脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
第1話 挫折
――どんな不条理があっても、底知れない絶望の淵に沈んでも、諦めても……
それでも尚抗い、進み続けよう。
歩みを止めてしまえば、そこで終わりなのだから
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――冒険者達によって未だ開拓されつつある大陸、ミドラシア。
そしてその大陸の中心部に、冒険者達の聖地……自由都市ヴァリスはあった。
巨大な城郭に囲まれたヴァリスの街の中央には、聳え立った三本の尖塔が一際目を惹く3階建ての建物を、更に3つ並べた巨大な施設……
その中央ブロック1階の広々としたエントランスには、食堂の役割を兼ねた木製の大きなテーブルや長椅子が整然と並べられており、その最奥には依頼の手続きをする為の大きなカウンターがあった。
そして、そのカウンター横の掲示板に大きく張り出された告知用紙の前に佇む、大柄で禿頭の男。
黒を基調とした基本的な冒険者の装いに、まばらに装備された地味な銀製の防具が目を引くその男は、筋骨隆々とした大きなシルエットに反して、えらく血色の悪い肌が印象的であった。
――男の名はラルゴ・アシュクラフト。
12月……寒風吹き荒れるこの季節は、ラルゴが自由都市ヴァリスに訪れてから調度2年の月日が経った頃である。
ラルゴ達ラスターの面々は、更なる高みを目指す為、今日この地ヴァリスで半年に一度開かれる、
試験内容は白金級冒険者4人を相手にした実戦形式の模擬戦。
この1戦を通じて、総合的に白金級に足りうるかを審査される。
ラスターの面々は半年前にもこの試験を受けていたが、前回の挑戦時、ラルゴの不調が原因で戦線が崩壊し、結果全員が金級への停滞判定を受けた。
ラルゴは、そんな半年前の自分の不甲斐なさを1人思い出し、力なく佇んでいるのだ。
「まーだこんなとこにいたのかラルゴ」
――バンッ!
「うおっ!?」
突然背中を叩かれ、ラルゴは情けない声を漏らす。
「まったく、いつまでうじうじしてんだよ?」
頼りない後姿に檄を飛ばしたのは、ラルゴと同じ金級冒険者パーティ、【ラスター】のメンバーの1人、カーラであった。
女性でありながら、ラルゴに匹敵する逞しいシルエットに、健康的に光沢を放つ白い肌、そしてそれを強調するかのような露出度の高い装備。
端正な顔立ちに、腰まで伸ばしたウェーブのかかったアッシュブロンドの髪が特徴的な、ラスターきっての女戦士。
同時に、ラルゴが最も信頼を寄せる人物でもある。
「カーラか……。 すまん、つい前回の事を思い出しちまってな……」
俯く大男を前に、カーラはどうしたものかと宙を見つめる。
「聞いてくれカーラ……俺がここまで来れたのはお前やケヴィン、ネリーのおかげだ……だがこの先、俺はお前達についていけるか……」
そう続けるラルゴを、不意にカーラが遮った。
「ラルゴ、これ見なよ」
そう言ってカーラが指差したのは、告知用紙の横に張り出されていた、月間金級冒険者成績表だった。
これは、文字通りヴァリスで活動する金級冒険者達の活動成績を記録したもので、より貢献度の高い金級冒険者10名の名前が書き連ねられている。
ラルゴは、その名前を黙々と上から順番に読み上げていった。
「ネリー・ファーレンハイト、カーラ・ブローニング、ケヴィン・ガーランド、フリント、リリー・マルレーン……ラルゴ・アシュクラフト」
「な、ラルゴ? ここに乗ってるだけでも凄い事なんだぞ? 今はちょっと本調子じゃないだけさ、自信持ちなよ」
「ランク2位のカーラに言われたところで、余り自信が持てないぞ……。 そもそも、前回試験に落ちたのは、俺の……原因不明の病気のせいだろ」
未だ落ち込んだままのラルゴは、自信なく心情を吐露した。
「もし今回の試験、俺が戦えなくなったとして……その時は俺を無視して全力で戦ってくれ」
そう、ラルゴが呟いた矢先……
――バチン
不意にカーラの手がラルゴの頬を叩いた。
驚いたラルゴは、目を丸くしてカーラを見返す。
その様子を見てカーラは陽気に笑った。
「ラルゴはいつも余計な事考えすぎなんだよ」
「ああ……」
「心配すんな、アタシ達がついてる。4人揃って初めて、私達ラスターなんだ」
満面の笑みで差し伸べられた手に、ラルゴは恐る恐る手を伸ばした。
