脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
――昇格試験翌日、薄闇に包まれた自由都市ヴァリス。
その南門で、1台の幌馬車に積荷を運ぶ行商人を眺める、二つの影があった。
1人は傍に立つ大男の胸ほどまでの背丈しかないが、顎に立派な髭を蓄えた恰幅の良い男、ヴァリスのギルドのサブマスター、グラント。
そしてその横には、ぱんぱんになった大きな鞄を背負った大柄の禿男、ラルゴがいた。
「なぁラルゴ、本当にいいのか?」
神妙な面持ちで問いかけるグラントに対して、目の前の禿頭は静かに答える。
「ああ……。 俺は故郷のノトスへ帰って、のんびり余生を過ごす事にするよ」
「ったく……死に行く老人でもあるまいに。 お前さんのような有望株が去るのを黙って見送るのは忍びねぇな」
そう落胆するグラントに対して、ラルゴは尚も静かに語り返す。
「なぁオッサン、俺の最後の願いと言っちゃああれだが、ちょいと渡しておいて欲しいものがあるんだ」
「よせ、縁起でもない」
そう言うと、ラルゴは黙々と荷物の中から丁寧に物を取り出していった。
1つは、山羊の紋様が刻まれた金の指輪。
2つは、剣を咥えたドラゴンの紋章が刻まれた鞘に収まった剣。
そして、高級感漂う取り回しの良さそうな赤い片手斧であった。
「ったく、これまた大層なもんを用意しやがったな。 儂なんかに頼らずに、直接渡したらいいだろうに」
「あいつらに会ったら、また足踏みしちまうだろう? お互いさ……」
「……単に儂にはお前さんが怖気づいてるだけのように見えるが?」
その言葉にラルゴは大きく溜息をつくと、弱弱しく口を開いた。
「……その通りだ。 今の俺には、あいつらに会う勇気がねぇんだ。 頼むよオッサン、この通りだ」
そう言って大きく頭を下げると、グラントはやれやれといった様子でラルゴの頼みを了解した。
「ったく、世話の焼ける奴だ。 で、どれを誰に渡せばいいんだ?」
そうグラントが聞き返すと、ラルゴは静かに胸を撫で下ろす。
「……恩に着るぜオッサン。 山羊の指輪はネリー、竜紋章の剣はケヴィン、赤い手斧はカーラに渡してくれ」
「ああ、確かに預かった」
グラントが3つの品を受け取った直後、荷物を積み終えた行商人が大きく声を掛けてきた。
「ラルゴさん、出発の準備整いました!」
「わかった! すぐ行く!」
そう言ってラルゴは、馬車の空いたスペースに乗り込もうとする。
「待ちなラルゴ!」
グラントは大きな声で呼び止めると、さりげなく背負っていた黒革のバッグをラルゴに手渡した。
「ん? 何だこりゃ?」
「餞別だ。 中を見てみろ」
言われるがままラルゴは、そっと手渡された黒革のバッグを開いた。
「こ、こいつは……」
中には、白く煌く刃を持った高級そうな銀のナイフと、真紅のマフラー、そして金級冒険者になった際にラスターの面々と撮った記念写真が入っていた。
更にその裏には書き置きがあり、
【バカヤロウ、再び帰ってくる日を、信じている】
と、連なった3つの筆跡で書き添えられていた。
「っ……!」
それを見たラルゴは、静かに目頭を抑える。
「おい、ふざけんなよ……こんなもん渡しやがって、チクショウ……」
ラルゴは取り出したマフラーを身に着け、ナイフと写真を大事そうに懐の中にしまう。
そんなラルゴを見て、グラントは物憂げな表情で言葉を告げた。
「なんでもそのマフラー、特注品だそうだ。 前から用意してたらしいが、渡すタイミングに迷ってたらしい」
「……どうりで、付けた途端身体が軽くなった気がしたよ」
ラルゴは泣き声をごまかしながら、そう呟く。
「こんな形で渡す事になっちまったのは残念だがな……ちなみにそのナイフは俺からの贈り物だ。 もしもの時、きっと役に立つだろう」
「……ありがとう」
ラルゴはそう言うと、大きく馬車の中へと乗り込んだ。
同時に、それを確認した行商人が大きく出発の合図を告げる。
「それでは出発します。 ラルゴ殿、道中護衛の程よろしくお願いします」
「了解。 それじゃ、世話になったなオッサン」
「ああ、達者でな、ラルゴ」
緩やかに街道を走り出す、1台の幌馬車。
ラルゴは、手を振り続けるグラントの姿を最後まで見つめていた。
「行っちまったか……」
そして、馬車が視界から完全に消え失せてようやく、グラントは静かに口を開く。
「ッたく、お互い未練たらたらじゃねーか。 まあ、あいつの事だ。 このまま腐って終わるって事はねぇだろうよ……」
