講義中の静寂さとは打って変わって喧騒で満ちた教室。
手早く広げていた教科書やノートを鞄にしまうと、あなたは仲の良い友人たちに別れを告げ、待ち合わせ場所へと早足で駆けた。
あなたの在籍している大学は都内でもそれなりな偏差値を有している。馬鹿な会話をする奴がいても、講義中は静かだ。
肌寒い風が肌を刺すも目的地へと足は真っ直ぐに進む。
同じように講義終わりの生徒たちの波をかき分け、校内でも随一の待ち合わせ場所である創設者の銅像に辿り着く時には、既に待ち合わせている相手が遠目でも見えた。
背が高く存在感があるのではない。寧ろその逆で、あなたの一つ上の先輩とは思えない小柄な女性が他の人たちと同じように相手を待っていた。
待ち合わせしている相手を見つけたあなたの足は更に早くなり、歩いていると顔を上げた彼女もまたあなたを見つけたようでぱぁっと花が咲くような笑顔を浮かべている。
「こんにちわです、先輩」
「うん、こんにちわ! えへへ、早くあなたに会いたくて先に待ってたの」
照れ照れと外の気温のとは別に顔を赤らめる彼女を見るとやっぱり胸が温かくなる。
彼女――暁とは今年になって出会ったばかりではあるが、既にあなたたちの関係は恋人だ。デートだって何度もしているし、互いの家に泊まった事もある。何なら男女の夜の営みだってしている。
明るい茶色のダッフルコートに身を包んだその姿はやはり年上とは相変わらず思えないが、彼女の年上っぽさは容姿ではなく内面にある。今は亡き古武術を教えてくれた祖父の言葉を律儀に守っているあなたは彼女を見た目で判断しないのだ。
「もうお昼ですし、これからランチでも行きませんか?」
「うん! あ、その……手を繋いでも良いかしら……?」
「はい、勿論です」
手を出すとぎゅっと握るのは小さな手。お手手と思わず呼びたくなるような小さな手は外で待っている間に冷えたのだろう、冷たかった。
「わわっ。えへへ、恥ずかしいけど温かくなれそうね」
握った手をそのままあなたはポケットに突っ込んだ。幸いにも荷物は入れてはおらず、恋人繋ぎをした手だけがすっぽりと収まった。
じんわりと温まるのは指先や手だけではなく、胸もまたポカポカしてくる。
同じ事をしているカップルは見かけないが、誰も注目している人はいないので二人はそのまま仲良く話をしながらその場を後にした。
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「んー、あなたのお部屋に来るのって久しぶりな気がするわ。あなたの匂いがいっぱいであなたの部屋って感じで暁は好きよ」
暁の何気ない一言。特に何かを意識してでの言葉ではなく、部屋の匂いを嗅いで出た感想だが、あなたの顔を赤らめるには十分だ。
好き、大好きと何度もその高い声色で紡がれてきたが、未だにあなたは慣れない。
大男が照れる姿など誰が喜ぶものなのかと思うが、現に今、目の前で喜んでいる女性がいる。
「もぅ、また照れたの? 本当に可愛いんだから♪」
えいっと声を出しながら暁があなたに抱きつく。傍目からすると父親に抱きついた幼い娘に見えなくもないが、彼氏であるあなたの胸の鼓動は更に高まる。
食事を済ませ、あなたの部屋へとやって来た暁は既にコートを脱いでいる。暖房を効かせ始めたばかりではあるが部屋の中は十分に暖かい。だというのに、抱きついてきた暁の体温の方が部屋の温度よりも温かく感じるのは何故だろうか。
「えへへ、あなたの身体って大きいわね。暁の腕が後ろまで回らないわ」
ぎゅっと腕を背中の方へと回すも、横腹辺りで止まってしまう。幼い頃から祖父のもとで古武術を学び、よく食べて育ったからなのかあなたは大男と呼ばれるに相応しい体格をしている。
ラグビーやアメフトと言った体格が必須な競技は勿論、その身長を活かしたバスケなど過去に様々なスポーツからスカウトを受けてきた。が、古武術は自衛のために学んだものであり、どちらかと言えば外で遊ぶよりも内で静かにしているのが好みなあなたは全て断ってきた。ただ断ると角が立つので古武術で忙しいと断ってきたが。
「ならこうすれば良いんですよ」
身体の位置を移動させ、あなたの頭は暁の胸の位置まで動いた。大男であるあなたが暁――ぱっと見小学生な女性に甘えている構図の完成だ。
「あ、本当だ。これならあなたの事を抱き締めてあげられるわ」
ぎゅぅぅぅと優しく頭を抱えるように抱き締められる。トクトクトク、と一定のリズムで刻まれる暁の心音が耳に届く。
ポカポカな体温にミルクのような甘い匂い。心地の良いリズム音と腹が満たされていた事もあり、あなたの瞼は重く降りてきた。
「先輩……眠くなってきたっす」
「いいわよ。暁の腕の中で寝ても。でもここだと風邪引いちゃうからベッドに行きましょ」