「さあ行こう! 早くしないとまたネリーに嫌味言われるぞ」
「……ああ、そうだな!」
大きな二人は、意気揚々とした足取りでギルドの裏手にある闘技場へと向かった。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――目を開けると、俺は見慣れた病室のベッドに横たわっていた。
窓の外では今にも夕陽が沈もうとしており、鴉の鳴き声が静かな部屋の中に木霊している。
原因不明の病気……半年前から現れたそれは、起こる度に俺を失意のどん底に叩き落した。
身体の硬直や吐血、そして激しい動悸と朦朧とする意識。
気がつけばいつも、俺はどこかにに横たわっている。
そしてそれは決まって、失敗の許されない重大な局面の中で起こった。
俺は虚ろな表情で傍らを見やると、そこにはよく慣れ親しんだ二人の仲間の姿があった。
「気がついたか、ラルゴ」
涼しげな金色のショートヘアに端正な顔立ちの青年、ケヴィン・ガーランド……21歳。
ラスターでは下から2番目に若いが、未だ金級冒険者でその鋭い剣術の右に出るものはいない。
見ての通りの好青年で、よくもてる。
良い奴すぎて、妬ましいくらいだ。
そしてこの現状から察するに……また俺が迷惑をかけちまったんだろう。
「すまない……またしても俺のせいで」
「カンチガイしないで」
冷ややかに言い放ったのは、同じくラスターのメンバー、ネリー・ファーレンハイト、17歳。
いつも黒いフードを目深に被っている、小柄な少女だ。
可憐な外見に反して非常に毒舌で、事あるごとに俺につっかかってきやがるが、今となってはそれも慣れたもんだ。
「ねぇ、ラルゴ……」
その紫水晶のような瞳が、俺を見据えた。
まるで、今の情けない心中を見透かされてるようで怖くなってくる。
「見て」
すっと掲げられたネリーの手の中には、白金製の冒険者プレートが握られていた。
「アガッたわよ、アンタ以外全員ね」
「ネリー! そんな言い方はッ!」
「事実でしょ。 隠したってしょうがないじゃない……」
辛辣な言葉とは裏腹に、ネリーの声は震えていた。
だが、皆は無事に昇格できたのかと思ったらなんだか少し安心したな……
「……よかった」
それを聞いた途端、ネリーは顔を真っ赤にして声を張り上げた。
「良いわけないでしょ、バカヤロウ!」
突然の剣幕に、思わずはっとしてしまう。
「おいおい、何でそんなに怒ってるんだ」
「当たり前でしょ! 皆で白金になろうって誓ったじゃない! アンタだけそんな体たらくで、あと半年私達はどうすればいいってのよ!」
「そりゃ……白金になれば俺より立派な奴がごまんといるだろ。 その中から探せばいいじゃないか……」
――バチン!
ネリーの冷たい小さな手が、俺の頬を叩いた。
本日2度目だ……鋭い痛みが妙に沁み渡りやがる。
「アンタなんかもう知らないわよ! バカラルゴ!!」
バタンとけたたましい音をたてながら、ネリーは去って行った。
それを横目に見ていたケヴィンはやれやれと顔を振ったが、やがて小さく口を開く。
「正直、今の君の言い方はどうかと思うな……内心私も、ネリーと同じ気持ちだ」
「すまねぇ……だが、今の俺に何ができるってんだ」
「気にするなラルゴ。 僕達は待っている、君が白金に上がってくるその日を」
「やめてくれ……」
なんでこいつは悪気もなくそんな事が言える……これじゃ余計に惨めだ。
俺はお前達の足を引っ張る為に、長年パーティを組んでいたわけじゃないんだぞ。
「このまま続けたって、負担になることなんて目に見えてる……むしろこうなった方が良かったのかもしれないな……お互いさ」
「なんてことを言うんだ……僕達は、心の底から!」
ケヴィンは顔を真っ赤にして怒鳴った。
やめろ……俺まで堪えきれなくなる。
「俺だってずっと一緒にやりたかったよ! お前達と、ラスターを……」
抑えていた言葉を漏らした途端、堰を切ったかのように涙が流れてきた。
「でも……もう無理なんだよ……こんな身体じゃ……」
大の男が人目をはばからず泣き叫ぶ横で、ケヴィンはただ静かに震えて目を閉じている。
――時同じくして、病室の扉の外では、大男と見紛うような女の影が呆然と立ち尽くしていた。
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