――空は1人の男の旅立ちを嘆くかのように、その表情を曇らせていた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――自由都市ヴァリスと港町ノトスを繋ぐ街道沿いに聳え立つ標高5,000m程の山、霊峰エルプル。
嵐吹き荒れるこの山の頂上で、相対する二つの影があった。
一方は盾に十字の紋様を刻んだ白銀の鎧を全身に着込み、その上に青と金を基調とした儀礼用であろう特別な修道服に身を包んだ美しき少女。
その背中には、自身の身の丈程はあろう巨大な十字架を背負っている。
かたや魔獣の革で編みこまれた黒いレオタードに、身体の節々に赤黒く煌く鎧を身につけた薄緑色の髪を靡かせた少女。
まるでこの世の物とは思えない美貌に、禍々しい真紅の瞳。
そしてその頭からは、三日月のように大きく反った2本の角が生えている。
「その出で立ち、かなり高位の悪魔とお見受けします」
修道服の少女が、透き通るような声を山頂に響き渡らせる。
と同時に、三日月角の少女は若干怒りの篭った声音で応えた。
「ワタクシが悪魔? 初対面にしては中々ご挨拶ですわね」
三日月角の少女の言葉が空しく空を切る。
「……これも私に課せられた試練なのですね……。 わかりました……。 神の名の下に、貴方を滅します」
「ご冗談でしょう? ワタクシは別に貴方と戦う意志などありませんのよ?」
修道服の少女は黙々と背負っていた巨大な十字架を両手に構え……大きく魔力を込め始めた。
「……
「やれやれ、問答無用みたいですわね……あまり手荒な真似はしたくなかったのだけれど……」
――ピシャァッ!
「……仕方ありませんわね!」
雷鳴が響くと同時に、三日月角の少女はその真紅の瞳を大きく見開いた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――太陽が頭上に昇る頃、ラルゴを乗せた馬車は街道をなぞって、霊峰エルプルの麓の鬱蒼とした森の中を進んでいた。
――ガサッ……
「っ!? 止まれ!」
「ヒヒィン!」
ふと御者が何かの気配に気づいて馬の足を止めると同時、辺りに下卑た男達の声が響きだした。
「へっへっへ」
森の暗がりから、闇に溶け込む簡素な布装備に身を包んだ男達が続々と身を乗り出し始める。
そして、その手に握られた刃物が、森の木漏れ日に照らされてキラリと光った。
「護衛の商隊も連れずにこの森を通るとは……無用心だな! 金をケチるとロクな事がねぇぜ、行商人さんよぉ?」
「残念だが、大人しく金目の物を置いていきなぁ? そしたら見逃してあげないこともないぜぇ? へっへっへ」
目の前の獲物を前に舌なめずりをする盗賊達。
しかし、行商人は怖気づくことなく馬車に乗り込んでいた男に助けを求めた。
「ラルゴさん! お願いします!」
「早速出番か……ったく、嫌な世の中だぜ」
御者の叫びと同時に、ラルゴは馬車から躍り出る。
そして盗賊達の前に立ち塞がり、冷ややかな瞳で睨みつけた。
「なんだぁ? たった1人か……やめとけよ、おいちゃん。 この数が目に入らねーのか?」
「お、おいちゃん……っ?」
盗賊のリーダーと思わしき男が、余裕の笑みを浮かべる。
「……ククク……」
それを見てラルゴは、怒りを隠すように静かに笑った。
「何がおかしい?」
「このご時勢、未だにこんなくだらない事をやってる奴がいるなんてな……些か信じがたいよ。 冒険者なら、いつでも人手不足だぜ?」
ラルゴはそう言って、わかりやすく溜息をつく。
それを見て、リーダーとおぼしき盗賊が思わず拳を振り上げた。
「テメェに俺達の何がわかる!」
――ブンッ!
「おっと」
感情任せな盗賊リーダーの拳が空を切った、次の瞬間……
――バキィッ!
盗賊リーダーの下顎をラルゴの右手が打ち抜いていた。
まともにこれを食らった盗賊リーダーは溜まらず、地面へ仰向けに叩きつけられる。
「なっ!? てめぇ、やりやがったな!?」
「チクショウッ! 野朗共ォオッ! かかれぇぁ!!」
激昂した盗賊達は、一斉に得物を抜いてラルゴに襲い掛かった。
「可哀想に……今までまともな奴を相手にした事がなかったんだな」
「な、何をぉっ!?」
「がら空きだぞ」
――ドガッ!
「ぐふッ!?」
盗賊達の誰もが、
――バキッ!
「ぶふぉっ!?」
目の前の大男に触れることも出来ずに、
――ドスッ!