勝って知ったる他人の家。何度も招かれた暁は腕の中にあなたを抱えたまま、寝室へと導く。耳元でこっちよと囁かれる声は眠りへと導く子守唄のようだった。
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一時間程度眠りに付いていたあなたは目を覚まし、今は暁が鼻歌を歌いながら料理している後ろ姿を眺めていた。
小さな背丈からは想像するのも難しいが、こう見えて暁は四姉妹の長女なのだ。面倒見が良く、料理の腕も上手く、こうしてあなたの家を訪れた際は手料理を振る舞ってくれる。
長女の暁よりも次女の方が料理は上手いらしいが、あなたからすれば暁は十分にに上手だ。大学進学を期に夢の一人暮らしを始めたあなただが、それなりに身の回りの事は出来る。
それでもこうして彼女が自身の為にお世話をしてくれるというのは胸に熱いものが込み上げてくる。
「先輩……」
「ん、どうしたの? って、わわっ! もぅ、急に抱着くのは危ないじゃない」
後ろ姿を見ているとついムラムラとしてしまったあなたは我慢できずとばかりに抱き着いた。
細い、あなたであれば片手で絞める事が出来そうな首筋に顔を埋め、ミルクのような甘い匂いを肺いっぱいに吸い込む。
危ないから離れてーと身動ぎする彼女の身体を痛めない程度に拘束し、そのまま体温や匂いを堪能した。離れた時には暁の顔は林檎のように真っ赤に染まっていた。
「も、もぅ! お料理してるんだから危ないじゃない! そ、そういうのは後でいっぱいしても良いから今は待ってて」
「……約束ですからね」
あなたは暁との約束を守って離れた。後ろ姿を眺めながら適当にテレビのチャンネルを回す。言葉には出来ないが、紛れもなく幸せなひと時だった。
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大学進学を期に一人暮らしを始めたあなたの住まいは家賃の安いアパート……ではなくマンションだ。
おかげで風呂も広く、大男のあなたがゆったりと全身が浸れる。あなたの開いた股の間に入って湯に浸かるのは暁。料理をしていた時のように機嫌良さげに鼻歌を歌っている。
「わわっ! どうしたの? 急に抱きしめるだなんて」
愛しく感じ、後ろから抱き締めるも驚くだけで、彼女は無抵抗だ。首筋に顔を埋めたまま動かないあなたの頭を後ろに伸ばした小さなお手手で撫でてくれる。
「いいこ、いいこ♪」
あなたの頭を撫でながらそのまま、また鼻歌を歌い始める。
小さな身体なのに、あなたを包み込んでくれているかのようだ。堪らなくなったあなたは彼女の脇の下に手を入れ、くるりと身体を反転させた。
驚いた顔をしてあなたを見つめてくる瞳は大きくも小さい。あなただけを映すその瞳は細められ、仕方がないんだからと口にはしない優しさが宿っていた。
「ん……ちゅ……っ♡」
顔が近付き、そのまま唇同士が重なる。
ぷるんと潤った唇はあなたの唇を跳ね返すかのように弾力に富んでいる。重ね、また離れ、そしてまた重なる。鼻から抜ける甘い吐息と暁の柔らかさにあなたは夢中になってしまう。
暁も口付けに熱中してきたのか、細い腕をあなたの首へ回してでの口付けだ。
「あなたとするキス、暁好きよ。身も心も満たされるみたいで幸せな気持ちになるもの」
「……俺もっす」
「ふふっ、じゃあもっとキスしましょ♡ んー……ちゅ♡ んっ……ちゆっ♡ れぇ……ろっ♡」
小さな唇を押し付けたかと思うとあなたの唇を柔らかくもヌメリを帯びた何かが突いてきた。
それは暁の舌であり、拒む理由もないあなたは素直に口内へと招き入れた。入って来た舌と自身の舌を絡め合わせ、口内に溢れてきた唾液を交換し合う。控えめな音ではあるが、喉を鳴らして飲むのが暁は好きらしい。コクン、コクンと聞こえてくる。
「っぷぁ♡ えへへ、やっぱりあなたとのキスって素敵だわ♡」
「……あぁ、もう。そんな事言われると俺止まれないっすよ」
「うん、いいよ。……その、今日はそのつもりであなたの家に来たの」
「……っ!」
照れながらそう口にした彼女を、居ても立っても居られなくなったあなたは抱き締めた。
ぎゅぅぅと腕に力を入れ、しかし彼女が痛くて苦しまないように慎重に抱き締める。甘いミルクの匂いは変わらないが、ほんのりと汗の匂いが混じり余計に興奮してしまう。
今すぐにでも暁を愛したいが、お風呂は狭すぎる。心地よい無言で二人は身体や髪を洗い、改めて布団の上で裸で向き合った。
渋の方で暁のバブみモノを見たときからこそこそと書いてたんですけど、やっぱり最後までは行けなかった……。
ヒロインは二次創作である以上、モデルがあるので口調はトレースすれば問題はないんですが、男側の口調が困ってしまう。後輩だからと適当に「っす」にしたけど、大男が言うのかね……。