脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
――禍々しい赤い満月が照らし出す、広大な屋敷の中庭。
吹き荒ぶ風の中、対峙する二つの影。
一方は3mはあろう巨躯に、無駄が一切見られない筋肉の鎧に身を包んだ、山羊の髑髏の顔をした
かたやその半分程の体躯に、しなやかなボディラインをした薄緑色の髪の少女。
その身体の節々は黒赤の鱗のようなものに覆われており、頭部に生やした三日月状の角は赤い月明かりを反射して一際妖しく煌いている。
その少女の後方には地面に屑折れた金髪の少女と、寄り添う
先ほどまで死闘を演じていたラルゴは、中央にある噴水の瓦礫の下に埋もれていた。
「ウル、その子とラルゴを頼みましてよ」
「え……?」
「早く!」
「はい!」
状況が飲み込めないままウルは蹲る金髪の少女をおぶると、中央の噴水跡へと走っていく。
その様子を確認すると、三日月角の少女は静かに目の前のデーモンへと視線を移した。
「ナ、何ダ……コノ魔力ハ? 今ノ私ニ匹敵スルトイウノカ!?」
戦斧に力を込めながらデーモンは叫ぶ。
しかし、押しても引いても三日月角の少女に握られた戦斧はびくともしない。
「匹敵? 冗談でしょう?」
――瞬間
自身の正中に走る衝撃と共にデーモンは後ずさる。
気づいた時には既に、三日月角の少女がデーモンの懐に潜り込んでいた。
「ッ……馬鹿ナ……!?」
ふと自身の身体を見やれば、正中線上に凹む筋肉の鎧。
追って現れる激痛に、口から青い血を吐き出した。
「ゴハァッ……!?」
「あなた如きがワタクシと同列だなんて、勘違いも甚だしいですわね」
少女はゆっくりと構えを取ると、その指先を軽く動かしてデーモンを挑発する。
「ヌカセェッ!!!」
咆哮と共に、デーモンは戦斧を振りかざす。
――水平、垂直、袈裟斬り、突き
あらゆる手段を用いて放たれる戦斧の重打。
しかし、その攻撃は一度たりとも目の前の標的を捉える事はできなかった。
「遅いですわね。 欠伸が出そうですわ」
「ヌウウアアア!!!」
辺り一帯を痺れさせるデーモンの怒号と共に、魔力を込めた戦斧が少女目掛けて投げ放たれる。
しかし――
少女は神速で放たれたそれをいとも容易く掴み取ると、その黒赤の手先から強大な魔力を流し込んだ。
「――
手にした戦斧が、徐々に禍々しい大鎌へと変わっていく。
少女は大鎌の刃先をその赤い爪で軽く撫でると、静かにそれを構え――
――振るう。
遅れて巻き起こった突風と共に、デーモンの右腕が大地に叩き落された。
――ドッ!
「ヌアアッ!?! 何ノォ……コレシキィ!!!」
デーモンは恐怖をごまかすように叫び、残った左腕に魔力を込め、翳す――
「
デーモンの指先に紫色の稲光が迸ったかと思うと、それは空気を裂いて三日月角の少女へと放たれる。
「……ッ!」
雷撃を受ける少女。
まるで避雷針のように、放たれた雷が身体の中に吸い込まれていく。
「ハハハ! ドウダ、思イ知レ!!!」
デーモンは歓喜の声を上げながら出力を上げていく。
――ふと、自身の身体が重くなるのを感じる。
「ン? ……ナンダ……」
前を見据えれば、三日月角の少女がゆっくりと瞼を開いていくのがわかった。
「――
少女の瞼が開かれると同時に、紅炎の如き輝きを放つ。
デーモンは本能的に恐怖を感じ取り、身じろぎしようとするも――身体が言う事を聞かない。
「ヌ……? 息ガ……鼓動……スラ……?」
バチバチと音を立てながら、少女の角に魔力が迸っていく。
どこからか湧き出した暗雲が月を覆うと共に、雷鳴を轟かせた。
「
少女がデーモンを指差す。
雷光は角から指先へ。
――そして
「
指先から放たれた赤い稲妻が、静止した標的を瞬く間に貫いた。
肉体が焦げる音と共に、髑髏頭の巨躯は呻り声を上げながら、大地を震わせる程の勢いで倒れ伏した。
やがて暗雲が晴れると、赤い月が地面に倒れ伏したそれを静かに照らし出す。
そうなって尚、意識のあるデーモンは掠れた声で語りかけた。
