ボツ 手芸部の千雪先輩
手芸部は万年、人数不足だ。
本来であれば部活動として活動する人数に足りていないこの部活は廃部になるのだが、有名なOBを輩出した部活動として廃部にならないのだ。
今現在、所属しているのは俺を含めて二人。部長である千雪さんと俺の二人っきりで回している部活動なのだ。
この学校にいるものであれば、知らないままでいる方が難しいほど有名な先輩――桑山千雪。俺と一つしか変わらない筈なのに、話しているとまるで優しい母親……いや、ママと話しているように錯覚してしまう。
包容力もあり、手芸部はボランティアとして近くの幼稚園に手芸した作品を毎年プレゼントしているのだが、俺が失敗しても先輩は優しく叱り、そのまま一緒に直してくれるのだ。
メッと叱るその姿は本当にママみたいなのだ。まぁ、ママなんて呼んだ日には死ねるまであるが。
「時間も結構いい時間だし、今日はここまでにしよっか」
「あ、そうですね。もう五時半なんだ」
先輩と話すのも楽しいし、俺の趣味である手芸をしているとあっという間に時間が過ぎ去ってしまう。
作りかけの作品を丁寧に片付け、二人で部室を出る。この時間となると他の文学部は活動を終え、帰宅しているので部室の周りは静かだ。俺と先輩の靴の足音だけが廊下に響く。
「あ、そうだ。今日はスーパーの特売があったんだ。ごめんね、今日はちょっと急いで帰るね」
「それなら俺も寄りますよ。一人だと一つしか買えない商品も二人なら二つです」
「え……ふふっ、ありがとう」
いつもは先輩とお喋りをしながら別れ道まで下校しているのだが、今日はちょっと違うみたいだ。
先輩は実家の山口から一人で東京にやってきたので、一人暮らしをしていると言っていた。スーパーの特売と口にするその姿はまさにママ。お喋りをしながらも、早足でスーパーへと駆けていく。
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「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした。口に合ったようで良かったわ」
「いえ、先輩の料理美味しかったです。皆に自慢したくなる味でした」
「もう、大袈裟なんだから。あ、珈琲と紅茶どっちが良い? 遅い時間だし、紅茶かな?」
「んー……じゃあ紅茶でお願いします」
先輩と一緒にスーパーで買い物をしたあと、折角だからと食事の誘いを受けた。
初めて先輩の家を知り、そのまま初めて異性の部屋へと足を踏み入れた。大事な一人娘をアパートに済ませるのではなく、立派なマンションの一室を借りている辺り、先輩がどれだけ家族に大事にされているのかが伺える。
手芸で作った作品が部屋のあちこちに飾られていて、見ているだけでも楽しい。見た事のない作品はきっと家で一人で作った物だろうし、見覚えのある作品もチラホラと見える。
「はい、どーぞ。熱いから気をつけてね」
「ありがとうございます」
持ってきたお盆から紅茶の入ったカップがテーブルの上に置かれる。ホカホカと湯気を立て、熱そうだが、美味しそうな匂いをしている。
節約第一の先輩の事だから、高級品のモノではないのだろうが、先輩が入れたというだけで俺には最高級のものに思えてしまう。
紅茶を飲みながら談笑し、更に時間が過ぎた。
「あ、ごめんなさい。こんな時間まで話し込んじゃってたね。そろそろ後輩くんも帰らないと家族が心配しちゃうよ」
「あー……そうですね。名残惜しいですけど、そろそろ帰ります」
「うん、じゃあまた明日ね」
「はい。また明日」
先輩に見送られ俺は先輩の家を後にした。
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あれから先輩はちょくちょく俺を食事に誘うようになり、俺は何度も先輩の家に足を運んだ。
一緒にスーパーで買い物をした後に先輩の家に寄って行くと、まるで夫婦のように思えてしまう。まだ彼氏彼女の関係ですらないのに。
先輩には明かしてないが、俺は先輩に恋をしている。
入学したての頃にあった行事の一つである、部活動紹介の時に一目惚れしてしまったのだ。楽しそうに部活動紹介をしながら、手芸を皆に見せる笑顔に魅せられた。
母親の血なのか手芸は俺の趣味でもあったので、違和感なく入部する事が出来た。まさか先輩と一年以上も二人だけになるとは思ってもいなかったが。
「今日は眠そうだけど、夜更かしでもしたの?」
「えぇ。ちょっと作りたかった物を作ってたら夢中になって」
「もぅ……身体壊したら危ないんだよ。ほら、こっちにおいで」
