※この作品はR-18です。

天使のトラウマ   作:黒糖バス

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4話くらいで終わります。


天使のトラウマ

 ──『おお、アリサの所の新人だな。よく来た』

 

 白い髪のまるで天使(・・)の様に美しい少女は怯えた表情を浮かべ、目の前の光景に圧倒されていた。彼女が連れて来られた部屋の中には肥え太った1人の男と、そして容姿の整った若い少女達が何人かいた。

 

 直接会うのは初めてだが、少女の記憶にもある最近デビューしたアイドルや女優の子達だ。テレビの中では明るい笑顔を振りまき、凛々しい演技を披露していた彼女達だが、今は涙を流して悲しみにくれている。

 

 そして何より異常な事に、彼女達は皆、衣服を何一つ身に付けておらず、その幼い裸体を男の前に晒していた。

 

 ──『ほら見なさい。君の同期の子達は先月から私の所に通っているよ。全く、新人のクセにガードが堅くて手間取ったじゃないか』

 

 男はドアの前で立ち止まっていた少女を手招きする。

 その顔はイヤらしく歪んでおり、彼女の胸や脚に不躾な視線を向けていた。

 生理的な嫌悪感で鳥肌が立つのが分かる。

 

 ──『何をしている? 早くこっちに来い。あまり私を煩わせるな』

 

 先程より幾分かトーンの低くなった男の声に少女の身体はビクッと震える。

 

 何故こんな事になっているのか彼女には全く分かっていなかった。

 ただ、目の前の男を怒らせてはダメだという事だけは理解出来た。

 少女は恐る恐る足を前に進め、男の前に移動した。

 

 ──『ふん。白か。髪と合っているな。どれ中はどうかな』

 

 男は近付いた少女のスカートをめくり、その中身を眺める。

 そして、露わになった下着の中に手を突っ込み、彼女の最も大切な場所に指を入れた。

 

 ──『これは狭いな。指一本でギリギリじゃないか。ははは、開発しがいがありそうだ』

 

 少女は下半身に感じる鈍い痛みに顔をしかめる。

 それでも震える身体は自分の意思で動かす事は出来ず、彼女はしばらくの間、男からの愛撫に耐え続けた。

 

 クチュクチュと秘部から水音がし始めると、ようやく男の指の動きが止む。

 

 ──『これだけ濡れれば入るだろう。さあ、壁に手をついて尻をこちらに向けてごらん』

 

 やっと引き抜かれた男の指には透明の液体が付着していた。

 気持ち良くなくてもあれは出るんだな、と少女はどこか他人事の様に思った。

 

 男の指示通りの体勢になると、背後で彼が立ち上がるのが分かった。

 彼は少女のスカートと下着をあっという間に脱がすと、無防備な穴に自らの一物を近付けた。

 そして。

 

 ──『くうっ、思った通り狭いな。だが全部入ったぞ。──お、やっぱり処女だったか。最近の若い者にしては感心だな』

 

 痛い。痛い痛い痛い痛い痛い。

 男が腰を動かす度に身体の中で硬いものが動き回る。

 

 まるで拷問を受けているかの様な激痛が絶え間なく少女を襲い、彼女の口からくぐもった悲鳴が漏れ出た。

 

 ──『ん? 泣いているのか? おいおい止めてくれよ。萎えちゃうじゃないか。おい笑えよ。ほら、ほらほら』

 

 痛みと、悔しさ。そして大切なモノを失った喪失感に耐える事が出来ず、彼女の目から涙が溢れてきた。

 

 それが不快だったらしい。

 男は目の前にあった少女の尻を叩きながら、笑えと命令してくる。

 

 だから彼女は笑った。心は絶望感でいっぱいだったが、彼女は女優だったから笑う事が出来た。それでも止めることが出来ない涙を流しながら、彼女は満面の笑みを浮かべ続けた。

 

 ──『ふぅ。スッキリした。ご馳走さまお嬢さん。君が大切に守って来た処女の味はまあまあ良かったよ。75点と言った所だな』

 

 結局、男は少女の中で三度欲望を吐き出し、ようやく満足した様で、その一物を引き抜いた。

 

