脅威の吸収冒険者 ~ラルゴの這い上がり珍道中~ 作:ターキン
――白羽のハーピー、オキュペテーがエルプルの麓を目指して未だ日が上らない空を駆けていく。
「あははー! わたしたちが一番乗りだね!」
その足元で、月の光を白金の鎧で反射させながら、リリーは叫んだ。
「ちょっと貴方! ラルゴ達と完全にはぐれてしまったわよ!」
「だいじょうぶだよー、私の魔力を辿ればお姉ちゃん達なら見つけられるはずだし!」
「そう? ならいいのだけれど……」
そう呟くリリーの中から、不意に小さくなったエアが姿を現した。
「エア様、どうしました?」
すると、小さなエアは緊張した様子で答える。
「リリー、鳥さん、何か来ますわ……」
「もー、鳥さんじゃなくてオキュペテーだって!」
「黙って……」
――キィィン……
リリーが耳を済ませると、甲高い風を切る音が徐々に近づいてくる事に気づいた。
「っ……――ブラスト!!」
――ビュウッ!!
リリーが手にしたランスの
「えっ…・・・わわっ!」
すると、先程までオキュペテーがいた位置を、巨大な黒い影が疾風のように駆け抜けた。
「きゃあっ!」
「な、何ですの!?」
黒い影はそのまま転回すると、オキュペテーの目の前まで高度を上げて叫んだ。
「えらい綺麗な物が飛んでるから何かと思えば……お前、こんなところで何してんだ?」
「シ……シムルグ様!?」
そう叫ぶ巨大な影の正体は、褐色の上半身を曝け出した美女だった。
しかしその背中からは4枚の大きな翼を生やし、腰から下は大鷲の姿をしている。
「ああん……? 今のあたしはシムルグじゃねぇ、ラクシャーサだ!」
「え、なにいってるの……」
ラクシャーサと名乗った異形は、緑と黒の入り混じった長い髪を風に靡かせながら、オキュペテーの言葉に耳を傾けることなく叫び続ける。
「お前! なんで正気に戻ってる? しかもいっちょ前に服なんぞ着込みやがって、気にいらねぇ! 美しい身体を持ってるなら、もっと見せ付けろよ!!」
「ええ……どうしちゃったのシムルグ様?」
「うるせぇ、さっさと脱げ!」
ラクシャーサは手をわきわきさせながら、徐々にオキュペテーに近づいていく。
「い、いやーん!」
――ブンッ!
不意に接近してきたラクシャーサに向かって、オキュペテーの足元からリリーがランスを振りかざした。
「何だァ? てめェ……」
目の前のラクシャーサを無視して、エアはリリーに静かに問いかける。
「リリー、早速で悪いのだけど……少し身体を貸してくださる?」
「は、はい! エア様!」
そしてエアがリリーの中に入ると、そのまま大きな魔力を纏った。
「な、何だ!?」
ラクシャーサはリリーに生じた変化に驚き、大きく距離を取った。
「貴方、ラクシャーサと言いましたわね」
「ああん? てめぇ、何呼び捨てにしてんだよ? 様をつけろ!!」
叫びながら、ラクシャーサは大きく羽ばたき、リリー目掛けて飛び込んでいく。
「――ブラスト!」
再びリリーがバンプレートから風を噴出し、オキュペテーを無理矢理動かしてラクシャーサの体当たりをかわした。
「んぎぎぎ! 急加速は身体にわるいよ!」
「耐えてオキュペテー! 気を抜けばやられますわ!」
「ちぃ、ちょこまかと動きやがって……舐めてんじゃねぇぞ!!」
「恐ろしく速い……でも、ワタクシなら見逃しませんわよ」
リリーはラクシャーサの移動先を予測し、そこに向かってランスの穂先を向ける。
そして、大きく魔力を溜め……
「――ランサーダート!!」
――ドヒュウ!!
巨大な風の魔力の塊を放った。
「うおっ!?」
ラクシャーサの巨体が、放たれた魔力の軌道に吸い込まれるように動き……
――ゴォッ!!
「う、うおおおおおっ!」
巨大な魔力の塊を受け、ラクシャーサは大きく体勢を崩した。
「ぐっ……だが、この程度か!」
その視線の先では、山羊の兜が静かに見つめている。
「ラクシャーサ、こんなところで何をしていますの?」
「な、なんだ? あたしを知ってるのか? 誰だ!」
ラクシャーサは困惑した様子で答える。
「いいですわ、教えてあげましょう……」
ラクシャーサは、静かに生唾を飲み込んだ。
「ワタクシは……白の魔姫、エア。 貴方如きが舐めた真似をしていい相手ではありませんわよ?」
それを聞いて、ラクシャーサの顔色がみるみるうちに青ざめていく。
「えっ……エア……様? な、なんでこんなところに上級魔族がいるんだ!?」
「ワタクシの質問に答えなさい! 貴方はこんなところ、で一体何をしていましたの!」
「ひぃッ! 悪くねぇ! あたしは何にも悪くねぇ!!」
ラクシャーサは突然身体を翻し、大きく羽ばたいていく……
「待ちなさい!!」
――ビュウッ!!
