新たに一致団結し、この島から脱出するという目標を立てた一同は、大雅はこれからのプランを話し始めた。
まず1つは陣形の変更。
ただ歩くのではなく、陣形を変える事にしたのだ。
もう1つは、進む道の変更。
舗装路は平坦で安全だが、蟲に発見されやすく、危険であったが睦美が言ったように、山中を歩けば蟲に発見にくくなり、危険が少ないのだ。
その間に蟲が迫ってくるという危険もあったが、それは大雅がカバーすると言ったのだ。
「よし。それじゃあ先頭は俺が行く。周囲を警戒しながら蟲が来たら応戦する。
伊能さん、織部さんはナビをお願い。特に織部さんは環境の変化や異変があったらすぐに教えてくれ。
甲斐は右、左は成瀬さんお願い。三浦さんは変な音を聴いたらすぐに教えてくれ。
箕輪、松岡さんは周囲を警戒しながら逃げられそうな場所があれば、皆をそこに誘導してくれ。他のみんなも周囲を警戒しながら進む!行くぞ!」
その言葉に上條、青山、中城以外が返事をして頷くと、歩みを進めた。
互いにサポート出来る位置に居るようにし、すぐに異変があれば動けるようにしていた。
彼は別に率いているわけではない。
勿論、何か目的があってこうしているわけでもない。
ただ純粋に"生"にしがみつこうとしているのだ。
「(こんな所で死ねるか。それにこれ以上は死なせない。アイツ等のような死人は……もう見たくない。)」
大雅はかつて転生したベルセルクの世界で行われた"蝕"で、無惨に、無慈悲に殺された仲間達の事を思い浮かべていた。
黒獣の世界では忘れかけていたが、この世界に来てからそれを思い出し、そこからは誰も死なせたくないと思った。
だから彼は足掻く。無様に生に対して足掻くのだ。
そんな中、他の者達は別の事を考えていた。
「(凄い……鷹村くん、人の得意な場所に配置しながら的確に動けるようにしてる。これ、私達だけじゃ成功しなかった。)」
「(鷹村くん、的確に人が動けるようにしてる……。彼はあの虫を倒せる力の他に、周りを広く見れている。彼、私、睦美、伊能さんが連携すれば、みんな無事に島から脱出出来る。)」
「(やっぱ、大雅に付いて正解だねぇ。これなら安全に島を出れそうだわ。)」
「(大雅、ますます離せない奴になったわ。あの先生達に着かないで正解……虫の餌にされるのは御免よ。)」
「(鷹村くん、凄いなぁ……でも、あんなに強いなら虫も怖くないだろうし、着いていけば安全だ。)」
「(鷹村くんは、私達の事を守ってくれてる……それが何だかすごく安心できるし、何だか暖かい気持ちになれる。)」
「(皆で帰るんだ……。その為には鷹村くん達に着いていけば良いんだ。)」
「(みんな良い顔になってる。これならみんなで帰れそうだね。委員長に織部さん、それに鷹村くん、この人達と一緒なら皆で助かる。)」
睦美、成瀬、甲斐、美鈴、小田、真実、白川、伊能がそんな事を考えながら、歩いているとその後ろで鈴木と宮園がヒソヒソと話していた。
「……鷹村くん、結構頼りになるね……。」
「……うん。それに格好いいし、早くに会っておけば良かったかも……。」
「……佳代、それって浮気になるんじゃない?気を付けなよ?一応彼氏いるんだから……。」
「……え!?そ、そうかなぁ?……。」
そんな中、松岡と歩いていた箕輪が話し掛けてきた。
「おい、松岡と言ったな?」
「なに?」
「お前は鷹村をどう思っている?」
箕輪の質問に、松岡はう~んと唸りながらも答えた。
「……頼りになると思ってる。今まで睦美の知識と鷹村に助けられてきたから。アイツがいなかったら、もっと犠牲になってただろうし。」
「そうか……俺達も、もっと早くアイツと出会っていれば良かったのかもしれないな。」
「そうかもね……ところで、後ろの桃崎ってのはどうしたの?」
松岡がそう言って彼女の方を指差すと、箕輪が見ると桃崎は何かを考え込んでいた。
「おいどうした。何か考え事か?」
「あの鷹村という人、いくらかしら?」
「は?」
「彼を雇うとしたらどれだけの金額が必要かと思いましてね。この島から出たら、彼を雇おうと思いまして。」
「アンタ、そんなこと考えてたの?」
「えぇ。こんなに欲しいと思ったのは初めてですわ。その…………異性として………。」
桃崎は最後にぶつぶつと何を言ったが、最後まで聞き取ることは出来なかった。
大雅に惹かれる者が多くいる。彼によって死ぬ筈だった者達が、その運命は砕かれたのである。
しかし、その中でそれが面白くない者達がいた。
特に大雅を恨み辛みの籠った視線を向けていた上條は、イラついていた。
「(くそっ!どいつもこいつも鷹村のことばかりよぉ!あんな奴より俺の方がリーダーに相応しいんだっての!?)」
上條は大雅を睨み付けながら、腹の中で毒を吐く。
本来なら彼がリーダーになると思っていたが、そこに大雅が現れてからは、彼の言葉に耳を貸す者は誰もいなかった。
彼は大雅を目の敵にしており、彼の近くにいる者達が気に入らなかった。
「(くそっ……あの野郎をどうにかして消さねぇと)「ねぇ。」あ?」
爪を噛んでいた上條に青山が近付いてきた。
「何だよ?」
「大切な話があるの。貴方にとっても損の無い話よ。」
