苦労して入った大学であなたは一目惚れをした。
今まで恋という感情自体に肯定的ではなかったあなただったが、入学式で彼女を見てからは自然と彼女の事ばかりを考えてしまっている。
それからというものの、勇気を振り絞り彼女に話し掛け名前を交換し、連絡先も交換出来た。
それから一年、気が付けばあなたは彼女と同棲していた。
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切欠は友人のからかいだった。
お前らって付き合っているのと笑いながら冗談っぽく口にした彼の言葉に彼女――アナスタシア・ニコラエヴナは顔を真っ赤にして俯いた。
雪国出身の彼女の肌は白く、彼女の出身である雪のように白いので直ぐに分かってしまう。
あなたはそんな彼女を見て愛おしさが爆発し、気が付けば友人の前だというのにアナスタシアに向かって告白をしていた。昔からの度直球なただの好きだという言葉で。
彼女は更に顔を真っ赤にし、だけどあなたの言葉に一つ頷き、彼女もまたあなたの事が好きよと返事を返してくれた。
あなたは嬉しさのあまり小躍りしたい気分になったが、場所が大学の講義後の教室だったので二人のやり取りを見ていた生徒が少ないながらにいた。
彼らに羨ましがれながらも祝福され、更に二人は顔を真っ赤にしたが、あれも良い思い出だ。
それが今からひと月前の話。
住んでいたアパートが老築を理由に取り壊される事が決まり、次に住む場所を探していたあなたをアナスタシアが誘ったのだ。私の家で良ければ空き部屋があるからどうかと。
そんな訳であなたはアナスタシアとの同棲生活が始まったが、驚くほど彼女との生活はあなたにぴったりだった。
朝に会えばおはようと口にし、彼女が先であれば彼女が、あなたが先であればあなたが互いに紅茶やコーヒーを淹れてあげる。
朝の一杯を楽しめばそのまま流れで朝食になるが、互いに一人暮らしを一年は続けていたのでそれなりの腕前だ。
どうやら今日は既に彼女が先に起きていたようだ。
「おはようナーシャ」
「えぇ、おはよう。紅茶とコーヒーどちらが良いかしら?」
「んー……今日は紅茶で。ナーシャの淹れてくれた紅茶は美味しいしね」
「……ありがとう。でも、これはインスタントの美味しさよ。今度あなたに本物の紅茶を淹れてあげるわ」
都内にあるマンションの一室なので、あなたが以前に住んでいたアパートよりも今の家は拾い。
リビングのテーブルには彼女が先ほどまで読んでいた小説が置かれ、台所からは紅茶の入る良い匂いがしてくる。
「はい、どーぞ。淹れ立てだから熱いから気をつけなさい」
「ん、ありがと」
まだ寝起きで稼働していない頭を紅茶の熱さと美味さで起こす。
一口飲み、ぼんやりと目の前に座った彼女を見る。
手入れを欠かさない銀色の髪は長く、油断すれば床にまで付いてしまいそうだ。
しかし、彼女はそんなのは慣れているとばかりに髪を少し纏め床に髪の毛が付くことはない。
寒いのに慣れているという彼女の部屋着は少し薄く、寒いのよりも熱いのが苦手と男のあなたには少々目に毒な格好をしている。
もう少しすると彼女の苦手な夏がやってくる。去年は友人として彼女の熱いという悩みを解決するのに尽力を果たしたが、今年は彼氏として何かをしてやりたいと思う。
そんな風に彼女を眺めていると、小説に目を落としていた彼女も気が付いたらしい。
「私の顔ばかり見てどうしたの? 何か付いてるかしら」
「……いや、綺麗だと思って」
「……そう。やっぱりあなたは恥ずかしい人だわ」
「やっぱりって言うなよなぁ……」
ポリポリと頬を掻くとアナスタシアは楽しそうに笑った。
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夕食も食べ終え、歯磨きや入浴を済ませると後は寝るだけだ。
一日の殆どをリビングで二人で過ごすあなたたちだが、夜は各々の時間とばかりに部屋に籠もるのだが、今日は少し違うようだ。
コンコンと部屋のドアがノックされ、あなたはどうぞと扉越しに声を掛ける。
部屋に入って来たのは当然、もう一人の住人であり家主でもあるアナスタシアだ。
「どうしたの?」
「いえ……その……こ、今晩は一緒に眠らない? ってお誘いに……」
枕を抱きかかえ、自分の言葉に恥ずかしさを覚えた彼女は朱色に染まった頬を隠すかのように顔を枕で隠す。
そんな彼女の行動に胸を打たれたあなたは一瞬の思案も無しに頷く。
何となく見ていた本を机の上に置き、アナスタシアを自室のベッドへと誘う。
「ほら、おいで。抱き締めてあげる」
「……えぇ、頼むわ」
あなたよりも僅かに背丈の低い彼女を後ろから抱き締めてベッドの上で横になる。
髪の毛からシャンプーの匂いと彼女の体臭が香ってくるので、嗅ぎたいとあなたは鼻を埋める。
「ちょっと……恥ずかしいわ」
「えー……でも俺、ナーシャの匂い好きだし」
「……そう。なら仕方ないわね。私もあなたの匂いが好きですし、嗅がせて貰うわ」
クルリと身体を反転させ、アナスタシアはあなたの胸にあなたがしたように鼻を埋める。
男の自分の匂いを嗅いでも面白くはないだろうにと苦笑するもあなたは彼女の髪を手に取り嗅ぐ。
サラサラと一度も引っ掛かる事のない髪の毛の手触りは高級なシルクにも勝るとも劣らない。
暫くの間、そうして二人の時間を過ごしていると不意にアナスタシアが身動ぎをした。
「ん……? どうしたの?」
「そ、その……キス、したくなったのよ。ダメ、かしら?」
「……いや、ダメじゃないよ。ナーシャとのキスなら俺はいつだって良いもん。ほらしよ?」
「えぇ。ん……はぁ……やっぱり私、あなたの事が好き。大好きよ。日本に来たばかりだったけど、あなたと出会えたのが何よりもの幸せだわ」
「……俺も。ナーシャを入学式で見て、初めて一目惚れって本当にあったんだなって思った。これからも宜しくね」
「えぇ。此方こそ宜しく」
彼女の頭を抱え、そのまま二人は瞳を閉じて意識を闇へと落として行った。
ナーシャという可愛らしい愛称を頂いたのでアーニャから変更させていただきました。
リクエストではイチャラブエッチと書いてありましたが、何故かエロは浮かばず、気が付けばタダの羨ましい話になりました。
アナスタシアみたいな彼女と同棲とか想像だけでご飯が食べられそうです。まぁ、持ってないんですけどね!