 直後、床に崩れ落ちた少女は限界だったのか貼り付けていた笑顔を消し、嗚咽を漏らし始めた。

 

 それを不快そうに眺めて舌打ちをした後、彼は言った。

 

 ──『ああ、そうそう。次は明後日来い。勿論アリサの奴には内緒でな。飽きるまで抱いてやるよ。──百城千世子』

 

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

 

「ぃやっ……!! ……はぁ…はぁ……あの時の夢、か…」

 

 この数年間、何度も見ている悪夢に魘されて彼女──百城千世子は目を覚ました。

 天使と称される美しい顔を強張らせ、額にはびっしょりと汗をかいている。

 

 未だにあの男のモノが身体の中に入っている様な気がして、千世子はギュッと太ももを擦り合わせた。

 

(最近やっと見なくなっていたのに…)

 

 あの悪夢を忘れる為に仕事に励み、必死に"強い自分"を演じて来た。だが、ふとした瞬間に思い出してしまったら最期、しばらくはその記憶が彼女の心を蝕ぶ。いつもその繰り返しだ。

 

 溜息を吐いて布団から出る。

 顔を洗う為に洗面所に移動すると、そこでようやく自分の頬を流れる涙に気が付いた。

 

 普段であれば感情のコントロールも、涙のオンオフも簡単に出来るのだが、今はどうにも止め方が分からなかった。

 

 今日も仕事があるのだ。せめて目が腫れない様に冷やしておこうと彼女は蛇口をひねって水を出す。

 

 ──こんな姿を、ファンに見せる訳にはいかない。あの頃とは違って、今の彼女は若手を代表する人気女優なのだから。

 

 

 だから、今日も百城千世子はトラウマを心の奥に封じ込め天使の仮面を被るのだった。

 

 

 

☆☆☆

 

 

 

「カーット!! 千世子ちゃん今日も良かったよ!」

「ありがとうございます」

 

 無事、今日の仕事を乗り切る。

 ゴールデンタイムのドラマの主役も数をこなせば慣れるものだ。いつも通り最も自分を魅せる演技をし、唯の一度も撮り直しなく終える。

 

「やあ、千世子ちゃん。お疲れ様。流石はスターズの天使だね」

 

 水分補給をしていた千世子に1人の男が話しかけて来た。彼女よりいくつか歳上の爽やかなイメージの男。今回のドラマでもう1人の主演に選ばれている若手の俳優だ。

 

「ありがとう。松山さんはもうちょっと頑張ろ。また噛んでたよね」

 

 それなりに女性のファンを持つ男──松山に対し、千世子は若干冷めた視線を向けた。

 

 この業界には千世子より長く居る筈の彼だが、その演技はお世辞にも良いとは言えない。事実、セリフの言い間違いや不自然な間など本来ならリテイクが必要なミスを連発していたのだ。とてもでは無いが役者としてやっていける様な実力では無い。

 

 しかし、家が資産家で業界にもかなりの影響力を持つ為に、こうしていくつものドラマに出演出来ているのだ。

 

 顔とコネだけの三流以下の男。

 それが千世子の松山に対する認識だった。

 

「ハハ。噛んだって言ってもテレビで見てる人にはバレないレベルだって。監督もOKしてたろ?」

 

 それは監督が貴方の実家に逆らえないからでしょ、と千世子は内心で吐き捨てる。勿論顔にはそんな感情を一切見せる事はなかったが。

 

 コネで役を得るのは別に構わない。知名度のない新人にはそれも立派な手段のひとつだし、周りの子だって大なり小なりコネを使っている。

 だが、演技を一向に上達させるつもりのない彼の態度は千世子でなくても不快に感じることだろう。

 

 表情を変えずに数秒間思考し、彼女は口を開いた。

 

「うん。そうだね。余計な事を言ったかも」

 

 それは松山の言葉を肯定する言葉だったが、別に彼の言葉に本心から納得した訳ではない。ただ、彼にこれ以上言っても意味がないし、自分にとってもマイナスになると判断したに過ぎなかった。

 

 当の本人はそれを全く分かっておらず、「構わないさ」などと言って笑っている。

 