そして、突風を巻き起こしながら、ラクシャーサは空の彼方へと消えて行った。
「わわ……シムルグ様、行っちゃった……」
すると、リリーの身体が光を放ち、中から小さなエアが姿を現した。
「ふぅ……リリー、ありがとう」
「いえ……ところでエア様、あの者は?」
その問いに、エアは静かに答える。
「……彼女の名はラクシャーサ、白の手で士官を務めていた者ですわ」
「白の手というと……エア様のお母様の派閥ですわよね? その者がこの世界に渡り、ハーピークィーンを器にしていたと?」
「そのようですわね……」
するとオキュペテーが困ったように二人に問いかけた。
「ねぇ、シムルグ様、どうしておかしくなっちゃったの?」
オキュペテーの問いに、エアは落ち着いた様子で答える。
「よく聞いてオキュペテー。 あの者は最早、貴方の知っている者ではありません」
「んー……どゆこと?」
「あの者は、魔族に身体を乗っ取られているのですわ。 だから、迂闊に近づくのは危険ですの」
「えー! そんなー!」
オキュペテーは空中で羽ばたきながら駄々をこねる。
「ちょっ、危なっ! 暴れないで!!」
「でもでも! だってー!」
「落ち着いてオキュペテー! ……下手に近づけば、貴方も彼女に操られてしまいますわ!」
「むうう……」
少しオキュペテーが落ち着きを取り戻したところに、、リリーが口を挟んだ。
「というか一度操られていましたわね……」
「あっ、そういえばそんなこともあった……かも……」
「でしたら尚のこと、彼女の縄張りをうろつくのは危険ですわよ」
「そんなこと言われても、どうしたら……」
「とりあえず……ラルゴ達に合流してから話しましょうか」
「うん……」
――そうして、リリー達は力無いオキュペテーに運ばれて麓まで降りていく。
それから数分後、後から来たラルゴ達と合流した。
「ふぅ……到着したよ、ラルゴ」
「おお、ご苦労だったな、ケライノー」
「どぅわー……疲れたぁ……」
黄羽のハーピー、アエロがへとへとの様子で大荷物を背負ったマーシアを地面に下ろす。
「アエロさん、お疲れ様でした」
「ほんと疲れたわよ……次はケライノーがやってね……」
「うん、私は構わないけど……荷物はラルゴが持ってね」
「もう、すっかりラルゴにゾッコンなんだから……」
「ケライノーがいいなら、俺はそれで構わんが……」
そう言って、ラルゴは抱えたウルを地面に下ろした。
「わわ、ちょっと寒くない! ん……?」
ふとウルの視界に、落ち込んだ様子のオキュペテーの姿が映った。
「オキュペテー? なにかあったの?」
「うん……あった……」
すると、リリーの肩の上に立った小さなエアが叫んだ。
「ラルゴ達、よく聞いてほしいですの」
「どうしたんだ?」
「ええ、実は……」
――そうしてエアは、一行にラクシャーサの件を仔細に伝えた。
「まさかそんな事が……とりあえず、怪我はないか?」
「オキュペテーも私たちも、大事は無いですわね」
「そうか……」
ラルゴは悲嘆に暮れる3人のハーピーを見やった。
「しかし、そんな怪鳥がリベルタスの上空をうろついてんのか……これじゃ古巣にも戻れんな」
「うぅ……」
「そうだ! お前達、マルレーンの屋敷は知ってるか?」
すると、アエロがそれに答えた。
「何度か東のほうに散歩しに行った時に、見たことあるよ……」
「なら話が早い! そこにいる執事さんに、俺の事を話せばきっと何とかしてくれるはずだ」
「そうなの……?」
アエロは若干怪訝な表情をして尋ねる。
「不安だったらリリーの名前も出せばいい」
「ちょっとラルゴ? 何を勝手に……」
リリーの言葉に耳を傾けることなく、ラルゴは続ける。
「そうだ! ヴァリスに行く前に一度、マルレーンの屋敷に寄るのもありかもな。 ちょうど執事さんもリリーに会いたがってたし……」
「いや、それは……」
リリーはしばし迷った後、やがて言葉を紡ぎだした。
「ええ、わかりましたわ! ハーピーさん達、是非ワタクシの実家を頼ってくださいまし!」
それを聞いて、ラルゴが、困惑した表情でリリーに尋ねる。
「なんだリリー、そこまでして帰りたくないのか?」
「まだ……心の準備ができていませんもの……」
すると、青羽のハーピー、ケライノーがラルゴに問いかけた。
「私達もラルゴと一緒に行ったら……駄目?」