「馬鹿ナ……コノ……スカル・マダガー、ガ……負ケルナド……」
少女は大鎌の柄を地面に打ち付けると、勝ち誇ったように呟いた。
「当然でしょう? 格が違いますもの」
「ナゼ、トドメヲ刺サナイ?」
「貴方ほどの魂なら、さぞ立派な栄養になると思いましたの」
デーモンは仰向けになりながら、静かに笑った。
「フフフ……ソウカ……ソレハ侮ッタナ!」
不意にデーモンに魔力が渦巻いたかと思うと、落ちていた右腕が独りでに動き出した。
それはそのまま、噴水からラルゴを引きずり出そうとしていたウルの元へと飛んでいく。
「なっ、貴方! ――ウル!」
三日月角の少女は咄嗟に対応しようとするも、デーモンの腕は既にウルの眼前へと迫っている。
「……えっ?」
――刹那
瓦礫の中から飛来した銀の刃が、デーモンの右腕を貫いた。
――ドサッ……
地面に落ちたそれは、空気が凍るような音を立てながら黒く変色し、硬化していく。
「馬鹿ナ……
その言葉を最後に、ついにデーモンはその意識を手放した。
やがて噴水の瓦礫の中から、ラルゴがふらふらと立ち上がる。
「おにいちゃん!」
「ラルゴでいいって言っただろ……」
ラルゴはそう言いながらウルの頭に手を置く。
「ぁっ……」
しかしそれも束の間、地面に膝を落とし息を荒げた。
「ぐはっ……」
「おにい……ちゃん?」
ウルがラルゴを見ると、デーモンに貫かれた筈の腹の傷は既に塞がっている。
「大丈夫だ、心配するな……」
そう言ってラルゴは、三日月角の少女を見やった。
「やってくれたんだな……エア」
「言ったでしょう? 案ずることはありませんと」
エアはそう言うと蹲る少女に視線を移し、恥かしそうに身をよじらせた。
「只者じゃないとは思っていたが……ここに眠ってるお前と、今のお前……そっちが本物ってことでいいんだよな?」
「こうなってしまった以上、隠し通すのは無理がありますわよね……まずはラルゴ、これをあなたの糧に」
と三日月角のエアが口走った瞬間……
――ズゥン
禍々しい異音と共に、デーモンの真上に魔法の門が現れた。
それは先程対峙した貝殻頭が召喚した物と酷似している。
「あれは!」
門はそのまま水平に扉を開き、垂直に落下する。
「おねえちゃん!」
「――ッ!!」
ウルの掛け声を受けて、エアは咄嗟に飛び退いた。
門はデーモンの上に覆いかぶさると、そのまま地面に吸い込まれていく。
そしてその場には、青い血痕だけが残った。
「逃げられました……わね」
そう言ってエアは落ちていたデーモンの腕から魂凍刃を抜き、腕をラルゴに投げ渡した。
突然鉄塊のような腕を受け止めたラルゴは、バランスを崩して尻餅を突く。
「おいエア! お前なぁ……」
「ごめんなさいラルゴ、少し急いでくださる?」
「……? ああ……――
ラルゴはデーモンの腕から、魂の残滓を吸い上げる。
すると、自身の身体に更なる力が漲るのを感じた。
「凄い! 今までの奴らより、更に濃縮された魔力だ……」
「やりましたわね、ラルゴ」
「結局最後はお前に頼っちまったな……それで、話があるんだろう?」
「ええ、では……手身近に話しますわね。 ワタクシの出自について」
「エアの……出自?」
そう言ってラルゴは、溢れていた魔力を自信に押し込めた。
「ラルゴ、ワタクシは……パラレリアの出身ですの」
「パラレリア? ……聞いたことが無いな」
ラルゴは額の上に疑問符を浮かべる。
「今ワタクシ達がいるこのミドラシアという世界の他にもう1つ、世界があるのは知っていて?」
「世界……? 島や大陸ではなくか?」
「ええ。 それが
「なるほどな……話が繋がった。 お前やデーモンのような連中は、そのパラレリアってところからこっちの世界に渡ってきたってことで、合ってるか?」
「概ねそのとおりですわ。 ワタクシ達は不規則に現れる
「そうだったのか……だが、何故今まで隠していた?」
エアは僅かな沈黙の後、静かに口を開いた。
「言えないですわよ……自分が魔族だなんて。 そんな事を口走ろうものなら、真っ先に粛清されるものだと思ってましたから」