「それで、何か用事?」

 

 千世子は早々に彼との会話を終わらせたいと思い、さっさと本題に入らせる事にした。

 

「ん? ああ、そうだった。千世子ちゃんはこの後暇?」

「撮影はこれで終わりだね。一度事務所に戻るつもりだけど」

「ならさ、ちょっとお茶していかない? ほら、せっかく主演同士なんだからさ」

 

 またか、という言葉をなんとか飲み込む。千世子がこうして松山に誘われるのは3回目だ。毎回断っているのだが、全く懲りる様子はない。その積極性をどうして仕事に向けないのだろうか。

 

「ごめんね。気分じゃないかな」

「そう言わずにさ。近くに良いお店知っているんだよね、俺」

「っ…!」

 

 キッパリと断ったにも関わらず、引く様子のない松山は、馴れ馴れしく千世子の肩に手を置いた。

 

 

 

 

 ──直後、彼女の身体がビクリと強張り、口からは声にならない悲鳴が漏れる。

 

 

 

 慌てて口を塞ぐ千世子だったが、至近距離にいる松山には完璧に聞こえてしまった。

 

 

「なになに? もしかして肩触られただけでビックリしちゃった? 実は男に免疫ないとか?」

「……今のは流石にセクハラだよ、松山さん?」

 

 面白いモノを見つけた様な顔で松山は訊ねてくる。それを笑顔で注意する千世子だが、その声のトーンはいつもより少し低かった。

 

「いやいや大袈裟だって。この程度で反応してたら、キスシーンとか回ってきた時どうするんだい?」

「そういう仕事は断ってるから大丈夫だよ」

 

 彼女のトラウマを知っているスターズの社長、星アリサは千世子の受ける仕事を必ずチェックし、男性との接触が多い役は全て断っている。一応"天使"として売り出している事もあり、スポンサーからの理解の声は得られていた。

 

 その事も説明すると、松山は納得した様に頷く。

 

「もしかして、それで俺の誘いも断っているの? 天使が男といたらマズイ、みたいな?」

「うん。それもあるかな」

「成る程ね。ならそう言ってくれればいいのに。嫌われてるのかと思ったじゃないか」

 

 まさにその通りなのだが、態々言う必要もないので千世子は笑顔で受け流した。

 

「そう言う事なら無理に誘うのはやめておくよ。残念だなぁ」

「ふふっ。ごめんね。どうせ撮影が全部終わったら打ち上げがあるんだから、その時にお話しようね」

「そうだね。それじゃ俺は一人寂しく帰るとするよ」

「うん。お疲れ様」

 

 少し申し訳なさそうな顔を意識すると、それだけで松山の機嫌が良くなる。まだ撮影は続くのだから、こう言ったフォローも大切なのだ。

 

「あ、最後に一つだけいいかな」

 

 そのまま去って行くかと思われた松山だったが、まだ用事があるのか、そう言って千世子の方に一歩近付いて来た。

 

 ──そして、首を傾げる彼女に手を伸ばすと、スカート越しにそのお尻をひと撫でした。

 

「ひゃっ……!」

「セクハラはこういうのを言うんだよ。可愛い声も聞けたし今度こそ帰るよ。じゃーね」

「っ…」

 

 手を振りながら歩いて行く松山。

 あっさりと引く姿勢を見せられた所為で油断していた。

 

 これが千世子が彼を好きになれない一番の理由だ。

 

 彼の実家に逆らえないのは監督だけでなく、女優達も同じなのだ。松山がそれを分かっていて共演する女性達にセクハラを繰り返しているのは有名な話だった。

 

 流石に千世子の所属するスターズクラスの事務所になると松山の実家も無下には出来ないみたいだが、それでも一度のセクハラに目を瞑るか、それとも抗議して遺恨を残すかなら、前者を選択した方が賢いのだろう。

 

 その辺りの見極めをした上でセクハラを行っているのだとしたら、これほどタチの悪い男もいない。

 

 周囲に目を向け、誰にも見られていない事を確認すると、千世子は溜息を吐き、今の出来事を忘れる事にした。

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