼に呼びかけられて顔を向けた瞬間、両手で引き寄せられる。
吐息を感じられる距離まで近づいたと思う暇も無く、私の口は彼によって塞がれた。
それを認識した瞬間に、私の理性があっけなく蕩かされる。
「んっんっんっんっ♡」
彼から求めてくれた。その事実が私を更に狂わせる。
硬く勃起した彼の肉棒を自分の下腹部に擦りつけて、彼に催促する。
欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。欲しい。
「オーリぃ……」
「そんなに欲しいか?」
体勢を入れ替えられて、彼が私の上に跨った。
口元を歪めて問いかける姿はとても嗜虐的で、私は思わず息を飲む。
そんな顔は見た事が無かった。でもそうするほどに私を求めていると思ったら、頷くしかない。
そうだ。私は彼と繋がりたい。自分の物にしたい。
でもそれ以上に、彼の物にされて、彼だけの事を考えるようにされたいのだ。
「仮想世界じゃ、少し乱暴でも痛くないらしいな」
彼が呟いた事が聞こえて、とうとう来ると思った。
その予感は違わずに硬い彼の肉棒が、一気に私の中に入ってくる。
「んひぃぃぃぃっ!?」
痛みは一切なくて、快楽が私の全身を荒れ狂うように貫いた。
呼吸も何もかもが一瞬止まったような感覚に陥って、痙攣だけを繰り返す。
それが収まって現状が認識できるようになった時、私は喜びしか感じなかった。
「あはっ、一つになれた……♡」
「大丈夫か?」
「うん。だから動いて。私を全部、味わってほしいの……」
私は私の
それに答えるように彼が肉棒を動かし始めて、唇を塞ぐ。
それだけじゃない。私の胸に触れて、硬くなった先端に触れられる。
指先で弄ばれて、爪先で弾かれて、指で摘まれる度に、肉棒を動かされる物と違う快感が走る。それが今貫かれて齎されている快感と混ざり合って、神経が焼け落ちそうだ。
それでも、彼が私に肉棒を打ち付ける音も、舌を絡ませる音も、はっきりと聞こえる。
「あっ、あっ、私っ、気持ちいいっ、おーりっおーりぃっ!」
名前を叫ぶ。目の前の彼にしがみ付くように抱き着いて、もっとと強請る。
打ち付けられる速度が上がって、私の身体を駆け巡る快感がもっと大きく、激しく荒れ狂う。
「シノン、もう、いくぞ」
「来て!全部欲しいの!だから、全部頂戴!」
最奥を貫かれると同時に、彼の動きが止まる。
同時に彼の腰に両脚を絡めて、両腕も使ってしがみ付く。
身体の中では暖かい感覚が広がり、脳裏には閃光が煌めいて。
「いっぐぅぅぅぅぅぅっ!!♡」
私は、彼が齎してくれた絶頂に身を委ねた。
◇
あれから4時間ほど、私達はずっと体を重ね合った。
彼は私の全身を汚し、もう一つの初めても奪った。
私も私で、彼の全身にくまなく自分の身体を擦りつけて、所有権を主張した。
互いに息も絶え絶えに、私達はベッドに倒れている。
「……あれ、ログアウトできない……?」
彼が呟いて、私を見る。
「ここ、時間指定でログアウトできないようにできるの……♡」
あっさりとネタをばらして、私はもう一度彼へと絡みつく。
これがこの拠点に拘った理由。彼を絶対逃がさないための、私達の愛の巣。
設定は6時間が限界だけど、それだけあればまだまだ交わり合える。
「だから、もっともっと、一つになりましょう?」
私だけの、愛しい愛しい
最後ホラーっぽくなったけどこれくらいなら問題ない。ヨシッ!(現場猫感