我らが手芸部は偉大なOBのおかげで広い部室をいただいている。畳のある和室とテーブルがある部屋の二つがセットになった部室なんて、この学校広しと言えどら手芸部だけだろう。
俺は椅子に座りながらの作業を好み、千雪先輩は畳の部屋で畳の上で座って作業するのを好んでいる。つまり、先輩と俺との間には距離があるのだ。そんな距離を埋めろと言わんばかりのこっち来て。
作業の効率の為もあるが、先輩から香る甘いお菓子のような匂いを嗅ぎたくなくて離れているのだ。絶対だらしのない顔になるだろうから。
ぽすぽすと先輩の座っている場所の隣を手で叩いている。俺はペットなのだろうか。
先輩には逆らえず、先輩の隣に腰を下ろす。あぁ、やっぱり匂いがしますよね!? 好きなお菓子を食べているときのような幸せな気分になっていく。
「ではどーぞ。膝枕してあげるから、少し寝てもいいよ。後で起こしてあげるから」
「え、いやいやいや。そう言うのは恋人同士でするもんですよ!? 分かってます? 俺て先輩は部活の先輩後輩なんです! しかも異性です。あまりそう言うのはやらないほうが良いですよ。ヘタレな俺だから今回は良いですけど、相手によっては危ないですよ」
早口でまくしたてる。
ヘタレとか自分の事を言ってしまった気がするが、マシンガントークをかまさなければ恥ずかしくて無言になってしまいそうだった。
俺の言葉を受け、先輩は一度首を傾げると、そのまま何やら考え始める。
「……うん、後輩くんならいいよ、私」
「……え?」
聞き間違えかと思い、先輩の方に顔を向けたが、先輩の顔は何時もより少し顔を赤くしていた。それだけに、先輩の言葉が嘘でも冗談でもないという事が分かってしまった。
「ほら、太腿に頭を乗せて?」
「は、はい……」
有無を言わさないような先輩のオーラに頷いてしまい、そのまま流されるように頭を太腿に乗せてしまう。
先輩は小食なのだが、肉の付いた女性らしい身体の持ち主だ。必要以上に脂肪が付いちゃうと愚痴をこぼしていたが、男の俺からすれば先輩はもう少し太っても良いと思うけど。
程よく頭が沈み、低反発枕のように少しだけ抵抗力のある柔らかい肉の枕。制服のスカート越しに頭を乗せてはいるが、柔らかさが直に伝わってくるかのようだ。
密着した事でより先輩の甘い匂いが濃くなり、とてもではないが寝れる状態ではない。
目を瞑り、先輩の顔を見ないように心掛ける。今の俺の顔は真っ赤だろうし、先輩も同じだろう。どういうつもりで先輩は俺なら良いと言ったのかは分からないが、この奇跡を堪能することにした。
「ふふっ♪ いいこ、いいこ」
先輩の蕩けるような甘い声が催眠術かのように耳に入り、俺の意識は闇に落ちていく。欲を言えば、もう少し膝枕の感触を楽しみたかった。
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先輩に膝枕をしてもらってから一月が経過した。
先輩は気に入ったのか、あれから何度も俺に膝枕をしてくれ、遂には耳掻きすらするようになった。放課後は先輩に膝枕をされ、夜になれば先輩の家で夕飯をご馳走になる。まるで夢みたいな生活を送っていた。
いい加減この生活を止めなければと思ってはいるのだが、なかなか言い出せない。ニコニコと楽しそうに俺の頭を撫でたり、耳掻きをしているんだぞ! あんな先輩に止めましょうなんて言える勇気は俺にない!
☆
私、桑山千雪には一人の後輩がいる。いや、この言い方だと、他に後輩がいないという意味になってしまうから、部活動を共にする程の仲の良い後輩は一人だけだ。
先輩から部長を継ぎ、誰かが来るだろうかと思っていたら、唯一やってきてくれた男の子。真面目で優しいとっても良い後輩くんだ。
ただ、後輩くんは人から頼まれ事をすると断れないのか、必要以上に背負っている物が多い。仲良く部活動で手芸をしている時も、船を漕いでいる時をチラホラと見る。
その度にメッて叱り付けてはいるのだが、彼はそれでも変わってくれない。仕方ないので家に彼を呼んだりして、夕飯をご馳走したり、最近では膝枕もしてあげるようになった。
私もそうだけど、膝枕をしてあげると顔を真っ赤にするのが可愛い。普段はどちらかと言えばカッコいい顔をしている(特に集中してる時とか)けど、私の太腿に頭を乗せている時は安らかな感じがする。
最初は彼を休ませてあげたくて始めた膝枕だけど、彼の安らかな顔を見るのが楽しみな私がいる。この気持ちの名前をまだ知らないけど、悪いモノではないだろう。だから私は今日も彼を誘うのだ。
とある音声作品を聞いて書いたのですが、上手く頭に浮かばなかったので適当に切り上げたボツ作品です。
シャニマスで作者が好きなのは恋鐘ちゃんです。正月のが一番推しです。