どっかの社長風に言うなればまさにティンときただった。
まだ担当のアイドルを持っていなかったあなたは街へスカウトへと繰り出していた。何度目の散策かも覚えていない。アイドルの原石というものはそれほどまでに見つからないものだ。
散策を始めた頃はまだ新品同様だった革靴も今やボロボロだ。スカウトをする身としては身嗜みに気を払うべきなのだろうが、担当がいない事に焦っていた当時のあなたはそこまで気が回らなかった。
そんなある日、あなたは遂に運命と出会った。学友との帰宅最中なのだろう。ランドセルを背負い、隣に歩く友人と仲良く会話している少女を視界に収めた瞬間、あなたの身体に電流が走ったかのような衝撃があった。
日本では珍しいハニーゴールドの髪色に歩く姿だけで分かる育ちの良さ。コロコロと会話の中で変えていく表情はまさに目を引くもの。彼女が原石でなかったら、他も全て石ころだと断言出来た。
年頃の少女と成人したあなたとでは目線が違う。動物もだが、人間も目線が違うと本能的に良い思いはしない。なるべく胡散臭くないように笑顔を浮かべ、中腰になってあなたは話し掛けた。
それから一年以上もの月日が経った……。
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結果から言えば、あなたがスカウトとした少女こと櫻井桃華はアイドルの中のアイドルになった。
今や彼女を知らない人間が居ないほどに有名で、彼女がライブをするとなると数千人規模で人が動く。数多くない席を取るためにネットのサーバーが落ちたのも一度や二度ではない。
ただ、誤算としてあまりにも忙しい生活だった。担当を持っていなかったあなたは正しくいうのであればまだ新人だった。職場に先輩はいるが、先輩も忙しく、何よりも小さな事務所だ。ノウハウもあまりない中、あなたは必死に桃華とトップアイドルを目指して走り続けた。
人気になるまでも、人気になってからも忙しかったが、今日は久々の休日。今までも休みはあったが、仕事の事ばかりを考えていたので、あまり休んだ気にはならなかった。
今日は一日ゴロゴロしているぞと、寝るだけだったベッドの上で決意した。その矢先だった。
ピンポーンと控えめながらに来客を知らせるインターホンが鳴った。荷物を注文した覚えはなく、誰だろうかと首を傾げながら玄関へ。
「……はーい」
「おはようございますわPちゃま♪」
家の扉を開けると、居たのは担当アイドルである櫻井桃華だった。
よそ行きの服装だが、本人も有名になったとの自覚もあって変装されている。が、そんな変装すらも、彼女がしているとそれだけで絵になる。初めて会った時のように目を奪われてしまう。
放心しているあなたを心配したのか、小首を傾げながらPちゃま? と聞いてくる。そう言えば、彼女がPちゃまと呼ぶようになったのはいつ頃だろうか。二人三脚が始まった頃はプロデューサーだった筈だ。
「あ、いや……何でもないよ。それよりも何かあったのか? スマホに連絡をくれれば良かったのに」
「いえ、何か用事というよりも、ただPちゃまの顔が見たくなりましたの」
「なんだそれ」
あなたが笑うと彼女も控えめに笑った。
立ち話も何だしとあなたは彼女を家に上げた。ローンを組んで購入したマンションの一室だが、あまり生活感はない。職場に寝泊まりするのは珍しい事ではなく、先輩もあなたも寝るのは家のベッドでよりも、持ち込んだ寝袋かソファーの方が多い程だ。
あまり見ないでくれると助かると言いながら彼女をリビングに招待し、冷蔵庫からお茶を取り出す。ガラスのコップに二人分を注ぐと渡す。夏が過ぎたとはいえ、近ごろの秋はまだまだ暑い。
「桃華も休みだってのに、俺に会いに来るなんて暇だったのか? いや、悪い訳じゃないんだが、ほら友達と遊びに行ったりとか……」