「魔族ったって……お前のような優しい奴もいるじゃないか」
「そう言ってくれる人間は、ラルゴ。 あなたくらいでしてよ?」
「じゃあ証明しよう、魔族ったって皆が皆野蛮じゃないって! 現にお前は伯爵を操ってたデーモン相手に戦ってくれたじゃないか!」
「ラルゴ……ワタクシ達魔族は、もうこの世界で形を保てる存在ではなくなっていますの。 この世界に存在するだけで魔力を消耗し、最終的には消滅してしまいますわ。 それは何故か? ワタクシ達は、本来この世界にいてはいけない存在だから」
ラルゴは驚いたように声を上げた。
「いてはいけない?! そんな事誰が決めるってんだ?」
「勇者……とあなたたちが呼ぶ存在ですわね。 ワタクシ達はそのルールに則って、パラレリアで穏便に暮らしていた……しかしそのルールを破るものが現れた」
「それが……インフェルノ?」
「その通りですの。 そしてインフェルノを戒める為この地にやって来たワタクシの元に、偶然にも適応する器が現れた……」
そう言ってエアは、倒れた金髪の少女に視線を移す。
「まさか、お前も伯爵と同じように!?」
「いいえ、そんな野暮な事はしておりませんわ。 ただそこの少女が来て早々、ワタクシに粗相を働きましたので少し身体を拝借しただけですの」
「な、なんだそりゃ……じゃあその子はどうなる?」
「ワタクシがこうなった以上、じきに目覚めるでしょう。 それに、ワタクシがこの姿でここにいられるのも、この
そう言ってエアは空を見上げる。
禍々しい赤い月は鳴りを潜め、今にも夜が明けようとしていた。
「また、あの子に戻るのか?」
「残念ながら、
そう言うと、エアが手にしていた鎌は塵となって霧散した。
「お前……まさかこのまま消えるんじゃないだろうな!?」
「安心してラルゴ。 幸い魔力はたくさん蓄えられたので、暫くは保ちますけれど……出直しになってしまいますわね」
「冗談だろ!? まだ俺達の旅は始まったばかりじゃないか」
ラルゴは瞳に涙を浮かべながら、エアに触れようとする。
が、エアはそれを優しく払いのけた。
「お別れですわね、ラルゴ。 あなたのような人間がいた事、ワタクシは嬉しく思います」
「馬鹿言うな! ……まだ何も成し遂げてないじゃねぇか、何終わらせる気でいやがる!」
エアは悲しそうな顔を浮かべた後、ゆっくりと口を開いた。
「困りましたわ、ラルゴ。 そんな事言われたら、悔いが残ってしまうでしょう?」
「うるせぇ、このままお前を放っておくことなんて俺にはできねぇよ!」
そうラルゴが口走ると、エアは嬉しそうに微笑んだ。
「そこまで言うのでしたら……ラルゴ、あの子を連れてワタクシを迎えに来てくださる?」
「迎えに……? 何処へ?」
エアは遠くに浮かぶ霊峰、エルプルを指差す。
それと同時に、ギラギラとした朝日が霊峰から顔を出した。
「時間ですわね……」
「おい、待て……」
「ラルゴ、いつになっても構いません。 あの山頂で待っていますわよ」
――
「待てよエア! エアーッ!!!」
エアは一陣の風と共に姿を消しており、その場には魂凍刃だけがぽつんと地面に突き刺さっている。
「エア……」
残されたラルゴは、残された魂凍刃をそっと拾い上げると、遠くに浮かぶ朝日を呆然と眺めていた。
会話(特にHシーン)の♡マークについて
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絶対いる。 今後も続けて欲しい。
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あったほうがいい。
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ないほうがいい。
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絶対いらない。 今までのも修正しろ。
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どっちでもいい