「うーん……」
ラルゴはそう言ってハーピー達を見やる。
「ヴァリスは人も多い、それに未だに亜人に偏見を持ってる奴が大勢いる。 俺はお前達を下手な争いに巻き込みたくないんだ。 屋敷なら俺とリリーのお墨付きだ、きっとそんな問題も起こらないだろう」
「うう……じゃあせめて、ヴァリスにつくまでは、一緒にいたいな」
「それくらいなら、全然問題ないぜ。 それに、いざとなったらこれもあるしな」
そう言ってラルゴは、ケライノーにもらった笛を見せた。
「うん、ありがとう」
「と言っても、まずは馬車を呼ばなきゃな……」
そう言ってラルゴは、懐から1本の赤い筒を取り出した。
「それは、何?」
「こいつで馬車を任せた仲間を呼び出すんだ。 ちょっと離れてな」
ラルゴは発炎筒に魔力を込める。
――ブスブスブス……
すると、空に向かって赤い煙が立ち上り始めた。
「なんか不吉な色ですね、ラルゴさん」
「おいおい、嫌な事言うなよ。 夜中でも見やすいからこういう色なんだろ……多分」
すると、ウルがラルゴの裾を引っ張りながら呟いた。
「おにいちゃん……わたし、トイレいきたい」
「ああ……今のうちに済ませておけ、丁度あっちに良い感じの陰があるだろ」
「わかった!」
「じゃあ、私も……」
「あ、わたしたちもー!」
木陰に向かって移動する女達を、ラルゴは見つめる。
「なんかすげー光景だな……」
そう呟くラルゴの前には、リリーとそれに付随するエアだけが残っていた。
「リリー、お前は良いのか?」
「……っ!」
――バキッ!
突然リリーがラルゴに拳骨を落とす。
「いってぇ! 何すんだ!」
「ラルゴ、それはセクハラというものでしてよ!?」
「はぁ!? 人が親切で言ってるってのに!」
「ふんっ! ですわ!」
そう言って、リリーは小さなエアを伴いながら木陰の方へと歩いていった。
「なんだよ、結局行くんじゃねぇか……」
そうラルゴが口走ると、不意に空から甲高い音が響いた。
――ヒュルルルルル……
「ん? 何だこの音?」
ふとラルゴが空を見上げると、夜空に浮かぶ星の1つがチカチカと瞬いている。
「にしても綺麗な空だな……まるで落ちてきそう……だ?」
そして気づく。
瞬く星が、徐々に近づいてきている事に。
「こ、これはっ!」
そして、立ち上る赤い煙の中心に向かって、小さな星が落ちた。
「っ……」
――カッ!
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
――エルプルの麓の森に佇む二人の影。
1人は白馬に跨る冒険者の身なりをした紫髪の女……
そしてもう1人は、筋骨隆々とした褐色の禿頭の男であった。
「グハハハ! グハハハハハ!!」
男は溢れ出た魔力を自身の身体の中に納めながら、豪快な笑い声を上げ続ける。
「どうだ、綺麗な花火だったろう!!」
「は、はい……流石ですねロッシュ」
「これで邪魔者は無事、灰燼に帰したというわけだ!」
ロッシュと呼ばれた巨躯の男は、恍惚とした様子で燃え上がる遠くの森を眺めている。
紫髪の女は、そんなロッシュに静かに問いかけた。
「あの、念の為確認したほうが……」
「なあに、案ずるな。 今までに俺様の
「そうですか……そうですね」
女はどこか力なく応える。
「うむ、わかればいいのだ。 では行くとしようか、シーラ様が俺様の帰りを待っている!」
「はい。 それでは……まず、スカラー様に合流するとしましょう。 ハイヤッ!」
そう言って女は、黒い魔力を立ち上らせる白馬に鞭を打った。
――ヒヒィン!
そして勢いよく駆け出した白馬は、そのまま夜の森の中を縫うように駆けて行く。
「待たんか! 俺様を置いていくんじゃぁないッ!」
――1人残されたロッシュは、大急ぎでその後を追っていった。
会話(特にHシーン)の♡マークについて
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絶対いる。 今後も続けて欲しい。
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絶対いらない。 今までのも修正しろ。
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どっちでもいい