青山の言葉に上條はポカンとなっていた。
しかし、彼女が耳元で呟くと上條は悪人のように笑い、それを見ていたアキラは首を傾げたが、何か嫌な予感がしていたのだった……。
その後、大雅達は蟲に襲われる事なく、無事に安全地帯に近い場所まで到達する事ができ、今は森の中で休みながら周囲を警戒していた。
その中で睦美は成瀬と話していた。
「あの階段を上れば安全地帯なの?」
「はい、あと少しです。でも……」
「どうかしたのかしら?」
「ここ、以前に行ったヘビトンボがいたメディカルセンターと同じように生き物の気配が無いんです。」
「他に捕食者がいるってことなの睦美?」
「多分、そうだと思う。」
そんな中、大雅は視力を強化すると階段の壁辺りに何かの巣の様なものを見つけた。
「(何だあれは?虫の巣なのか。"エコーロケーション"!)」
大雅は即座にエコーロケーションを使って辺りを調べると、何かが自分達の背後にいるのを感じとり、即座に見聞色を使った。
すると、そこにはある蟲に殺された箕輪の姿があった、
「!?箕輪、松岡さん!そこから離れろ!!」
「なに?/え?」
大雅の言葉に驚き、箕輪達が荷物を落とすと枝が折れ、身体の大きな箕輪に迫り、彼は突き飛ばされてしまった。
その瞬間に何かの糸が彼に巻き付いていくが、彼は自慢の力で糸を剥がそうとする。
そんな彼に向かって牙らしき物が突き立てられそうになるが、大雅が襲い掛かった何かを蹴り飛ばすと糸をナイフで切り裂いた。
「大丈夫か!?」
「す、すまない!助かった!」
「箕輪さん!鷹村くん!……っ!?」
睦美が蹴り飛ばされた相手を見ると、息を飲んだ。
そこには8本の足を持つ蟲が現れたのである。
「あれは……"ジグモ"!?そんな、どこから出てきたの!?」
ジグモ クモ目ジグモ科に属するクモの仲間で、地上性のクモである。地下に穴を掘って、袋状の巣を作る。
「じ、ジグモ?てことは、あれ蜘蛛なの睦美ちゃん?」
「はい。皆さん、地面に響く音で獲物を感知します。出来るだけ音は立てないで下さい。」
「安全なんて嘘じゃない!」
しかし、ジグモは自分を蹴り飛ばした大雅の方を見ており、身体を大きく見せるようにして、立ち上がると鋭い牙を見せてきた。
その瞬間に合図を出した。
「みんな、ゆっくりと階段に向かって進め。ここに蜘蛛はこの1匹しかいない。」
「何故貴方にそんな事が分かるの!?」
「多分、こいつの仲間はジガバチに捕まって食われたんだ。恐らくここに来る前に、こいつ以外は食われたんだろう。」
「っ!それで生物の気配がなかったんだ。」
「多分な。みんな、今の内にゆっくり進め。出来るだけ音を立てないように。」
大雅がそう言うと、鞄の中から毒煙玉を取り出す。
そして、それを投げようとした時だった。
上條は拾った石で大雅を殴り付けると、大雅はその場に倒れこむ。
「おらあァァァァ!!」
「がっ!?か、上條、何……を!?」
「お前はクモの餌に……なりやがれ!!」
そう言うと、上條は大雅の鞄を盗むと毒煙玉を幾つか使い、それを辺りにばらまいた。
周囲に毒の煙が拡がり、ジグモはその場から立ち去り、全員も毒煙玉の煙を吸わないように息を止めた。
その後、モクモクとした煙は消えた。
「あ、あれ?ジグモは!?」
「多分、さっき上條くんが投げた毒煙玉に驚いて逃げたんです。それより、鷹村くんは!?」
全員が大雅の方を見てみると、そこには頭から血を流した大雅と彼を守るようにしている箕輪がいた。
「箕輪くん!?鷹村くんは!?」
「気絶しているだけだ!それより、上條は!?」
「っ!青山達や食料も無い!?まさか……!」
美鈴が階段を登ると、そこには社のような建物があり、その中に上條、アキラ、中城、青山が入っていき、扉に鍵を掛ける。
「くそっ!おいこら!!ここを開けやがれ!!」
「へっ!断るぜ!!お前ら全員虫の餌になりやがれ!!」
「上條くん、貴方どういうつもり!?」
「鷹村が悪いんだよ……アイツが現れなきゃ、今頃は俺の天下だった。だが、奴が来たせいで台無しだ!?奴には責任とって死んでもらうことにしたんだよ!」
「この……!青山!ここを開けろ!先生、あなたも何とか言ってください!!」
箕輪がそう叫ぶと、中からは冷たい声が聞こえてきた。
「箕輪くん、貴方達は先生や私達を裏切った。和を乱す鷹村くんに付いたのが間違いよ。」
「ちょっと、望!ここを開けて!」
「嫌よ!私と先生、上條くん達はここで助けを待つわ!貴方達はそこで蟲に襲われないようにすることね!!」
仲間だと思っていた者達の裏切りに、全員が息を飲んだ。
彼らは裏切りの算段をつけていたのだ。
どうすれば、邪魔者である大雅を消せるのか、どうすれば自分達が助かるのかを青山が考え、それを上條が実行したのだ‼️
「このっ!?いい加減にしろ!おい、お前たちも手伝え!」
「あぁ!」
「あいよ!」
箕輪は気絶している大雅を成瀬に預けると美鈴、甲斐と共に扉を開けようとするが、扉はびくともしなかった……。
全員が身勝手な上條達に怒りの感情を向ける。
しかし、皆はまだ気付かなかった……本当に怒っているのが、誰なのかを……。
はい、ここで質問。
この裏切り者達、どうしてやりましょうか?