「んぬおぉっ!?」
ただ地面に沈んでいく。
「おいおい、ほんとにこの程度なのか? 盗賊には盗賊の意地ってもんがあるだろ? もっと見せてくれよ、なぁ」
「ほざきやがれぇぇぇええ!」
――ベキィッ!
「ぎぃぇぁ!?」
次々と倒れていく盗賊たちを横目に、ラルゴは1人涼しげな表情をしていた。
「……お前ら、そんなんでよく今まで生き残ってこれたな。 逆に凄いぞ」
やがて、最初に昏倒したリーダーが静かに目を覚ますと、そこには9人の倒れた仲間達……
そして、自身を見下ろしている岩山のような影が目に入った。
「ヒィッ、お助ぐふッ!」
瞬間、鳩尾にラルゴの片足が突き立てられ、盗賊のリーダーは口から泡を吹きながら気を失ってしまう。
「それと……誰がおいちゃんだ。 俺はまだ20代だ……クソが」
そうラルゴが吐き捨てると同時に、不意に遠くから馬の嘶きが響く。
「……なんだ?」
そして、蹄が大地を蹴る音が徐々に近づいてきたかと思うと、栗毛の馬に跨った甲冑に身を包んだ二人の男が現れた。
「こちらはヴァリス街道警備隊です。 たまたま近くを通りかかったところ、騒音を聞きつけて馳せ参じました! お怪我はありませんか?」
そう言って開閉式の兜を開き、若々しい顔を覗かせた青い瞳の青年が、ラルゴに瓶詰めの薬草を手渡した。
「ああ……特には……」
ラルゴは薬草を静かに受け取ると、自分の足元を見据える。
「俺なんかより、こいつらの心配をしたほうがいいかもな」
「なっ、この数の盗賊をたった1人で……? ハッ!?」
そう言って、青い瞳の青年は驚いた顔でラルゴを見返した。
「もしや、貴方はラスターの
――
ラルゴの切り札であるスキルを見た冒険者達から、いつの間にか名付けられ広がった異名。
本人はこの異名が嫌いだった。
何故なら、単にこの異名が、スキルというよりも自身の頭を揶揄しているように感じるからだ。
「……は?」
ラルゴは、隠す事もなく顔をしかめた。
しかし、それに気づかず街道警備隊の青年は怖気もせずに続ける。
「自分はジョンと言います! ラスターの皆様には以前、私の村に巣食う魔獣達を討伐していただき、誠に感謝しております! よもや、このような所でお会いできるとは……!」
「それは……なによりだ」
ラルゴは毒気を抜かれたような表情で、目の前の少年を見やる。
「いえ、それもこれも~」
ジョンと名乗った青年は、らんらんと瞳を輝かせながら捲くし立てた。
それはラスターに対する憧れや感謝の言葉が殆どであったが、それを聞くラルゴの表情は一向に晴れる事は無い。
「おい、ジョン……」
同僚の兵士が、ジョンの肩にポンと手を乗せ、静かに首を横に振った。
「あっ……」
それでようやく気づいたのか、ジョンはしまったというような顔を浮かべる。
「……話は済んだか? 悪いが、こちらも先を急いでいるんでね」
「す、すいません、引き止めてしまって……。 この者達の処分は……どうしましょうか?」
ラルゴは倒れてる盗賊たちを暫く見つめるが、やがて興味なさそうに口を開いた。
「そこに寝てる奴らは君達の手柄にすると良い。 そんで美味いもんでも食ってくれ」
すると、傍でそれを聞いていた行商人の男が目を丸くする。
「な、ラルゴ殿!? これだけの盗賊、ギルドに突きつければ結構な報酬になりますぞ!?」
「……それはそうかもしれないが、こんだけの数を一々ギルドに連れてくのもめんどくせーだろ。 それに、金だけあったって今の俺にはもう……なぁ……」
すると、ジョンが再び瞳をらんらんと輝かせた。
「ラルゴさん、心遣い痛み入ります!」
「ああ……。 それじゃあなジョン君、精進しろよ」
「ラルゴ殿、本当にいいんですか!?」
尚も行商人は勿体無さそうにラルゴに問いかける。
「くどいぞ。 さっさと出発してくれないか?」
「……左様ですか……。 ハイヤーッ!」
行商人の男は、渋い表情で再び馬車を南へと走らせる。
そうして遠ざかる寂しげな男の背中を、二人の青年はゆっくりと見送っていく。
「ラルゴさん、どうかご武運を!」
そう叫ぶ青年の言葉など耳に入らぬ様子で、ラルゴは静かにごちる。
「ほんと、金で解決できるなら、楽だったんだろうよ……」
――雲は、そんなラルゴの心境を語るかのように静かに泣き始めた。
会話(特にHシーン)の♡マークについて
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絶対いる。 今後も続けて欲しい。
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あったほうがいい。
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ないほうがいい。
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絶対いらない。 今までのも修正しろ。
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どっちでもいい