「うーん……最近はわたくしも忙しかったですし、あまり友人たちと話が合わないのが多いんですの。それに、有名になったというのもあって……」
「あー、そっか。すまん、不躾な事を聞いたな」
金は人を狂わす。トップアイドルになった彼女に擦り寄る人間は何処にだっている。それが例え友人だったとしても。
「あまり物もない家だが、まぁゆっくりしてくれ」
「ありがとうございますわ」
職場でも会話するが、その多くは仕事関係だ。完全にプライベートな時間にこうして話をし、アイドルとの絆を深めるのも悪くないと改めて思う。
コロコロと表情を変えて色々な話題を振ってくれる彼女の言葉に頷いたり、聞き返したり、今度は逆にあなたから話題を振ったりとしていると時間はあっという間に過ぎていった。
くぅ……と小さな音がリビングに聞こえてきたのでやっと時間を見ることが出来た。音の発信源はソファーで横に座る(いつの間にか横にいた)桃華であり、顔を向けると恥ずかしそうに頬を染めていた。
「簡単なモノで良ければ作るが食べる? 夕飯も近いだろうし、止めとくか?」
「……いえ、Pちゃまさえ宜しければご相伴に預からせていただきますわ。家の方には連絡しておきます」
「ん、分かった。適当にテレビでも見て時間潰しておいてくれ」
一人暮らしの家であり、中々帰って来ないが、それでも食材はある。実は実家が農家であり、店や市場に卸せない商品を貰っている。欠けや形が不揃いといった理由であり、品質は店にあるのと変わらない。
一人暮らしは高校時代から経験しており、これでも家事洗濯炊事は出来る方なあなたは手際良く料理を始める。
部屋中に広がる料理の匂いに釣られたのか、桃華が近くに来て料理をするあなたの手元を見ていた。
「もうすぐで出来るぞ」
「Pちゃまがお料理を出来るのは聞いていましたが、随分と手慣れているのですね」
「まぁな。これでも料理は得意だ」
「……むぅ。わたくしもまだまだですわね」
あなたの手元を確認し、何やら呟く彼女。料理する音であなたの耳には入らなかった。
出来た料理を皿に盛り付け、炊きたての米を茶碗によそう。米は親戚から安く買っているものでブランド物だ。炊きたてと言う事もあり、ツヤツヤで見るからに美味そうだ。
桃華も手伝ってくれた事もあり、一回で全ての食器を台所からリビングに運べた。
桃華は職場で飯を食べる時もテレビは見ない派であり、あなたも目ぼしい番組がないからと消した。
二人揃っていただきますと口にすると、部屋の中には食事をする音だけが響いた。
「ごちそうさまでした。とても美味しかったですわ」
「お粗末様。それは何よりだ。誰かに手料理を振る舞うってのも久々だったが、喜んでもらえて良かったよ」
大学時代は貧乏学生な友人たちと金を出し合い、あなたの家であなたが振る舞っていたりした。何だか懐かしい気持ちになってきたなと食後の茶を飲みながら思った。
「さて、そろそろ遅くなってきたし送るぞ」
「いえ、家の者に連絡すれば来てくれますわ」
「たまには良いだろ。ゆっくりと夜景でも見ながら、な?」
「……もぅ」
皿に水をつけ、適当に身嗜みを整え、家の鍵、車のキー、財布をポケットに入れると桃華を伴って家を出た。むわりと扇風機を回していた室内と違い、まだ夜風は生温い。
楽しく談笑しながらあなたたちは車に乗り込む。以前に桃華の家へは行ったこともあり、ナビに住所を打ち込むも、必要はないだろう。夜景のコースをどうしようかと考えながらハンドルを握った。
ちゃまとのエッチものを渋で読み、久々に書くかと思い設定も練らずにやったらエッチには持っていけない雰囲気の作品に……。
というか、何気にPちゃま呼び初めてですね。原作寄りにすると整合性が大変だからとあまりしたくはないのですが、これはこれで。